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特集: 防災とインフラ整備の科学

巻いて、貼って、世界のコンクリート建造物を安全に

構造品質保証研究所株式会社 代表取締役社長 五十嵐 俊一

「耐震性」で、本当に要求されているもの

まず、耐震ということですが、これは構造上十分の強度があって倒壊しないということだと思っておられる方が多いと思います。実際、それは現行の耐震基準の規定でもあるのですが、しかし、それだけでいいのでしょうか。

例えば、今、東北大学は耐震補強済みでも被害を受けた3校舎を建て替えており、今後は6階以上の高さにはしないという方針を表明していますが、それは建物が倒壊しなくても内部が使えなくなってしまったからです。

こうした例からも、建物が倒壊しなければいいというのでは不十分だということがわかるでしょう。柱や壁にヒビが入ったりガラスが全て割れたりして、内部が使用に耐えなくなれば、建物も取り壊しになることが多いからです。結局、現代の建物は、建物として使える要因が少しでも毀損されれば、取り壊される可能性が高いということです。設備がダメになる、建物の機能が損なわれる、また、安全ではないとされ評判が落ちたといったことだけで、もう以後は使わず取り壊して新しいものを建てることになるのが実情なのです。

建物の価値を守るSRF工法

図1 SRFの施工作業の様子

つまり、建物を守るには、建物の構造部分だけでなく、その価値を守らなければならないということです。

私の発明した「SRF工法(耐震被覆工法/包帯工法):Super Reinforcement with Flexibility」は、建物の価値を維持する可能性がある方法です。具体的には、コンクリートにポリエステルを巻いたり貼ったりするだけのシンプルな工法ですが(図1)、コンクリートの破壊原因に対して直接アプローチしていることが、従来の耐震補強工法に比べて全く違います。また、ポリエステルは建物のどこにでも貼ったり、巻いたりできます。外部の躯体や柱だけでなく内部の天井・壁なども自由自在に補強、保護でき、結果的に建物全体の損傷を大幅に減らし、大地震後も使用性を維持することができるのです。

鉄筋コンクリートは、内部に鉄筋や鉄骨を入れても、結局繰り返しの揺れによってコンクリート表面がひび割れ、剥がれ、中に入っている鉄筋がむき出しになり、上からの圧力に耐えられず座屈を起こして壊れていくという経過をたどります。私たちのSRF工法は、まず、コンクリート表面をポリエステルで被覆することで、コンクリート面のひびが開くのを抑え、剥離を防止し、鉄筋の座屈を防いで、鉄筋コンクリートの強度をそのままの形で保ちます。コンクリートに炭素繊維を貼ったり巻いたりする方法もありますが、揺れにより力が掛かりコンクリートが縮もうとすると、炭素繊維は固いので、これにも抵抗してしまい最後は剥がれてしまうのです。また、鉄板で巻いた場合も固定されすぎるので、巻いていないところが壊れていきます。また、鉄とコンクリートでは伸縮性が違うので、間に隙間ができ、そこに雨などが入り込み早期劣化を招きます。

SRF工法で使うポリエステル繊維は柔軟性があるので、コンクリート自身が力を伝えることに対しては抵抗せず剥がれずに、ひびが開いたり潰れたりすることを防ぎます。そのため、コンクリートに飛躍的な耐震性と耐久性を与えることができるのです。また、ポリエステルは産業用繊維の中では耐久性があり、価格が安いのも魅力です。更に、上にタイルを張ったり、ボードをつけたり、塗装することも自由自在です。

このSRF工法は、現在のコンクリートも十分な強度と耐震性(私たちの実験では、SRF工法で補強をしない場合の約10倍の耐震性)を与えるという結果が得られました。2日間にわたり、SRF工法で巻いた柱に震度7の揺れを、繰り返し加える実験をしたのですが、全ての揺れに耐え、柱はほとんど壊れなかったのです(図2)。

発想の源となったトルコの大地震

鉄筋コンクリート工法は、1880年代から20世紀にかけて開発されたもので、鉄筋を組んでコンクリートを流し込むというやり方を取っています。現代都市は、つまるところ19世紀の素材と工法を用い、20世紀半ばまでの、地殻活動が比較的穏やかで大地震が少なかった時期の耐震基準で建設されています。これでは、数倍の規模でしかも頻発する活動期の地震には対応できません。だからと言って、壁や梁、柱を増やしてとか、炭素繊維やアラミド繊維を巻きつけるといった補強では効果が不十分です。更に、3.11では、免震や制震装置を入れたマンションやビルで装置が効かず壁が壊れたり、装置が壊れて取り替えに長期を要した例があります。装置の限界を超える揺れには効かないのです。

