導入事例
CETOL 6σの活用による設計力強化 ~成功の鍵は教育と社内受託解析~
日本電子株式会社
日本電子株式会社様 (以下「日本電子」)は、2024年1月に公差解析ツール CETOL6σ (以下「CETOL」) を導入いただきました。
ご導入後の 2024年11月に開催された「~デジタルエンジニアリングで、未来へつなぐ~公差 x 3D データを活用したものづくりセミナー」では、日本電子における公差設計のお取り組み、CETOL 導入の背景、そして今後の展望と課題についてご講演いただきました。本ページではその講演内容の一部をご紹介します。

ご講演いただいた方
技術統括センター 共通技術部 技術教育促進チーム
川本将嗣 様
【Profile】日本電子に入社後、走査電子顕微鏡(SEM)の製造に2年、SEMの機械設計に11年従事した後に現在の部署に異動。現在は社内からの解析依頼への対応や解析ソフトの維持・管理、社内の解析ソフト利用促進組織の事務局等に従事。
1.日本電子のご紹介
小さいものを見えるようにする製品を提供

図1: 日本電子が提供する製品
理科学・計測機器の分野では、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)などの電子顕微鏡や、核磁気共鳴装置(NMR)を製造しています。核磁気共鳴装置は、分子構造などを特定するための装置で全世界でも製造できる会社は少なく、日本国内では当社が製造しています。
産業機器の分野においては、電子顕微鏡で培った技術を用いて、半導体製造装置や電子ビーム金属3Dプリンターも製造しています。
医用機器の分野では、病院の血液検査などで使われる生化学自動分析装置などを製造しています。
技術教育促進チームの役割について
2.公差解析ソフトの導入経緯
手計算から脱却し、「品質向上」「過剰公差抑制によるコスト削減」を目的に公差解析ソフトを検討
これまで当社の公差解析方法は、表計算ソフトを使った手計算がメインでした。しかし手計算では複雑なモデルの検証が困難であったり、個人によって検証精度に差が出たりして、このままではまずいと社内で問題になっていました。
そのような中、メンテナンスや汎用性を考慮し、基幹CADを刷新しようという動きが社内で起こり、新しいCADと連携できる公差解析ソフトについても調査が必要となりました。この取り組みは、組織の下からボトムアップで進められました。
そして今度は上層部から、アセンブリの公差(嵌め合い)や幾何公差の最適化により、品質向上および過剰公差抑制によるコスト削減ができるのではないかという仮説のもと、公差解析についての調査依頼がありました。
このように、ボトムアップとトップダウン両方からの意向があり、また「公差解析技術の向上」を社内で啓蒙するためにも公差解析ソフトが必要だということで、公差解析ソフトの導入を検討することになりました。
CETOLを採用した理由
ほかには、CAD付随の公差解析ソフトや他社の公差解析ソフトについてもいくつか確認しましたが、CAD付随の公差解析ソフトは簡易的なものが多く、複雑な製品への対応は難しいと判断しました。
他社の公差解析ソフトについては、操作性や解析時間の速さで比較するとCETOLの方が優れていそうだと考えました。
操作性は特にGUIを重視しており、CETOLは日本語対応がしっかりされていて使いやすいと思いました。また、CETOLはサイバネットさんの自社製品であるため、サポート対応などにも期待を持てました。
また、解析時間の速さについて、CETOLはシステムモーメント法が採用されており、公差値の変更時に結果がすぐ反映されます。多くの他社ソフトが採用するモンテカルロ法では、解析時のデータサンプリングが必要で、計算時間や結果の精度がサンプリング数に左右されます。結果の精度を高めるにはサンプリング数が必要になりますが、その分計算時間がかかります。
色々と比較検討した結果、CETOLのトライアルを実施することになりました。
3.トライアル概要
トライアル:卓上走査電子顕微鏡(SEM)

