CYBERNET

みんなの公差

なぜ幾何公差が必要なのか?

暗黙知から明文化へ図面に宿る設計思想

この記事について

日本のものづくりは、長い間「暗黙知」に支えられてきました。
図面に多少の曖昧さがあっても、設計者の意図を読み取り、現場が補完する。
サプライヤーも空気を読み、品質を守る。
その積み重ねが、日本の高品質を築いてきたのは間違いありません。

 

しかし、ふと立ち止まって考えてみる必要があります。
その品質は、本当に図面で保証されているのでしょうか。
それとも、優秀な人材の努力によって“たまたま守られている”だけなのでしょうか。

 

今回は、「なぜ幾何公差が必要なのか」というテーマについて鈴木先生のご意見を伺いました。

この記事の登場人物

関東学院大学 鈴木伸哉先生
幾何公差・公差解析実践ハンドブック』著者
設計工学会 事業部会 幾何公差講習担当 (YouTube)

サイバネットシステム株式会社
3D 設計コンサルタント タディー
元メカ設計エンジニアとして、携帯電話や複写機など
量産製品の設計や製造に従事した経験を持つ。

幾何公差とは、設計意図を言語化する技術である

まず、幾何公差が定着するまでにはいくつかのステージがあると思っています。
どこに壁があって、なぜまだ広く定着していないのか。その現状をまず知ってもらうことが大事ですよね。

私も幾何公差推進のための企業支援はしていますが、ゼロから完全定着まで見届けたケースは正直少ないです。
幾何公差の導入から実装、全社展開まで、やり切れたら本当にすごいことですよ。

だからこそ、まずは「なぜ必要なのか」を実感してもらうことが重要だと思います。

幾何公差が必要と言える理由の1つは、“既に幾何公差的な解釈をしているのに、図面だけが従来の寸法公差のまま”だからです。
現場ではおよそ幾何公差的な考え方をもって図面を描いて測定している。でも図面は±公差だけ。
もしサプライヤーを変えて,設計者が意図しない部品ができてしまったとしても,「図面上は合格です」と言われたら、反論できません。

まさにそうですね。寸法が10と書いてあれば、曲がっていても位置がずれていても、寸法として10なら文句が言えません。
でもきっと設計者の頭の中では「まっすぐな10」を想定しているのでしょう。
その意図が図面に書かれていないケースは、多々あると思います。

幾何公差がないとサプライヤーと解釈がズレる ― 図面解釈・合否判定トラブルの原因 ―

図面に書かれていない場合、社内だけならまだしも、外部とのやり取りでは必ず揉めます。
「これは合格か?不合格か?」という場面で困ることがあります。

日本のサプライヤーは言いにくいんですよ。「図面に書かれていないですよね」と。
海外では図面が判断基準です。日本はこれまで、職人の優秀さでカバーできていただけでした。

3D図面・MBD時代に必須となる幾何公差 ― マシンリーダブルとDX対応 ―

もう一つ幾何公差が必要な理由は、3DAやMBDの世界に入ってきているためです。
人が図面を読み、現物を測り、経験で判断する時代から、コンピュータが読み、解析し、自動判定する時代へと移行しつつあります。
人は設計意図を読み取ってくれますが機械は読みとってくれません。
幾何公差がなければ、3Dモデルから機能要求を正確に抽出することはできません。
DXを進めるなら、曖昧さは許されないのです。

今後デジタル化を進めるなら、幾何公差は避けて通れないですね。
DX による業務効率化、工数/コスト削減という切り口で導入する企業も増えると思います。

幾何公差はコスト最適化を可能にする

幾何公差の大きなメリットの1つは、公差解析に活用できる点です。
どの公差が性能に寄与しているのかを明確にし、寄与していないなら緩められます。
寸法公差だけではそれが分かりにくい。精度を上げるのは簡単ですが、コストが上がる。
幾何公差によって設計者が合理的にコストダウンを提案できるようになるのは大きなメリットと言えます。

幾何公差をするかしないかで、設計思想は大きく分かれますね。

組立不良を防ぐ幾何公差設計

幾何公差がないと、そもそも隙間は設計できなかったという気づきがあります。
今までうまくいっていたのは、幾何公差的な解釈をしてものづくりをしていたから。図面が正しかったわけではない。

精密組立の会社ほど、幾何公差は進んでいる印象があります。少しのズレが性能に直結しますから。

品質不具合が起きない限り動かない? ― 幾何公差導入が進まない組織的理由 ―

幾何公差が定着しない最大の理由は、
「今はできているから、変えなくていい」という意識です。
確かに、今のやり方でも製品はできている。
しかしそれは、人の経験や勘に支えられているだけかもしれません。
その状態は、本当に将来も安全だと言えるでしょうか。

これまでうまくいっていたのは、幾何公差的なものづくりを無意識にしていたからであって、図面が正しかったからとは限りません。優秀な人材がいたから成立していただけかもしれない。
大きなトラブル事例が出れば、一気に動くかもしれませんけどね。潜在リスクは確実にあると思います。

日本のものづくり文化と幾何公差 ― 図面は企業の知的財産である ―

私は、日本は本来、幾何公差にとても向いていると思います。
時間通りに来る電車。細部まで妥協しない文化。
エンジニアの中には「きちんと定義したい」人が必ずいる。

 

それなのに、図面だけが曖昧でいいのでしょうか?と私は疑問を投げかけたいです。
図面は企業の知的財産であり、思想そのものです。そこに宿る設計品質が、国際競争力を左右します。
その重要な情報がルーズでいいのでしょうか?

確かに。幾何公差に取り組むかどうかは、日本のものづくりの姿勢そのものに関わる話ですね。

まとめ:幾何公差は設計品質・国際競争力・DX推進の基盤である

幾何公差が必要な理由は明確です。

 

  • 設計意図を正確に伝える
  • サプライヤーとのトラブル防止
  • デジタル化対応
  • 公差解析によるコスト最適化

これまで日本のものづくりは、人の力で支えられてきました。
現場の経験や暗黙知によって高い品質が維持されてきた面も少なくありません。

 

しかし、グローバル化やデジタル化が進む中で、設計意図を誰もが同じように理解できる形で定義することが、ますます重要になっています。
そのためには、講習会などの座学だけでなく、自社図面を書き直す、社内で議論する、資料を作成して研修を行うといった実践を重ねながら、幾何公差を実務に定着させていくことが欠かせません。
日本には、物事をきちんと定義し、精密に設計しようとする優秀なエンジニアが多数いらっしゃいます。
そのようなエンジニアが幾何公差を実務の中で使いこなすことができれば、日本のものづくりはさらに強くなるはずです。

幾何公差を“使いこなす”ための一冊、今すぐ無料ダウンロード

資料サンプル

「わかる」から「できる」にする幾何公差の習得に必要なこととは何?​
鈴木 伸哉先生​ 制作協力・監修

幾何公差の重要性が高まる背景から、実務で使えるようになるための学習ステップまでを体系的に解説した一冊です。
寸法公差との違いやⓂの必要性など、現場でつまずきやすいポイントを整理。

「わかる」で終わらず「できる」へ導く社内教育のヒントや、習得に役立つ無料のリソース集も付録として収録しています。

Contactお問い合わせ