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解析事例

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熱流体解析

株式会社 SUIHO SPACE INNOVATIONS 様

エンジン専業で宇宙産業に参入
再使用型ロケット向けのエンジン開発を目指す

株式会社 SUIHO SPACE INNOVATIONS 様

概要

SUIHO SPACE INNOVATIONS は2024年に起業したスタートアップで、ロケットのエンジン開発を専業としています。
同社が設計するのは、小型衛星を搭載して宇宙へ到達し、かつ地上へ帰還・着陸できる「再使用型ロケット」向けのエンジン。
Ansys Startup Program」 を活用し、燃焼・冷却・構造などのシミュレーション技術構築と年間300回以上に及ぶ燃焼試験を組み合わせながら検証と改善を重ね、開発を前進させています。

導入前の課題

  • 地上とは異なる環境での挙動を予測し設計することが求められている
  • 起業してまもない時期で投資できるリソースが限られる中でも、高度な解析ソフトは必須だった

導入効果

  • シミュレーションによる予測・設計と試験による実証の繰り返しで高精度・高速な開発を実現

ご利用中のサービス

(左から)横尾様、柚沢様

今回お話をお伺いした方

株式会社SUIHO SPACE INNOVATIONS

代表取締役 柚沢 誠 様

横尾 颯也 様

1.背景と課題

民間主導で国産初の、小型衛星を搭載可能な再使用型ロケットのエンジン開発を目指す

北米を中心にロケットの低価格化が進み、また2020年には民間企業初の有人飛行が実現されるなど、一般の方にも宇宙との距離が縮まり、身近な存在になりつつあります。
実際にアメリカでは約3日に一度、ロケットの打ち上げが行われていると言われています。かつて宇宙開発は国が主導し、膨大な研究資金と限られた人材によって進められてきました。SUIHO SPACE INNOVATIONSは、そんな宇宙産業の民営化と民間主導の“再使用可能なエンジン供給”を目指して日々挑んでいます。

柚沢

ロケットって非常に面白くて、工程の8 ~ 9割がエンジンの開発なんです。開発・生産コストでも6〜7割を占めます。業界全体を発展させていくには、エンジンに特化した技術を高めていく必要があると感じ、独立を決意しました。私自身は自動車分野、特にレーシングエンジンの開発に携わってきた経歴があります。前職では社内起業家制度を利用してロケットプロジェクトを立ち上げ、5年間、開発に従事してきました。しかし、1社だけではなく複数のロケット事業者様と連携することで開発を加速したいと考えました。

従来型のロケットは使い捨て、いわば海洋投棄してきたのだと語る柚沢様。再使用可能になれば、材料費を大幅に削減しつつ毎回の製作が不要になるため、ロケットの打ち上げ回数は大幅に増やすことができます。一方で、設計思想は大きく変わり、従来とは異なったアプローチが必要になります。

柚沢

1つのロケットで100 ~ 200回の再使用を目標としているため、特に配慮しているのは安全率の設定やメンテナンスです。また、使い捨てロケットならば、“最大出力”だけで運転をおこなうことができますが、再着陸型ではエンジン出力を絞り、精密な制御を行わなければ適切な着陸ができません。このようなエンジンの微細な制御技術にも注力しています。現時点では、最初のエンジン試作機の製作に向け、部品単位から開発を進めている段階です。

2.選定理由

複雑な条件が絡み合う燃焼試験のシミュレーションに、Ansys製品は欠かせない

ロケットエンジンの燃焼試験は、実施できる環境や設備に制限があるうえ、安全対策を含めた巨額の試験コストなど負担が大きく簡単に繰り返せません。 そのため、「設計→シミュレーション→試作→試験→・・・」というCAEシミュレーションを加えたサイクルを高速で繰り返すアジャイル型の開発が主流となっています。解析ソフトウェアとしては業界標準であるAnsys製品が必須だったといいます。

柚沢

Ansys FluentやAnsys CFXが業界標準ですし、これまでの経験上非常に良いソフトだということも知っていました。しかし価格面で導入は困難と考えていました。

そこで採用いただいたのが、「Ansys Startup Program(スタートアッププログラム)」でした。創業5年未満などの条件を満たしたスタートアップ起業向けに、必要な解析ソフトウェアがパッケージとしてバンドルされており、流体解析や構造解析など、ロケットエンジン開発に必要な機能を一括で導入できる点が大きな決め手になったといいます。

柚沢

たとえば、燃焼室の軽量化のための形状検討では、Ansys Mechanicalで構造解析を行い、設計した形状が狙いどおりの条件を満たすかを確認しています。また、部品内部流れの最適化、冷却効率の均一化、圧力損失低減などの解析にはAnsys Fluentを使用しています。ロケットでは燃料となる酸素を液化し、約−200℃の極低温状態で機体に搭載します。この液体酸素は、エンジンを冷却する流体として使われたあと、最終的には燃焼させるという複雑なシステムになっています。燃焼室は円筒形をしており、冷却が不均一だと、局所的に熱が集中して、部品が溶けるおそれがありますので、冷却流体が燃焼室全体に均一に行き渡るよう、流路形状の最適化が必要になります。
このような各過程のシミュレーションで必要になるソフトウェアが、パッケージとして提供されている点は、とてもありがたいと感じています。スタートアップ企業は日々の業務が立て込むため、用途ごとにソフトウェアを選び、比較し、導入を検討するだけでも大きな負担になります。そうした作業に時間と労力を取られずに済むことは、開発を前に進めるうえで大きな助けになっています。

