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株式会社ブリヂストン様
人命と財産を守る「免震ゴム」の開発とCAE

CAEのあるものづくり Vol.10|公開日:2009年3月
今回のインタビューでは、株式会社ブリヂストン様にご協力いただきました。
タイヤ・ゴムメーカーとして世界トップクラスの実績を誇るブリヂストン様。1980年初期からは、長年に渡るタイヤ開発で培ってきた世界最先端の技術を生かし、業界に先駆けて免震ゴムの開発に着手されました。1995年の阪神・淡路大震災を契機に量産体制を整備、現在では国内シェア50%という実績をあげられています。また積極的な海外展開を進められており、2005年に正式発行された免震ゴムの国際規格(ISO22762)の策定時には、免震ゴム技術における世界のリーディングカンパニーとして原案作成段階から積極的に参画、多くの貢献を残されました。
本インタビューでは、免震ゴムの開発経緯と、Ansysの利用についてお話をお伺いしました。
今回お話いただいた方々
免震開発部 免震開発第1ユニット
ユニットリーダー 室田 伸夫 様
鮫島 祐介 様
(以下、お客様の名前の敬称は省略させていただきます。)
皆様の担当業務についてお聞かせください。
室田 - 免震開発部は、二つのユニットで構成されています。免震開発第1ユニットはビルや戸建用の免震・制震、免震開発第2ユニットは橋梁用の免震ゴムの開発をしています。私は第1ユニットでリーダーを務めています。
鮫島 - 私は免震ゴムの開発や設計を担当しています。具体的にはビル等で利用される積層ゴムの設計や、ユーザ様のフォローを行なっています。
免震ゴムについてご紹介ください。近年、非常に注目されているそうですね。
室田 - 免震ゴムとは免震装置の一種で、薄いゴム層と鉄板を交互に積層し、加硫接着したものです(図1)。
近年、建築構造物の地震対策として免震工法が注目されています。従来の建物の場合は、地盤の上にしっかりと基礎を据えます。激しい地震の揺れは、頑丈な建物と基礎で持ちこたえるという発想です。しかし免震工法では、構造物の各柱下と基礎の間に免震ゴムのような免震装置を設置して、地震の際に建物へ伝わる力を低減させるのです。
積層ゴムは、水平方向にはゴム本来の低い剛性を示します。そのため構造物と基礎の間に挿入しておけば、地震の力をほとんど吸収してしまいます。上の建物は、あたかもゴムを介して宙に浮いているような状態になり、地震力はほとんど伝わりません(図2)。一方、鉛直方向には、鉄板の補強効果で高い剛性を示すため、長期にわたって構造物を支持していくこともできます。
ですから、免震ゴムは免震建物の心臓部と言えます。ゴムの良し悪しで、免震工法の出来が決まると言っても過言ではないでしょう。しかし鉄やコンクリートと違って、ゴムは建築では一般的な素材ではありませんから、これを扱える構造設計者は限られています。そういう意味でも、免震建物は非常に付加価値が高い建物と言えます。


これまでの開発経緯についてお聞かせください。
室田 - ブリヂストンでは、国内では最も早く、1980年初期から免震ゴムの開発に取り組んできました。私は1989年から免震ゴムの開発に携わっていますが、当時は大手建設会社が実証観測を目的に自社の建物に取り入れるといった実験的な要素が強いものでした。
しかし、1994年にロサンゼルスで起きたノースリッジ地震や、翌年1995年の阪神・淡路大震災で免震建物の効果が実証されたことで免震対策の機運が高まりました。当社でも、そこから本格的に設計・開発・生産の体制が出来上がっていきました。
免震ゴムを導入することで、震度7の地震を震度3程度の揺れにまで軽減することができると言われています。最初は集合住宅から需要が増えていったのですが、病院や消防署など緊急時に仕事ができなければいけない施設への採用が進み、最近ではリスク対策を行なう企業からの需要も高まっています。
免震ゴムの耐久性は、どのように予測されるのですか?
室田 - 免震ゴムは、長期間にわたって性能を保証しなければいけない製品です。建物の使用期間は一般的に60年間とされていますが、60年間も使用された免震ゴムはまだ存在しません。実験評価を積み重ねて、耐久性を評価・予測していく必要があります。
本来、ゴムは非常に複雑な過程を経て劣化していくのですが、それをごく簡単なモデルに置き換えると、劣化の進行速度は温度に依存すると考えられます。例えば常温(20℃)の環境下での60年後の劣化状態なら、80℃の環境下での半年後の状態に相当するわけです。このように、高温化で短期間の劣化実験で予測しています。
最初に立てられた免震建物が築20年強になるのですが、20年経った免震ゴムを取り出して調査したところ概ね想定通りでした。免震ゴムの体積はかなり大きいので、表面はわずかに酸化していても、中はほとんど初期状態のままでした。
また、免震ゴムについては大量の実験データが蓄積されています。免震工法の出始めの頃は、建設会社が自社の寮や社宅に積極的に免震ゴムを採用していました。その後も、定期的に免震ゴムを取り出して劣化具合を調査したり、自由振動実験を行なって確認するなど、トレーサビリティが非常にしっかりしているのです。そのお陰で、20年間の劣化の進行についてはかなり明確になりました。
免震ゴムの開発では、CAEはどう関わっているのですか?
室田 - 開発当初は、CAEを使って60年後の変形能力を予測したこともありましたが、その後は実験が主体でした。しかし、最近はCAEをもっと使おうという動きがあります。
鮫島 - ブリヂストンでは、お客様の多様なニーズにお応えするために、あらゆる種類・サイズの免震ゴムのラインナップを用意しています。そのため、繁忙期には1年で100体近く試験体を作って実験することもあるのですが、試作品を1つ作るのも結構コストがかかります。また、今までは全てのデータを実験から採取していましたので、工数も膨大でした。
ある程度その妥当性が証明されれば、CAEを使うことで試作や実験の回数を減らすことができますし、実験ではなかなか難しい検証も行なうことができます。
室田 - CAEを使うことで、実験が半分、あるいは1/3まで減るといいですね。また、ゴム内部の歪のように、実験では見ることができない部分を可視化できるのも利点の一つです。実験結果ときちんと整合が取れれば、その解析結果を材料開発にフィードバックすることも可能です…
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