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Ansys Workbench環境のマルチスケール解析アドイン「Multiscale.Sim」最新機能
CAEのあるものづくり Vol.25|公開日:2016年10月
目次
はじめに
従来、Ansysをはじめとする有限要素法(以下、FEM)解析ツールでは、もっぱら人間の視覚的に認識できるレベルの大きさの形状モデル(以下、マクロモデル)を解析対象としてきましたが、近年は材料組織レベルのもっと小さな形状のモデル(以下、ミクロモデル)を考慮したい解析ニーズも高まっております。その背景には、3Dプリンタに代表される成形技術の著しい進歩に伴って、複雑な微視構造を持った材料が比較的容易に作成できるようになったことや、構造物の軽量化を目的に、繊維や粒子充填の強化プラスチック材、すなわち複合材料の応用に注目が集められていることが考えられます。
これらの複雑な微視構造を持った材料は、方向によって異なる剛性や熱伝導特性等を持った異方性の挙動を持つことが特徴です。ミクロスケールの不均質な微視構造を無視したマクロモデルのFEM解析を実施するためには、これらの異方性材料挙動を表現するための、物性値を取得する必要があるわけですが、一般的な等方性材料とは異なって、様々な方向の材料試験を実施しなければならないため、解析の前準備がとても大変になる問題がありました。
一方でミクロモデルを考慮した解析では、この物性値取得の問題がクリアできるという大きなメリットがあります。このような異なるスケールのモデルを連携したアプローチのことをマルチスケール解析と呼び、近年は産業界、学術界の両方から注目を集めております。そこで当社では2007年より、マルチスケール解析をAnsysプラットフォーム上で実施するためのアドインツールであるMultiscale.Simの開発に着手してまいりました[1]。開発当初はAnsys MechanicalAPDL環境への実装のみが行われてきましたが、現在はWorkbench環境への機能実装を中心に開発を進めております。そこで本稿では、近日リリース予定のMultiscale.Simの最新機能について紹介いたします。
マルチスケール解析技術
図1にMultiscale.Simで最も重要な均質化解析のフローを示しました。均質化解析では、微視構造の不均質性を再現したミクロモデルに対して、有限要素法で仮想的に材料試験を実施する(以下、数値材料試験)ことで、様々な方向のみかけの材料挙動を取得します。材料挙動は考慮したい特性に合わせて応力-ひずみ特性、クリープ特性、応力緩和特性等を評価することができます。これらの材料挙動のデータを、異方性の材料モデルでカーブフィットすることにより、マクロモデルの構造解析に必要な材料物性値を取得します。これら一連の解析を実現するにあたり、当社では次に示す3点をコア技術として開発を進めております。
a)ミクロモデル作成テンプレート
材料組織のようなミクロスケールの不均質な微視構造は、ハニカムサンドイッチパネルやパンチングメタルなどの特殊なケースを除いて、極めて形状が複雑なため手動でモデルを作成することは非常に困難です。そこで本ツールでは、繊維の体積含有率や角度の統計情報などの幾何情報を入力するだけで、自動的にミクロモデルを作成するための機能を有しております。
b)異方性材料モデル
現状、多くの汎用FEM解析ツールでは、異方性の非線形材料モデルが標準機能としてあまり豊富に備えられておりません。数値材料私権で得られた様々な方向のみかけの材料挙動をマクロモデルに反映するためには、異方性挙動を正確に表現できる材料モデルも必要不可欠です。
c)物性値同定のためのカーブフィット
数値材料試験あるいは実材料試験で得られた材料応答から、マクロモデルの解析に必要な材料モデルの物性値を同定することもまた容易ではなく、特に異方性の材料モデルにおいては、同定作業そのものに技術的なノウハウが要求されている現状があります。そこで当社では、特別なノウハウを要することなく、技術者の解析スキルに依存しない最適な材料物性値が同定できる機能を提供することを目標に、先進的な最適化アルゴリズムの研究開発も進めております[2]。
次節以降では、これらのコア技術に関連した次のバージョンの新機能について紹介いたします。
Workbenchアドインの新機能
3.1. 新機能1:SpaceClaim対応とDesignModeler機能の拡張
Multiscale.Simでは、ミクロモデルの代表的なトポロジーをモデル化するため...