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流体解析関連講座

「流体力学基礎講座・CFD原理講座」紹介

筆者:横浜国立大学 教育人間科学部准教授 白崎 実 先生

1.はじめに

2010年10月21日、22日の2日間、「CFD原理講座」(CFD:数値流体力学、計算流体力学)を実施しました。本講座は今回が初めての開講で、流体力学基礎講座に続くものです。これら2つの講座を担当していることから、この度、CAEユニバーシティにおける流体解析関連の講座に関して紹介する機会を頂きました。本稿では、流体力学基礎講座及びCFD原理講座についての概要を紹介すると共に、講師として感じていることについて述べたいと思います。

2.流体力学基礎講座とCFD 原理講座の概要

CAEユニバーシティでは、流体解析関連の基礎講座として「流体力学基礎講座」を2009年度第I期より開講しています。今回、専門講座として開講されたCFD原理講座は、これに続く2つ目の講座であり、ほぼ1年を経て基礎講座に続く専門講座が開講されたことになります。ここでは、流体力学基礎講座とCFD原理講座のそれぞれの主旨と内容について説明します。

2.1 流体力学基礎講座

流体力学基礎講座の主旨は次のようになっています。

流れのシミュレーション、特に非圧縮性流れに関するCFDによる解析を行う上で必要となる流体力学の基礎的な内容についてわかりやすく解説する。初めて流体力学を学ぶ方、或いは学んだ経験はあるがしばらく遠ざかっていたといった方を対象として、数学を含めた基本から解説する。

CFDについて理解し、CFDを利用した解析を行なうためには、当然ながら流体力学についての理解が必要です。この講座では、過去に流体力学を学んだ経験が無いか、或いはそれに近い受講者を対象として、CFDについて理解する上で知っておくべき基礎的な流体力学の事項について学びます。流体力学は古典力学に分類される学問ですが、流体は形が自由に変わる上に(当たり前ですが)「流れて」いくという性質をもっています。これを数学的に表現すると共にその概念を理解していくことは、初めて学ぶ多くの人にとってやや敷居が高いようです。

このため、流体力学基礎講座では(CFD原理講座でも同様なのですが、この講座では特に)、概念や理論を頭の中でイメージしてもらえるよう努めています。もちろん、数式も同様で、試験のための勉強ではないのですから単なる暗記には何の意味もありません。数式の意味を把握して、なぜそうなるのか、それからどんなことがわかるのかを把握してイメージを持ち、各自に納得してもらうことに主眼を置いています。

図1 流体力学基礎講座の内容

事前アンケートの結果、或いは講座当日の状況を参考に、受講者の習熟度に合わせて時間配分などで多少の調整は行ないますが、これまでのところ、ほぼ図1に示すような項目を取り上げています。

主旨および図1からも明らかなように、非常に基礎的な内容が中心となっており、CFDについては最後にわずかに触れる程度にとどまっています。もう少し進んだ内容に踏み込むべきではないかという意見もあるでしょうし、実際のところ私自身もそう思うことはあります。しかし、流体力学について体系的に学んだことが無いか、それに近い受講者を対象として、前述のように、しっかりと理解してもらうことを中心に考えた場合、1日半のスケジュールでは、この基礎的な内容でいっぱいいっぱいというのがこれまでの印象です。

2.2 CFD原理講座

一方、CFD原理講座の主旨は次のようなものです。

非圧縮性流れの数値シミュレーションを行う上で知っておくべきCFDに関する基礎的な知識について、できる限りわかりやすく解説する。個々の商用CFDソフトに特化した「使い方」ではなく、一般的なCFDソフトにおいて、その内部ではどのような考え方にもとづいて処理がなされているかについて理解することを目的とする。

CAEユニバーシティの理念を考えれば当然とも言えますが、本講座は商用CFDソフトの使い方を学ぶのではなく、ソフトの内部にある理論や原理を理解するということが中心です。実際の商用CFDソフトは製品によって特徴や採用されている手法・技術は異なりますし、CFDの発展に伴なって新しい計算手法や技術が採用され続けています。しかし、基礎となる理論や考え方は大きく変らず、ある程度共通であると言っていいでしょう。

図2 CFD原理講座の内容

このことを踏まえて、今回の講座では図2のような項目を取り上げました。

専門講座とは言え、こちらもCFDとしては非常に基礎的な内容です。受講者の多くはCFDコードの開発者ではなく、商用CFDソフトを利用する解析者でしょうから、このことを念頭に置いて、CFDソフトの「ユーザー」として把握しておくべき「ソフト内部の基本的な理論、原理」を取り上げています。細かなところまで隅から隅まで、とはいきませんが、非圧縮性流れのCFDでの基礎的な手順や理論について、全体的な把握ができるようにする一方で、プログラミング上の細かな話などには触れていません。なお、図2の中のいくつかの項目は互いに関連している部分があるため、必ずしも完全に独立しているわけではないことを補足しておきます。

