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3DAモデルがあたりまえの未来に向けて

~3D図面、幾何公差がなかなか日本で普及しない理由とは~

3DAモデルがあたりまえの未来に向けて

~3D図面、幾何公差がなかなか日本で普及しない理由とは~

幾何公差などの製造情報を3Dモデルに付加する3DA(3Dアノテーション)モデル。工程の効率化のため欧米では導入が進んでいるところもありますが、日本では「図面鎖国」と呼ばれるほどに、まだまだ受け入れられていないのが現状です。今回は国内で3DAの導入が進まない背景や導入に向けた課題について、3DAの普及に取り組む長野工業高等専門学校の鈴木伸哉先生、3DA設計が可能な CAD ソフトウェア「Creo🄬」を提供するPTCジャパンの財前紀行様にお話を伺いました。お二人のお話から、背景にある「設計・製造部門間のギャップ」「日本人の新しいものへの抵抗感」といった問題が見えてきました。(以降、敬称は省略させていただきます)

本特別対談:実現の背景について

2021年12月17日にPTCジャパン様主催、弊社共催にて開催いたしましたWebセミナー「3DA モデルの世界へようこそ〜実現方法と、そのメリット〜」にご参加いただいた長野工業高等専門学校の鈴木伸哉先生より「なぜ3DAが普及しないかについて教育者/企業間での意見交換を実施したい」とのご要望をいただき、2022年1月にPTCジャパン様ご協力のもと実現いたしました。

3DAモデルがあたりまえの未来に向けて 〜 目次〜

3DAの普及が進まない「図面鎖国」

山口

今日は「3DAの普及」を中心にお話しできればと思います。3DAの普及が進まない理由については、財前様から先日「これまでは3DAを後工程に使いにくかったため」との回答をいただきました。一方、今後の展望としては、セマンティック、マシンリーダブルな意味のある3DAとして使用することで、モデルを後工程へ展開すればCAMなどの加工機や検査装置で読み取って使用ができるようになってくるので、運用が進んでいくのではないかということでした。これに関して補足事項などはありますでしょうか。

財前

当社は「Creo」というCADを提供しています。以前は「Pro/ENGINEER」と呼ばれていたのですが、最初に3DAの機能がついたのが、これに「Wildfire」という名前がついたときですので、2000年前半のときです。当時のユーザー会でその活用についてかなり活発に議論されていたのですが、3Dに寸法情報を付加したところで「それがどう役立つのか」という声が出ていました。現在では計測に関してはセマンティック技術を活用した使いやすい製品が出てきていますので、情報を付加すれば後工程で実際に活用できるようになってきました。そのことを皆様が認識しているのは一つのメリットですね。また、海外では「あいまいな図面をなくす」ことを目的として幾何公差情報を付加するGPS(幾何特性仕様)の考えがかなり浸透してきています。幾何公差にて図面を仕上げることはわりと一般的になってきているのです。それでJISの製図規格も3DAやGPSを考慮した内容に変わってきており、本格的な幾何公差化の導入を検討するお客様が増えています。当社ではCADのセミナーをいろいろ開催していますが、セミナーのタイトルに「3DA」を入れると、参加者数が一気に増えますね。ただ、実際に導入に至っているお客様はまだそれほど多くはありません。

鈴木

日本はJISに「図面鎖国」と指摘されるほど、幾何公差の導入が遅れていると感じます。私も幾何公差の導入が進まない状況に一石を投じようと、いろいろ活動したり本を書いたりしているところです。

財前

少し前のいわゆる「新JIS(JIS B 0420:2016の寸法公差からサイズ公差への変更)」の時代でも、対応がなかなか進まないお客様がいらっしゃいました。大手企業ではJISなどをもとに社内で製図規格を整備していることも多いのですが、そうした動きが業界全体にどのくらい浸透しているのか、という問題があります。当社のお客様には社内規格の改訂後、担当者が各事業所を回って規格を遵守しているか指導しているところなどもありますが、日本にはこうした意識のある会社が少ないのではないかと感じます。日本人はITやマイナンバーカードの導入もそうですが、新しいことを進めるのが少し苦手なのかと思います。

