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製品情報

MapleSimによるHybrid Electric Vehicleのシステムシミュレーション

1.はじめに

世界規模でCO2に削減が重要課題となっている現在、自動車分野においてはElectric Vehicle(以下EV)やHybrid Electric Vehicle(以下HEV)に対する期待が高まっており、それに伴い、設計要求がますます高度化しています。また、メーカとして、短期間でいかに性能の良い製品を市場に投入できるかが競争力の鍵となっています。更に設計期間やコストの削減と同時に製品への高い信頼性も求められるため、設計者への負荷も大きく、加えて多品種・高効率な製品開発が求められている現状を見ると、従来の試作と実験の繰り返しによる対処では、限界が見えていると思われます。

2.システムシミュレーションとプラントモデル


図1 自動車を取り巻く
様々な工学分野

自動車は多くの要素技術が絡み合った複雑な「システム」です(図1)。CAEを適用する対象としては磁場解析・構造解析により強度・熱・磁束密度等の“場”の問題を解く必要がまず考えられます。また回路との連成を考えることもあるでしょう。しかも、多くの場合これらを同時に考慮しなければならないのです。こうした、様々な要素技術を複合的にシミュレーションすることは「システムシミュレーション」と呼ばれ、現代の製造業における必須の技術となりつつあります。システムの最適化のためには、個別の要素技術ごとの最適化だけでなくシステム全体の最適設計を行う必要があり、そのためにはシステム全体を解析対象とする必要があるからです(1)-(3)


2-1 シミュレーションにおけるプラントモデルの重要性

このシステムシミュレーションを行うには、機能を表現したモデルいわゆるプラントモデルが重要となります。プラントモデルとはシステム設計・開発に用いられる「シミュレーション対象である物理モデル」と定義できるでしょう。具体的には、モータやエンジン、オルタネータ、さらに車体やタイヤの機構などがこれに相当します。システムシミュレーションを行う場合には、これらのプラントモデルを実際の「物」のようにつなぎ合わせて全体の性能を評価するわけですから、プラントモデルをどう作るかが性能予測の鍵になります。特に、システムシミュレーション技術活用のためには、如何に効率よく、要求にあったモデルを作成するかが重要です。

2-2モデルの詳細度と抜き挿し


図2 システムシミュレーションにおける
モデルの位置付け

次に、プラントモデルの精度について考えてみます。有限要素法などの詳細シミュレーションと数式ベースでのモデルでは詳細度(抽象度)に大きく差があるのが普通なので、これらの統一的な取り扱いが必要になります。更に、システムシミュレーションを実際に行う場合には、プラントモデルを容易に抜き挿しできなければなりません。例えば、車両全体をプラントモデルとした場合、車両の部品に相当するコモデルを追加・修正する場合、既存のプラントモデルを変更しなくて済むことが大切です。例えば、オルタネータモデルをエンジンのクランク軸にプーリーを介して装着する場合を考えると、実際の車両と同様に、プーリーとオルタネータのモデルを装着する際、モデル自体は改変が無いことが必要なのです。

このようにシステムシミュレーションを行う場合、プラントモデルは「目的に応じてその詳細度・抽象度を適切に選ぶ」必要があります(これを概念的に表したものを図2に示します)。シミュレーションの対象が単一現象であれば、詳細なモデルを用いたシミュレーション技術が設計現場で使われるようになってきていますが、対象の規模が大きくなるにつれて現象も複雑化・複合化していくため、新たなアプローチが必要となってきます。次の適用例でその具体的な例を紹介します。


3.HEVのシステムシミュレーション適用例

ここではMapleSimを用いた適用例としてHEVのシミュレーション例について紹介します。ここで対象とするシステムは、車輪はモータだけで駆動し、エンジンの動力は発電だけに用いる「シリーズハイブリッド」と呼ばれるシステムです。このシステムでは、主要な以下の4つの機能モデルから成り立っています。

(1)車輪を駆動するモータと制御

(2)モータを駆動するためのバッテリー

(3)バッテリーを充電するためのエンジン

(4)車体とタイヤ

ここではそのうち代表的なインテークマニフォールドとエンジンモデルについて詳細に見てみましょう。

インテークマニフォールドとは大気をエンジン内に取り込むもので、エンジンの燃焼効率と性能を最適化する上で重要な要素です。本モデルでは平均値エンジンモデルですので、圧力と流量を求めるモデルになっています。(図3)この圧力の時間微分()と出力流量の時間微分()に関しては式(1)を用いました(4)

