お問い合わせ

ARシステムの開発の手順やツールを解説!

近年、日本の製造業においては、国内における生産年齢人口の減少に伴い、高齢者が中心となる熟練工の定年退職によって長年の経験に基づくノウハウが失われる危機に瀕しています。加えて、高度経済成長の時代とは異なり、消費者のニーズが多様化した現在においては、多品種少量生産による段取り替えの多さに加えて、組み立て作業の複雑化による作業教育のコスト増なども課題として挙げられています。
このような問題に対応するため、昨今、ARを活用したDXの推進によって生産性向上を図る取り組みが多くの企業において始まっています。

そこで本記事では、AR技術の基本的な概念を押えた上で、ARシステムの開発に必要な環境やライブラリ、開発の手順について解説します。
ARシステム開発に関心のある方、開発の準備に取り掛かっている方は、ぜひ参考にしていただけたら幸いです。

ARとは?VRとは何が違うのか?

まず、「AR(Augmented Reality:拡張現実)」とは何か?について正しく理解する必要があります。
既に設計段階でのデザインレビューなどにおいても活用が進んでいる「VR(仮想現実)」が人間の視野全体をCGで置き換える表示技術であるのに対して、「AR」は現実空間上にCGや画像、動画やテキストなどのデジタル情報を重ね合わせて表示することで、人間の視覚を拡張する技術です。この技術を活用することで、情報に対して「現実空間上の位置関係」を視覚に訴える情報として付与することができ、利用者に対して直感的に理解しやすいコンテンツとして見せることが可能になります。

一般的に、ユーザーがARを体験するためには、現実空間を認識する為のカメラや赤外線センサーなどを備えたスマートフォンやタブレット、および、スマートグラスなどの端末が必要です。また、表示するデジタルコンテンツの作成や、それらをAR表示する専用のアプリケーションの開発が欠かせません。しかしながら、最近では表示用のアプリケーションが不要で、WEBブラウザのみで利用可能なAR技術もコンシューマー向けのサービスでは広く使われ始めています。

ARにおける空間認識技術

ARを実現するために欠かせない技術として、現実空間と、その上に重ね合わせて表示するデジタル情報との位置合わせを行うための空間認識技術が挙げられます。これには大きく分けて2つの種類が存在します。

ロケーションベース

ポケモンGOなどの屋外で楽しむゲームや、スマートフォン向けGoogleマップアプリのARナビゲーション機能に代表されるように、GPSセンサーから取得した緯度経度と、電子コンパスによる方位に基づいてAR表示を行う方式です。最近では、それらの位置情報に加えてストリートビューなどに使われているような風景写真のデータに基づく画像認識を組み合わせることで、より精度の高いAR表示を実現するためのVPS(Visual Positioning Service)と呼ばれる技術も出現しています。

VPSによって精度の高まりつつあるロケーションベースARは、将来のさらなる進化によって、今後、ゲームや観光、広告業界などに留まらず、自動運転やドローン制御など、先進サービスへの応用も期待されています。

ビジョンベースAR

画像や立体物・風景など、イメージやオブジェクトを認識して表示するタイプのARです。
画像認識技術によって目の前の環境を認識し、その位置に紐づけたデジタル情報を表示する形式です。
現在ARを活用したコンテンツの多くはビジョンベースAR技術に基づいて開発されています。前述のロケーションARが屋外で利用されるものである一方、ビジョンベースARは屋内における利用や、紙面・立体物に対してデジタル情報を付加したいケースに適しています。
ビジョンベースARは、さらに、マーカーベースARとマーカーレスARの2種類に分類することができます。

マーカーベースARは、現実空間上の物体と、ARによって重畳表示を行うデジタル情報の位置合わせの基準点として「マーカー」または「ターゲット」と呼ばれる画像または物体(3Dオブジェクト)を用いる技術です。GPS等の電波の届かない室内における位置検出技術としては、現在利用可能な選択枝においては最も安価な技術と考えられます。これらは画像認識技術を利用しているため、対象となる画像や物体は、認識を行う上で必要な特徴点(輪郭や模様)を充分に有するものである必要があり、単純な図形や左右対称の画像は認識率が大幅に低下するために推奨されません。また、物体表面の光の反射なども認識率に影響を及ぼすため、照明条件の違いに応じた複数のマーカーを用意するなど、利用シーンに応じた工夫や調整が必要となるケースがある事にも注意が必要です。

一方、マーカーレスARは、特定のARマーカーを用いず、カメラ撮像中の風景内の特徴点を認識する事により、自分の位置や向きを検出する「SLAM(Simultaneous Localization And Mapping)」と呼ばれる技術をARにおける自己位置推定に応用したものです。この技術は、自立歩行ロボットや自動運転システムにおける自己位置推定にも活用されています。マーカーレスARは認識対象へのマーカー設置が不要であるため、オンラインショッピングサイト等における、家具の配置シミュレーションの用途などに積極的に活用されています。

上記のようなビジョンベースARの実現には、永年の研究成果に基づく画像認識技術が欠かせませんが、一般的なアプリケーション・プログラマーであっても、各種OSに対応したAR開発ライブラリとして実績が豊富なWikitude SDK や Vuforia Engine のような広く知られたライブラリを活用する事により、自社のアプリ開発などにおいても簡単に開発を行う事ができます。

マーカー型のARについては以下の記事で詳しく解説しておりますので、是非チェックしてみてください。
関連記事:ARマーカーとは?種類や活用事例を解説!

