コラム
ペロブスカイト太陽電池の効率・耐久性を高める技術と解析手法
PEROVSKITE SOLAR CELL SOLUTION
実用化を目指して日々研究が加速している、ペロブスカイト太陽電池。
高効率化・長寿命化を目指す上で欠かせない設計解析手法について解説します。
高効率化・長寿命化を目指す上で欠かせない設計解析手法について解説します。
INDEX
- ペロブスカイト太陽電池の設計課題と光学特性
- ペロブスカイト太陽電池の効率向上・耐久性向上事例
- 太陽電池設計・解析に使えるソフトウェア
TOPIC 1ペロブスカイト太陽電池の設計課題と光学特性
ペロブスカイト太陽電池とは、色素増感太陽電池の色素を、結晶構造を持つ鉱物(ペロブスカイト)に置き換えたものです。
シリコン系や化合物系の太陽電池では発電が難しい曇りや雨の日などの弱い光や蛍光灯の光でも発電効率が大きく減少しないため、薄くて軽いフィルム形状で十分に太陽電池として機能させることができます。
柔軟性を持たせることも可能なため、例えば建物の外壁や窓、EVの外装部分や農業ハウスなどに広く設置することが可能で、次世代の太陽電池として注目を集めています。
本ページでは、ペロブスカイト太陽電池の課題について解説するほか、当社の設計・解析事例、ソフトウェア活用事例もご紹介することで、設計者の皆さまの課題解決をサポートします。ぜひ最後までご覧ください。
ペロブスカイト太陽電池の基本構造と特性

ペロブスカイト太陽電池は、以下の5つの層で構成されます。
透明導電層(TCO):光を透過させながら電流を取り出す。
電子輸送層(ETL):光吸収層で生成された電子を電極へ輸送。
ペロブスカイト層:太陽光を吸収し、電荷を生成する主要な層。
正孔輸送層(HTL):生成された正孔(ホール)を電極へ輸送。
金属電極:光電変換された電流を取り出す。
ペロブスカイト材料はバンドギャップを調整しやすいため、シリコン太陽電池と組み合わせたタンデムセル構造を採用することで、単独での性能を超えた高効率化が可能です。
そんなペロブスカイト太陽電池ですが、まだ本格的な実用化には至っていません。実験室レベルでは25%以上の高効率が達成されていますが、実用規模の大面積セルでは効率が担保されておらず、また、安定した発電効率を維持できる技術が必要です。また、長期間の使用で湿気・熱・紫外線により劣化しやすく、耐久性の面でも大きな課題があります。このように、大規模な商用展開にはさらなる技術開発が求められています。
発電効率の課題と高効率化に向けたデバイス設計のポイント
ペロブスカイト太陽電池の発電効率の最大化にあたっては、光学設計の段階で光の取り込みを最適化し、その後の電極・電荷輸送の段階でも電荷のロスを抑えることが不可欠です。具体的には、以下のような課題に対して対策が必要です。

光吸収の最大化
屈折率の異なる層の境界では反射が起こります。ペロブスカイト太陽電池は薄い層が何層も重なることで構成されるため、光の干渉により電場強度に分布が発生し、場所によって吸収量が変化してしまいます。このため、光の干渉を考慮した設計を行っておく必要があります。
また、ペロブスカイト太陽電池とシリコン太陽電池のタンデム型太陽電池では、ナノテクスチャリング(微細な凹凸構造)を活用し、光の散乱を増加させることで、吸収効率を向上させることができます。
電極設計の最適化
ペロブスカイト太陽電池の電極は、光の透過と電荷輸送の両面で最適化する必要があります。上部電極(透明導電層)が光を反射・吸収すると、取り込める光の量が減少し、発電効率が低下します。このため、電極やその上に積層する反射防止膜の屈折率を適切に定めて反射を減らす、さらには、電極の仕事関数を適切に設定して電荷注入を良くするなどの検討が必要となります。 また、下部電極(背面電極)には高反射率の材料を用い、透過した光を再吸収させることで、さらなる光利用効率の向上が可能です。

