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特集:これからの産業社会と数学

計算科学の新たな展開による制御システム設計で、
現代社会の課題を解決

右:原 辰次 先生/左:穴井 宏和 氏

原 辰次 先生  穴井 宏和 氏
対談 (司会:石塚 真一)


Sinji Hara

1976年東京工業大学大学院工学系研究科修士課程修了。
日本電信電話公社、長岡技術科学大学を経て、1984年東京工業大学 工学部助教授、1992年同大学総合理工学研究科教授。
2002年東京大学情報理工学系研究科教授。
ロバスト制御、制御系統合化設計、大規模系の分散協調制御、グローカル制御、量子制御、生物制御、計算機援用設計などの研究に従事。
工学博士。2006年George S. Axelby Outstanding Paper Award受賞。
計測自動制御学会/IEEE/IFACフェロー。
SICE会長(2009年)、IEEE CSS Vice-President(2009-2010年)、IFAC Council Member( 2011年-)。

Hirokazu Anai

1991年4月( 株)富士通研究所 情報社会科学研究所 入社。
1999 年10月 ドイツ パッサウ大学 数学情報学部(代数) 客員研究員 (1年間)
2003年10月 科学技術振興機構 CREST 研究代表者(5年間)
現在、(株)富士通研究所 主任研究員。
2008 年4月より九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所 教授(兼任)

今号では、数学と産業社会との関わりを考えてみようという ことで、数学に焦点を当てた特集を組んでみました。巻頭はい つもはインタビューのコーナーなのですが、今回はせっかく の機会なので、工学の中でも特に数学と関係の深い制御をご 専門とされる原 辰次先生と、会社の中の数学者として数学知 識を実践に活かしておられる穴井宏和氏の対談を企画いたし ました。
お二人には普段感じておられることを忌憚無く話していただ きましたが、さて、皆さんの会社や周囲では「数学」はどんな イメージを持たれていますか? ご自分の経験などと照らし合 わせて読んでいただけると嬉しく思います。

なぜ、数学は敬遠されるのか?

石塚: 今回の特集は、数学と今の産業社会を巡る問題を考えてみようという観点からのものなのですが、実際の私の感触では、数学と社会の間には相当高い壁があります。たとえば、最近でもある集まりで技術者の方に微分幾何の話をしたんです。そうしたら、数学の話は企業には敷居が高いんですよねえ。と言われました。しかも、その方の会社は技術志向の会社なんですよ。この会社にしてそうなのかという気が改めてしまして…。理系に進む人たちってもともと数学好きと思っていたのですが、現実はそうではないのかな、と。相当に技術志向の会社でも、「数学は敷居が高い」と言われてしまう状況がある。数学は社会の役に立つんだという方向に人々の意識を変えていくには、どうしたらいいので しょう。


原: 制御も「難しい」とよく言われますね。「だって、数式が 出てくるし」と。エンジニアだけでなく、工学の他分野 の研究者にも制御は難しいと言われます。それは、単 に数学が難しいのではなく、制御の概念とそれを記述 する数学的なものが併せて難しいのかなという気がし ています。ちょっと計算機を走らせるだけでは理解で きない。今は、この「ちょっと計算機を走らせてわかり たい」という欲求が強いですよね。しかし、これは危険です。根本部分の把握が弱くなるために、却って全 体の理解に時間がかかることにもなりかねません。本 質的な部分をきちんと理解していないと理論と実際の ギャップが大きくなります。
そして、どんな理論も現実とのギャップがあり理論と実 際の橋渡しが必要となるわけですが、これがある意味 では計算です。理論的に展開されたものが実世界で使わ れるためには何らかの計算ができなければならない。計 算を通じて理論と実世 界がきちんと結ばれる ような枠組みが作れれ ば、一般の人にも理解 しやすいかもしれませ んね。一般の人は数式 を見て理解するのはバ リアーが高いでしょう が、計算機を弄るのは 比較的ラクでしょう。


穴井: 私の会社でも、何かの理論や概念を数式で説明すると すごく嫌がられます。シミュレーションツールみたい なものでちょこちょこっとやって結果が見られるとい う状況でないと、なかなか新しいものを受け入れてく れないですね。

石塚: しかし、ツールでできるようになったのは最近なのに、 ツールをあまり経験していない年配の人でも数式嫌い は多い。この“数式嫌い”というのはいつから始まるん でしょう?

