解析事例
構造-光学連成解析事例:熱の影響によるヘッドランプの配光変化
LEDヘッドランプを題材に熱の影響を考慮した光学解析事例をご紹介いたします。

1. はじめに
一般的に、光学製品が稼働する時には、光学系自身が発する光線や光源が持つエネルギー、あるいは製品内の電気系統など光学系外の要因によって熱が発生し、光学性能に悪影響を及ぼしてしまう場合が多くあります。
既存の光学解析を伝熱解析・構造解析と連携させるマルチフィジックス解析を行うことで、熱の影響を考慮した光学デバイスの性能評価を行うことが可能になります。本稿では、その一例としてLEDヘッドランプを題材に熱の影響を考慮した光学解析事例をご紹介いたします。
既存の光学解析を伝熱解析・構造解析と連携させるマルチフィジックス解析を行うことで、熱の影響を考慮した光学デバイスの性能評価を行うことが可能になります。本稿では、その一例としてLEDヘッドランプを題材に熱の影響を考慮した光学解析事例をご紹介いたします。
1.1 車載光学デバイスの光学設計課題
近年、HUD(ヘッドアップディスプレイ)などの新たな車載光学デバイスが台頭してきていることに加え、既存の照明においても電球や蛍光ランプなどからLEDへの置き換えが進んでおり、色々な側面から車載光学系の解析需要が増加しています。
LEDは省電力で寿命が長く輝度も高いなど多くの優れた特性を持っていますが、高温度下では光出力が低下する傾向があるため、過酷な温度環境にあっても光学性能要件を満たせるよう設計時に配慮する必要があります。
そこで、Ansysのマルチフィジックス解析を駆使して、設計段階から外部的な物理現象の影響を考慮して配光特性を評価することを試みます。本稿では光学システム設計ソフトウェアであるAnsys Speosと、構造工学向け有限要素法解析ソフトウェアであるAnsys MechanicalというAnsysの2つのCAEツールの連携による、マルチフィジックス解析をご紹介いたします。
LEDは省電力で寿命が長く輝度も高いなど多くの優れた特性を持っていますが、高温度下では光出力が低下する傾向があるため、過酷な温度環境にあっても光学性能要件を満たせるよう設計時に配慮する必要があります。
そこで、Ansysのマルチフィジックス解析を駆使して、設計段階から外部的な物理現象の影響を考慮して配光特性を評価することを試みます。本稿では光学システム設計ソフトウェアであるAnsys Speosと、構造工学向け有限要素法解析ソフトウェアであるAnsys MechanicalというAnsysの2つのCAEツールの連携による、マルチフィジックス解析をご紹介いたします。
2. 車載光学デバイスの マルチフィジックス解析フロー
車載光学デバイスのマルチフィジックス解析フローは、以下の3ステップから成ります(図1)。
① Ansys SpeosにおいてLEDからリフレクタに照射されるパワーを算出
② Ansys MechanicalでLEDの発熱と照射光量の両方を考慮した伝熱-構造解析(FEA解析)を行い、LEDの温度変化や系の熱変形を取得
③ Ansys Speosに戻り、Ansys Mechanicalで求めた熱の影響を考慮した光学解析を実施
① Ansys SpeosにおいてLEDからリフレクタに照射されるパワーを算出
② Ansys MechanicalでLEDの発熱と照射光量の両方を考慮した伝熱-構造解析(FEA解析)を行い、LEDの温度変化や系の熱変形を取得
③ Ansys Speosに戻り、Ansys Mechanicalで求めた熱の影響を考慮した光学解析を実施

図1 車載光学デバイスのマルチフィジックス解析フロー
3. 熱の影響を考慮したLEDヘッドランプ の配光変化の解析事例
今回の事例でご紹介するヘッドランプの構成を図2に示します。
光源は高出力の白色LEDで、光源の他にはLEDからの光を前方に向けるためのリフレクタ、上下エイミング角度を調整するための回転式シールド、プロジェクションレンズ、カバーなどで構成されています。
光源は高出力の白色LEDで、光源の他にはLEDからの光を前方に向けるためのリフレクタ、上下エイミング角度を調整するための回転式シールド、プロジェクションレンズ、カバーなどで構成されています。