キャリア輸送の効率化
光を吸収して生成された電子と正孔がスムーズに電極へ輸送されなければ、再結合損失が発生し、発電効率が低下します。ペロブスカイト層と電子輸送層(ETL)、正孔輸送層(HTL)の界面でキャリアの移動が妨げられることがあり、これを改善することが重要です。 例えば、電子輸送層に酸化スズ(SnO₂)を使用することで、従来の酸化チタン(TiO₂)よりも電子移動度を向上させることができます。また、界面欠陥を低減するために、界面改質層を導入することで、キャリアの移動をスムーズにし、エネルギー損失を最小限に抑えることができます。
これらの課題は、太陽電池の光学・電気シミュレーションソフトウェア「Setfos」を用いて、一気通貫的に解析することが可能です。設計段階でしっかりとシミュレーションを行っておくことで、その後の設計変更や手戻りが減り、結果的に開発期間を短縮することができます。
寿命・耐久性の課題とその解決策

また、湿度・酸素・光・熱がペロブスカイト材料を分解し、
性能低下を引き起こすことも、実用化を阻んでいる大きな問題とされています。
これらについても設計上の工夫が必要です。
湿気や酸素の影響
ペロブスカイト材料は水分や酸素と化学反応を起こしやすく、
時間とともに結晶構造が崩れて性能が低下します。特に高湿度環境では
急速に劣化が進むため、長期間の安定運用が難しくなります。
この対策として、高密度の防湿フィルムを電池表面に追加し、水分や酸素の侵入を防いだり、有機・無機材料を組み合わせた封止層を形成し、空気中の酸素や水分の影響を最小限に抑えるなどの対策が考えられます。
熱による分解
高温環境も劣化の大きな要因です。温度が上昇すると結晶構造が崩れ、発電効率が低下します。特に屋外使用時の夏場の高温が大きな課題となります。
無機ペロブスカイトなど、熱に強い材料を採用したり、酸化スズなど耐熱性のある電子輸送層・正孔輸送層を使うことで、熱による劣化を抑制することができます。
紫外線による分解
ペロブスカイト材料は紫外線にさらされると化学変化を起こしやすく、時間とともに変質して性能が低下するため、長時間の屋外使用が難しい現状があります。紫外線吸収層を追加して、紫外線がペロブスカイト層に到達しないようにする研究も行われています。
劣化の時間変化は、ペロブスカイト太陽電池デバイスの素子寿命評価ツール「Litos Lite」で測定でき、劣化前後のデバイスを有機EL・太陽電池デバイスの電気・光学特性測定器「Paios」を用いて測定して、素子の物性パラメータを解析することで、劣化原因を解析することが可能です。実物がない場合はシミュレーションソフトの「Setfos」で解析することで物性パラメータ設計の方向性を定めることが可能です。
TOPIC 2ペロブスカイト太陽電池の効率向上・耐久性向上事例
ここでは、実際にシミュレーションソフトウェア・計測ツールを用いて、ペロブスカイト太陽電池の効率向上・耐久性向上を目指した事例の過去セミナー動画、ダウンロード資料をご覧いただけます。すべて無料で閲覧可能ですので、ぜひ一度ご確認ください。
ペロブスカイト太陽電池の劣化と特性評価 (ダウンロード資料)

本資料では、ペロブスカイト太陽電池の劣化メカニズムについて解析しています。異なる温度に晒されたペロブスカイト太陽電池について、測定器「Litos」と「Paios」を用いて劣化の進行をモニタリングし、温度変化によるペロブスカイト層の材料特性変化を分析しました。その結果、高温環境下ではペロブスカイト層の構造変化が主な劣化要因であり、室温での劣化については移動イオン密度の増加がデバイスの性能低下と強い相関があることが示されました。
その他の太陽電池関連事例
TOPIC 3太陽電池設計・解析に使えるソフトウェア
以下ページにて、当社で取り扱っている光学解析ソフトウェア・測定器のうち、太陽電池設計に適した製品をご紹介しています。
サイバネット 光学エンジニアリングサービス

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