鈴木

私が以前在籍していた会社でも、社内規格がJISよりかなり遅れている、そのJISもISO、ASME(米国機械学会)に比べるとかなり遅れているということで、昔ながらの方法で図面を描いていました。幾何公差の導入が進まない背景には、製造担当者が読めないから、幾何公差方式の図面を描けないという面もありますね。特に製造部門が強い会社ではそういう傾向が目立ちます。

財前

私自身の設計の経験から言うと、設計部門と製造部門との間にギャップがありますね。設計から「この寸法でつくってほしい」と厳しい公差を指示すると、製造からは「その公差だとどれだけの検査が必要になるのか。樹脂成形品で成形が終わった後に後加工しないとそんな寸法にはならない」という意見が返ってくるという感じです。

なぜ日本は3DAが広まらないのか

鈴木

なぜ3DAが広まらないのかということについてですが、長野高専では、2014年からJEITA(電子情報技術産業協会)という業界団体の協力もあり実施されている設計工学会のコンテストに出ております。私自身は海外にも行って幾何公差を学んだりしてきたのですが、あの頃から3DAを普及させたいがJEITAの会員企業もなかなか受け入れてくれないという状況でした。そこで、まずは学生にコンテストに出させてみようということで始めた経緯があります。しかし、いまだにJEITAの会員企業で3DAを導入している企業はないという状況です。
3DAは米国では、例えばGE(ゼネラル・エレクトリック)で導入されているということですが、GEでは全社的に導入されているのでしょうか。

財前

GEのような例は海外ではもう珍しくありません。国内で3DAをはじめた企業には、日本と海外で共同開発をしているところが目立ちます。海外拠点から指示されてようやく始めるというケースが多いですね。

鈴木

外圧で、というのはいかにも日本らしいですね。

山口

お二人も既に感じられているかとは思いますが、 3DAの普及には、まずは幾何公差を浸透させ、さらに現場で読めるようにするため社内で教育したり、設計部門全体で統一的に使用したりしていかないかぎり、3DAの導入は進まないでしょうね。寸法公差図面をそのまま3DAにするのでは、見づらくなるばかりで、セマンティックな情報としても活用は難しいかと思います。海外でも100%幾何公差が使われているわけではありませんが、米国ではASME、欧州ではISOの最新の規格による図面作成の動きが一部ではあります。日本ではまだJISに書かれていても寸法公差だらけの図面があふれていますよね。そろそろ幾何公差に取り組まなければという段階には入ってきているかと思います。ただ、図面に幾何公差を取り入れると公差解析が大変になるため、ツールを使用したいという声も増えています。まずは幾何公差の普及から始めていくことが重要かと思います。

鈴木

幾何公差は本を読めばある程度ルールを理解できても、実際に図面を描くとなると、なかなか難しいものがあります。そこで教科書に載っている図面を幾何公差に変換することを数年続けて習熟していく、そのための教育や実習が不足しているのかなと感じています。

山口

専門的に教えてくれるところがなかなかなく、図面の描き方は先輩からの引き継ぎで指示されたものであったりします。JEITAでは年1回程度、幾何公差に関する教育を行っていますね。そういうところから普及していくといいですよね。

鈴木

幾何公差のルールの説明は、コンテストの研修でJEITAより、2日間くらいかけてじっくり実施されます。そこから私は半年ほどかけて半期の授業を行います。そのあと、初めてコンテストに出す実習を経てようやく理解する。それくらいの時間軸がないと、理解は難しいです。

従来型メディアへの配慮を

山口

弊社でもJEITAの活動に参加をしており、設計コンテストの審査に参加させていただくことがあるのですが、長野高専の学生さんの描いてくる図面はいつもよくできていて、「鈴木先生からしっかり教わっているのだろうな。学生さんたちもがんばっているな。」と皆さん話されています。