原: 我々が学生の頃は計算機もパワーが無かったから、シ ミュレーションでの検証は大変でした。とすると、式 を展開して考えていくということが重要になりますよ ね。今は、計算機にパワーがあるため、シミュレーショ ンに過度にシフトしていると思う。シミュレーション を沢山やったところで、それはデータが集積するだけ。 本当に必要なのはそのデータの意味を読み取ることで すが、問題が複雑になればなるほどその意味の読み取 りは難しい。物事や現象の根本的理解が必要となって きます。つまり、ツールとしての計算機/シミュレー ションと、現象や物事の理解/解析/設計までをどう繋 ぐか。それが、今一番求められていることではないか と思います。


穴井: 全く同感です。私たち は、まあ、社内数学者 といった立場にいる のですが、社内で数学 的な事柄を説明する とき、なるべく直感的 にわかる説明、つま り、「こうすれば良く なるよ」という効果を 中心にした説明をす るようになってしまっています。数学的なアルゴリズ ムは…とか言ってもわかってもらえないし、そんなこ とは必要とされていない。しかし、そこまで妥協して もなお、最後は、何かちょちょっとやれるツールは無 いのか、みたいな話になる。エンジニアの数学的能力 や思考力の底上げをするのが、難しい状況になってい る気がします。


シミュレーションをうまく使うためには

石塚: 計算機の無かった頃は、物事の本質を見つけてそれを 抽象化し大まかに捉えたうえで、それを解くための数 学を一生懸命勉強しなければ、問題は解けなかった。 今は、シミュレーションすればできてしまう。それが 数学的にものを考える力を落としている気がしますよ ね。もちろん、シミュレーションは役に立つんですが。

穴井: たとえば、シミュレーションをすごく使っている人と 話をしていて、中のモデル式ですね、回路解析だった ら回路の式。それを見たいと言うと、そのツールで見 られるかどうかも知らないことが多いのです。式を見 たことも無く、ただシミュレーションの結果だけを見 て最適化や設計をしようとしている。根本に立ち返る ということをしない傾向が強くなったと感じます。そ こをなんとかしたいのですが、何を説明しようとして も数式では済まなくて、話を簡単にしないと食いつい てきてくれない。

原: 今は最後にシミュレーションという手段がある。それ はいいのですが、問題はそれを活かすのではなく、頼り すぎていることです。シミュレーションと人間の思考 やディスカッションをどう組み合わせるのか。その態 勢をきちんと議論して作っていくべきだと思います。 同様に、数値計算と数式処理を融合する枠組みとは何 か?というようなことを考える学問も進んで行けば、 なおいいですね。制御理論の発展というのは、その時代 に使える計算機の技術と密接に関係しています。古典 制御の時代は計算機が無かったから人間のできる範囲 でしか制御理論が無い。四則演算や図を描くといった ことですよね。最初の安定解析は人間にわかる図で理 解していた。ところが、今は計算機というものがあっ て、そのパワーもどんどん大きくなっている。現代の制 御はその現代計算機のパワーに合致したものが成り立 つわけです。数式処理についても、30年くらい前には 原理的にはできるけど実用までは到達しなかったわけ ですが、QE注1)(Quantifi er Elimination;限定子消去 法。以下、QE)が出てきて実用に使える目処が出てきた。 QEの考え方は、パラメトリックに何かを扱える注2)とい うことなので、これはほとんどの制御で使える可能性 があります。つまり、制御理論を本当に実システムに使 うには、計算手法や計算機環境の問題が大きい。しかし、 その根本にある理論というのが、本当は一番大事です。

