CYBERNET

みんなの公差

第25回 幾何公差にⓂを適用した公差の累積

Ⓜ(最大実体公差方式)を幾何公差に適用したときの累積への影響と組み立てと位置決めを分けた設定アプローチ

Ⓜ(最大実体条件)を適用すると公差累積はどう変わる?

これまでの回では、ワーストケース・二乗和平方根(RSS)を使った公差解析の基礎を説明してきました。

大きく分けると次の2つのパターンがあります。
  ① 幾何公差そのものにⓂがつく場合
  ② データム参照にⓂがつく場合

今回はより込み入ったテーマとして、上記の①のケース、幾何公差にⓂ(最大実体公差方式)を適用した場合の公差の累積について解説します。

Ⓜを適用した部品図 – 板・ピン・長穴の二次元公差解析モデル -

説明を進めるために、次のようなシンプルなモデルを考えます。

図1:2部品の段差の累積公差を求める例

板があり、そこにピンが立っている部品(ピン側部品)と、長穴が開いた板(穴側部品)の2枚が重なっています。穴側部品の背面はブロックに当てられており、上から見た図で二次元の公差解析ができるよう設定されています。

解析寸法は2枚の板の端面間の段差です。公差解析ループは解析寸法を囲むように、①→②→③→④の4要素で構成されます。

各部品のデータム設定

穴側部品では、相手部品と接触する面をデータムA、ブロックに当たる背面をデータムB、解析寸法に関わる端面をデータムCとして設定しています。データム系に対して19mm離れた位置に長穴があり、そこに穴の位置度が設定されています。
ピン側部品も同様に、相手部品との接触面をデータムA、背面をデータムB、端面をデータムCとし、データム系から29mm離れた位置にピンが立っています。

図2:2部品の段差の累積公差を求める例の部品図

Ⓜなし(Ⓔのみ)の場合の公差解析

幾何公差の基本的な考え方については設計工学会の解説動画をご参照ください。
本記事では、その内容を前提に、位置度公差にⓂを付けない(Ⓔのみ)の場合の公差解析について説明します。

穴のあいた板の部品の公差設定

位置度0.3(Ⓜなし)、穴の二面幅にⒺを適用します。
データム系から19mm離れた位置に公差域が設定され、穴の中心がその中に入っているかどうかで評価します。
図3:穴のあいた板の部品図と位置偏差の図

軸 (ピン) が付いた部品の公差設定

図4 を解釈すると、データムから29 mm離れた位置に幅0.4 mmの公差域が設定されており、その公差域の中にピンの中心が入るように指示されています。

一方、φ5.9±0.1 Ⓔ はピンの直径に対する指示です。

例えば、直径6 mmのリングゲージを用意したとすると、そのリングゲージがピンに無理なく通ることを要求しています。

図4:軸のついた板の部品図

公差累積表にまとめてみよう

各要素を公差累積表にまとめると次のようになります。

公差累積表 1 : Ⓜなしでの位置度の公差累積表
図5:公差累積図

まず①は、この19 mmの寸法です。これは TED(理論的に正確な寸法)なので、公差を持たない寸法です。


次に②は、位置度0.3です。図面では、この位置度の指示に対応しています。
公差解析では、位置度0.3を両側公差として扱うため、0.3を2で割り、±0.15として表に記入しています。
このように表現すると、一般的な寸法公差と同じように扱えるため、公差解析になじみやすくなります。


③は、位置度0.4です。図面では、この位置度の指示に対応しています。同様に、公差解析では±0.2として扱います。

最後の④は、29 mmの寸法です。①と同じくTEDなので、公差はありません。

MMVS により組立が成立する

幾何公差にⓂを適用することが重要

位置とはめ合いを個別に設定しただけでは、姿勢偏差などが重なった際に想定外の干渉や組付け不良が発生する可能性があります。
Ⓜ(最大実体公差方式)が設定されていない場合、MMVC(最大実体実効状態)を明確に定義できず、必要な隙間を保証できません。
そのため、はめ合いを考慮した設計では、幾何公差にⓂを適用することが重要になります。

Ⓜを適用して組立可能な境界を保証可能に

図では、穴とピンの位置度に Ⓜ を適用しています。
幾何公差の値は変えていませんが、少々図示サイズを変えてみました。

穴径6.35±0.05、位置度0.3Ⓜの場合、
6.35 − 0.05 − 0.3 = 6
となり、穴の表面は「6 mmより内側には入らない」ことが保証されます。
位置ずれや姿勢偏差が発生しても、穴の有効な境界が6 mmに維持されるため、機能ゲージによる評価や相手部品とのはめ合い条件を明確に定義できます。


