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広島発「EMC塾」 様

自動車産業が抱える電磁ノイズ対策に挑む

広島発「EMC塾」 様

概要

マツダをはじめ、自動車の高機能化が加速する中、EMC(電磁ノイズ対策)の課題に地域一体となって挑む取り組みが広島で行われている。マツダ、広島テクノプラザ、ひろしま産業振興機構(以下 ひろデジ)、サイバネットの4 者が連携し、2022 年から毎月開催している「EMC塾」だ。シミュレーションと電波暗室での実験、講義を組み合わせた独自のカリキュラムで、初心者からスタートした参加者が、自社課題に取り組めるレベルにまで成長している。シミュレーションの実務経験を活かして講師を務めるマツダの中島氏、電波暗室などの実験設備と事務局機能で取り組みを支える広島テクノプラザの山田氏、そしてCAEインフラの提供と「塾」という形式を発案したひろデジの安藤氏 —。それぞれ異なる立場からEMC塾に関わる3名に、この全国的にも稀有な取り組みの舞台裏を聞いた。

(左から)山田様、中島様、安藤様

今回お話をお伺いした方

株式会社 広島テクノプラザ
常務取締役 山田 秀樹 様


マツダ株式会社
統合制御システム開発本部
電子性能開発部
EMC/AVC実研グループ 中島 健吾 様


公益財団法人ひろしま産業振興機構
ひろしまデジタルイノベーションセンター
技術統括部長 安藤 誠一 様

株式会社 広島テクノプラザ

マツダ株式会社

ひろしまデジタルイノベーションセンター

ご利用中の製品・サービス

1.EMC塾誕生の背景:電子デバイスや無線技術の高度化によりCAE活用が不可欠に

本日は、広島テクノプラザの山田様、マツダの中島様、ひろデジの安藤様にお集まりいただきました。地域企業を巻き込んだ「EMC塾」は、どのような問題意識から始まったのでしょうか。

デバイスや無線技術の進化で、自動車部品に求められる電波環境が変化している

山田 秀樹 様
(テクノプラザ)

背景にあるのは、自動車の電波環境の急激な変化です。EV化や自動運転技術の進展により、車載される電子デバイスやディスプレイの数が大幅に増加しています。まず、自動運転支援機能や車載ディスプレイの高度化により、車載電子システムの搭載数が増えていますよね。
さらに、Bluetooth 、キーレスエントリーのような各種無線通信技術の普及により、車内の電波環境はますます複雑化しデバイスが電波に対してより敏感になっています。たとえば、ラジオ周波数帯でノイズレベルが基準値を上回るとラジオに受信障害(雑音混入・受信不能など)がおきたり、カメラ映像の表示に不具合が出たりといった事態も起こりやすくなります。

中島 健吾 様
(マツダ)

とくに昨今は、電気的に周波数の高いものがトレンドになっています。スイッチングするところでノイズが出やすく、設計段階で十分に考慮できていないと部品を設計し直したり実物を作り直したりすることになります。開発スケジュールはあらかじめ決まっているので、一度大幅な手戻りが生じると、遅れをリカバリーするのは非常に困難です。

複雑な電波環境では実測ベースでは予測しきれなくなっている

山田

わたしたち広島テクノプラザには、電波暗室があり、EMC試験などの支援を行っています。以前の自動車業界では『作ってからテストし、NGなら直す』というトライアンドエラーが主流でした。しかし、昨今の複雑な電波環境下では、実際に測ってみるまでどう転ぶか分からない。実測・実績ベースの予測が通用しなくなっています。

中島

すでに実績のある車種や製品のアップデートなど、既存品から一部を変更する流用設計の場合は、過去の合格実績があるため比較的スムーズにEMC試験に合格する傾向があります。しかし新規開発では、最終的に問題がないかどうかの基準合否を予測できるデータが何もない状態からスタートします。既存製品とは比較にならないほど合格までに時間がかかります。部品メーカー側で修正が必要になれば、それを受け取る自動車メーカー側でも再テストが必要になります。

山田

基板の作り直しや再設計には多額の費用がかかりますし、電波暗室を利用する費用も高額で、1回のテストで100万円単位の費用がかかることもあります。設計段階でのCAE(シミュレーション)活用による予測が不可欠となっています。

「自動車にかかわる各社一体で取り組まなければ解決できない」という危機感

山田

2022年頃、今仙電機製作所の新製品開発においてCAEを活用したいという相談があり、マツダの中島さんと検討を進めました。検討を重ねる中で、EMC対策は1社だけの取り組みでは限界があり、『車全体で品質を高める必要がある』という認識に至りました。そこで、サプライヤー各社が設計段階からノイズを予測・評価できる環境づくりと、サプライチェーン全体のレベルアップが重要であるという考えを共有しました。
こうした背景から、地域の取引先企業を巻き込み、CAE活用の文化を定着させるための『塾』という形での活動が始まりました。