鈴木

毎年いろんな課題を出して、それを学会向けの「講演論文集」という形にまとめています。それで少しずつノウハウがたまってきたということもあると思います。
これは2020年のコンテストで一番良かったものなのですが (図1)、「これが見やすい図面なのか」と言われたらまだまだ課題はあります。というのも、穴などに幾何公差を指示しているのですが、部品の凹凸などもあり、指示線が部品を貫通しているところがあるなど多少わかりにくくなっています。公差記入枠の向きもあっち向いたりこっち向いたりしている状態です。

図1 2020年のコンテスト作品

鈴木

こういう状態を見ると、2D図面は寸法や公差の指示という点では、やはり見やすかったと感じます。 3DAの本質は、「モデルが公差情報を持つ」ということだと思いますが、その反面うまく配置しないと見づらいということが難点です。3DAは見やすさが改善されればもっと普及していくだろうという一方で、製造部門からの「紙やPDFファイルで2Dの図面をほしい」という要望はなかなかなくならないでしょうね。例えばCADからの出力として3D PDFというものがありますが(図2)、こういうPDFファイルを製造部門に渡したら、「何ですか、これは」と言われるでしょうね。そこで3DAに一歩足りないのは、「従来型メディアへの配慮」なのかなと感じています。

図2 3D PDFの一例

鈴木

公差情報を従来型メディアでもうまく出力できるような配慮があれば、安心して移行できるのではないでしょうか。特に数百人、千人という大企業にとっては簡単には移行できるものではないですから。私が在籍していた会社でも2D CADからPro/ENGINEERに移行したときは、ベテランエンジニアは「3Dでは設計ができない」と言っていて、紆余曲折がありました。従来型メディアに十分な配慮がされていて、「いざとなればすぐ元のやり方に戻れる」という安心感があれば、3DAへの移行が進んでいくのではないかという気がしています。

財前

特にJEITAに関わるハイテク関連の産業などでも2D図面は必要と言われていて、設計後に図面に貼り付ける機能というのは必要であると認識しています。Creoですと、少し浮かした平面上に寸法を設定すると、実際に指示している箇所と点線でつないで表現してくれます(図3)。

 

図3 Creoでの3Dモデル

3DA 導入のメリットとは

財前

改革をしようとする際に、どうしても従来の日本では「我々はこの方式にするから、ついてきてください」というやり方が、自動車業界ではあったのかもしれません。しかし、それ以外の業界、特に「2Dは必須」というところには、なるべく今までと同じ形式のものを、いかに簡単に素早く作れるかを考える必要があります。そうなると、結局のところ従来よりも設計などで時間がかかってしまうケースが多いのかもしれません。では、時間をかけてメリットがあるかどうかを考えると、先ほどのマシンリーダブルの話に戻りますが、後工程など、どこかの工程でそれ以上に工数を削減できれば全体としては良いのですが、どこかで工数が増えることに抵抗がある場合も少なくないかと思います。ただ昔に比べるとやらないといけないというお客さまが格段に増えてきました。「やるなら今だ」という感じです。特に DXの流れで何か改革しなければいけないとなった時に、設計側で一番人気があるのがこの3DAに代表される「モデル中心」の考えです。モデル中心の考え方が浸透していくと、何かを流用してモデルと図面を作る時も、モデルと図面が離れているよりも、モデルにすべての情報が含まれている方が本来は流用も早いはずです。

鈴木

モデルと図面の不一致が生じたりすると困りますね。昔は、不一致のことで怒られたり、質問されたりということがよくありました。

財前

Creoは2D図面の機能が、昔よりだいぶ良くなっています。2D上の使い勝手を向上させるというよりはむしろ、いかにモデルに入れたものを2D図面に表示させるかに着目しているところがあります。 Creoの2D図面は、他の3D CADよりもモデル中心になっているので、Creoのお客様のほうが、3Dに移行しやすいかもしれません。あとから2Dに変換したらそれでいいじゃないかという発想ですから、 2Dで表示して整理するよりも、まずは3Dでやってしまって、あとで2Dに変換する。あまり2D上で新たに線を描くこともしない設計になっています。

