EMC規格の意図や関係性を知れば、ノイズ設計に強くなる!
EMS規格ってどういうもの?
EMC規格の意図や関係性を知れば、ノイズ設計に強くなる! :第2回
第2回 EMS規格ってどういうもの?
EMCの規格にはEMI(周りに電磁的影響を与えない)という要求とEMS(周りから電磁的影響を受けない)という要求の2つに分けられます。
第2回はこのうち、EMS規格についてお話しします。
EMS規格には様々な種類があり、各種試験の測定方法と規格値が定められています。
今回は、EMS規格の体系と試験の種類、重要な考え方についてご説明します。
EMS規格体系
それぞれの関係性を以下の図に示します。

「製品群規格」では、照明機器、医療機器、車載機器、マルチメディア機器等、特定の製品群に対する試験方法が定められています。その多くが基本規格や共通規格を参照しています。
「製品規格」では、製品群の中でも特定の製品に対する試験方法が定められています。こちらについても製品群規格を参照されていることがほとんどです。
「共通規格」では、製品群規格や製品規格に含まれない製品に対する試験方法が定められています。特にIEC61000-4シリーズでは、多くの製品群規格から参照される試験方法が記載されています。
このように、多くが他規格の参照となっているため、機器の使用方法が記載されている基本規格の「CISPR16」と標準的な試験方法が記載されている「IEC61000-4シリーズ」の内容を把握することで、多くの規格を理解することができます。
車載機器などの試験方法が異なるものについては、EMI規格と同様に”基本の測定方法とどう異なるか”といった観点で見てみると理解しやすくなるかと思います。
EMS試験の種類
EMS試験には大きく分けて放射感受性(放射EMS)と伝導感受性(伝導EMS)の2種類があります。
放射EMS試験では、アンテナから放射された電磁波が空間を通じて製品や接続ケーブルに照射されることによって、試験対象に発生する誤動作や破壊の有無を確認します。
一般的には80MHz以上の帯域で実施され、製品の標準的な使用構成で複数の方向から照射される場合が多いです。
実際の使用構成に近い形で試験されるため、製品自身に直接照射されるノイズだけでなく、周辺機器や家庭用電源等に接続されるケーブルを介して伝導ノイズとして流入するノイズについても影響します。
伝導EMS試験では、電源線や信号線などのケーブルにノイズ電流を印加することで製品に流れ込むノイズによって、試験対象に発生する誤動作や破壊の有無を確認します。
一般的には80MHz以下(車載では400MHz以下)の帯域で実施されることが多く、実際の使用条件に相当するような形で電源ケーブルや通信用ケーブルを介してLISN(疑似電源回路網)や負荷装置と接続した状態で試験されます。
これは、ケーブルを介して接続される周辺機器からの伝導ノイズ影響を確認するという目的はもちろん、ケーブルに電磁波として照射されるノイズによって発生する伝導ノイズの影響を確認する意味もあります。
一般的にはケーブル長は製品自体のサイズに比べて大きくなり、EMIと同様に比較的低周波(~数百MHz)においてはケーブルの共振による影響が放射EMSで支配的になることも多いため、こういった帯域における放射EMSの対策にも伝導EMS対策が有効です。
また、伝導EMSには連続的なノイズを与える試験以外にも、静電気試験やトランジェントバースト試験、雷サージ試験等、瞬時的なノイズに対する耐性を確認するような試験もあります。
こういった試験は連続的なノイズに比べて瞬時的に大きなエネルギーが印加されるため、クランプ素子を追加するなど、ノイズ源の特性に合わせた対応が必要になる場合があります。

EMSとEMIの設計における違い
ここまでEMSの規格試験について説明してきましたが、前回のEMIと共通する部分が多かったかと思います。
実際に設計時の考慮する内容としても、EMSとEMIは非常に密接にかかわっています。
例えば、EMIで放射の要因となるようなアンテナ構造(基板パターン、プレーン共振、ケーブル等)は、EMSでは電波を受信するアンテナとして働きます。また、EMIとしてアンテナ構造に対してノイズ伝搬が大きいということは、EMSではアンテナ構造に受信したノイズが侵入しやすいと言い換えることもできます。
このため、EMIの設計品質が良い製品はEMSに対しても設計品質が良くなります。
では、EMSとして特別に設計時点で考慮する必要はなく、EMIの設計考慮のみでEMCの品質が担保されるのでしょうか?
答えはNOです。
よくあるEMSの問題として、EMIでは考慮不要だった低周波信号や流れる電流の小さい配線で問題が発生するというものがあります。
これは、EMIとEMSのノイズ源の特性差によって発生します。
EMIの場合はノイズ源が製品内部に存在するため、エネルギーの大きい部分は一部のみに限定され、ノイズ源の
周波数スペクトラムとしても特定の周波数成分のみが含まれます。
EMSの場合は外部からノイズが侵入するため、周波数は限定されず、回路としてのエネルギーが小さい配線にも影響を及ぼします。
こういったノイズ源の特性の差によって、EMIでは考慮不要なため配慮が不十分だった配線に問題が発生してしまうことがあります。
このような問題を避けるためには、配線に流れる電流の大小や周波数だけでなく、対象回路のノイズ影響の受けやすさやリスクを考慮したり、ノイズの流入経路に対策を施すことで特定の配線のみでなく基板全体のノイズ耐性を上げるといった対応が必要です。
例:
- 振幅の小さい信号はノイズ影響を受けやすいので、シールド配線を追加する
- アナログ信号は少しのノイズで出力に影響するので、フィルタ回路で高周波ノイズを落とす
- リセット信号はノイズ影響を受けた場合のリスクが大きいので、時定数の大きいフィルタ設計をする
- ケーブルからのノイズ流入を抑制するために、コネクタ直近にコモンモードフィルタを追加する
まとめ
EMIと共通する内容も多いので、EMI規格と合わせて理解すると、EMCの設計として考慮すべき内容が把握しやすいかと思います。
また、EMIとEMSの違いを理解することで、EMIだけでなくEMS耐性も考慮した設計を実施することが可能です。
次回は静電気の規格と設計考慮についてもお話させて頂きますので、もし興味があればチェックしてみてください。

