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導入事例

自動車用電子制御装置の筐体設計における幾何公差・3Dの活用

株式会社デンソー

株式会社デンソー様 (以下「デンソー」)では、エレクトロニクスコントロールユニット(ECU)の筐体設計において CETOL 6σ「以下 CETOL」をご活用いただいております。


2024年11月19日開催「~デジタルエンジニアリングで、未来へつなぐ~公差 x 3D データを活用したものづくりセミナー」において、デンソーにおける製品設計のお取り組み、CETOL のご活用状況、そして今後の展望についてご講演いただきました。本記事ではその一部をご紹介します。

ご講演いただいた方

株式会社デンソー
エレクトロニクス技術3部 実装構造開発室
板倉誠史様

(Profile) 自動車用電子制御装置の筐体設計・量産業務に10年間従事し、2年前から量産設計業務を離れ、DX推進担当としてCADデータを利活用した設計・製造面での品質向上・業務効率化を実現するための仕組みづくりに取り組んでいる。

1.デンソーにおける製品設計

モビリティを中心とした領域で、グローバルに事業を展開

当社は愛知県の刈谷市に本社をおく自動車部品メーカーで、現在グローバル拠点として欧州・北米・アジアなど35の国と地域に拠点があります。
モビリティを中心とした幅広い領域で事業を展開しており、車載事業の中のモビリティエレクトロニクス部門に私は属しています。「すべての人が安心して快適に移動できる社会(Quality of Mobilityの向上)」の実現を目指し、各機能を制御する電子制御装置やそれらを統合するシステムの開発を中心に行っています。

複雑な電子制御装置の設計にあたり、公差解析が重要

私は、電子制御装置の中でもエンジンに対する燃料の噴射タイミングを制御するエレクトロニクスコントロールユニット(ECU)の筐体部品の設計を行ってきました。ECUの内部には制御回路用の基板が入っていて、それらを樹脂や金属でパッケージして保護する構造になっています。

図1:エレクトロニクスコントロールユニット(ECU)の筐体イメージ

ECUのメイン部分は制御回路基板です。筐体の設計においては、車両の搭載スペースを考慮したり、内部で制御回路基板に干渉しないよう隙間を縫うような設計を行う必要があります。そのため、公差解析が非常に重要です。

2.公差解析ツールCETOL 6σ導入背景

ECU開発におけるデジタルデータ活用の理想とは

ECU開発において、デジタルデータ活用で目指す姿は「製品構想から量産まで、製品3Dデータを一貫して活用し、短期開発と品質確保を両立すること」です。
開発の初期段階にあたる製品構想企画で3Dモデルのデータを作ります。3Dデータをもとにコスト分析や構造解析、熱解析、組立性検証を進めます。
組立性検証とは、複数の部品の位置関係がクリアランスなどを考慮して成り立つように設計されているか確認することで、公差解析を行うところです。
その後、生産段階で生産プログラムの設計や製造設備の準備、三次元測定機の測定プログラムで実際に測定する、といったフローです。

図2:デンソーの目指すECU開発におけるデジタルデータ活用のありたい姿
製品構想から量産までを製品3Dデータを軸につなぐことで短期開発と品質確保の両立を目指す

ECU開発トレンドとその製品開発課題:組立性の設計難度が上昇

近年は車両の先進安全機能の搭載が加速しており、車両がどんどん高性能化しています。それに伴い内部に入るシステムも高機能化し、ECUの数自体が増加しています。
車両の搭載スペースは制限があるため、ECUのサイズは据え置きのまま統合・階層化が進んでいます。そのためECU内部の部品密度が高くなり、組立性に関わる設計難度が上昇します。今はそれが大きな課題となっています。
図3:ECU開発トレンドとその製品開発課題

開発工数を1/10に!その目標達成に向けてツール導入を検討

組立性の検証においては、難易度だけでなく開発期間の問題もあります。
ある1つの部品について、車種それぞれに適した部品を提供する必要があるため、ベースとなる製品を作った後、それぞれの車種に合わせた派生製品を次々と開発しています。
短いサイクルで組立性の検証を繰り返す必要があるため、公差解析ツールによる、効率的で品質を保った解析が重要となります。
現状、国内のメーカーと比べて中国のメーカーでは倍近くの速さで開発が行われています。私たちはそれに追従していく必要があります。
そのために、開発工数1/10を目標と設定しています。このチャレンジングな標達成には、3Dデータを活用した設計プロセス改革が不可欠であると考え、ツールの検討を進めてまいりました。

公差解析の計算時間が速いCETOLを選定

いくつか公差解析のソフトウエアを試用した結果、CETOLを選定しました。
公差解析ソフトウエアの計算方法には、モンテカルロ法とシステムモーメント法の2種類があります。
多くのソフトウエアで採用しているモンテカルロ法は、組付けの状態を細かく設定しなくてもある程度簡単に公差解析ができます。ただ精度を求めて試行回数を増やすと、解析規模によって指数関数的に計算時間が増えてしまい、一回一回の解析に非常に時間がかかる点がデメリットです。

対して、CETOLは組付けの状態をしっかり設定する必要があるので解析のノウハウが求められますが、その代わりシステムモーメント法で一回一回の解析が非常に速くできます。

また、デンソーでは3DAの適用も想定しており、3DAには幾何公差が必須です。3DAの書式も合わせて利用できるということも、CETOLを選定した理由の一つです。

3.組立性の検討事例

組立性検討の試行事例:概要

まず、組立性検討した事例のサマリーをご紹介します。今回、2D図面+Excel で手計算の場合と、CETOL+3DAを活用した場合の、工数と公差緩和効果を比較しました。
図4 : 必要工数と公差緩和効果の比較