安藤 誠一 様
(ひろデジ)

ひろデジでは、CAEシミュレーションができる環境の提供やCAE研修を行っています。今回の塾の取り組みでは、研修の場や機材、CAEソフトなどのインフラ提供を担いました。
山田さん(広島テクノプラザ)は実験設備(電波暗室)の提供と事務局機能を担当し、中島さん(マツダ)は実務経験豊富な技術者を講師としてアサインしていただきました。またサイバネットさんには研修用ソフトの提供や高度な技術的オペレーションの支援を行っていただきました。
このように現場の切実な課題に公的な支援インフラと専門技術が合致したことで、地域一丸となった設計技術の底上げにむけた取り組みが実現しました。

2.EMC塾の取り組み:個別指導形式でステップアップ、脱落させない塾形式

地域の企業が一体となってサプライチェーン全体の設計技術のレベルアップを目指すこの取り組みは、全国的にも稀有な事例となっています。具体的にはどのように実施されているのでしょうか?

実験とシミュレーションをセットで学ぶことができる

安藤

先に紹介したとおり、このモデルの特徴は、実験とシミュレーションをセットで学ぶことができる点です。実験の場と、CAEインフラがセットで活用できるので、実践的に知識と技術を身につけられます。

山田

CAEで予測した結果を、実際の電波暗室での実験結果と照らし合わせることで、現象の理解を深めることができます。全国的に見ても、実験設備とシミュレーション環境がこれほど近くに揃い、かつそれらを一気通貫で学べる取り組みは非常に稀です。広島ならでは、と言えるでしょう。

初期の頃のワークショップ課題。基板配線ループをテーマに、面積や線路長による変化、影響度などを話しあい、実習用基板の作成と測定まで行った。

シンプルなものからスモールステップでレベルアップ

中島

スモールステップでレベルアップできることも特徴ですね。受講者の8〜9割がCAE未経験者なので、まずはループアンテナやダイポールアンテナなどの構造がシンプルで要素が少ない題材からスタートしました。計算結果が理論通りになりやすく、実験との相関も確認しやすいため、受講者の心理的抵抗感をなくし『CAEは難しくない』と感じてもらうための工夫です。

安藤

そこから段階的にレベルを引き上げているのも特徴ですよね。

中島

はじめは講義・実習中心でしたが、CAEの理解が進んだ段階で、各社の実際のEMC課題に合わせてCAEを活用する個別指導形式の内容へと移行しました。現在は、各社の実際の課題にどう適用するかを検討する、より高度なフェーズに入っています。

毎月1回の継続、個別フォローで脱落させない

安藤

塾としての特徴は、講師が受講者一人ひとりの進捗をモニターしてフォローできる設備にもあります。
講師は受講者のパソコン画面をリアルタイムで確認できるため、受講者が『大丈夫です』と答えていても実際には手が止まっているような状況を即座に察知し、どこでつまずいているかを把握して助言することが可能です。毎月1回継続的に開催し、個別にフォローすることで受講者を脱落させない環境を整えています。

各社ごとにテーマを決めて実習に取り組む。相談しながら進める姿も見られた

中島

CAEの基礎的な操作は数か月で習得可能ですが、実際の課題への適用や設計フローへの組み込みには実践を反復する中で考え方を習得する必要があるため、2〜3年という長期的な期間が必要です。そのため、一度きりの研修ではなく、月1回のペースで数年かけてじっくりとレベルを上げていく設計になっています。

山田

実験とシミュレーションをセットで学べる環境、シンプルな題材からのスモールステップ、そして月1回の継続と個別フォロー。これらはEMC塾の大きな強みですね。一度きりの研修では得られない、実践的な力を養える場になっていると感じています。

電波暗室での試験の様子

3.継続を支えた要素:リーダーシップ・インフラ・地域連携が生んだ継続性

毎月1回の研修を3年もの間、なぜこれほど強固に継続できているのでしょうか。秘訣はあるのでしょうか。

共通課題を認識できているからこそ、解決に向かって足並みが揃う

中島

EMC塾が継続できた背景として、共通課題がしっかり認識できた状態でスタートしたことは大きいと感じています。

安藤

確かにそうですね。1社だけが対応しても効果が薄いことを、各社それぞれに認識し、業界全体の課題として推進していこうという強い意識があったからこそ、現在まで継続できているのだと思います。

山田

参加企業の経営者が、経営判断として、EMC塾参加を推進していることも大きいですね。会社自体の理解がないと、月に1回業務を離れて来ることはできません。会社としての意思が示されていますね。