鈴木

3Dモデル上ですべての指示を完結して、先ほど話題に出た3D PDFのように、2Dで読みたい人のためにも従来の製図のように読めるエクスポートの方法があれば、すごくいいなと思います。CADの機能上、入力が出来ないところに、どうしても必要な線などを描く必要が生じるということがたまにあります。その機能がないと、困ってしまう場合があります。ですから、3Dモデル上で線だけは描けるといった機能があるといいですね。3Dモデルにデータを集約してエクスポートできる安心感があれば3DAはもっと広がっていくと思います。

財前

3DAの導入により工数が削減できるなどのメリットがあることが大事だと感じます。海外では3DAへ移行していく中で、それまでの2D CADによる図面作成をやめるのが早かった。海外の企業のほうが、割り切りがいいというのはあります。CADに限らずそうですね。なにか先進的なことをやる、新しいことをやったらほめられるという文化があるのかもしれません。
当社も社内システムがよく変わります。コストが下がるとか、クラウド化が進むといった何かしらのメリットがあるのでしょうが、有無を言わせず変わる時は一気に変わります。それで必ずしも使いやすくなるとは限らないのですが、一気に変える思い切りのよさがあります。その一方で、メリットがあるとしても、「すぐにばっさり変えられない」というのが日本人の気質なのかなとも思います。

鈴木

そうですね。やはりシステムを一気に変えるのはなかなか難しいものがあります。現場の設計者が求めても、システムを管理する側が首を縦に振ってくれないところがあります。

財前

JEITAや、PTCのユーザー会でも、3DAのデータの長期保管の話が出ていました。たとえば、CADを別のCADに移行する時に、3Dモデルと2D図面を移行できず、データの連続性が切れてしまうことが多いですね。モデル上に3DAが付属していれば、3Dデータとして新しいソフトに渡すことができます。PDFにきれいに表示するとか、STEPできっちり出力できるのは、長期保管の観点でも非常に良いことだと思います。本当に3Dが中心という状況になれば、後々のことを考えると、データをきれいに整理するという観点でも、情報を3Dに集約したほうがいいと思います。PTCとしても、バージョンアップごとに、STEP AP242など、書き出せる情報をどんどん増やしています。当然、その他のフォーマットの選択肢もありますが、私たちメーカー側が、どれだけ標準的なフォーマットで出力できるかについて、率先して取り組んでいくことは、いろいろなメリットがあります。お客様の目線、学校の目線、ITの目線など、さまざまな方面から、「これがいいよね」と言っていただけるようにならないと、まだまだ広がりにくいところがありますね。

山口

先ほど、鈴木先生が話されていた、「どうしても線を入れたい」という意見は理解できます。ただ、 3DAに集約しようとしたときに、意味のない線を入れて、たとえばそこに寸法を入れるなどすると、マシンリーダブルでなくなることもある。両方のいいところを取るのはなかなか難しいものがあるのかなと思いました。

鈴木

たしかに、おっしゃるとおり矛盾しているとは思います。とはいえ、うまく線を入れられないときに3DAをスクリーンショットで撮影して、線を PowerPoint上で追加するという妥協をして、コンテストに応募することもあります。どうしても、規格が進むスピードと、CADの開発スピードにはタイムラグが生じます。そうしたときに、ちょっとした例外を許してくれるとうれしいです。指示線がうまく入れられないとか、まったく例外を許してくれないと、何もできなくなってしまいますから。

財前

2021年12月に開催した3DAのセミナーではGEの事例を取り上げましたが、GEではまったく逆の発想で、「人の目に見えていても、マシンが解釈できなければ意味がない」と、マシンリーダブルそのものが目的のようになっています。

鈴木

なるほど。日本の場合、製図文化が強い、こだわりがあるという面がある気がします。以前所属していた会社も、製図へのこだわりが強くて、検図が本当に大変だった思い出があります。

