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解析事例

構造解析

北海道大学 大学院工学研究院 様

実験とシミュレーションの相互作用で現象の本質に迫る ~教育現場で活きる Ansys Mechanical の事例

北海道大学 大学院工学研究院 様

概要

北海道大学工学部機械知能工学科では、宇宙航空工学や医療・福祉工学、エネルギー工学をはじめ、多岐にわたる分野の教育を展開し、幅広い視野を持って活躍できる人材の育成に力を入れています。変形制御学研究室では、3年次の授業にAnsys Mechanicalを導入し、実験とシミュレーションを並行して実施することで、現象の深い理解を助けるとともに、CAE活用の入門としての役割も果たしているといいます。
本インタビューでは、Ansys Mechanicalの具体的な活用方法や、学部生の段階からCAEを活用するメリットについて伺いました。

(左から)本田 真也様、武田 量様
(以下、お客様の敬称は省略させていただきます。)

今回お話をお伺いした方

北海道大学

大学院工学研究院 機械・宇宙航空工学部門
変形制御学研究室
准教授 本田 真也 様
助教 武田 量 様

1.Ansysと実試験の組み合わせで基礎力を鍛える実践教育

機械知能工学科の教育内容を教えてください。

北海道大学工学部機械知能工学科は、2005年度に機械工学科と原子工学科を統合して誕生しました。材料力学、熱力学、流体力学、機械力学を基礎として、医療・福祉工学やロボット工学、宇宙航空工学、エネルギー工学やプラズマ理工学、粒子線工学など学際分野を含む幅広い分野の教育を行っています。
宇宙航空工学分野では小型ロケットや人工衛星の設計などに力を入れており、ロケットの打ち上げで知られる北海道大樹町の発射場でも研究に活用しています。我々の研究室では、航空機や宇宙機器にも活用される複合材料の研究を行っています。またバイオメカニクス分野にも取り組んでおり、医学的な課題に工学的な視点からアプローチしています。

どのような教育でAnsys Mechanicalを活用されているのでしょうか。

本田 真也 様

学部では3年次になると「ラボラトリーセミナー」という実習があります。6人程度のグループになった学生が各研究室を順番に回り、基礎的な知識を実習で身に付けるというものです。
材料力学に関しては、材料組織の観察や熱処理、引張試験といった内容に取り組みます。我々の研究室では、複雑なものだと異方性材料の曲げ試験などを行っています。研究室に配属された後には各自でCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を設計して作成するため、そのための基礎項目を理解してもらうことを狙っています。

2.学生が実験とCAEの両方で現象の核心に迫ることが重要

そこでAnsys Mechanicalが活用されているのですね。

武田 量 様

曲げ試験は応力分布が一様ではなかったりしますが、実験だけでは、変位と荷重の関係を示すグラフしか得られません。そこで、応力分布をシミュレーションによって可視化すれば、どういった現象が起きているのかをより深く理解できます。シミュレーションの結果と突き合わせることで、実験によって裏付けられたということになりますので、両方実施することは重要だと思います。学生の段階でCFRPの実験を実施するとともにAnsysを活用することで非線形の解析にも取り組めています。

本田

学生にとっても、2年生までの間に講義や加工学実習で学習してきたことを、実際に自分の手で測定してみることで、本質的な理解へとつなげることができます。例えば「スマホのこの部品には、なぜこの素材が採用されたのだろうか」について検討してもらい、「設計をするには、この測定が不可欠なのだ」という実感を持ってもらうことを重視しています。また、3年の生産工学の講義では有限要素法の講義があり、自分で剛性マトリクスを作ってどれだけ先端が変形するか、というのを計算する授業もありますので実習・実験でやったことが結びついてくるかと思います。有限要素法に興味をもった学生の中には、大学院になると自分でPythonを使ってAnsysをカスタマイズして使っているという人もでてきます。研究室への配属後、自らの理解に基づいて主体的に進められるように、深い理解へとつなげていくことを大切にしています。

実習中の風景 - 熱心に取り組む学生の姿

異方性材料の曲げ試験解析画像の例

3.Ansysの操作性で初学者の挑戦を支援

学生にとって、Ansysツールのよいところはどういった点でしょうか。

本田

導入した理由のひとつには、私自身が学生の時から使用しており身近だったということがありますが、 Ansysの製品は他のCAEツールと比較しても “とっかかりやすい” といいますか、初心者にとってわかりやすいと思います。

