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CAE ユニバーシティ

「CAEのための伝熱・熱力学講座」のご紹介

千代田アドバンスト・ソリューションズ株式会社 R&Dソリューションサービスユニット
宇宙技術開発グループ グループリーダー 飯田 光人

はじめに

「CAEのための伝熱・熱力学講座」はCAEを使う前の伝熱工学や、熱力学の基礎知識を習得するための講座です。私たちは日常生活の中でいろいろなエネルギーを利用していますが、利用している全エネルギー量のうち、そのほとんどを熱エネルギーの形で利用しています。まずは、身近なところに、どのような熱に関する製品があるか見てみましょう。そして、次に簡単に伝熱工学と熱力学の紹介をしたいと思います。

身近な熱に関係する製品

図1 身近な熱に関係する製品の例

図1にいくつか挙げましたが、熱に関する製品は私たちの身の回りにたくさんあります。電化製品はもちろん電気を使って動くものですが、発熱を伴うため排熱も必要です。熱を変換して動力を得て物体を動かそうとするシステムも存在します。古くは蒸気機関車から、自動車、旅客機やロケットに至るまで熱を利用しています。それらのいくつかを紹介します。


(1)車のラジエター

車のボンネットを開けると大きなファンの前方に、蛇行していてパイ生地のような薄い配管でできたラジエターがあります。この中にはご存じの通り、ラジエターの冷媒(ラジエター液)が流れていて、エンジンが高温になり過ぎないように冷却しています。エンジンから熱を奪った高温の冷媒はラジエターでファンの気流を受けることにより、効率的に放熱することができます。

(2)魔法瓶

今ではガラスで作ったものは少なくなったかもしれませんが、元々魔法瓶は二重のガラス瓶で、ガラスの間は真空層になっていました。この真空層は空気が存在しないので対流や伝導はありません。また、二重のガラスの内面は銀メッキされており、輻射による伝熱を遮断します。これらにより、魔法瓶の優れた保温性が保たれるのです。

(3)冷蔵庫

冷蔵庫は熱力学的サイクルを応用した家電製品です。コンプレッサーで冷媒を細い管の中に循環させています。コンプレッサーは常時動いているわけでなく、冷蔵庫の内部の温度が上昇し始めたときにだけ動きだし、温度を下げようとします。循環している冷媒は膨張弁という部分で急激に膨張され、低温の冷媒ができ、この低温の冷媒が冷蔵庫内の熱を奪って庫内の温度をある温度まで下げるのです。

(4)蒸気機関車

蒸気機関車も熱力学を応用した機械です。罐の中で石炭を燃やしこの火力で水を沸騰させ、高温高速の水蒸気を作ります。これをシリンダーの中に導きピストンを往復運動させ、最終的に機関車の車輪を動かしています。熱・動力変換の典型的な機関です。

(5)発電所

発電所で火力や原子力を使って発電する方法も熱力学的サイクルを利用しており、原理は蒸気機関車と似ています。火力や原子力で得られる熱を利用してボイラーで水を沸騰させ、高温高速の水蒸気を使ってタービンを回転させる動力を作り、最終的に電気を作り出します。

(6)電子レンジ

電子レンジはマイクロ波によって食品を加熱してくれる調理器具ですが、元々はレーダーのためのマイクロ波発生装置であるマグネトロンを応用した製品です。マグネトロンの稼動実験中に自分のポケットにたまたま入っていたチョコレートが溶けることに研究者が気づき、それがきっかけとなって開発されました。マイクロ波は食品の水分子に吸収されます。このときマイクロ波は水分子を振動させたり回転させたりし、最終的に水分の温度を上昇させます。こうして電磁波が熱エネルギーに変換され食品が加熱されます。

(7)暖炉の炎

暖炉の炎やこたつ、電気ストーブなどの暖房器具からは遠赤外線が出ています。したがって、これらは電磁波によって物体を温める暖房器具と言えます。

(8)「はやぶさ」の耐熱技術

2010年に小惑星「イトカワ」のサンプルを持ち帰った「はやぶさ」の地球再突入カプセルの表面にも、熱に関わる技術が使われていました。再突入の際、このカプセルの前部(突入方向側)の空気温度は1万℃以上あったそうです。このとき、もし、カプセル前部の温度が同じ1万℃近い温度であったら、そんな高温に耐えうる材料は無いので、地球に落ちてきたときは燃え尽きてしまい、何も残っていなかったでしょう。しかし、カプセルは燃え尽きることなく、無事に地上に到達しました。実は、このカプセルの前部にはアブレーターという材料が使われており、この材料の昇華現象を利用してカプセル前部の温度が上昇することを防いでいたのです。

(9)ロケット

「はやぶさ」について書いたついでに、ロケットも説明したいと思います。ロケットのエンジンも熱機関の一種です。退役したスペースシャトルや、現在、日本の衛星を打ち上げているH-IIAロケットの燃料は液体水素で、その酸化剤として液体酸素を搭載しています。液体水素や液体酸素は気体にされ混ぜ合わされます。それを燃焼させて反応熱により高温の燃焼気体が作られ、ロケット最後尾のノズルにより一方向に押し出されます。この高速の燃焼気体によりロケットは推進力を作り出しているのです。