石塚: 制御理論は、エネルギーとか物理法則がベースではな く、ある種、情報をやり取りする世界なので、そこが一 般にはわかりにくいかもしれないですね。そして、制 御対象は「物」なので物理的なものも関係してきて、理 論と実際の両方を考えなければならない。しかし、だ からこそ、制御理論は技術開発には大切なものだと思 うんです。実世界と理論を結びつける重要な役割を果 たしている。

原: 制御の概念と考え方はいろいろなところに役立つと思 います。制御の概念で重要なのはフィードバック。結 果を戻すということ。そこに、必然的に遅れ(ディレイ) が生じる。このディレイをうまく捉えられないと、望 みの結果が得られない。そして、どれだけ遅れるかは ダイナミクスを持っているので、モデルを使わないと うまく把握できない。また、ディレイを精確に捉える には、これは数式で把握するしかないのではないかと 思います。

穴井: 私もそう思います。制御というのは、概念/理論と実際 の物をシステムとして捉えて、それを数式に表現して 考えるやり方でしかうまく掴めないでしょう。それが、 原先生のおっしゃる概念的な難しさと数学的な難しさ の両方があるということだと思うんです。ところが、 数学サイドの人は数式で表せば理解できても、物理的 な概念や現象としては理解できない。物理サイドの人 たちはその逆で、現象理解はできるがそれを数式にす るとわからない。両方が歩み寄らないとギャップが埋 まらない気がしますね。

原: 制御の理論は敷居が高い。どうしても数式で把握せざるを得ない部分がある。しかし、計算では計算機を使 わない人はいないわけで、理論を理論だけで理解しよ うというアプローチではなく、ツールと併せて概念を OJT的に学べるといいと思いますね。高い敷居が少し 低くなるんじゃないかな。数式処理のツールなどを教 育で使うと、パラメータは表示されていますよね。で すから、実システムのある分野で一番簡単なモデルを 作って、制御ってこういうもの、という風に教えられ るといいかな。パラメータを変えると結果がどう変わ るかといったことも実感できる。物理現象を理解しよ うとすると計算が大きくなるけど、制御の場合、モデ ルを選べばそれほど大規模計算にはならないものも多 いので、現在ある計算ツールをうまくエンジニアの教 育に使えると思いますね。

石塚: 今は、その辺のパソコンでもかなり大きな数値計算が 可能ですが、制御のやり方の根本は変わっていないわ けで、とすると、今後は、もう一歩進んだ計算機を考え る必要があって、そうすれば制御理論もよりわかりや すくなるということになるのでしょうか?

原: その「進んだ計算機」というときに、大規模データを高 速に、という以外のことも考慮した方がいいのではな いかということですね。制御は概念が重要なので、大 規模高速化だけではない計算が制御分野にはあるので はないでしょうか。

基本的な考え方や思考プロセスが重要

石塚: なるほど。それは、数値計算だけでなく、新しい計算技 術というものを考えたいということにも通じると思う んですが、この点、穴井さんはいかがですか?

穴井: 簡単なモデルでパラメトリックにやれば、本質的な理 解が深まるし、興味を持ってもらえそうに思いますね。 そういうやり方で説明すると、エンジニアにもかなり 興味を持ってもらえたという印象もあります。やはり、 そのあたりに突破口がありそうですね。

石塚: それと、数学は役に立つんだということがわかる本が、 もっと必要だと思うんですよ。役に立つとわかれば勉 強しようという気にもなる。ゲーム的に問題を解くだ けでなく。

穴井: 数学は超入門書と専門書の間の本がない。そういう本 が欲しい。ということをエンジニアの皆さんからは、 確かによく言われますね。

原: ソフトウェアで学ぶ制御みたいな本は出ていますが、 そういうのはどうなんでしょう?エンジニアの方々に とって。

穴井:「 MATLABで学ぶ○○」とか、たくさん出てますが、ア ルゴリズムがどういうアルゴリズムで、それで何がで きるのかということがわかっていないと。やはり、概 念的なことがある程度把握できていないと、そうした 本を読んでも理解に到達できないと思います。

原: とっつきやすさという点では、とっつきやすいのか な?