3DA を普及させるためには

鈴木

3DAをもっと普及させるためには、幾何公差図面のサンプルをたくさん提示していくことが効果的だと考えています。学校で取り上げる設計製図ではVブロックや軸継手のようなシンプルなものばかりです。企業が、自社の図面を外部に出すのはなかなか難しいとは思いますが、サンプルがもっとたくさんあるといいなと思っています。
私は幾何公差図面のサンプルを作って公開しているのですが、描き方の雰囲気を理解しやすくなれば、基礎的な講習を受け、知識がある人ならどんどん手をつけていけるのではと感じています。図面のサンプルがたくさんあると、幾何公差の図面の雰囲気が分かってきて、講習で受けた内容とリンクしてきます。JEITAが開催している講習は、私の学校の学生も年に1回受けるのですが、知識は一通り身についても、いざ部品に展開しようとしたときになかなかリンクしないのです。

財前

確かにそうですね。2Dのときには標準製図集がありました。3Dでモデルを作成して、それを図面に起こすときにどういった機能が足りないのか、確認するための図面集です。こういった幾何公差に対応した標準製図集のようなもの、しかも、3Dと2Dに起こしたものがセットであれば、非常にいい教材になるだろうと思います。

鈴木

標準的な図面として、私のホームページでは設計コンテストのモデルなどを公開しています(図4)。公差計算の方法や、幾何公差の描き方など、みなさんに情報を共有したいと考えています。たとえば、スパナを幾何公差で描こうとすると、意外と難しい。 Vブロックなど簡単なものも含め、このように指示するとよいとか、アピールができるといいなと思って公開しています。また、設計工学会でも、幾何公差の教材を作ろうという話が立ち上がりつつあります。幾何公差はこうやって描くということを学ぶ教材になるのですが、なおかつ3DAではこう描いていくという未来の姿も示したい。当たり前にあるサンプル集として世に出すことができれば、3DAも前に進むのではないかなと思っています。半年に1回ほど、自分にノルマを課して、製図の教科書の巻末にあるような図面を幾何公差で描き直し、他の先生方にも意見をいただいた上で、ライブラリを徐々に増やしています。たとえばそこに、3DAもいっしょに出していくという流れがつくれれば、サンプルが増えてきますから、こうした活動を続けていくのが、未来の図面への一助にもなるのかなと思います。

図4 鈴木先生のホームページ
図5 公開されている図面の一例

財前

鈴木先生の取り組みのように、日本語の情報がたくさんあると、3DAをはじめる人ももう少し増えるかもしれないと、私も思います。

3DAモデルから詳細設計への課題

山口

 鈴木先生からは「3次元による構想設計と詳細設計への展開を実現したい」というコメントをいただいております。これは構想設計で作成したモデルを詳細設計にうまく展開していきたいとお考えなのでしょうか。

鈴木

そうですね。構想設計に関しては、私の学校では学生にポンチ絵を描かせたり、粘土のモデルをつくらせたりしていますが、そうした設計の流れを、よりわかりやすく示せるものがあればと思っています。

山口

構想設計モデルと詳細設計モデルが別になっていることなどもあり、企業にもよるのかもしれませんが、詳細設計のモデルを作るときは、一からきれいなモデルで作る場合が多いのかなとも感じています。今は、あまりモデルがつながっていないから、続けて作るというより、一度まっさらなモデルから作り直すことが多いのでしょうか。ただ、本当は各モデルがつながっているほうがいいと感じます。そういえば、Creo にはスケルトンモデルがありますよね?

財前

はい、あります。簡単な構想設計のモデルで、基本的な動きなどは事前に定義しておいて、それに肉付けをして設計をしていこうというものです。デモンストレーションなどでも、よく紹介させていただいています。これがスケルトンという基本モデルで、基本モデルを変更すると詳細モデルや図面も連動して変更します。(図6)。

図6 スケルトンモデルの例

山口

スケルトンモデルは、Creoの普通のモデリングとはどのあたりが違うのでしょうか?