理論的な側面を説明する上では、空間の離散化として構造格子を用いる有限差分法が適しています。このことから、どちらかと言えば有限差分法に基づく説明が多くなっています。しかし、商用ソフトで広く利用されている有限体積法による空間離散化の原理、その非構造格子への適合性や利用については、もちろん取り上げています。

3.CAEユニバーシティを担当しての雑感

まだそれほど多くの回数を担当していませんが、常に感じることは受講者の皆さんが非常に熱心であるということです。参加者の人数、各回の雰囲気によって多少差はありますが、積極的な質問も多いと感じます。受講者が社会人であるということもあるでしょうし、一般大学生と比べて目的意識が明確である点が大きな理由だと思われます。

(他の講師の先生も同じだとは思いますが、)私も受講者の熱意に応えるべく、先にも述べた「内容や概念を、頭の中でイメージできるようになってもらうこと」を特に意識して授業をしています。CAEユニバーシティで学んだことを受講者が応用・実践する分野・業務はまちまちですから、講座ではその土台となる部分を学んでもらい、今後、関連書籍や論文などを読む際の「壁」が、できるだけ低くなるようにしたいと思っています。

一方、受講者の既習内容に差(バラツキ)がある場合の対応は悩ましい課題です。流体力学基礎講座の場合は数学に関する知識量と力学や物理的な考え方に慣れているかどうか、CFD原理講座の場合はそれらに加えて流体力学に関する理解や知識量によって、どうしても受講者の理解のスピードには差が生じてしまうからです。もちろん、大学の授業においても似たような状況は生じます。しかし、大学では通常週1回1コマずつ進めていくので、宿題として課題を出したり、各自に復習を呼びかけるといった対応が可能ですが、1日半或いは2日間での集中的な開講形態の場合は特に注意すべき点となります。この意味では一つの講座を複数回に分けて開講する方が良さそうですが、そうすると受講者は業務を定期的に抜けなければならず、また会場近郊以外からの受講を考えるとこれも難しいところです。

ただ、この既習内容のバラツキおよび集中的な開講に伴なう課題は、CAEユニバーシティで開講される講座を更に充実させていくこと、すなわち講座内容のレベルによる分割や体系化を進めることでより良い方向に向かうだろうと考えています。つまり、講座の目的、レベル、そして必要な前提知識をより明確にしていくことで、受講者が自分に適切な講座を選択しながら履修を進めていくことが可能となるからです。

サイバネットニュース No.131 pp.22-23」において寺田賢二郎先生も述べておられますが、流体解析関連講座の場合ですと、上級の流体力学講座/上級のCFD講座を立ち上げることにより、受講者は自身が求める講座をより選びやすくなるでしょう。こういったことは、「カリキュラム」をフレキシブルに改善していけるCAEユニバーシティの強みとも言えるでしょう。

この体系化に関連することとして、数学について述べておきたいと思います。 CAEユニバーシティが目指す理論や原理の理解を進める上で、ある程度の数学は不可欠とも言えます。しかし一方で、日々の業務に追われてまとまった時間を取ることが難しく数学の細かな内容から遠ざかっている人もいるでしょう。実際、流体力学ではベクトル解析を多用しますが、div(発散)やrot(回転)といった微分演算子の「計算」はできるけれども、それらの意味は今ひとつということもあるようです。流体力学で基本となるLagrange微分(実質微分)などについても同様かもしれません。

このため、流体力学基礎講座では、初日の最初に利用する数学のおさらいを行なってから本題に入るというスタイルを取っていました。しかし、2010年度第II期より「CAEエンジニアのための数学入門」が開設されます。流体力学基礎講座としては、数学の基礎的な部分の多くをこの数学入門講座に委ね、流体力学そのものに時間を回したいと考えています。このことからも、CAEユニバーシティの講座がより体系化していくことは望ましいことだと言えるでしょう。

4.おわりに

担当している流体解析関連の2つの講座について大まかに概要を説明し、担当者として感じていることについて述べさせて頂きました。大学における教育に終わりがないように、CAEユニバーシティもその理念、理想に沿って、フレキシブルにより良く変わっていくべくだろうと思います。そして、微力ながらそれに寄与できればと考えています。