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解析事例

構造解析

車載リチウムイオン電池電極ガスケットのシール性能の経時変化

背景と目的

ダイキン工業株式会社は空調・冷凍機分野における世界トップメーカーで、またフッ素化学分野においても世界有数のメーカーです。ダイキン工業では、1980年代半ばよりシミュレーション技術を用いた空調・冷凍機開発の有り方について、検討・模索を行ってきました。現在では、シミュレーション技術が空調・冷凍機開発に活用されており、開発の期間短縮とコストダウン、完成度向上になくてはならないツールになっています (1)~(4)

近年、ダイキン工業では、空調・冷凍機開発で蓄積してきたシミュレーション技術のフッ素化学分野への展開を進めており、フッ素ゴムやフッ素樹脂、フッ素フィルム等の製品の

  • 物理現象のメカニズム解明
  • 最適な構造の権利化、差別化技術による用途開発
  • 品質安定化による製品力の向上
  • 顧客の信頼獲得

等の面においてシミュレーション技術の活用効果も大きいことが明らかになりました。
本報では、フッ素樹脂PFA(商品名はネオフロンPFA)を使用した車載リチウムイオン電池電極ガスケットのシール性能(反発力)の経時変化の評価におけるシミュレーション技術の活用について、説明します。

フッ素樹脂と自動車の性能の向上

グローバル化の進展に伴い、フッ素化学分野においても、製品開発の期間短縮やコストダウン、完成度向上はいうに及ばず、自ら市場を創造する用途開発、とくに成長が著しい自動車部品分野への用途開発が今後の事業拡大に重要です。
電気自動車では、車載リチウムイオン電池の長寿命化を図るため、優れた耐電解液性や電気絶縁性、耐候性、低透湿性を有するフッ素樹脂が電極周辺のガスケットに使われ、そのシール性能の経時変化の評価が重要な課題となっています。

2.1 車載リチウムイオン電池電極ガスケットの要求特性

車載リチウムイオン電池(角形)の断面概略図を図1に示します。車載リチウムイオン電池において、電極ガスケットは大きく次の2つの役割を果たします。

  • 封止:電解液を外に漏らさず、また大気中からの水分の流入を防止します。
  • 絶縁:電池の正極や負極がケースと接触してショートを起こさないための絶縁をします。

車載リチウムイオン電池では、電極ガスケットの封止効果と絶縁効果を15年以上保つことが求められています。


図1 車載リチウムイオン電池(角形)の断面概略図

2.2 フッ素樹脂PFA

車載リチウムイオン電池電極ガスケットの素材は、上記の耐電解液性や電気絶縁性、耐候性、低透湿性等の厳しい要求特性以外に、復元力が必要なため、通常ならばゴムを使うのが常道であって樹脂で作ること自体は無理があると考えられていました。

フッ素樹脂ネオフロンPFAは、耐電解液性や電気絶縁性、耐候性、低透湿性、低温から高温までの広範囲の温度での機械特性、非粘着性と滑り性等が非常に優れています。例えば、ネオフロンPFAは強い復元力をもち圧縮した反発力により、ガスケットと金属面が密着しシールされます。低温(-40℃)や長期の高温(60℃)熱履歴を受けても復元力は残り、シール性が維持されます。またネオフロンPFAは、表面処理剤・接着剤を使用せずに、金属板の凹部に食い込んで凹凸のある表面でもシールできる特徴をもっています。さらにゴムと比べてネオフロンPFAは電解液の膨潤が1/10以下に低くなります。

上記のようにネオフロンPFAは優れた物性をもち、車載リチウムイオン電池電極ガスケットの素材として非常に適しており、またガスケットのシール性能の経時変化に関する新しい知見をシミュレーションにより見いだしたことも加わり、自動車会社にスペックインすることに成功しました。

ガスケットのシール性能の経時変化の評価

今までガスケットの開発は設計者の経験と勘に頼る部分が大きく、試行錯誤を重ねながら進められていました。そのため、論理的な合理化案の検討が不十分で手戻りが多く発生していました。とくにガスケットのシール性能の経時変化の評価は試作試験で行われ、多くの時間が必要でした。
急速なグローバル化の進展により、製品開発のコストダウンや迅速化が絶えず求められている中…

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