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「工程能力指数」はいくつ必要?公差の“へそくり”は隠さず出そう

~日本企業にディメンショナルエンジニアが必要な理由とは~

この記事の登場人物

関東学院大学 鈴木伸哉先生
幾何公差・公差解析実践ハンドブック』著者
設計工学会 事業部会 幾何公差講習担当 (YouTube)

サイバネットシステム(株)
Sigmetrix 製品の営業担当
工学部卒
サイバネットシステム(株)
3D CAD のサポート担当
理学部卒 公差解析勉強中

「工程能力指数」を気にするのはどの部門?

「工程能力指数」という言葉は前から聞いたことがありましたが、毎回よくわからないなって。

私も以前は,あまりよくわかっていなくて…。
とにかく「1.0は最低限超えて、1.33は必要だ」という程度しか知らなくて、その数字だけを見ていて、分布を図にしてどっちに寄っているかまではあまり丁寧に考えていなかったですね。

工程能力指数」は設計の人が気にするんですか?
それとも製造の人が気にするのでしょうか?

もちろん“製造側”です。
会社によってはCpCpk1.33 超えていないと出荷できないというルールもあります。

やはり「設計」を正として、製造の人が頑張っているんですね。

そうですね。製造側がその値をクリアできないと「公差を緩められませんか?」という問い合わせが設計にも来る。
だから設計も無縁ではいられないんです。

1.33というと、規格公差の幅に対して分布がかなり余裕を持って収まっているということですよね?
ということは、確率論で見たとき、歩留まりとしてはかなり高いですよね。

そうですね。
かなり余裕があることになりますが、自動車業界は特に厳しいと、風のうわさでは聞きます。

1.33 に達していないと製造の能力が低いと見なされるんですね。

そうです。これはシフトが生じるとすぐ問題になる。
だからシフトも含めて Cp 1.33 でなくても、Cpk であれば 1.0 でも良いと私は思います。

ということは、Cpk (かたより) の指標はあまり現場では使われないということでしょうか。
Cp に余裕を持たせることによってかたよりのバッファにしている方が、現実の仕事の仕方に即していますか?

そんな気もします。
二乗和平方根はCp1.0を前提に計算していますから、ちょっとでもシフトすると計算が成り立たないので、そこに余裕を持たせておく会社もあると思います。

ズレをループで見て、Cp1.0でも大丈夫なように調整する方が、全体コストは下がりそうですが
そんな余裕はないんでしょうね。

かたよりをゼロに調整する方が、シグマを減らすよりも実は楽なので、そのようにしている会社もあるとは思います。
ただ、これも会社によりますね。

Cp 0.67ですってなったら、もう完全にアウトですよね?

そうですね。1.0が最低限という基準になっていると思います。

CETOLなどの公差解析ツールでCp 0.67と出たら、もう見直しの対象としてフィルタにかけられますよね。

そうです。CETOLCp の想定を指定できますから、1.33で入れて解析すれば、余裕を持った結果になるかと。
でも、みんなが余裕を持ちすぎるとコストが高くなり、過剰品質にもつながる。だから本当はみんな「正直に話せよ」と私は思うのですが
それが怖いと、厳しい要求をせざるを得ないですよね。

それだけでもコストが20-30%くらい減る気がします。

公差解析者が全体を見て、「ここ、もっと減らせるじゃないか!」と指摘する人がいたら、その会社はしっかりしてますね。

みんなが “へそくり” を隠し持っている感じですね。

そうそう、みんな怖くて余裕を持たせている。

それがまさに「ディメンショナルエンジニア」なんですよね。
欧米ではそういった横串の役割の人がいるけれど、日本には全体を見たマネジメント視点がまだない…。
だから、みんなが隠し持った“へそくり”をどうあぶり出すかってことになりますね。

そうですね。図面は一度出図されたら、設計変更がしにくいですから。
干渉が起こってから公差を小さくしようとしても、簡単にはできません。

だからDXの動きが進んで、みんなが真面目に、正直に情報を出すようになれば、仕事も楽になりますよね。

本当にそうですね。全体の利益になります。

おそらく管理者の方は「正直にやろう」と言っているんでしょうけど...
実際に影響を受けるのは現場なので、現場はこっそり“へそくり”を持ちたくなるんでしょうね。

そうですね。そして図面はモデルチェンジの際に前の図面を参照して公差を決めることが多いと思うので、そのままずーっとマージンのある公差を持ちっぱなしなんでしょうね、きっと。

残念なのは、なぜそうなってしまったのか?そしてその公差が現在の設計に対して十分なのか過剰なのかを判断することすらできていないのが現実です。それではものづくりがどんどん大変になりますし、新しいものも生まれづらくなります。
でも、みんなが1.33で“へそくり”を持っているということが、日本のハイクオリティの象徴だとされてしまえば…それって悲しい現実だなと思いますし、生産性が上がらない原因かもしれませんね。

私も、実はそんな気がしています。
でも最近は図面に Cp や Cpk を指定することもできるようになってきたので、それをきちんとやれば改善できるのかもしれません。

でも、それって製造側に対するプレッシャーになりますよね。

そうですね、プレッシャーになりますが、逆にはっきりする面もあります。
あまりないとは思いますが、もし,出荷物が選別されていた場合、公差解析を二乗和平方根で計算していたら、成り立たっていないんですよね。
公差の範囲をはみ出して正規分布しているものに対して、公差の範囲の中に入ったものだけに選別を行ったとすると、それはもはや正規分布ではありませんので、二乗和平方根で計算した累積公差の外に外れてしまうものが出てしまいます。

ではどうするのがよいのでしょうか?

結局、みんながこっそりマージンを持たずに正確に情報を出して、正直になること。
それが一番大事なんだと思います。

でもなんとなく、先生の話を聞いていて見えてきました。
みんなが正直に情報を出すと、これまでのやり方が通用しなくなるのを嫌がっているんでしょうね。

そうですね。生産している品目が多すぎると、正直になるのはとても勇気がいることです。
ただ、公差や品質のトータル管理ができれば、過剰品質にも甘すぎる公差解析にもならずに済みます。
全体を見張る「ディメンショナルエンジニア」がいると理想的ですね。

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ディメンショナルエンジニアへの道(第1回)
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ディメンショナルエンジニアへの道(第2回)
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