図2 ヘッドランプの構成
LEDから出射した光がリフレクタに照射し、反射した光がプロジェクションレンズを通って、車両前方を照射するという光学系が今回の解析対象です。
本事例では、プラスチック製リフレクタへの光照射による熱変形が配光特性へ及ぼす影響について解析で検証していきます。
本事例では、プラスチック製リフレクタへの光照射による熱変形が配光特性へ及ぼす影響について解析で検証していきます。
3.1 初期光学解析
はじめに、Ansys Speosで初期形状のヘッドランプの光学解析を行います。今回着目しているリフレクタはベース材料がプラスチックであるため、LEDからの光照射による発熱の影響を受けやすいと考えられます。そこで、リフレクタ表面に設定した受光面で照射光量分布を解析します。
リフレクタは平面ではなく立体構造ですので、3次元立体構造の表面照度分布を計測できる3D照度受光面を使用します。この時、受光面の設定で放射測定を選択することと、反射や透過ではなく吸収エネルギーを測定できるように設定しておくことがポイントです。測定するピッチはジオメトリのメッシュに依存しますが、ローカルメッシングによって重要な表面だけ細かいメッシュにすることも可能です。
上記設定に基づいて光学解析を実行し、リフレクタ表面での照射光量分布を算出します。
計算結果は図3のように3Dビューで確認できるほか、バーチャル3Dフォトメトリックビューワーを用いて3D照度分布をテキスト出力することも可能です。
リフレクタは平面ではなく立体構造ですので、3次元立体構造の表面照度分布を計測できる3D照度受光面を使用します。この時、受光面の設定で放射測定を選択することと、反射や透過ではなく吸収エネルギーを測定できるように設定しておくことがポイントです。測定するピッチはジオメトリのメッシュに依存しますが、ローカルメッシングによって重要な表面だけ細かいメッシュにすることも可能です。
上記設定に基づいて光学解析を実行し、リフレクタ表面での照射光量分布を算出します。
計算結果は図3のように3Dビューで確認できるほか、バーチャル3Dフォトメトリックビューワーを用いて3D照度分布をテキスト出力することも可能です。

図3 照射光量分布
3.2 伝熱・構造解析
次に、構造解析ソフトウェアAnsys Mechanicalを使用して、熱による温度変化と変形のシミュレーションを行います。これら一連の解析には、有限要素法が適用されます。
今回の伝熱・構造解析では、図4に示すように3つの手順からなる解析プロセスを構築しています。
今回の伝熱・構造解析では、図4に示すように3つの手順からなる解析プロセスを構築しています。

図4 伝熱・構造解析プロセス
<3つの手順> |
|
External Data(外部データ) | Speosで出力した照射光量データの取り込み |
Steady-State Thermal(定常伝熱解析) | 定常状態における温度分布の計算 |
Static Structural(静的構造解析) | 温度変化により発生する熱変形の計算 |
3.2.1 定常伝熱解析
光学解析で計算したリフレクタへの照射光量、ならびにLED本体の発熱を入力荷重とした定常伝熱解析を行います。定常伝熱解析とは、熱の流れが時間に依存せず時間が変わっても温度分布が変わらない状態、すなわち定常状態の温度分布を求める解析です。今回の例では、LED稼働時の状態は時間に依存せずに一定であると考えられるため、定常伝熱解析を採用しています。
Ansys Speosで出力し外部データシステムで取り込んだ照射光量は、リフレクタのボディ内面に対する熱流束として定義します。また、LED自体の発熱はLED底面への熱流束として与えます。さらに、解析条件として各ボディ表面におけるふく射の効果、ならびに周囲の空気への熱伝達を境界条件として考慮しています。
伝熱解析の結果(図5)を見ると、LEDの発熱によりLED自体の温度が上昇しています(赤色部分)。また、全体断面表示から確認できるように、LED周辺部やリフレクタの一部についても50℃以上と比較的高温になっていることが分かります。
Ansys Speosで出力し外部データシステムで取り込んだ照射光量は、リフレクタのボディ内面に対する熱流束として定義します。また、LED自体の発熱はLED底面への熱流束として与えます。さらに、解析条件として各ボディ表面におけるふく射の効果、ならびに周囲の空気への熱伝達を境界条件として考慮しています。
伝熱解析の結果(図5)を見ると、LEDの発熱によりLED自体の温度が上昇しています(赤色部分)。また、全体断面表示から確認できるように、LED周辺部やリフレクタの一部についても50℃以上と比較的高温になっていることが分かります。

図5 Ansys Mechanicalで求めた温度分布 LED周辺部(左)と全体断面表示(右)
3.2.2 静的構造解析
静的構造解析で、伝熱解析で求めた温度分布に対して対象物がどのように熱変形するかを解析します。熱変形は各材料に設定している線膨張係数に即して計算されます。
図6にて、初期状態と解析結果の熱変形後の形状を比較してみると、レンズ支持部とリフレクタで変形が目立っていることがわかります。上下の温度分布の差によりレンズ支持部が外側に倒れるように変形していること、ならびに局所的な温度分布の影響でリフレクタの球面形状がゆがんでしまっていること、主にこれら2箇所の特徴的な熱変形による光学性能への影響が懸念されます。
図6にて、初期状態と解析結果の熱変形後の形状を比較してみると、レンズ支持部とリフレクタで変形が目立っていることがわかります。上下の温度分布の差によりレンズ支持部が外側に倒れるように変形していること、ならびに局所的な温度分布の影響でリフレクタの球面形状がゆがんでしまっていること、主にこれら2箇所の特徴的な熱変形による光学性能への影響が懸念されます。