財前

形を作る機能は一緒ですが、スケルトン特有の振る舞いをします。実際にはモデルには含まれないものなので、部品表を作った際に部品表に現われないとか。寸法バリエーションがある場合には寸法を変更すると、全体が連携します。スケルトンのモデルでは、アセンブリモデルを作ってから動きを検討するのではなくて、スケルトンモデルから動きを定義して、モデルを動かしながら確認したりします。スケルトンモデルから各部品の詳細設計を進めたり、スケルトンモデルの寸法を変更すると各部品のモデルにも反映されたりします。

山口

ここまで連携するなら、スケルトンモデルを使わない手はないですね。

財前

スケルトンモデルは、外装部品の設計でもよく使われています。樹脂など成型する外装部品は、外装をスケルトンモデルにしておいて、外装部品の変更が他の部分のモデルにも反映されることになります。

山口

スケルトンモデルという機能自体は数年前から聞くようになったと思いますが、元々こういった構想設計というものは、Creoの機能として備わっていたのでしょうか?

財前

「マップ」と呼ばれる手法を作ったのがPTCなのですが、この手法では、まず各部品がどこに配置されるかという設計図があって、その各部分に部品を設計していきます。そこに構想設計の機能を追加して進化したのがスケルトンモデルという手法です。骨組み、骨格という意味ですが、骨格にあたる情報をスケルトンモデルに描いて、それ以外は、スケルトンモデルと連携して、コピーして肉付けしていきます。スケルトンモデルを変更すると、全部にその変更が反映されます。これを「トップダウン」設計と呼んでいます。機能的にはCreoは結構機能が豊富だと思います。
あともう1つ、ノンヒストリーのCADがPTC製品にあるのですが、ノンヒストリーのCADを使っていると、あまり「構想」「詳細」という切れ目がありません。「構想設計」、「詳細設計」という言葉自体、そもそもユーザーはあまり意識していないのかもしれませんね。

鈴木

設計の初期ではきれいに作られたモデルが、設計の最後のほうでは、だんだん崩れてくることが結構ありました。そうなると、あるところでモデルを作り直さないといけなくなるのです。
例えば、カメラを設計する場合、フイルムのカメラでは、結像面をZ=0 、原点として設計しますが、デジタルになった時にはそこが微小に動いてしまう、動かせてしまうということがありました。そのせいで、原点が端数でずれてしまうことが結構ありました。そんなことを繰り返しながら、メカ設計を行なっている間に光学設計も動いており、「レンズが変わりました」って何度もインポートしたりすると、モデルはもうグチャグチャになってしまって、 Z=0にしたいところが全然違うところになっていたりします。他の人にはとても見せられないような、その後の設計変更に耐えられないモデルができてしまったこともありました。

財前

こちらの図(図7)はパラメトリックの王道的なものなのですが、スケルトンモデルを作るところだけノンヒストリーの機能を活用できます。範囲を囲んで引っ張ったり、縮めたりといった操作を自由に行なって、それを連動させることもあります。あとは、パラメトリック的には望ましくないかもしれませんが、最終的にどうしてもうまくいかない場合はダイレクト機能で強引に編集してしまうということもできます。

図7 Creo におけるトップダウン設計

鈴木

構想段階から進み、新たな部品を作成して、構造が変わってくると、初めに戻ってモデルを作り直すということがありましたが、このような機能があるとそれが防げるので、スケルトンモデルとパラメトリックモデルの連携はすごくいいなと思いますし、構想段階から進んでいく中で、どうしても連動を切る必要が生じる時もありますので、それを選択できる余地があるのも、すごくいいなと思いました。

ユーザー会を通じた3DA普及の取り組み

山口

鈴木先生からMBD(モデルベース開発/設計/定義)環境と3DAを活用した情報共有を実現したいというコメントをいただいておりましたが、その点についての考えをお聞かせいただけますでしょうか。

鈴木

そうですね。今はそこまで全然できておらず、コンテストではやってはいるものの、一体どうしたら浸透するかなということを考えています。現時点ではおそらく、企業レベルではまだまだ浸透していないのかとも感じてします。

