CYBERNET

はめあい公差が製品の操作感/フィーリングを左右する!?

技術者に求められる数値と感覚のバランスとは

この記事について

みんなの公差」では公開できない本音を語るフリートーク。本記事は第19回 確率変数の和および差の分布収録後トークを記事化したものです。

この記事の登場人物

関東学院大学 鈴木伸哉先生
幾何公差・公差解析実践ハンドブック』著者
設計工学会 事業部会 幾何公差講習担当 (YouTube)

サイバネットシステム(株)
Sigmetrix 製品の営業担当
工学部卒
サイバネットシステム(株)
Sigmetrix 製品のマーケティング担当
文系出身

「確率変数の和および差の分布」の話ですが、ちょっと私の中で強く印象に残っていることなんですけど、製造現場では「すき間がなければ,組み立てられないけれど、一方でがたをしっかりとりすぎると、品質・性能を確保するのが難しくなります。。
今振り返ると、「中間的なすき間」も、確率的に見れば十分使える部分があったのではないか、と思うようになりました。それで今回、そのことをテーマとして取り上げてみました。

先生、以前「黒田正和のYouTube工業高校」の『はめ合い公差_はめ合い試験片作りました』の回で、まさにその話題を扱っていらっしゃいましたよね?
実際にその映像を見たとき、数字だけじゃなく、感覚的に「ガタガタしてる」とか「滑らかだな」とか、そういう感覚ってすごく重要だなと思いました。落語じゃないですけど、「百聞は一見に如かず」って感じで。実物は触れなくても、音で伝わってくるものがあります。

ああ、あのゲージを作った回ですね。

あれを見て思ったのですが、カメラのズームレンズの操作感なんかも、商品の特性としてとても重要ですよね。高級な機種になると特にその「感覚 (フィーリング)」が大事になってきて、シャッターボタン1つにしても、押し心地が機種によって全然違いますよね。
そのフィーリングを制御しているのがものづくりにおける製造技術なんだと思うんです。

そうですね。私の経験でも、公差解析的に言えばすき間をなくすと「組んだときに動かない」といった問題が出てきて。でもすき間を空けると今度は感触が悪くなる。どこまで詰めていいのか、その設定は本当に難しいですね。最終的には、図面だけでなく現物に合わせる場合もあるでしょう。

やっぱりそこが難しいところですよね。数値化できれば次の製品開発に活かせるんでしょうけど、なかなかそこまでできないのが現状。
それでも、やっぱりフィーリングは、製品価値そのものにつながる部分だと思うので、もっと注目されていいはずです。

そういう高級カメラだと、ズブズブッと滑らかに動く感覚がやっぱり大事ですよね。

シャッターの押し心地もそうですよね。なぜ上位機種を買うか?って、結局は使った時の「気持ちよさ」に行きつくんだと思うんですよ。
その感覚って、何でコントロールされるのか?って突き詰めていくと、がたや部品の合わせ具合などのはめあいが、製造品質に関わりますよね。

 

世の中には一定数「フィーリング」に敏感なこだわりを持ったユーザーがいるので、感触がいいものとか高級感があるものって、使った時のフィーリングが商品開発においても非常に重要な要素になると思うんです。
それをどう理論的に把握するか?製品を差別化する鍵になるのは、そういう部分じゃないかと。日本のものづくりの強さも、まさにそういうフィーリングを大切にしてきたからこそなのかもしれませんね。

本当にその通りですね。

ボールペンを押した時の「カチッ」という音や押し感なんかも、まさにそうですよね。私も感覚で選びます。

公差解析上は「すき間がない方が良い」とされていたのに、組み上げてみたら圧迫して動かなくなってしまったんです。
じゃあすき間を空けたらどうかと思ったら、今度は空きすぎてフィーリングが悪かった……。最終的には現物合わせ、つまり理論だけでは割り切れない世界ですね。

ところで、最終的に製品化する際の「理想のフィーリング」を決めるには、どんな方法を取るんですか?感じ方にはどうしても個人差が生じると思うんですけど……。

最終的には、やっぱり狙い所を決めるしかないですよね。先生がおっしゃった「現物合わせ」に近いやり方で。

ええ。品質と整合させながら、ワースト品・最高品質・標準の3種類くらいを並べて比較するんです。それに加えて、力を測る測定器もありますが、一方で品質を確認するためのサンプルを作るという方法もあると思います。

やっぱり、難しいテーマですね。その「気持ちよさ」をはっきり数値化できて、次の機種開発なんかに活かせれば、理想なんでしょうけど……。

最終的にはやっぱり、金型をどう削って、現物をどう合わせていくか――そういう泥臭い現物合わせの世界ですね。数字だけではコントロールしきれないところに、最終的には行きつく気がします。

本当にそうですね。最初に話題に出た「はめあい公差」の話も、まさにその象徴というか。完全に論理で割り切れる世界じゃないですよね。

そうなんです。だからこそ、設計段階での感覚の共有や、現場との連携が本当に重要になりますね。
「良い設計」は図面だけで完結するものじゃないんだと、あらためて思います。

それ、すごく感じます。現場の声や感覚をどう数値化して取り込むかって、今後ますます大事になる気がしますね。

ええ。数値と感覚、その両方を大事にするものづくり。
これからの技術者には、その絶妙なバランス感覚が求められるんじゃないかと思っています。

Contactお問い合わせ