図6 Ansys Mechanicalで求めた熱変形結果 初期状態(左)と熱変形後(変形倍率76倍)(右)
一連の伝熱・構造解析を完了したら、Ansys MechanicalからAnsys Speosに結果データを渡すため、結果の出力を行います。伝熱解析の結果である温度分布はテキストデータで、構造解析の結果である変形後のジオメトリはSTLデータで出力します。
3.3 構造解析結果を反映した光学解析
続いて、構造解析結果を反映した光学解析を実施するため、伝熱・構造解析で算出された熱変形後のSTLデータを、ジオメトリとして再びAnsys Speosにインポートします。
光学解析で使用する受光面には光強度受光面を使用し、ヘッドランプとしての配光特性を解析します。なお、この光強度受光面には、あらかじめレギュレーションに沿った測定項目をテンプレート化して適用しておくことができます。
光学解析で得られた配光特性の結果を、初期状態(熱変形前)と熱変形後とで比較します(図7)。
光学解析で使用する受光面には光強度受光面を使用し、ヘッドランプとしての配光特性を解析します。なお、この光強度受光面には、あらかじめレギュレーションに沿った測定項目をテンプレート化して適用しておくことができます。
光学解析で得られた配光特性の結果を、初期状態(熱変形前)と熱変形後とで比較します(図7)。

図7 熱変形を考慮した光学解析結果
左側の初期状態と比較し、熱変形後の配光特性は下方に広がってしまっている様子が分かります。これは、リフレクタの変形によって反射する角度分布が変化したためだと考えられます。レギュレーションの結果においても、不合格となる指標が見られます。
リフレクタの熱変形だけでなく、LED光源の発光特性が受ける熱の影響も反映させることが可能です。先ほどの伝熱解析で算出したLEDの温度変化に応じて、Ansys Speosの光源設定のうち全光束と発光スペクトルについて変化後の特性に入れ替えることで、LED光源が受ける熱の影響を反映させることができます。
リフレクタの熱変形だけでなく、LED光源の発光特性が受ける熱の影響も反映させることが可能です。先ほどの伝熱解析で算出したLEDの温度変化に応じて、Ansys Speosの光源設定のうち全光束と発光スペクトルについて変化後の特性に入れ替えることで、LED光源が受ける熱の影響を反映させることができます。
3.4 マルチフィジックス解析結果
改めて、FEA解析前後の光学解析の結果を比較してみましょう(図8)。LEDの温度変化とリフレクタの熱変形の影響を受け配光特性が変化してしまっていること、それによりレギュレーションの適合性テストにも悪影響を及ぼしていることが分かります。

図8 配光特性・レギュレーション適合性評価の変化
以上のように、構造解析結果を反映した光学解析を行うことによって、熱によるさまざまな影響を考慮した配光特性を評価することができました。
4. まとめ
本稿では、LEDヘッドランプを題材に、構造・熱・照明光学の連携解析のワークフローをご紹介しました。
LEDのような熱による性能変化が顕著な光学デバイスでは、実稼働状態における性能低下が課題のひとつとなりますが、熱・構造・光学のマルチフィジックス解析により、設計段階から熱の影響を考慮した性能評価が可能となります。
今回の例では、Ansys Speosの光学解析に、AnsysMechanicalによる伝熱・構造解析結果を反映させることで、実走行時の配光性能を予測可能になるという事例をご紹介しました。このような解析手法は、LEDヘッドランプの他にも、温度変化に晒されるリスクを有するさまざまな光学デバイスに対して適用することが可能です。
「自社の製品に対しても適用可能か?」「配光特性以外の光学性能についても熱の影響を考慮した解析評価を行いたい」等、ご不明点・ご要望がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
LEDのような熱による性能変化が顕著な光学デバイスでは、実稼働状態における性能低下が課題のひとつとなりますが、熱・構造・光学のマルチフィジックス解析により、設計段階から熱の影響を考慮した性能評価が可能となります。
今回の例では、Ansys Speosの光学解析に、AnsysMechanicalによる伝熱・構造解析結果を反映させることで、実走行時の配光性能を予測可能になるという事例をご紹介しました。このような解析手法は、LEDヘッドランプの他にも、温度変化に晒されるリスクを有するさまざまな光学デバイスに対して適用することが可能です。
「自社の製品に対しても適用可能か?」「配光特性以外の光学性能についても熱の影響を考慮した解析評価を行いたい」等、ご不明点・ご要望がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。