マーカーレス型のARについては以下の記事で解説しております。
関連記事:マーカーレスARとは?種類や活用事例を解説!

ARアプリ開発に必要なライブラリ

前述のAR開発ライブラリとしては、現在では様々なものが利用可能です。
ここでは、ライブラリの種類を見ていきましょう。

ライブラリ

Vuforia Engine

米国PTC社が2015年に通信用IC製造大手のQualcomm社から買収した、産業用途向けAR開発ライブラリとしてはトップシェアのAR開発ライブラリです。

Wikitude SDK

オーストリアのWikitude社が開発を行っているAR開発ライブラリです。ゲーム開発などのコンシューマー向けARアプリケーションにおいて多く活用されています。

Kudan

Kudanは独自技術に基づいた空間、立体認識により、カメラ画像を元にデバイスの自己位置認識を行う技術を提供しており、ローエンドなデバイスでも高速かつ低負荷で利用できるという特徴から、一般的なARアプリ開発よりも、AR機能を持つHW製品への組込み用途での利用に強みがあります。

ARKit

Apple 社が 2015 年に当時AR開発では最先端の技術を誇っていたドイツのMetaio社を買収し、同社の技術を元にiPhone / iPad 専用に開発が進められているAR開発ライブラリです。

ARCore

Google社がAndroid端末向けに開発を行っているAR開発ライブラリです。かつて同社は、赤外線による深度センサーを搭載した高度なAR専用スマートフォン規格「Tango」の開発を進めていましたが、Apple社がARKitによって単眼カメラのみでより多くのユーザーにAR機能を提供する戦略をとったことから、Tangoの開発を打ち切り、ARKit同等の機能に絞り込んだARCoreに開発リソースを一本化して現在に至っています。

ARシステムの開発の手順

次に、ARシステムを開発する手順を見ていきましょう。
ARシステム開発のプロジェクトは、大きく分けて次の5つのフェーズに分けて進めていきます。

事前検討・調査フェーズ

この段階では、まず初めに、対象となる作業や、デジタル情報を重ね合わせて表示するターゲットとしての対象物、そして、どのような機能を盛り込むかなどについて検討します。ここで明確な目的を設定する事で、作業の内容に応じてどのようなタイプのAR表示デバイスを選定すべきかの判断がし易くなります。また、選定したAR表示デバイスが目的の対象物を正しく認識できるか、想定される利用環境において見やすい表示性能をもっているか、などについても実際の検証で確認しておくことも大切です。

シナリオ検討フェーズ

次に、コンテンツの開発担当者に工数や費用の見積もりを依頼するために必要な資料などを作成していきます。ここでは、各作業のステップ毎に、手書きの絵コンテやスケッチなどがあると、より完成形のイメージが伝わりやすくなり、出来上がった成果物が期待していた見え方とは異なるなどの事態を未然に防ぐことに繋がります。
また、この段階で、CADデータなどの3Dモデル、動画や画像など、コンテンツ内で表示したい素材の準備も並行して進めておきます。

開発フェーズ

以上で用意したシナリオや素材を元に、開発担当者はUnityやUnreal Engine に代表される各種の3Dアプリケーション開発環境を使って実際のAR作業マニュアル・コンテンツの制作を行います。

検証フェーズ

こうして開発されたARアプリケーションを用いて、検証フェーズにおいては、実際の現実空間を対象として動作検証を行い、表示の分かりやすさや使い勝手などをチェックしていきます。ここで見つかった問題点などは、必要に応じてシナリオ検討フェーズに戻り、検証、改善のプロセスを回します。

配布・運用フェーズ

最後に、エンドユーザーとなる現場の作業員に対して、完成したARアプリケーションとAR表示デバイスを配布し、運用を開始します。アプリケーションの配布方法については、利用するデバイスやオペレーティングシステム、社内のみでの利用なのか、社外も含めた利用なのか、セキュリティポリシーなどによっても様々となりますので、こちらも早い段階で確認、準備を行っておくと良いでしょう。

以上がARシステム開発の大まかなプロセスとなりますが、最終的に実際の現場での使い勝手や実用性を決定付ける上で最も重要なポイントは、やはり、選定したAR表示デバイスが、作業対象となる物体やマーカーを正しく認識し、デジタル情報を現実空間上の正しい位置に表示できることを事前に確認しておくことにあります。

今後も市場拡大が期待されるARシステム開発

いかがでしたでしょうか。
今回はAR技術の仕組みや種類を紹介し、ARシステムを開発するために必要な開発環境とライブラリ、具体的な手順について解説しました。
ARは生活をより便利で豊かなものにし、今後も市場の拡大が期待される技術です。
最適な開発環境とライブラリを準備して、ニーズに沿ったARシステムを開発しましょう。

サイバネットシステムはAR・VRを活用し、幅広い業界でお客様の課題に沿ったソリューションを開発することが可能です。 AR・VRを活用したソリューションについてのご相談やお見積り依頼についてお気軽にご相談ください。

お気軽にお問い合わせください

AR/VRのご相談やお見積り依頼などお気軽にご連絡ください。