私がこの工法に巡り合ったのはイスタンブールでした。1999年の8月にトルコで大きな地震(コジャエリ地震)があり、その直後から現地で応急被災度判定を行ったのです。被害建物を見て、余震で壊れないかという分類を行ったのですが、その際、大丈夫とした建物のいくつかが11月に再度起こった大地震で壊れてしまいました。中に住んでいた人もいたので亡くなった方も出ました。眠れない夜が続き、そんなある晩に見た夢の中に、白い包帯が巻かれた柱が出てきたんです。あ、これでいいんだ。と思い目を覚ましました。白いものが巻かれていたので、まず白い繊維を探しました。ポリエステルに行き着き、最初は手近な布状のものでやってみて、必要な強さを計算し、今は、ベルト状のものを巻いています。人が服を着るのと同じです。打ちっぱなしコンクリートは、裸で街を歩くようなものとさえ私には思えます。

SRFを巻く作業は丁寧に行えば一般の作業員でできますし、鉄板などに比べ軽く、持ち運びが容易なことも大きな利点です。接着剤には溶剤が入っていませんので環境や身体にも優しい工法です。

図2 揺れを加える実験後の様子(左は通常のコンクリート柱、右がSRF補強柱)

3.11の揺れでも建物をほぼ完全に守れた

この工法の有効性が一般の方々にも知られるようになった大きなきっかけは、仙台駅前のさくらの百貨店と仙台東洋ビルのSRFによる耐震補強工事だと思います。仙台東洋ビルは、2008年の岩手宮城内陸地震で仙台が震度5弱の揺れに見舞われたとき建物にいくつも亀裂が入ったため、今後の地震に備えるため、SRF工法による補強に踏み切ったのです。採用に際しては、もちろんコストの面もありますが、引越し不要で営業継続可能であったこと、新たな構造体を加えないので建物の使い勝手が補強前後で変わらないこと、つまり、部屋や通路が狭くなったりしない、という2つのメリットが大きかったとのことです。2010年に工事終了、翌年に3.11の震災が起こり、今度は震度6弱の揺れを受けましたが、建物にも建物の内部にも被害がほとんどありませんでした。そして、地震の4日後には、さくらの百貨店が仙台東洋ビルで営業を再開し、買い物に困っていた多くの仙台市民の困難を救いました。また、さくらの百貨店自体も仙台では一番早く地震後1ヵ月経たないうちにフルオープンしました。この百貨店のすぐ前にあったビルは大部分を取り壊しており、正に適切な補強工事の有無が明暗を分けた形です。

ポリエステルで巻いて、理想のコンクリートを作る

図3 白い柱がSRF補強中

コンクリートは一番古くから使われている建築素材のひとつで、紀元前7世紀頃にはすでに使われていたそうです。建築術に優れ壮大な文明を作り上げたローマ人は、コンクリートを利用していました。19世紀に鉄を加えて鉄筋コンクリートとしたのは、大発明で、20世紀には世界中に膨大な構造物が建設されることを可能にしました。しかし、耐震性、耐久性が大問題になっています。そこで、21世紀はそれにポリエステルを加える。これで、コンクリートは建設材料として、完成すると思います。使える資源にも限界がある時代です。鉄骨ブレースや免震制震では、太刀打ちできません。SRF工法は、現存するコンクリートを、もっともシンプルな補強形態で素材として長く活かすことで、老朽化と地震の危険に対処する。まさに21世紀の方法です。

すでに、本年(2013年)の2月26日にSRF工法で、2003年から10年かけ柱10000本の被覆を達成しました。

 この他、東海道新幹線の橋脚も、東京から新大阪までの各駅周辺で、すでに1200本くらい巻いていただきました(図3)。

世界中には地震帯に都市がたくさんありますし、我が国にも、メンテナンスが早急の課題になっているコンクリート構造物がたくさんあります。今後もどんどんSRF工法で被覆していただき、日本中、世界中のコンクリート建造物を安全で永続性のあるものにしたい。鉄骨ブレースや免震・制震から耐震被覆へ。これが、私の願いです。

※インタビューにもとづき作成した記事です。

詳しい工法やSRFの各種のメリットについては、下記URLをご覧下さい。
http://www.sqa.co.jp/srf/advantage.html

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