穴井: まあ、ツールを使いながらわかったような感じにはな りますね。そこで、そこに止まらずに、もっと制御の理 論的なことを噛み砕いて解説してくれていればいいん ですが、残念ながら、そうはなっていないんです。

石塚: トラディショナルな制御理論の本と併せて読んで、勉 強するといいかもしれませんね。

原: 本は、制御理論を理解するきっかけにはなるが、とい うことでしょうか。

石塚: 本当は、多分、講演やセミナーなどで小グループでディ スカッションして、制御の考え方ってこうなんだよ、 ということを個別に伝えられたらそれが一番いいのか もしれないけど、それは無理。とすると、ある程度広く 知らしめるには、やはり文献というのはいいのかな、 という気はしますね。

原: 制御理論/制御工学に数式は付き物。となると、新しい メディアを使った教育という観点からツールを積極的 に使って教え、できる限りハードルを低くすることを 考えなければいけないんでしょうね。

石塚: それと、制御設計やシステム設計を考える際の「制御的 なものの考え方」ですよね。それがこれから必要なん だ、ということを一般に伝えることが大事だと思いま す。制御そのものについては制御学会とかでやればい いのであって、一般の方には、制御におけるものの考 え方を啓蒙する方が大切な気がしますね。

原: そうそう、それが大切。ものやシステムをつくるとき、 基本的に制御の考え方無くしてはできない。なのに、 それをわかってもらうのがなかなか難しい。昨年の震 災・津波、原子力事故でいろいろな事例が出てきてい るのを見ても、システム的な考え方をもっと大事にし なければいけないということは、多くのエンジニアた ちの間で共有されたと思います。原発の冷却にしても、 計測できずモデルができないことが、予測不能という ことに繋がっていったわけですよね。計測し何らかの 制御をかけて、それでその結果が予測でき、また修正 できることが必要なんだということが、一般の人たち にもよくわかったのではないでしょうか。
原発も一例ですが、その他にも、エネルギーや環境と いった現代の問題を考えたとき、対象がものすごく大 きいために全体の把握が難しいという特徴がありま す。計測データも、採れるアクションも限られている。 たとえば、ヒートアイランド問題をどうするのかといったことを考えるには、これまでの制御理論では足 りず新しい制御理論の枠組みが必要だろうな、という 気がしています。そして、制御理論はそこでどういう 計算技術/科学が使えるのかということにも規定され るので、計算の枠組みをどう作っていくかということ もこれからの制御理論の役割でしょうね。それができ たときには、制御がどう世の中の役に立っているかが、 もっと人々の目に見えるようになるかもしれない。
社会的課題というのは、何か新しい技術やものが開発 されて、それで一刀両断的に解決できるということに は多分ならないと思うんです。できるのは動的予測制 御というか、データを解析し予測して何らかの解決策 を考えるということだけではないか。そういう点で、 制御理論というのは、今後、現代社会の抱える課題解 決に不可欠なものだと思います。

制御の考え方を現代社会の課題に適用

石塚: 従来から制御は精度や性能を上げるとか、そういうこ とと結び付けられていた。しかし、そこに止まらず、制 御の枠組みを拡張しようというのが、原先生が提唱し ておられる「グローカル制御」ということなのかな、と 認識しているんですが…。

原: そうです。これまで制御はモノを作る場面に多く適用 されており、そこで制御理論も形成されてきた。「モノ」 というのは閉じた系です。データ範囲も比較的限られ ていて、それだけを見て制御を考えればいい。しかし、 現代の抱える課題においては、制御対象が大規模で複 雑です。ヒートアイランド現象を制御したいとすると、 東京全部は無理だから、ローカルに数ポイントで温度 を測るしかない。そして、温度を下げる仕組みを作るわ けですが、それも、打ち水やクリーク、川などを利用し てローカルにやっていくしかない。つまり、グローバ ルな問題を解決するには、ローカルなものをローカル に制御し、またそれをリアルタイムでやることが必要 になるわけです。こういう制御には自然現象の大規模 予測が必要となることが多いですが、そこでは精度と いうより目的に応じて必要な分解能があればいい。そ して、大きなモデルを可能な限り簡単なモデルで表わ す。つまり「多分解能階層化モデル」というものが必要 になると、最近、私は主張しているんです。基本は従来 のフィードバック制御やモデル予測制御などをベース にしていますが、対象が大きいのでモデルの形が違っ てくる。対象とするシステムの表現形式が変わるとい うことです。

石塚: その「グローカル制御」というものには、計算技術的に は新しい要求があるのですか?

