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特集:企業の“イノベーション”と人材育成

特集に寄せて

CTO 石塚 真一


ツールはイノベーションの害?

「ツールが発達して学生の基礎学力が低下している!学生が考えなくなった」以前から、たびたび耳にしている言葉ですが、果たして本当にそうなのでしょうか?CAE/シミュレーションをはじめ、さまざまなツールを提供している当社としては、品質向上・開発期間短縮など、少なからず産業界に貢献してきた自負はあります。しかし、もし、本当にツールの発達が学生の能力を低下させているとしたら、長い目で見ると産業界においてもマイナスに違いありません。そこで、今回はこの問題について少々考えてみたく思います。

私が思うに、設計現場で3D CADが標準的に使用されている現状を考えると、ツールの産業界への貢献に関しては間違い無く「Yes」と言えると思います。けれども、人間の思考、特にイノベーションへの貢献に関して言うと、「Yes and No」となるのかも知れません。

ツールは煩雑な作業から人間を解放したり、人間の能力では不可能なことを実現したりすることにより、人間に思考の時間や幅、奥行きを与えるのが本来の役割であると思います。つまりイノベーションを促すものであります。しかし現在のツールは高機能なゆえに複雑なオペレーションを必要とし、習熟に多くの時間を要することも現実には少なくありません。しかも高度化する市場要求に応えるため、いくつものツールを使いこなす必要があるのも事実であり、気がつくとツールのオペレーションに思考の大半が使われている、といった事態があるとしたら、これはもう、ツールはイノベーションにおいて害と言わざるを得ません。こういった状況が見られるために、冒頭の、「学生の基礎学力は・・・」といった表現がなされるのだと思います。

高機能と使い勝手の両立

それではどうすれば良いのでしょうか??「使い勝手を良くする。これが一つの答になるかと思いますが、使い勝手を良くするためには、

  • シンプルなオペレーション
  • マニュアルを読まなくても(大体)わかる

の2点を実現しなければならず、現実問題としてそれはいずれもたやすいことではないように思います。

しかしAppleのスマートフォンが徹底的に使い勝手にこだわったことにより、パソコン並の機能を手の平で実現させ、結果的にデジタルネットワークの世界に創造性に満ちた新たな世界を今も築いているように、高機能と使い勝手の両立は可能であり、それができた場合は、爆発的な需要と新しい世界が生まれる予感がします。現在のCAE/シミュレーションツールは、もちろん、使い勝手を重視はしているのですが、民生機器のそれとは異なり、やはりどこか「プロが使うツール」という感覚が見え隠れしていることは否めません。ツールを提供する側として、使う側の一般的な感覚を常に意識することが必要だと感じます。

ブラックボックス vs ホワイトボックス

ツールの弊害としてもう一つよく言われることが、「ツールはブラックボックス。何をしているのかわからない」ということです。これも多くの方が賛同する意見かと思います。しかし、どこまでオープンであれば良いのでしょう?これは意外と難しい問題です。たとえば、近年盛んに言われる「モデルベース開発」ですが、ツールが整備されたことにより、ユーザは解き方に気を遣うことなく、本質的な数学モデルやそれを用いた理論的設計に注力できるようになりました。もちろん解き方も理解していたほうが良いのは言うまでもありませんが、ブラックボックスでも、ごまかしているのではなくきちんとやっているのであれば、「そこはもうブラックボックスでいい」という割り切った考えも、成り立つのではないかと思います。ただし、その結果、従来と同じレベルに留まるのでは意味がありません。これまで注意を払う必要があった部分が、既知のものとして担保され(=前向きなブラックボックス化)、より高い次元で物事を考えられるようになることで、そこに創造的価値が生まれるのでなければならない、と思います。

ツールはまだまだ未熟なところが多々あります。しかし、やはり、ツールをいろいろな方向に発展させることにより、イノベーションに貢献したく思います。

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