安藤

これはマツダの経営判断と強い牽引力があったからこそだと感じています。さらに、シミュレーションに精通した中島さんの、強い推進力もとても大きいですね。

中島

ありがとうございます。全く使ったことがない人の感覚を思い出しながら、つまずきそうなところを予測して指導しています。

技術の高度化を支援する環境が揃っていることも広島の強み

安藤

広島でデジタルイノベーションセンターを担当する立場としても、EMC塾の取り組みは、地域としての技術力の底上げにも大きく貢献していると感じます。実験設備とCAE環境がセットで、物理的に近くにあるという強みは全国的にもあまりありません。
これもわたしたちにとって、とても恵まれている点ですね。

山田

広島テクノプラザは地域貢献がメインの役割であり、地域の企業の技術の高度化をサポートするのが目的です。中小企業に対して手厚い支援ができるのが広島の強みですからね。

安藤

この塾も実は、参加者にライセンス料や出席費用をいただかずに運用できるプラットフォームになっています。

中島

サイバネットさんが講義の題材や資料をベースとして提供してくれており、大変助かっています。
ついでの作業で教材やコンテンツを作れる内容ではありません。

安藤

そうですね、そして参加者同士についても、お互いに教えあうという意味合いも兼ねて『塾』としています。参加者同士が対等に議論し、切磋琢磨できる環境は、業界全体としての技術力向上にも貢献できていると考えています。

中島

まさに今話題になったとおり、各社が共通課題を認識し、各参加企業の経営判断があったこと。そして、広島ならではの支援インフラを持っていたこと。こうした要素が揃ったからこそ、3年間の継続が実現できました。どれか一つが欠けていても、ここまで続けることは難しかったと思います。

4.将来の展望:塾生同士が学んだことを、教えあい、技術者が知見を共有しあう文化を醸成したい

EMC塾の取り組みによって、参加企業には単なる操作スキルの習得を超え、意識や思考プロセス、さらには実務への応用レベルにまで及ぶ変化が起きていると聞いています。受講生の意識にはどんな変化が見られましたか?

各企業が課題に対し、自力でシミュレーションを活用して解決策を見出せる段階へ

中島

各社の過去の課題のシミュレーションを通して『なぜ』を考えるところまで到達できました。以前は『実際に作って測ってみるまで結果がわからない』という状態でしたが、現在はシミュレーションを活用して、『A案とB案のどちらが良いか』を事前に予測し、設計にフィードバックしようとする思考が芽生えています。

安藤

ここからさらにレベルアップしていけそうですね。

中島

次の目標は、自社製品の課題に対し、自力でシミュレーションを活用して解決策を見出せる状態ですね。物を作る前、あるいは作っている途中の段階で、A案とB案のどちらがノイズの観点で有利かをシミュレーションで判断し、設計にフィードバックする仕組みを定着させたいと考えています。

教えあい、知見を共有しあえる技術集団へ

中島

また、毎回グループワークを行い、パラメータを変えた時に結果がどう変わるかを自ら考察し、インプットだけでなくアウトプットを繰り返すことで、理解を深めています。

安藤

自分が理解したことを他の人に教え合うことで、さらに理解を定着させる『塾』としての文化も育っています。単に教わるだけでなく、なぜその結果になったのかというアプローチや考え方を学ぶようになったのが大きな変化ですね。今後は、EMC塾で学んだ受講生が他の受講生に教える場面も出てくると思います。講師が一方的に教えるのではなく、エンジニア同士が対等に議論し、知見をシェアし合うコミュニティの維持を目指しています。教えあい、高めあう技術集団になっていくために、知識だけではなく教え方も学んでほしいと思っています。

安藤

企業間の垣根を越えて技術者が知見を共有し、高めあうコミュニティを形成することも目標ですね。さらに、EMC領域だけでなく、プレス成形や樹脂成形、製品品質向上など、他の製造領域においてもこの『塾』形式の支援モデルは有効だと感じています。
全体の技術レベルが向上し、受講者がCAEの高度な使い手となることで、ソフトベンダーに対して『この機能が欲しい』『ここを改善してほしい』と要求できるくらいになれたらいいですね。

山田

自社の課題の解決だけにとどまらず、長期的な地域企業の技術レベル向上を見据えた体制を築けていることが、EMC塾一番の強みです。広島での成功事例をロールモデルとし、同様の課題を抱える他の地域に対して、我々のやり方を紹介し、活動を広めていけたら理想ですね。

講師と受講生のみなさま

取材協力 受講企業のみなさま

  • 株式会社今仙電機製作所
  • NSウエスト株式会社
  • 株式会社ユーシン
  • 広島県立総合技術研究所 西部工業技術センター生産技術アカデミー
2025年12月取材
※記載の会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。
※自治体・企業・人物名は、取材制作時点のものです。

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