横尾

私は大学時代に Ansys Fluentに触れた経験がありますが、本格的に使い始めたのは数か月前からです。
マニュアルを詳細に読み込むことなく、インターフェースを確認するだけでパラメーター設定が可能です。また、結果の表示についても必要な操作が直感的に理解できるよう設計されています。メッシャーなども安定していて、手間なくきれいに切ってくれるなど、機能やサポートが充実していて使いやすく、コスパもよく、すべての要素が揃っています。これほど優れた環境は他にないのではないでしょうか。

3.工夫や効果

燃焼試験とシミュレーションの反復で、精度高く・かつ高速な開発を実現

同社では、大学施設やJAXAなどの施設を用いてロケットエンジンの燃焼試験を行っています。しかし、燃料は非常に高価なものでもあり、燃焼試験には時間もかかります。
また、実際の打ち上げでは、地上から宇宙空間へ到達するまでの間に空気密度や気圧が連続的に変化し、それに伴って推力も刻々と変わっていきます。こうした飛行中の環境変化は、地上試験だけでは再現が難しく、シミュレーションが必須です。

柚沢

たとえば燃焼試験は、ロケットに搭載される前にエンジンの性能・機能を確認するために地上で実施される試験ですが、ロケットエンジンを試験スタンドに固定し、液体酸素や液体水素などの推進剤を供給して実際に燃焼させます。そして、推力や温度、圧力、ひずみなどのデータを測定します。JAXAさんとかだと真空状態にした試験なども実施していますが、すごくコストがかかるんです。幸い、これまで構造解析では、燃焼試験の結果とシミュレーション結果がほぼ同一になっています。流体解析はまだ工夫の余地はありますが、かなりうまくいっていると思います。

燃焼試験を行う実験場の様子

ロケットエンジンに特化したことで、試験回数が増え、データも高いサイクルでたまっていく点は解析をするうえで非常に有利だと感じているといいます。外部環境の影響など、シミュレーションだけでは読み切れない現象が起き燃焼試験を行う実験場の様子ることもありますが、この場合でも試験結果をもとに、あらためてシミュレーションで原因を再現・解析し、次の試験で改善につなげることができたと振り返りました。

柚沢

とあるお客様との協力案件では、燃焼試験後にヒートスポット(局所的な高温部)が発生し、一部の金属が変色するという問題が発生しました。燃料の流れのよどみや不均一性を疑い解析したところ、現象を再現することができました。形状を変更&最適化することで、次回試験時には改善できました。

ヒートスポットの改善事例

柚沢

また、ターボポンプの軽量化および形状最適化のために構造解析および流体解析を行いました。ロケットエンジンのターボポンプは、世界でも最も高回転する機械の一つで、回転数は50,000〜100,000rpmに達します。これは航空機のジェットエンジンの約10倍という回転環境です。この極限状態での振動や遠心力の解析にAnsys Mechanicalを活用することで応力分散し、従来から20%の軽量化に成功しました。

左:ターボポンプ回転部品の応力分散状況
右:ターボポンプディヒューザの流れ状況

4.今後の展望

衛星打ち上げ成功を第一目標に、再使用ロケットエンジンサプライヤーNo.1を目指す

同社が描く将来像は、国内外のロケット事業者様にエンジンを供給し、技術面でも支える「エンジン専業メーカー」としての立ち位置です。航空産業におけるGE(ゼネラル・エレクトリック)社やプラット・アンド・ホイットニー社のように、世界中の顧客へエンジンを提供できる供給会社でありたい、という思いがあります。さらに、再使用ロケットエンジンのスペシャリストとして、開発から運用までを統合的にエンジニアリングできる存在を目指しているといいます。そのための第一歩として重視されているのが、国内での打ち上げ成功です。

柚沢

まずロケットエンジンの燃焼を成功させ、国内のお客様にご利用いただきたいと思っています。そして、国内での衛星打ち上げ成功を実現します。日本国内ではまだ、新規参入のロケット事業者様による衛星打ち上げ成功例がありません。当社の部品やエンジンをご活用いただき、今後2~3年で打ち上げを実現することが目標です。

コラム

社名の「SUIHO」とは、江戸時代に地図を作った伊能忠敬が「推歩先生(すいほせんせい)」とも呼ばれていたことに由来するそうです。「推歩」とは江戸時代の暦学のこと。忠敬は、正確な暦を作るためには地球の正確な大きさが必要と考え、なんと50歳を過ぎてから、自身で江戸から蝦夷地(北海道)の距離を測ることを計画しました。各地を歩いて測量を重ねる傍らで、毎夜天体観測を欠かさなかったといいます。その結果、製作した地図は西洋を凌ぐ精度となり、計算した地球の大きさも現代の数値との誤差は約0.1%。同社は、この探求心と研究への姿勢に敬意をこめて「SUIHO」と名付けたそうです。入居する六郷ベースは、東京都大田区の創業支援施設。
以前なら膨大な資金がないと挑めなかった宇宙産業に挑む同社の取り組みは、目標に向けて試験と検証を地道に積み上げていく点で、「現代の推歩先生」と呼べるのかもしれません。

お客様プロフィール

株式会社 SUIHO SPACE INNOVATIONS
事業内容
ロケット・衛星用部品に関わる研究開発、製造、販売
ロケット・衛星用部品に関わる技術支援、開発環境の提供
宇宙開発における産業発展、技術展開への貢献
本社所在地 : 東京都大田区南六郷3-10-16
設立 : 2024年11月
Webサイト :  https://www.suiho-space.co.jp

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