図2: 評価モデル例_卓上走査電子顕微鏡(SEM)のステージ
ここでは卓上の走査型電子顕微鏡(SEM)の例をご紹介します。
電子顕微鏡で見たい試料を乗せて観察位置に動かすステージというユニット部品があるのですが、このステージの解析をしました。ステージは、部品数が多く手計算ではかなり難しいモデルという理由から、評価モデルとして採用しました。
ステージに関する部品点数は全部含めて400部品以上になりますが、実際の解析で設定の対象になった部品は40部品ぐらいです。
トライアル結果:卓上走査電子顕微鏡(SEM)
他にも、ステージのXY軸と電子ビームを制御するスキャンコイルのXY軸の相対的なズレ量等も確認しています。
いくつか解析してみた結果、WDについてはばらつきの目標値を十分満たしていると確認できました。これにより、各部品の公差値の変更ができそうだと考え、公差緩和を検討することにしました。

公差緩和検討
緩和しても影響度が低そうな所を公差寄与度の機能で確認しました。ステージが取り付く位置決めの長穴があるのですが、この長穴の位置度は影響がかなり低そうだったので、緩和を試してみました。
元々数十㎛台の位置度の公差を入れていたところを10倍の数百㎛台に変更してみましたが、やはり影響は少なく、解析箇所のばらつきもまだ余裕があることが分かり、他の公差も緩和が可能なことが分かりました。
CETOLは、公差寄与度から影響が少ない箇所をパッと見ることができて、それを緩和して、結果的に問題ないとすぐに確認できる点がかなり使いやすいと感じました。
トライアルを通して、CETOLは計算が速く、数値を変更するだけで解析結果へすぐに反映されるので、公差検討がしやすいことを確認できました。

アナライザー
複数の解析箇所がある場合、解析箇所全体への影響も考慮しながら公差を変更する必要があるのですが、アナライザーを使うことで複数の解析箇所に対する各公差の寄与度が分かります。
これにより、緩めてもよい公差と緩めてはいけない公差が一目で確認できます。

アドバイザー機能

図6:アドバイザー表示例
ほかに便利な機能としてアドバイザー機能があります。アセンブリ設定不足の他、寸法設定の不足や重複などもパッと表示されます。
実際に図面には書いてないけれど、ここは寸法の設定が不足しているな、という経験が過去にあり、暗黙の了解で進めているような部分もあったのですが、CETOLを使うと設定の必要があるところ(=寸法指示の過不足など)がすぐわかります。
トライアル所感
設定さえ完了すれば解析時間は短く、公差の変更が即座に反映されるので、試行錯誤が行いやすいです。
あとは可視化された結果やアドバイザー表示によって気づきがあり、図面の品質も向上させることができると感じました。
一方で、モデルが複雑になるとその分どうしても設定が増えるため、操作に慣れるにはある程度時間が必要かとも思いました。
トライアルの社内発表を経て、CETOLの導入を決定
トライアルした内容を、社内の発表会で報告しました。発表会後にアンケートをとったところ、皆さんCETOLにかなり興味を持っていただけて、意見も好意的なものばかりでした。
<アンケートコメント>
- CADモデルを変えなくても、CETOL内で数値を変えて解析できるのがよい。
- 教育にも使えそうだと感じた。
- 設計初心者の公差決定の助けになり、役立ちそうなソフトだと感じた。
- 公差について客観的な判断が出来そうなソフトだと感じた。
- 公差解析ソフトは是非導入して欲しいと思った。
アンケートでは、CETOLは役に立ちそうか、使用してみたいか、という質問も含めました。
もちろん使ってみないとわからないという意見もありましたが、役に立ちそうという回答が大半を占めていました。
使用してみたいか、という質問には、多くの方が使ってみたい、場合によっては使うかもしれないという意見で、使ってみたくないはごく少数でした。
このように社内で概ね高評価だったことから、2024年1月にCETOLを導入しました。