原: そこはまだ見えていないのですが、階層性と多分解性 が必要なので、このキーワードから計算技術への要請 はありうると思います。計算対象もまちまち、要求精 度もまちまちとなったとき、どういう計算をすればい いのかということになりますから。これまでは、数値 計算を主としてやってきたわけですが、大規模で複雑 な系を持つ社会的な課題解決のためには、新しい計算 手法の構築も必要でしょう。

穴井: 先生のおっしゃっている「グローカル制御」のようなこ とを、今、みんなが考え始めていると思います。それに 必要なシステム論や新しい計算は必ず出てくるし、重 要になると思いますね。スマートグリッドや、今回の 震災に関することでもそうですが、大量データを解析 し予測し制御する、つまり、モデル化⇒予測⇒最適化 ⇒制御といった流れは、解析を中心にやっていた人も、 その重要性を認識するようになっています。しかし、 システム論や制御をきちんと理解していないと、大量 データも効果的に扱えないと思うんです。

石塚: 新しいフレームワークの大切さというのは、結構受け 入れられるのかもしれませんね。新しい計算技術が大 切だということの方がわかりにくい気がする。計算技 術の大切さというのは伝えにくいですよね。フレーム ワークを決めても、制御の場合、それをどう計算して、 どう答に行き着くかというプロセスが難しいわけじゃ ないですか。それが、計算機で答を出すことに終始し てしまって、計算する仕組みや計算に至る考え方が大 事なのだ、ということを伝えるのが本当に難しい。

原: 計算に向いているものと向いていないものを見分ける ことも難しいですよね。自分が考えている問題に最適 解が得られることは滅多に無いわけで、(1)解きたい問 題を最適化問題として解きやすい問題に落として考え るか、(2)近似で考えるか、しかない。素性の悪い問題に 落としてしまうと、グローバルな最適解に近づくこと は難しくなるので、素性の良い問題にどれだけ落とし 込めるかというのが、まさにエンジニアのセンス。その センスが計算機を使っていると伸びない気もしますね。

石塚: 計算機のパワーが上がれば将来計算できるようにな る、みたいに言う人がいますが、計算機パワーに頼る んじゃなくて、自分の解き方で回答に到達できるのか 否かを見極める能力というか、センスは持ってほしい。 それができれば、ツールに頼るのではなくツールをう まく利用するという方向に行けるかなと。

穴井: アルゴリズムが念頭にあって、問題をうまい落としど ころに落とせば解けるという見通しがあってからやる わけで、これはモデリングのセンスですよね。しかし、 それは、ぱっと身に付くものではない。このモデリン グのセンスこそ、「そもそも…」と大もとに戻って考え ることができるかということに左右されるという気が しますね。

原: 私は、制御はサボる技術だといつも言ってるんです。 ただ、本質的にサボらなければならないと。グローカ ル制御などは制御対象が大きくなるので全てを計算できない。ある程度おおまかにやって不確実な要素も前 提とせざるを得ないが、フィードバックで結果を戻し てシステムを是正することはできる。しかし、それに はリアルタイム性が不可欠なので、メッシュをいっぱ い切ってどんどん精度を上げましょうと、精度のこと ばかりを考えてはいられない。ある程度、大雑把にやっ て望みの結果を得られることが重要なんです。

制御や数学の原理を理解する意味


司会:石塚(サイバネット)