工数については、3DAの形に落としてCETOLと自動連携し公差解析することで繰り返しの公差解析が格段早くなりました。具体的には、2D図面+Excelでは80時間だったものが、12時間に減りました。
公差緩和については、Excelでの手計算ですと、ばらつきが正規分布でない寸法はワーストケースで全部検証することになります。
それに対して今回CETOLを用いた場合は、そうでないばらつきについても考慮した上で検証ができ、さらに3Dの三次元的なクリアランス検証ができるというところで実際に手計算を用いて設計した公差に比べて代表の公差幅を大きく緩和することができました。

公差検証事例の題材:ECUの制御回路基板

ECUには、内部の制御回路基板と、コネクタ(外部のセンサーと信号をやり取りするもの)があり、回路基板にオスコネクタの端子を差し込んで固定する形になっています。筐体側にオスコネクタのハウジングが設定されていて回路基板と筐体で位置決めをして最終的に組みつけます。
このような構成の部品で、各々の部品に3DAで公差を設定して、最終的にCETOLに入力して公差解析をしています。
オスコネクタとメスコネクタが嵌合するためにはオス端子の位置精度を確保する必要がありますので、位置精度を確保できるような公差検討を実施しました。
図5:メスコネクタと嵌合可能な端子位置精度を確保可能な公差を検討

手計算による設計公差を用いた公差解析

目標とする端子位置精度となるように手計算で公差をそれぞれの各部品に設定しました。そしてそちらを3DAとして各部品に登録した後に、CETOLへインプットして解析を試行しました。
手計算の際には目標とする位置度に対してギリギリの公差設計をしておりましたが、CETOLで計算をしますと統計品質が7σを超えるとわかりました。つまり、今までの公差では、厳しさが過剰であったことがわかったため、適切な公差に修正することができました。
図6:手計算による公差設計では厳し過ぎるため適正な公差へ修正

公差寄与度の確認と公差緩和の結果

今回は樹脂ケースのハウジングの輪郭度や、基板と樹脂ケースの位置決めなどにおいて公差寄与度の確認を行いました。各構成部品の公差のうちJIS規格などから外れが大きい公差について、寄与度の順番で寄与度の影響が小さくなるように緩和を施していってどこまで緩和できるかを確認しました。

緩和後の解析結果としまして、公差目標の統計品質として今4.5シグマを想定しており、それぞれすべての公差の緩和幅の倍率を平均した場合、だいたい1.3倍ぐらい公差の緩和ができました。
図7 : 公差緩和後のばらつき分布と公差寄与度

寸法・公差寄与度のアニメーション

公差緩和を実施したときの状況をアニメーションで紹介します。
複数部品の中で公差設計をしているところと、組み付けのばらつきの関係でどれくらい公差設定が影響しているかといったところを表しています

寸法寄与度のアニメーション

公差寄与度のアニメーション

組立性検討の試行事例:結果

今回の試行結果をまとめます。
もともとの開発工数に対して1/10に削減という目標を設定していたところ、1/10には至りませんでしたが、CETOLを活用することで約85%の工数の削減を達成しました。加えて、公差解析の許容値としてだいたい全体平均で1.3倍ぐらい緩和ができるところまで確認できました。
図8 : 開発工数と製造性の改善実績
なお、工数削減については目標を達成できなかったのですが、原因の一部としてCETOLにデータを取り込む際、公差解析とは直接的な項目ではない平面度や円筒路などPMI(Product Manufacturing Information:製品製造情報) の設定において、修正に手戻りがいろいろ発生しました。この辺、習熟が進めばもう少し効果を出せるのではないかと考えております。

4.今後に向けた課題

自動車製造の会社間で、3DAデータ連携を可能にしたい

現状3DAのモデルで設計した場合に、社内では大きな影響は出ないのですが、異なるCADシステムにデータを渡す際に大きな課題があると考えています。
Tier1である当社や、OEMである車両メーカーで使用されているCATIA V5やNXなどのCADであれば、PMIについて問題なくやり取りができております。
一方で、私たちが部品製造をお願いするTier2・Tier3メーカーには、PMIをうまく受け取っていただけません。
そのため、私たちが3DAを活用する場合、3DAモデルを社内向けに作成し、そこから2D図面にPMIの情報を入力する手間がかかってしまうというのが、大きな課題となっています。
図9:3DA(幾何公差)普及の課題 ー3Dデータ連携ー

この課題については、JAPIA (自動車部品工業会)の方にも3Dデータ連携の仕組みや幾何公差の入力方法の検討など、色々と動いていただいております。
当社もTier2・Tier3メーカーで使われているCADにも3DAを受け渡せるような仕組みを、なんとか作っていけたらなと考えているところです。今後もこの問題の解決に向けて、できることに取り組んでいきたいと思っています。

-----------------------------------------編集後記-----------------------------------------
板倉様、この度は貴重なお取り組みを共有いただき誠にありがとうございました。
3DA データの連携に向けて、弊社でも協力させていただけますと幸いです。
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「公差 x 3D データを活用したものづくりセミナー」でのご講演資料を公開中

2024年11月に開催された「~デジタルエンジニアリングで、未来へつなぐ~公差 x 3D データを活用したものづくりセミナー」でのご講演資料をダウンロードいただけます。

2024年11月の講演内容をもとに作成
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