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解析事例

電磁界解析

AnsysHFSSを使ったレーダークロスセクションの解析

こんな方におすすめ

  • 航空機、船舶など電気的に大きい構造物のRCSを高精度かつ効率よく解析されたい方

解析概要

レーダークロスセクション(RCS: Radar Cross Section)とは、レーダーから電磁波照射を受けたときに受信アンテナの方向に電波を反射させる能力を表す指標のことです。電磁波の反射特性は構造物の大きさ、材質、形状によって大きく変わるため、電磁界解析ツールを用いて解析を行います。特に、ターゲットとなる構造物が波長λに対して大きい(電気サイズが大きい)場合、計算規模が大きくなるため、RCSの計算手法を適切に選択することが重要となります。3次元フルウェーブ電磁界解析が可能なAnsys HFSSは、複数の解析ソルバーをサポートしており、構造物の電気サイズに応じて適切にソルバーを選択することで高精度かつ効率よく解析できるのが特長です。本解析では、完全導体球に対するRCSをAnsys HFSSを使って解析し、理論値と比較することで各種ソルバーの有効性を示します。さらに、RCSの具体的な事例として航空機に対するバイスタティックRCSの解析事例を示します。


まずはじめに、完全導体球のRCSの解析事例を説明します。照射された電磁波がターゲットを透過したり、吸収されて熱に変換されることなく、照射されたエネルギーがすべて散乱されることを想定します。RCSは同一位相で全反射する面積に換算した場合に、どの程度の大きさの散乱体であるかという指標であるためm 2 の単位を持ち、一般的にσで表されます。球に対するRCSの理論値σは文献 [1] で示されており、これをAnsys HFSSで解析した結果と比較します。図1.(a)に評価対象となる完全導体の球およびそのサイズを示します。ここでは、Ansys HFSSに搭載されているAnsys HFSS IE(Integral Equation)ソルバーとAnsys HFSS SBR+ (Shooting and Bouncing Rays+)ソルバーを使って解析します。モーメント法に基づくIEソルバーは、構造物の大きさに依存せずに解析できます。しかし、電気サイズが大きい場合は計算規模が大きくなります。SBR+ソルバーは多重反射を考慮したレイトレース法を適用しており、電気サイズが1000λ以上のような超大規模解析でも高速に解析でき、回折波や沿面波(Creeping Wave)を考慮することで、高い精度で解析を実施できます。図1.(b)に+x軸方向から到来する平面波によって完全導体球周辺に発生するCreeping Waveの様子(青線)を示します。

解析結果

モノスタティック RCS


図2. 完全導体球に対するRCS

レーダーの送信機及び受信機の位置が同じ場合であるモノスタティックRCSの結果を図2に示します。縦軸は正規化したRCS(σ/πr2)とし、横軸を波長に対する円周の大きさ(2πr/ λ)としています。解析対象の周波数は0.05GHzから2GHzとしています。SBR+ソルバーの解析では、Creeping Waveありの場合となしの場合の結果も比較しています。完全導体球に対するRCSは電気サイズによって特性が異なり、以下の領域ごとに理論値が知られています[1]。

σ= (πr 2 ) x 7.11 x (kr)4 ・・・レイリー領域 (2πr/λ< 1)
σ= 4πr 2 ・・・Mie領域(A点) (1 < 2πr/λ< 10)
σ= 0.26πr 2 ・・・Mie領域(B点) (1 < 2πr/λ< 10)
σ= πr 2 ・・・光学領域   (10 < 2πr/λ)

ここで、kは波数で2π/λで表せます。レイリー領域では、IEソルバーは理論値と一致しており、高精度な結果が取得できるのが分かります。Mie領域では、IEソルバーは電気サイズを問わず、精度は良好です。また、Creeping waveを考慮したSBR+は電気サイズが大きくなるほどIEソルバーの結果に近づき、精度も良好になるのがわかります。

光学領域では、IEソルバー及びCreeping waveを考慮したSBR+ソルバーの結果はほぼ一致し、RCSも周波数に依存しない値となります。結果より、電気サイズが大きくなるほど2つのソルバーともに理論値(RCS=1)に近づいていくのが分かります。今回の球体のような解析では、Creeping waveを考慮しない場合、すべての領域において、精度が不十分であることがわかりました。
本解析事例では、SBR+ソルバーで解析した場合、IEソルバーと比較して、使用メモリを97%、解析時間を99%減らすことができました。従って、電気サイズが大きい構造物のRCSの解析ではSBR+ソルバーが非常に有効であることがわかります。

解析概要および詳細

バイスタティックRCS

図1の完全導体球を対象に、レーダーの送受信機の位置が異なる場合のRCS(バイスタティックRCS) の3次元プロットを図3に示します。解析対象周波数は図2と同じ0.05GHz~2GHzとしています。結果より、周波数が高くなるほど、前方向散乱が大きくなるのがわかります。

解析概要


図3. 完全導体球に対するバイスタティックRCS

解析概要

航空機に対するRCS

最後に、航空機に対するバイスタティックRCSの2次元プロット及び3次元プロットを図4に示します。図中に照射される平面波の到来方向を示します。解析周波数は1060MHzとしております。電気サイズが非常に大きくなる航空機のRCS解析はIEソルバーを使うと計算規模が膨大になりますが、SBR+ソルバーを使うことで、効率よく解析することが可能です。

解析結果


図4. 航空機に対するバイスタティックRCS

効果

Ansys HFSSを使うことで、様々な構造物のRCSを評価できます。特に電気サイズが大きい航空機や船舶のRCSはAnsys HFSS SBR+ソルバーを使うことで、高速かつ高精度に解析できます。


[1]N. Swathi, K. S. R. Rao, G. S. Rao, N. U. Rani and N. Sharma, “Radar RCS estimation of a perfectly conducting Sphere obtained from a spherical polar scattering geometry," 2015 International Conference on Electrical, Electronics, Signals, Communication and Optimization (EESCO), Visakhapatnam, 2015, pp. 1-7.

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