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ディメンショナルエンジニアへの道(第2回)~近代幾何公差教育概覧~

TDME合同会社 髙畠 淳一 氏

ディメンショナルエンジニアへの道(第2回)~近代幾何公差教育概覧~

TDME合同会社 髙畠 淳一 氏

~ 目次~
ディメンショナルエンジニアへの道(第2回) ~近代幾何公差教育概覧~

1 はじめに
2 幾何公差学びなおし講座
 2.1 ISO vs. ASME
 2.2 JISの現状
 2.3 幾何公差の相互関係
 2.4 形体(feature)とサイズ形体(feature of size)
 2.5 公差インジケータ
 2.6 14種類の幾何特性の説明
3. 幾何公差方式入門講座 ~自由度による幾何公差設計~
 3.1 幾何公差設計の基本的な手順
 3.2 公差解析入門
 3.3 主基準と副基準のあるモデル
4. おわりに

1. はじめに

ディメンショナルエンジニアは、公差解析のエキスパートであり、近代幾何公差方式に精通しています。幾何公差方式の国際規格として、ASME※1GD&T(GeometricDimensioning & Tolerancing)とISO※2GPS(GeometricalProduct Specifications)の2つが存在します。サイバネットシステムでは、CAEユニバーシティの講座の一環として近代幾何公差方式の教育プログラムをご用意しています。なぜ「近代」なのかと言うと、前回の「トヨタ流ディメンショナルエンジニアリング」[1]の中の2.7項「近代幾何公差方式の出現」に示したように、2大国際規格であるASMEとISOのそれぞれASME Y14.5-2009[2]の中のFig.4-3 及びISO 5459:2011[3]の中のTable B.1 において、どちらも形体に固有の自由度によって合理的に幾何公差方式を扱うようになったことに由来します。教育プログラムは、ISO1101:2017[4]準拠の「幾何公差 学びなおし講座」とISO5459:2011 準拠の「幾何公差方式入門講座」です。当初はASMEに重点を置いた教育を展開していましたが、ISO版への要望が圧倒的に多かったため、現在はISOを中心に展開しています。JISは基本的にISOに含まれます。今回はこの2つの講座について概覧します。
「幾何公差 学びなおし講座」は、幾何公差教育の初級編として位置付けられます。初級とはいえ、最新の国際規格に準拠しており、耳慣れない用語も少なくありません。「学びなおし」には、今もなお寸法公差のみ、または寸法公差と幾何公差が混在する図面を書いている設計者に最新の幾何公差方式を学んでいただきたいとの気持ちが込められています。前半と後半に分け、前半はISO準拠の幾何公差方式においてキーとなる基本ルールを解説し、後半は14 種類の幾何特性について、見やすさと実用性を考慮した同一 フォーマットの表に幾何公差記号、図示例、解釈、ポイントをまとめました。さらに、理解度向上のため随所に設問を配置しました。
「幾何公差方式入門講座」は、副題として「~自由度による幾何公差設計~」が付いています。近代幾何公差方式では、設計は優先順位を考慮しながら順にデータム形体を選択(すなわち、形体に固有の自由度を拘束)し、最終的に頭の中に理論的な「データム参照枠」を確立できなければなりません。そして、このデータム参照枠に対して公差形体の自由度を幾何公差によって統計的にコントロールします(これは、公差解析における入力に相当します。幾何公差を扱う人は公差解析もできなければなりません)。残念なことに、この概念を理解して図面を書いている設計者は国内に殆ど存在しません。そこで、近代幾何公差方式の「入門」として、本講座を開設しました。幾何公差教育の中級編に位置付けられます。上記の概念について、単純な形状のモデルを対象に動画と演習問題を用いて分かりやすく解説しました。この講座は、公差解析理論編の幾何公差方式アドバンスト講座につながっています。

幾何公差 学びなおし講座

2.1 ISO vs. ASME

よく尋ねられるのは、現在ISO、ASME、JISがどうなっているかです。本書の「第1章 はじめに」の冒頭に記述したように、幾何公差方式の国際規格は、ASME GD&TとISO GPSです。図1をご覧ください。
従来、幾何公差は特に重要な品質に対してのみ図面上で指定するという慣習がありました。今もなお、寸法公差方式と幾何公差方式が入り混じった図面を多く見かけます。独立の原則だから差し支えないと言い訳する人もいますが、近代幾何公差方式においてそれは間違いです。
図1 ISO GPSとASME GD&Tの成り立ちと現状