ただし、


図3 インマニの数式モデル

図4 シリーズHEVシステムシミュレーションモデル


図5 計算結果

MapleSimではこれらの数式をモデリングする場合、従来行われていた「プログラミング」の作業が不要で、式(1)をそのまま記述すればモデルを作成することが可能です。また、ここでのモデリングのポイントは、体積効率(ηv)の実装方法です。エンジンでは吸気と排気が交互に行われますが、燃焼した気体はすべて排出されるわけではなく、一部は燃焼室内に残留するためその分だけ燃焼室全体に占める新しい混合気の割合は少なくなります。この吸排気の目安となるのが体積効率で、ここではエンジンスピードとマニフォールドの圧力を入力とした測定結果をもとに2Dのルックアップテーブルをエクセルで作成し、それを体積効率の値として定義しました。また、エンジンは流入ガスの状態(圧力、体積流量)と熱効率から直接出力を求めています。具体的には数式で表現されたエンジンの圧力変化と、それによる熱バランスをマニフォールドと同様の数式モデリングにより構築しました。

更に、実際のシステムシミュレーションを行うためにバッテリーモデル、モータドライブモデルそして車体のダイナミックスを表現するモデルをそれぞれ作成し、全体として図4に示すようなシステムシミュレーションモデルを作成しました。紙面の関係でマニフォールド以外のモデリングの詳細については割愛しますが、上記の例と同様に数式を基にMapleSimのモデリング機能を用いました。更に、ここでのもう一つのポイントは、それぞれの機能モデルを独立して開発することで、IP(知的資産)として活用していることです。図5に計算結果を示します。ここでドライブパターンはエクセルで定義し、シミュレーション実行時に時間に関するテーブルとして定義してあります。実際の計算時にはドライブパターンによりモータの指令値が決まりますが、実際のモータの速度は指令値によく追従しているのがわかります。また、バッテリーの充放電に伴う温度変化やオルタネータの電圧電流特性も把握することが可能なのも、シミュレーションの特徴の一つです。本モデルにおいて、0〜150[sec.]の挙動をシミュレーションするのにかかった計算時間はIntel Core M520(2.4GHz)で約1分です。この計算時間の短さもMapleSimの大きな特徴で、MapleSimの数式処理機能が計算の冗長部分を自動的に取り除いていることによるものです。計算時間が短くてすむために、設計の初期段階で最適解を得るためのパラメータスタディを数多く実施することができます。


4.まとめ


図6 モデルの抜き差しとMOD

システムシミュレーションにおけるプラントモデルの重要性と目的の詳細度に応じたモデルの抜き挿しについて、適用例を通して述べてきました。モデルの詳細度の変更や抜き挿しを実現する技術をMOD(Model On Demand)技術と呼ぶことにし、図6にこのMODの概念を示しています。こういったことが可能なシステムシミュレーションは今後ますます発展していくでしょう。しかし、そのためには、より柔軟なプラントのモデリングや連成・連携技術が必要です。MapleSimは数式を基にしたシミュレーション環境を提供していますので、今後、ANSYSとの連成(5)なども積極的に行っていく予定です。

最後に、シミュレーションを行う場合、システムをシミュレーションするのか、個々の部品を詳細にシミュレーションするのかを意識してモデル構築を行う必要がありますが、上記のMOD技術では詳細度を比較的自由に変更することが可能なので、詳細な部品レベルからより大きなシステム全体の最適化までを事前検討できます。

Maple/MapleSimの持つ可能性を是非お試しください。


参考文献

(1) Koichi Shigematsu, Takayuki Sekisue, Kimitoshi Tsuji, “The Automotive System Simulation by using Multi Domain Modeling Technique”, Proc. of the 12th European Conference on Power Electronics and Applications, No.165, pp.1-8(CD-ROM), (2007.9)

(2) 重松浩一,関末崇行,辻公壽,“自動車システムのシミュレーション”,平成18年電気学会産業応用部門大会,Vol.I, No.1-S9-3, pp.1-6 (2006)

(3) 重松浩一,関末崇行,“自動車分野におけるシミュレーションの活用”,電気学会自動車研究会,No.VT-08-15, pp.21-24(2008)

(4) Hendricks, E., Sorenson, S. C., “Mean Value Modelling of Spark ignition Engines”, SAE Technical Papers 900616

(5) “MapleSimとANSYS Icepackを組み合わせたプラントモデルによる制御系設計”,CAEのあるものづくり,サイバネットシステム,Vol.10, pp.25-26, 2009

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