武田

研究室ではAnsys以外のCAEツールも使用していますが、それらは大学院生であっても慣れるのに時間がかかり、難易度が高いです。大規模な計算機システム上でオープンソースのソルバーを用いた流体解析や有限要素解析を行う場合、プリポストを各自で用意する必要があります。また、操作方法が分からないなどの問題を解決するためには自分で調べたり、外部のフォーラムなどで質問したりと、解析そのものよりも準備に時間がかかってしまうのが現実です。
ある現象を理解・確認したいという目的があれば、まずは使いやすい製品を経験して、「プリポストとはこういうものだ」といったことを体験することは非常に有効だと感じます。

学生の方たちはどのように使い方を習得しているのでしょうか。

武田

最近の学生のコンピュータリテラシーはかなり高いので、コンピュータを利用した授業にもそれほど抵抗はなく取り組めています。Ansysは広く普及しているツールのため、学習の手段も豊富です。サポートや公式のチュートリアルに加え、一般の人がYouTubeなどにアップロードしている解説も数多くあります。学生たちはそれらを見ながら自分たちで解決できる環境があります。

本田

「スチューデント版」もあるため、学生が自分のPCにインストールし、基本的な機能を試してみながら学習できるというのは、優れていると思います。必要になった時点で研究室のライセンス環境へスムーズに移行できます。

武田

研究室では全員がAnsysを使っているので、先輩などに聞くのが一番手っ取り早いですね。また研究室に配属されるときには、先輩が簡単な解析を交えながら後輩にレクチャーする形でトレーニングも実施しており、スキルが受け継がれています。

CFRPのシミュレーションに取り組む学生

丁寧に手順が示された操作ガイド

4.実践を通じて将来活躍できる力を育てる

なぜ実験とシミュレーションの両方をできるような人材を育てているのでしょうか。

武田

身に付けてほしいのは、「実験で得られた結果をシミュレーションで再現する」あるいは「シミュレーションで予測した内容を実験で検証する」といったサイクルをきちんと回せる力です。その力を身に付けるためにも、研究室に配属される前の段階である学部の授業でCAEにふれることは、非常に意義があると感じています。

本田

我々としては、どんな場面でも活躍できるような人材に育ってほしいという考えがあります。北海道大学の教育方針に、札幌農学校時代から続く、「全人教育」があります。これは広く教養を身に付けようという考えです。
また学生の就職先の企業からも、「シミュレーションと実験の両方をできる人がほしい」というお声をいただきます。実験をせずに解析結果だけで判断することは非常に難しいと思います。そのため実験を行いながらも、内部の応力などシミュレーションを通して視覚的に得ることで、どちらもより深く理解できるようになればよいと思います。

武田

使い方をとても丁寧に教えていますので、就職しても大学院に進学しても、抵抗感なくCAEツールを使えると思います。

少人数の実習できめ細やかな指導が行われている

応用が広がるAnsys教育の未来像

Ansysの機能について。とくにどのような点がよいですか。

武田

他ツールと比較してもメッシャーが優秀だと思います。これは教員の間でもよく言われますね。実際に体験した例だと、“CT画像から3Dモデルを作成するツール” でメッシュを切ることもできるのですが、そのファイルを出力してAnsysで解析を行うとエラーが起きてしまいます。ですがもう一回Ansysでメッシュを切り直せば、計算が回ることがよくあります。その点は特によいと感じますね。

今後は研究などでどのように活用していきたいと 考えていますか。

シミュレーションでしかできないテーマといえば医療系だと思います。血流シミュレーションなど、シミュレーションならではのテーマにAnsysを積極的に活用していきたいですね。Ansysの特徴としてマルチフィジクス(連成解析)が得意ということがあります。とくにAnsys Workbenchを使えば、Ansys MechanicalとAnsys Fluentを用いてすぐに連成解析が可能です。実習ですと、風が羽根に当たったとき羽根がどう変形するのかを解析したり、医療系だと血管壁と血流がどういうふうに相互作用をするのかを見たりすることもできます。こういった応用例を早めに学部の講義や実習の中で紹介することで、課題解決のためのノウハウを提供できるだろうと考えています。
また、3Dプリンターの活用により、研究室でも実験ツールを安価に作れる機会がかなり増えています。例えば設計したものをAnsysで解析して、検証できたらすぐ製作できるようにすればおもしろいかなと思います。一方、深絞りの実習や大掛かりな装置を使用する実習、危険性の高い実習など、全員が体験することが難しいテーマもあります。そこで実習では先生が手本を見せて、学生それぞれがシミュレーションでその現象を解析するという活用パターンもあると思います。

学生の方にとっては手を動かして体験することに代わるツールになりうるということですね。ありがとうございました。

注釈

※スチューデント版:学生向けの無料ライセンス。学習フォーラムやチュートリアルが用意されており、Windows PCにインストールして基本的な機能を習得することができる。

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