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構造解析

Ansysユーザー様のための粘弾性材料モデルの物性値同定ツールご紹介

Multiscale.Sim®の新機能をご紹介

Ansysユーザー様のための粘弾性材料モデルの物性値同定ツールご紹介の概要

使用ソフトウエア

はじめに

近年、樹脂をはじめとした材料の非線形挙動を考慮した解析に関するご相談をいただくことが増えております。
その背景には、持続可能な社会実現の要求に端を発した、新材料の適用検討の機会増加や長期信頼性向上の要求等をCAEによって解決されたい目的があると感じます。しかしながら、非線形問題へのCAE活用には解析検討の初期段階でつまずきやすい問題があることも事実で、その最たる例が材料物性値の準備です。
特に粘弾性問題では、材料挙動を実験的に取得する手法が確立しており、かつAnsysソフトウェアでは古くからはその解析機能を提供しているものの、物性値取得のためのカーブフィッティング機能に次のような問題がありました。

a.動的粘弾性試験の生データが活用できない

b.時間-温度換算則(シフト関数)の物性値同定に対応していない

c.一般化Maxwellモデルを構成する要素の数に上限がある

そのためユーザー様は、物性値同定機能の仕様に適合するように材料試験データを2次加工するなどの手間が発生することに加え、機能不足を補うための技術的なノウハウが要求されていました。そこで当社では、これらの問題点を解決するべく、汎用的かつ容易に粘弾性材料の物性値を同定するためのツールを開発しました。
本稿ではその機能概要を紹介いたします。

図1 粘弾性カーブフィットツールの外観(Excelアドインとして実装)

粘弾性モデルの材料物性値同定システムについて

図2 粘弾性材料物性値の同定システムが行う解析の流れ

非線形の材料挙動を解析で考慮するためには、材料挙動を関数形式で表現するための材料モデルが必要です。
構造問題における材料モデルは主に応力とひずみ間の関係をいくつかの係数(材料物性値)を持った関数形式で表現します。
材料挙動の違いは、この係数値によって表現されます。
材料挙動を正確に解析に反映するためには、実際に材料挙動を試験で観察し、材料モデルを構成する物性値を調整することでそれを合わせこむ必要があります。
今回紹介するツールではこれらの作業を図2に示す3つのステップを通して実現します。

ステップ1:マスターカーブの作成

長時間にわたる材料挙動を直接計測することは困難なため、粘弾性材料挙動は動的粘弾性試験(DMA)と呼ばれる周期変動荷重を加える試験によって計測することが一般です。本試験のイメージを図3に示しました。
粘性挙動を含んだ材料では、応力とひずみ間に位相差が出るため、弾性率を同相成分E’ と異相成分E’’ に分解して材料挙動が表現されます。
DMAにおいても加振できる周波数帯は限定的で、広い周波数領域の特性を求めるためには、温度を変化させた加速試験が必要です。
熱レオロジー的に単純な粘弾性材料では、温度変化を周波数(あるいは時刻)の変化に対応させることができます。
この特性を時間-温度換算則と呼びます。この特徴を利用することで、限定的な周波数帯の試験であっても、温度水準を複数とることで、特定の温度における広い周波数帯の材料挙動を仮想的に取得することができます。
温度を周波数に換算する作業は、図4に示すような周波数依存の弾性率を横軸方向に平行移動する操作に対応します。
このシフト操作を温度毎に実施して、一本につながった曲線、すなわちマスターカーブを導きます。

図3 動的粘弾性試験(DMA)のイメージ

図4 時間-温度換算則の同定解析イメージ

ステップ2:時間-温度換算則の物性値同定

シフト量もまたシフト関数と呼ばれる材料モデルとして表現する必要があります。
実際にPMMA樹脂とエポキシ樹脂の応答を用いて、本ツールが提供する三つの関数形式でカーブフィットした例を図5に示しました。
PMMA樹脂のようにガラス転移点を境に不連続に特徴が変化する場合、WLFによる再現性は悪くなります。
この中で多項式は最も厳密に実験データをフィッティングできますが、実験で生じる小さな誤差の影響もフィッティングできてしまうため、過学習のリスクがあります。このように樹脂の種類によって、利用するべき最適なシフト関数は変わります。
本ツールでは、豊富なシフト関数とロバストなカーブフィッティング機能を提供することで、多種多様な樹脂の温度依存性挙動を汎用的かつ容易に解析に反映させることができます。

図5 エポキシ樹脂とPMMA樹脂の実試験データを用いた時間-温度換算則によるカーブフィッティング例
(本解析ツールでは3種類の材料 モデルを提供)

ステップ3:Prony級数の物性値同定

最後に時間-温度換算則のシフト操作によって得られたマスターカーブをProny級数[1]と呼ばれる粘弾性材料モデルによってフィッティングします。
本ツールでは、DMAで得られた貯蔵弾性率E’ や損失弾性率E’’ を、Maxwell要素数の制限なしに直接フィッティングすることができます。
図6は前節でも言及したエポキシ樹脂とPMMA樹脂のマスターカーブのフィッティング結果です。
PMMA樹脂は低温側(高周波数側)で温度毎の試験データがマスターカーブに乗っておりません。
これは、PMMA樹脂は材料物性の粘性項だけではなく弾性項にも強い温度依存性があり弾性率軸の方向にもシフトするためです。
この現象を正確に表現するためには、新しい時間-温度換算則の概念[2]を導入する必要があります。
その対応機能は今後のバージョンアップにて実装する予定です。

図6 エポキシ樹脂とPMMA樹脂のDMAデータから求めたマスターカーブに対してProny級数でカーブ フィットした結果
(Maxwell要素はAnsysのフィッティング機能の上限以上の22個に設定)

おわりに

本記事では、当社が開発を進めている粘弾性物性値の同定ツールを紹介しました。
製品の信頼性向上に向けた取り組みの一環としてCAEに求められるレベルや即応性は今後益々厳しくなってくると推察しております。
本稿で紹介したツールがその作業の効率化に貢献できれば大変嬉しく思います。

参考文献

[1]ANSYS, Inc. オンラインヘルプ, 材料リファレンス, 粘弾性の定式化.
[2]山本晃司ら, 繊維強化熱可塑性樹脂の異方性粘弾性構成則における緩和特性と弾性率の温度依存性に関する数値解析的検討, 日本機械学会論文集, Vol85,(2019).

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