山口

先生のホームページが広がると、そういうところにも繋がるかもしれませんね。あと、3DAに限った活動ではないかと思いますが、設計工学会でも今色々と活動されていますよね。

鈴木

例えば製図の教科書では、2Dは併記しつつも3DAが普通に書かれているというくらい意識が変わる必要があるかと。今の教科書では、3Dのモデリングが軽く触れられている程度です。できれば、教科書は 3DAが書いてあるのが当たり前というところを目指したい。学校の場合は教材さえあれば、展開が早い気がします。学生は、教員の側から提示すれば素直に受け入れてくれるところがありますので。一方で企業は、2D図面のよさに慣れてきた製造側が、なかなか3DAを読んでくれないという問題もあるかと思います。できれば企業の皆様とも協力して、何かできることを探したい。どう変えていけばいいのかというところも、お伺いしたいところです。

山口

PTCでは3DAに関するセミナーなども開催されていますが、他にも何か関連するような活動があるのでしょうか。MBD自体のコンサルティングはあるかと思いますが、3DAに関連したものなどもありますか。

財前

目立つ活動としてはやはりユーザー会でしょうか。 CADの中でも「3D-DTPD(デジタル製品技術文書情報)ものづくりフォーラム」という会があり、幾何公差の啓蒙活動にも取り組んでいます。例えば、 20215月に開催したユーザー会「あなたの図面は令和?昭和?」(図8)では幾何公差のない昭和の図面と今の令和の図面を比べて「幾何公差があいまいさの観点からもどうして必要なのか」といった議論をしています。また、実際に幾何公差を入れる例などを動画で紹介したりもしています。幾何公差の設定では、Creoに搭載されているGD&T Advisorというアプリケーションを使い込んでいけば、工数はかなり減らせると思います。

図8 ユーザー会「あなたの図面は令和?昭和?」の内容一例

鈴木

GD&T Advisorというのは、サイバネットで取り扱っている公差解析ツール、CETOL 6σ のように未定義のところがあると指定してくれるようなツールなのでしょうか。

山口

そうですね、拘束されていないサーフェスなどがあるとアドバイザーに警告が出ます。弊社の子会社でもあるSigmetrix社が開発したもので、CETOLと同じように各形体の自由度を考慮しています。幾何公差と同じように、これらも使っていかないとなかなか定着していかないと思いますし、そもそも幾何公差がきちんと理解できていないと、正しいかどうかも判断が難しいかもしれません。頭ではわかっていても自分の図面に展開してみて、悩みながらレベルアップしていかないと、幾何公差もツールも使えるようにはならないですよね。

鈴木

そのユーザー会はどのくらいの頻度で開催されているのでしょうか。学会以外でもDTPDに関連したユーザー会があるというのはちょっと驚きですね。

財前

3 ヶ月に1回ぐらいの頻度ですね。各会によって開催頻度は異なりますが、3D-DTPDものづくりフォーラムは割と活発だと思います。
PTCユーザー会では、機能追加のご要望なども当然ありますが、皆さんが問題意識を持って「こういうことをやっていきたい」というテーマに沿ったものを取り上げています。各メーカーのエンジニアの方が自主的に参加されていて、フォーラムの代表の方が次の日程を告知して皆さんが参加されるという感じです。昨今の状況からWeb開催が多いので、参加率も上がっています。JEITAでの活動をここでも実施しているような感じです。以前はサイバネット様にもユーザー会に参加いただいていました(図9)。 Onshapeや教育向けのCreoライセンスなど、ご利用いただけるものがあれば、それを是非使っていただいて、ユーザー会のメンバーとも話をされると、色々な情報を得られるのではないかと思います。

図9 弊社が参加させていただいたユーザー会

鈴木

現在では企業関係者と接触する機会は、JEITAや過去に所属していた会社に限られていますので、是非参加させていただければと思います。

山口

鈴木先生、財前様、本日は貴重なお時間、お話をいただきましてありがとうございました。

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