一方、ピン径5.5±0.1、位置度0.4Ⓜの場合、
5.5 + 0.1 + 0.4 = 6
となり、位置ずれや傾きが発生しても、ピンは「6 mmより外側にはみ出さない」ことが保証されます。

穴側もピン側も、それぞれの最大実体仮想サイズ(MMVS)が6 mmで一致しているため、ワーストケースでも互いに干渉せず、組立が成立します。

このように、Ⓜを適用することで、位置偏差や姿勢偏差を含めた最悪条件においても、必要な隙間や組立性を保証できることが大きなメリットです。
なお、実際の設計では、組立性を向上させるために、必要に応じてわずかな隙間を空けておいたほうが組み立てやすいと思います。

図6: 2部品の段差の追跡交差を求める例 (Ⓜありの位置度)

Ⓜ(最大実体条件)を適用すると累積公差は増える?

解析寸法を巡って、①、②、③、④、⑤、⑥というようにループを作ります。今回のポイントは、項目が少し増えていることです。

公差累積表 2 : Ⓜありでの位置度の公差累積表

公差解析表を見てみると、①、②、④、⑥は、番号が変わっているものもありますが、基本的には先ほどと同じです。ところが、ここに書かれているように、Ⓜを付けると「ボーナス公差」が発生します。
部品がはめ合いとして緩い側にできた場合、その分だけ幾何公差を多く取ってよい、というのがⓂのルールです。

そのため、公差解析ではマイナスの影響が生じます。ボーナス公差の分だけ位置のずれとして現れる可能性があるため、その影響も見積もっておかなければなりません。これは穴だけではなく、軸についても同様です。


その結果、累積公差は±0.5に増えてしまいます。

公差累積表 1 と比べると、③と⑤の項目が追加され、その分だけ累積公差が増えていることが分かります。公差解析の観点から見ると、これはあまり望ましい状態ではありません。

そうすると、「Ⓜを公差解析を行う箇所に入れてはいけないのではないか」という考え方になります。
しかし一方で、「Ⓜがなければ、今度は組み立てができなくなるのではないか」という疑問も生じます。

提案:組立てと位置決めの公差を分けて設定

「では、どうするべきなのか」という点について、私なりの提案をしたいと思います。

位置度はⓂなし

下図に示したのが、その考え方です。まず、位置の設定については、Ⓜなしで位置度を設定します。こうすることで、ボーナス公差が発生せず、公差累積には影響しません。
一方、組立性の確保については、直角度0Ⓜを利用します。位置を決めるための公差と、姿勢(組立て)を規制するための公差を分けて考えるという方法です。
この場合、組立時には直角度0Ⓜによって、直角度を含めた状態での組立条件を保証します。

図7 : 穴のあいた板の部品図

つまり、「組立のための公差」と「位置決めのための公差」を分けて設定してしまえばよいのではないか、というのが私の考えです。
例えば穴側では、MMVS(最大実体仮想サイズ)である「6」という境界を設定し、これ以上内側に入ってこないことを保証します。
その一方で、位置度についてはⓂを付けずに設定します。

直角度0 は Ⓜ

軸 (ピン) 付き部品についても考え方は同じです。
直角度0Ⓜを適用することで、位置自体は指定していないものの、ピンが直角方向において「直角に立った6の円筒」より外側へはみ出さないという組立条件を設定できます。
これを下段の図で表しています。

図8: 軸のついた板の部品図

そして公差累積図を見てみると、解析寸法を巡って①、②、③、④、⑤、⑥と項目は増えていますが、ボーナス公差は発生しないため、その項目を公差解析に含める必要がありません。
その結果、累積公差は、もともとⓂなしで設定していた場合と同じになります。この例では、累積公差は±0.35のままです。

このように、
組立性を確保するための公差と、位置決めのための公差を分けて設定することで、
組立性を保証しながら、公差累積の増加を抑えられるのではないか、
というのが私の提案です。

CETOL 6σによる検証

上記の考え方が正しいかを確認するため、3次元公差解析ツール CETOL 6σでシミュレーションを実施しました。手計算の結果と一致することが確認でき、公差解析ツールと手計算のクロスチェックの有効性を改めて確認できました。
自分の頭で考えた手計算とツールの計算をクロスチェックすることは、公差設計の精度と理解を高める上で非常に重要なプロセスです。

(a) 位置度公差にⓂを指示した場合
(b) 位置決めと組立ての公差を分けた場合

幾何公差にⓂを適用した公差の累積を動画でチェック

本記事の内容について、図や実例を使って動画で解説しています。ぜひご覧ください。

あなたへのおすすめ

Contactお問い合わせ