4.今後の展開と課題
社内展開に向けた3つの活動
CETOLを導入しましたが、基幹CAD刷新はまだ進行中で2025年度からの本格稼働に向けて準備中です。現状この新しいCADを使えるのはごく一部の社員のみで、CETOLが使える環境にある社員はさらに少数です。
現在は新しいCADの本格稼働後に、設計者がCETOLをすぐに扱えるようにするための活動を進めています。それは、次の3つの活動です。
- 公差検討が必要なモデルの受託公差解析
- 基幹CAD刷新への対応(ルール作りなど)
- 関連教育の実施、設計スキルの向上
受託公差解析に関しては、公差解析の有用性を感じていただく実績作りと、CETOLの操作経験の積み上げが目的です。私たちの部署が今後社内のCETOL窓口になる予定なので、受託解析で実績・経験を積んでいきたいと考えています。
基幹CAD刷新への対応は、スムーズな立ち上げのための基盤作りが目的です。
関連教育の実施については、公差解析ソフトの操作実習や、設計者への公差教育などを計画しています。
受託公差解析事例 ~走査電子顕微鏡(SEM)可動絞りの改善~
走査電子顕微鏡(SEM)の部品の1つである可動絞り(Movable Aperture:通称MAP)の改善が社内で持ち上がりました。可動絞りの試作検証を行っている中で公差の検討がしたいということで、設計部門から私たちに公差解析の依頼がありました。
以下に電子顕微鏡の構造を模式図で表します。上に電子ビーム源があり、電子ビームをレンズで集束させて、可動絞り(MAP)を通して対物レンズでまた絞って試料に当てます。このような構造で、余分な電子ビームが通らないような形にしています。

図8:SEM本体の模式図
なぜ余分な電子ビームを通さないようにしているかというと、電子顕微鏡は小さいものを見えるようにすることが主な目的ですが、他にも、試料の組成を知りたいといった要望もあります。
小さいものを見るときには電子ビームが細くないといけないのですが、一方で分析をするときには信号量を多くする必要があるため電子ビームが太い方がよい、といった相反することが求められます。絞りを使って小さい穴を選ぶのか大きい穴を選ぶのかで見たいものを選ぶという構造で、可動絞りが使われています。この可動絞りは装置の性能を大きく左右する重要な部品なのですが、組み立て時には調整が必要で工数もかなりかかっていました。
公差を適切に設定することで、可動絞りの部品数の削減や、調整工数の削減ができないかという期待から、3D公差解析をすることになりました。
可動絞りにおいては、解析に関連する20部品前後について、評価基準や設定公差などを変えながら検証し、CETOLで算出された解析結果をまとめて、公差寄与度をもとに影響が大きい部分を設計部門に報告しました。
それに対して、設計部門から修正箇所に関するフィードバックを受けて、数値を変えたら報告して…といったサイクルを何回か繰り返しながら、最適な公差を探索しました。
基幹CAD刷新への対応
ただ、実際の公差解析ではモデルや解析内容の難易度などにより、表計算ソフトやCAD付随の公差解析ソフトと、CETOLを棲み分けした運用を考えています。
また、3Dアノテーションなどを含めたPMI(Product Manufacturing Information:製品製造情報)の活用を検討しています。現状3Dアノテーションはほとんど使ってない状況ですが、今後CETOLの運用をしやすくするためにも、PMIに関する設定のルール作りを検討していく予定です。
関連教育の実施、設計スキルの向上
CETOLをより活用していくために、公差解析・幾何公差の基礎知識および応用知識を深めたく、サイバネットさんが提供しているセミナーや教育もぜひ活用させていただきたいと考えています。
あとは公差解析スキルの向上という観点で、解析事例や社内発表などを通じて公差解析ソフトの有用性を広めていき、設計者全体の公差設計スキルを向上させていく計画を立てているところです。
-----------------------------------------編集後記-----------------------------------------
川本様、この度は貴重なお取り組みを共有いただき誠にありがとうございました。
公差解析・幾何公差教育の実施や、さらなる公差解析の効率化に向けて、弊社でも協力させていただけますと幸いです。
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2024年11月に開催された「~デジタルエンジニアリングで、未来へつなぐ~公差 x 3D データを活用したものづくりセミナー」でのご講演資料をダウンロードいただけます。
2024年11月の講演内容をもとに作成
※記載の会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。
※自治体・企業・人物名は、ご講演時点のものです。