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みんなの公差

がたをゼロにしたい設計者 VS 現場のリアル

技術者に求められる“すき間”との付き合い方とは?

この記事について

「みんなの公差」では公開できない本音を語るフリートーク企画。

本記事は、「がた」をテーマに語った収録後のトークを記事化したものです。

 

公差解析の話になると、必ずといっていいほど話題に上るのが「がた」。

見た目はきれいに仕上げたい、でも組立やコストを考えると、まったくのゼロにはできない――。

設計者なら誰もが一度は悩む“永遠のテーマ”について、現場目線で語り合いました。

この記事の登場人物

関東学院大学 鈴木伸哉先生
幾何公差・公差解析実践ハンドブック』著者
設計工学会 事業部会 幾何公差講習担当 (YouTube)

サイバネットシステム株式会社
3D 設計コンサルタント タディー
元メカ設計エンジニアとして、携帯電話や複写機など
量産製品の設計や製造に従事した経験を持つ。

がたは「ゼロ」が正義? 設計者の本音

公差解析の話になると、やっぱり「がた」はどうしても気になるところで、設計者はついゼロにしたくなってしまうんですよね。外観をきれいにしたい、合わせ目をピタッと見せたい、そういう思いが強いので、できるだけ減らしたいと思うわけです。
でも実際には、がたを完全にゼロにはできない場面も多くて、「減らしたいけれど、どうしても増えざるを得ない」――そのせめぎ合いで皆さん苦労されているように感じます。

私も設計をしていたとき、「位置決めは近ければ近いほどいい」と思い込みがちだったんですが、実際には製品の特性によって最適解は変わるんですよね。小型製品のように高精度が求められる場合は確かに近いほうが有利ですが、大型製品や剛性が高い構造物では、あえて基準を離したほうが組立後の安定性が向上する場合もあります。
そうした理屈を理解していても、つい経験則や感覚で判断してしまいがちな部分だと思います。

 

たとえば、下記の図の場合は「近い方が精度高い組立が出来るのでは?」と思うかもしれませんが、実際は近い距離の位置決め製品ばかりではありません。近い距離で組み立てられる構造なのに、そうなっていない製品(距離を離した位置決め)がたくさんあります。
第1基準から第2基準までの距離が違う(20mmと50mmで比較)場合、仮に第1基準から同じ3度のずれが生じた際の寸法ずれは以下のようになります。

組立における位置決めの例

「がた」と「クリアランス」はどう違うのか?

設計の現場だと「がた」とか「クリアランス」とか、言葉をなんとなく感覚で使い分けているんですが、
改めて 「がたとクリアランスの違い」ってどう考えればいいのか、先生にお聞きしてみたかったんです。

実はそこ、公差解析の用語を決めるときにもかなり議論があったところなんです。

「すき間(クリアランス)」 は JIS 0401 で意味がきちんと決まっています。
一方で「がた」は、「JIS B 0625では」動きうる量として定義するのがよいだろうという話になりました。

ただ、ここでも感覚の違いがあって、「真ん中にあったら、隙間があっても“がたはゼロ”だ」と考える人もいました。

私の感覚だと、

  • クリアランス:設計者が意図して開けるすき間
  • がた:設計者は意図していないけれど結果として生じるすき間


というイメージだったんですが、大きくは間違っていなさそうで安心しました。

設計者の気持ちとしてはその理解でよいと思います。
ただ「調整代として、あえてがたを残したいケースもあるので、必ずしも二分できるわけではないですね。

設計者は「クリアランスは必要だから確保する、でもがたはなるべく減らしたい」というジレンマの中で、いつも戦っているのではないでしょうか。

位置決めは丸穴+長穴だけじゃない? ダイヤモンドピンという選択肢

位置決めといえば、丸穴と長穴の位置決めが一番ポピュラーですよね。
加工が比較的安く、規格ピンも使えるので、多くの現場がこの方式を採用していると思いますが、ほかにも「がた (位置決め) をコントロールする形」ってあるんでしょうか?

私もずっと丸穴+長穴派だったんですが、別の業界と関わるようになって「丸穴2つで位置決めする文化」があることを知りました。
削り加工が中心の現場だと、長穴を加工するのは結構大変なんですよね。
そのため「二つ穴」という選択肢があることを知りました。

さらに、ピンのズレを防ぎつつ横方向の自由度を持たせるために、片側のピンを“ダイヤモンドピン”にする方法もあるんです。
丸穴の両端を削って、左右方向の拘束だけ緩めたような形で市販もされています。

そんな位置決め方法があるとは知りませんでした。

丸穴+長穴だけが“正解”ではなく、加工方法や業界によって、がたの持たせ方・逃がし方にも文化があるんですね。

生産台数が増えると、「同じがた」でも意味が変わる

量産をやっていたときにいつも悩んだのが、作る台数によってがたの考え方が変わるということです。

携帯電話を設計していた頃は、1機種で100万台、カラーバリエーションまで含めるとトータル500万台なんていう世界でした。
金型も10型以上あって、それぞれ微妙に仕上がりが違う。
そのレベルになると、公差なんて「あってないようなもの」という感覚すらありました。

一方で、複写機など100台規模の製品だと、またがたの考え方が全然違います。
同じ“0.1mmのがた”でも、台数・製品サイズ・用途が変われば、許容できる範囲も変わってくる。
だからこそ、設計者には柔軟ながた設定の感覚が求められると感じています。

生産台数とがた・公差設定を、統計やコストを含めてきちんと結びつけられれば、かなり面白いテーマになると思います。
実際に1万台、10万台といった量産で比較実験させてもらえる企業があれば、ぜひご一緒したいくらいですね。

いつまでワーストケースで設計する? 「中間ばめ」を見直す視点

私自身、公差を決めるとき、ワーストケースばかりを考えていました。干渉しないように、とにかく「すき間ばめ」に振る。
でも統計的に考えれば、中間的なすき間(中間ばめ)でも、干渉する確率はそれほど高くない場合が多い。
それなのに、ワーストケースだけを見て“永遠にがたが埋まらない設計”にしてしまっていたのではないか、と今は感じています。

生産現場からは、「今回は台数が少ないから、公差を厳しくしていいよ」といった言葉が出てきたりしますが、その判断基準が感覚的なことも多いですよね。
そこに統計やコストの視点をしっかり入れられれば、「このくらいの台数、コストならここまで攻めていい」という判断が、もっと論理的にできるといいですね。

がた設定の“正解”はひとつではない

いろんな業界で設計を経験してきて感じるのは、製品や業界によって、がたに対する考え方や文化がまったく違うということです。

極端にがたを詰めないと怒られる世界もあれば、そんなに詰めたら不良だらけになる、という世界もある。

1つのルールをそのままあてはめると、ものづくりが成り立たないこともあります。

おっしゃる通りで、「業界」「生産台数」「加工方法」などによって、がたの“常識”がかなり違います

だからこそ、一般論として語るのが非常に難しいテーマなんです。

それでも、設計者同士で感覚を共有したり、公差解析を通じて少しずつ“見える化”していくことが、より良いがた設計につながっていくのではないかと思っています。

おわりに ― 数値と感覚、そのあいだで

がたは、単なる数値の問題ではなく、

 

  • 組立性
  • コスト
  • 生産台数
  • 業界ごとの文化

 

といった、さまざまな要素が絡み合うテーマです。

「がたをゼロにしたい設計者の気持ち」と「現場が求める現実」その間でどうバランスを取るか――。

数値だけでも、感覚だけでもない。

その両方を大切にすることが、これからのものづくりに求められる姿勢なのかもしれません。

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