石塚: おおまかに見て、ここ に質量があって、ばね があってということが 見極められる力、昔の 人はそれがあったと思 うんです。そういうセ ンスこそ、数学で育ま れるものかなと。複雑 な問題でも本質的な問 題に落とし込めれば解 けるかもしれない。た くさんパラメータがあるけど5つの変数が支配的だね、 とか、非線形制御に乗るような問題に置き換えられそう、 とか、そういうセンスがあればいい。個人的にはそれが 数学的なものを普及させる意味ではないかと思うし、論 理的なものの考え方に繋がるという気がしますね。


原: 現象を理解する力も必要ですね。我々の世代は社会現 象も含むさまざまな現象を、数式モデルと併せて理解 するという訓練を受けてきました。“現場の勘”は物理 現象をも把握しているというような話もあるけれど、 対象が複雑な現象になると「勘と経験」だけでは、やは り無理です。

石塚: 今後の制御のあり方というのはどうですか?

原: 大規模複雑なシステムが対象となるエネルギー・環境・ 医療といったものの解決に、制御を役立てたいですね。 制御も、社会的な課題解決に向けたシステム設計論に 向かって行かなければいけないと思う。その場合、閉じ た製品製造主体の制御では足りないので、制御をキー にした大規模でオープンなシステムの設計論を確立し ていかなければならない。そのときに新しい概念と計 算手法、計算科学が必要になるということです。そう いう制御に必要な計算はこういうものだ、ということ も発信できて、新しい計算科学の分野ができるという のが一つの望ましい道でしょうか。

石塚: 穴井さんはいかがですか?

穴井: 理論を計算できる形に落とし込み、実際に適用できる ものにすることを頑張ってやって、その結果、数理に 新しいものが付加できればいいと思いますね。

石塚: では最後に、今日はシミュレーションの問題点といっ た話も出ましたが、弊社への要望というか、期待のよ うなものがありましたら…。

穴井: 今日の話の中にも出てきましたが、それを使って本質 的な理解に至ることができるようなシミュレーション ツールがあれば、エンジニア教育といったものに本当 に役に立つと思います。そういったツールを是非作っ てほしいですね。

原: 御社のコーポレートスローガンは、確か「つくる情熱 を、支える情熱。」ですね。それに合うかどうかはわか らないし、また、これを私企業に要請して良いのかもわ からないのですが、今、人を育てる環境を作るという ことが非常に重要だという気がしています。私は大学 におりますので人を育てることは私のミッションの一 つと言えますが、それを大学や学会だけでやるという のは難しい時代になってきている。「産学連携」といっ たことも、大体が研究主体ですね。しかし、これからは 研究だけでなく教育の面での「産学連携」ということも 必要になってくると思う。企業と学界が一緒になって 後進を育てていくシステムができればいいし、これか らの産業界にとっても大学にとっても絶対に必要だと 思います。教育というのは長いスパンですから、確か に私企業の活動とマッチングするかはよくわからない ところもありますが、大学と企業が一緒に人を育てる 環境を考えていけるといいですね。

石塚: ベンダーは、研究界と産業界をつなげる媒体になれる のではないかと思っています。理屈に適ったモデリン グの考え方やシミュレーションの仕方を、わかりやす く現場の人たちに伝えられればいいと思う。私たちは 研究者ではないので難しいことを一からは考えられ ないとしても、研究者の考えを伝えることはできると 思っています。それをやっていきたいですね。

穴井: わかりやすく伝えるということは、できれば私たちも 一緒にやりたいですね。エンジニアが求めているのは、 本当はそういうことだと思います。ツールと使い方と その背後にある理論を一緒に理解したいわけです。今、 私の会社でも、私たちの部が中心となって社内向けセ ミナーをやっているのですが、いつも100人程度の聴 講者が集まります。ですから、そういうことを知りた い、勉強したいという人は多いと感じますね。ただ、わ かりやすく伝えなければいけない。数式による説明だ けではダメなんです。

原: やはり「育てる情熱」も重要ですね。是非お願いします。 (笑)

注1)2) QEは数式処理による最適化の方法。最適値をパラメータを含んだ形で 求めたり、実行可能解をパラメータ空間の領域として正確に求めたりす ることができる。「パラメトリックに何かを扱える」というのもこれと同 じことを意味している。

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