伝熱工学

伝熱工学では熱輸送について学びます。熱輸送はある場所から別の場所への熱エネルギーの移動を意味します。熱の移動が起こるときには必ず温度差があります。つまり、熱は温度の高い部分から温度の低い部分へ流れます。その流れは空気や水のような流体粒子の流れとは異なり、原子や分子の振動、あるいは電磁波によるエネルギーの移動です。熱輸送には次の3つの形態があります。

熱伝導:

熱伝導は静止している固体や流体の熱エネルギーの移動です。熱伝導のメカニズムは、物質を構成する隣接する分子間のエネルギーの交換であり、また、特に金属の場合は自由電子の移動そのものです。たとえば、金属製のスプーンの柄を持ってスプーンの先端を沸騰しているお湯に浸すと、すぐに柄の方まで熱が伝わり持っていられないほど熱くなります。

熱伝達:

熱伝達は、固体表面から流体への、あるいは流体から固体表面への、熱エネルギーの移動です。ただし、厳密に言えば熱伝達も基本的には熱伝導であり、移動する流体粒子による熱エネルギーの輸送です。

熱伝達には2種類あります。(1)ポンプやファンといった機器で固体表面に強制的に流体を流している場合、これによって起こる熱伝達を「強制対流熱伝達」と呼んでいます。コップの中の熱いコーヒーの表面に息を吹きかけて早く冷まそうとする行為は、強制対流熱伝達による冷却の一例と言えます。(2)流体中に密度分布に起因する浮力によって起こる流体の流れがある場合、これによって起こる熱伝達を「自然対流熱伝達」と呼んでいます。熱いコーヒーの表面に息を吹きかけずに、自然に放置して冷ますのは自然対流熱伝達による冷却の一例と言えます。

輻射:

輻射は電磁波によって輸送される熱エネルギーの移動です。輻射による熱エネルギーの輸送は、熱伝導や熱伝達とは異なり、輸送媒体が必要ないということです。例として、真空である宇宙空間を通ってきた太陽の熱エネルギーを、私たちは地球上で受け取ることができます。ある物体が絶対零度以上の温度であれば、周囲が流体であろうが真空であろうが、その物体は熱エネルギーを放射します。

熱力学

図2 蒸気を利用した発電機の熱サイクル

熱力学はエネルギーの科学と定義できます。そしてエネルギーは変化を起こす能力です。thermodynamics「熱力学」は、ギリシャ語のtherme(heat「熱」)と、dynamis(power「力、動力」)に由来します。これは元々、熱を動力に変換しようとすることに由来しています。今日では、「熱力学」はもう少し広い意味で使用されており、エネルギー、発電や冷凍システムを含むエネルギー変換から、物質のいろいろな特性間の関係(たとえば、気体の圧力、体積や温度間の関係)ということにも使われています。

熱力学ではいろいろな熱サイクルを学びます。たとえば、蒸気を利用した発電機の熱サイクルを考えてみます。図2に示すように、この熱サイクルは4つの過程で成り立っています。まず過程(1)-(2)でポンプにより 断熱圧縮が行われます。水は(1)の状態で飽和水としてポンプに入り、ボイラーの作動圧力まで断熱圧縮されます。この断熱圧縮の過程で水の密度がわずかに減少し、その結果、水の温度は少し上昇します。次に過程(2)-(3)でボイラーにより等圧吸熱が行われます。水は(2)の状態で圧縮水としてボイラーに入り、(3)の状態で過熱蒸気として出て行きます。ボイラーは基本的に大容量の熱交換機で、燃焼ガスや原子炉などからの熱を定圧で水に与えます。ボイラーは蒸気が加熱されている部位も含め蒸気発生器と呼ばれています。

さらに、過程(3)-(4)でタービンにより 断熱膨張が行われます。過熱蒸気は(3)の状態でタービンに入って断熱膨張し、発電機に接続されている車軸を回転させ仕事を生み出します(ここで発電機により発電が行われます)。この過程で蒸気の圧力と温度は(4)の状態まで下降し、凝縮器に入ります。このとき、蒸気は、大部分が蒸気なのですが、水も含んだ気液混合状態になります。最後に、過程(4)-(1)で凝縮器により等圧排熱を行います。蒸気は凝縮器の中で定圧で凝縮します。したがって、凝縮器もボイラーと同じく大容量の熱交換器です。蒸気が持っていた熱は、湖や川や大気と熱交換し排出されます。蒸気は飽和水となって、凝縮器を出てポンプに入りサイクルが完成します。


最後に

この講義では、熱という現象に対していくつかの数式が出てきたり、CAEが数値計算であるため数学的知識が必要ですが、できるだけ直感的にイメージできるように絵や図を用いて講義を行っていきたいと思っています。そして、まずは基礎的な伝熱工学や熱力学を学んで頂きたいと思います。ただし、これまで一度も伝熱工学や熱力学を習ったことのない方でも習得できるような内容の講義にしたいと考えていますので、お気軽にご参加ください。

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