図1の左半分はASME GD&T、右半分はISO GPSにおける近代幾何公差方式の成り立ちと現状を示しています。中央の人が見上げる壁は両国際規格の間に相容れない関係が存在することを表しています。それは、ISO vs. ASMEがそれぞれ「独立の原則」vs.「ルール#1」をデフォルトとしていることに起因します。この相反関係は、ISOのⒺ※3とASMEのⒾ※4によって互換性が保たれています。このことに関しては「学びなおし講座」の中で詳細に解説しています。
近代幾何公差方式の国際規格であるASMEY14.5-2009の先駆けとなったのはDoD※5にも採用された米国家規格のASME Y14.5M-1994[5]です。Mは米国家規格であることを示しています。同じ年にASME Y14.5.1M-1994[6]が公開されました。この規格によってASME Y14.5M-1994の数学的合理性が証明されました。そして、2009年に米国家規格のASME Y14.5M-1994はMが取り去られ、近代幾何公差方式の国際規格ASME Y14.5-2009に改訂されました。最新は、ASME Y14.5-2018[7]です。
ASME Y14.5M-1994の公開と同じ頃の1993年、ISOの中に当時の3つのTC※6(TC3※7,10※8/SC5※9, TC57※10)によるISO/TC3-10-57 JHG※11が発足しました。表面粗さに関する国際規格を担っていたISO/TC57は、その後ISO GPSにおける形状の幾何公差の仕様に大きな影響を及ぼすことになります。そして1996年、ISO/TC213※12が発足し、ISO GPSが体系的に整備されていくことになります。ASME Y14.5に匹敵するISO規格はISO 1101です。ISO 1101 は1996年に初版が公開されました。近代幾何公差方式と呼べるのは、ISO 1101:2012[8]以降※13で、最新は第4版のISO 1101:2017です。ASME Y14.5 とISO 1101 の改定の変遷を図2に比較して示しました。初版が公開されてから現在に至るまでにASME Y14.5は3回、ISO 1101は4回改訂されています。一般的にASMEと比較して改訂する頻度が多いのがISOの特徴の一つと言えます。

図2 ASME Y14.5とISO 1101の改定の変遷

参考文献
[1] 高畠淳一, ディメンショナルエンジニアへの道(第1回)~トヨタ流ディメンショナルエンジニアリング~ , CAEのあるものづくり vol.36, サイバネットシステム株式会社, 2022年6月
[2] ASME Y14.5-2009, Dimensioning and Tolerancing
[3] ISO 5459:2011, Geometrical product specifications(GPS)- Geometrical tolerancing - Datums and datum systems
[4] ISO 1101:2017, Geometrical product specifications(GPS)- Geometrical tolerancing - Tolerances of form,orientation, location and run-out
[5] ASME Y14.5M-1994, Dimensioning and Tolerancing
[6] ASME Y14.5.1M-1994, Mathematical Definition of Dimensioning and Tolerancing Principles
[7] ASME Y14.5-2018, Dimensioning and Tolerancing
[8] ISO 1101:2012, Geometrical product specifications(GPS)- Geometrical tolerancing - Tolerances of form, orientation, location and run-out

注 釈
※1 ASME:米国機械学会(American Society of Mechanical Engineers)
※2 ISO:国際標準化機構(International Organization for Standardization)
※3 Ⓔ:ISOの“独立の原則” を無効にするための包絡(Envelope)の記号
※4 Ⓘ:ASMEの“ルール#1” を無効にするための独立(Independency)の記号
※5 DoD:米国防総省(United States Department of Defense)
※6 TC:専門委員会(Technical Committee)
※7 TC3:公差とはめあい(Limits and fits)の専門委員会
※8 TC10:製図、製品定義及び関連資料(Technical drawings, product definition and related documentation)の専門委員会
※9 SC:小委員会(Subcommittee)、SC5:寸法と公差方式(Dimensioning and tolerancing)の小委員会
※10 TC57:表面の計測と性質(Metrology and properties of surfaces)の専門委員会
※11 JHG:合同調和グループ(Joint Harmonization Group)
※12 TC213:製品の寸法・形状の仕様及び評価(Dimensioning and geometrical product specifications and verification)の専門委員会
※13 ISO 1101:2012の第2章 引用規格(Normative references)の中で近代幾何公差方式のISO 5459:2011を引用。つまり、ISO 1101:2011準拠を宣言すればISO 5459:2011も紐づいて準拠

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