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#14 母数および統計量

公差解析における統計学

今回からは統計の話をします。
公差解析の序盤は統計の知識なしでも理解できますが、だんだん統計の知識がないと理解が難しくなる部分が出てきます。


ここでは、簡単な部分でありながらものづくりに最も関係する部分に焦点を当てて話を解説します。

ヒストグラムについて

ここでは、例として「10±0.3」の板を1万個生産したとします。
作られた板を厚さごとに分類し、それが何個あるかをグラフ化しました。これをヒストグラムと呼びます。

母集団について

この1万個の全体を「母集団」と呼びます。
今回は数が決まっているため 「有限母集団」とも呼びますが、一般的には無限の数の母集団を想定することが多いです。
これは1万個で生産が終わるかどうかわからないためです。

しかし、1万個の母集団すべてを測定して合否を判定するのは大変です。
そのため、実際には1万個の中から例えば100個を抜き出して測定する「抜き取り検査」や「無作為抽出」を行います。
こうするとヒストグラムは粗くなりますが、それでも100個のデータがあれば、ある程度の値を把握できます。

この限られたデータから得られる「統計量」と呼ばれる数値を用いて、母集団の特性を推測するのが統計の役割です。

主な母数および統計量の式

次の表は主な母数及び統計量の式をまとめた表です。
左側には母数 (有限母集団で) が、右側には統計量が記載されています。ここでは、各項目について説明します。
公差累積表 (公差解析表) の例

平均

平均はわかりやすい概念で、確率変数(この場合は板の厚さ)をすべて足して、総数で割ったものが平均となります。
これはサンプルされたデータにも同じように適用されます。

分散と標準偏差

分散や標準偏差の式になると少し複雑になります。
そこで、このあとExcelを使ってこれらの概念を振り返ってみたいと思います。

ここでポイントとなるのは、分散と標準偏差は二乗と√(ルート)の関係であるということです。
分散のルートをとったものが標準偏差であり、標準偏差の二乗が分散となります。

範囲

そのほか、統計量のなかには「範囲」というものがあります。
統計学の中ではあまり出てきませんが、ものづくりの中ではよく使われているような気がします。
抜き出して測った物の最大と最小の範囲を使います。

【演習】Excel で分散と標準偏差を計算してみよう

Excel を使って、分散と標準偏差を計算してみましょう。
動画の中でご紹介している演習用のExcel ファイルを下記のボタンよりダウンロードいただけます。
平均、分散、標準偏差の計算式は動画の中でご紹介しています。
下記の動画をご覧になりながら、Excel を使って演習してみてください。

#14 母数および統計量

分散の計算

分散とはデータの散らばり具合を示す指標です。まず「偏差」を計算します。
これは各データと平均値のズレを求めたものです。
この偏差にはプラスとマイナスが混在するため、単純に合計するとゼロになります。そこで、偏差を二乗することで符号をとり、ばらつきを明確にします。
この偏差の二乗をすべて足し合わせ、データ数(N)で割ると「分散」になります。
分散は散らばり具合を数値化するために有用ですが、単位が元のデータの2乗の形になってしまいます。
例えば、長さがmmであれば、分散の単位はmm²になってしまいます。そこで、元の単位に戻すために「平方根」を取ると「標準偏差」になります。
Excelでは、分散を求める関数「VAR.P」と「VAR.S」、標準偏差を求める関数「STDEV.P」と「STDEV.S」があります。
「P」は母集団全体のデータを対象とした場合、「S」はサンプルから母集団を推定する場合に使います。
後者の場合、分母をNではなくN-1で割ることで、母集団の分散をより適切に推定します。

分散の N と n-1 の違いは?

あまたある母集団の中から標本として取り出した場合は「n-1 (右側)」を、母集団全部を対象として問題ない場合は N (左側)を用います。
いづれにしても N の数値が大きくなってくると2つの式の差は小さくなります。
以上のように、統計では平均だけでなく、データの散らばり具合を示す「分散」や「標準偏差」も重要な指標となります。
これらを適切に理解し、活用することで、より精度の高い分析や品質管理が可能になります。

「母数および統計量」を動画で解説!

平均、分散、標準偏差の計算式は動画の中でご紹介しています。
より詳細な内容は、YouTube チャンネル「みんなの公差」で解説しています。ぜひご視聴ください。

#14 母数および統計量

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