分野別の課題
Setfosによるタンデム型有機太陽電池のEQE評価
解析分野:電磁光学的解析 業界:太陽電池
こんな方におすすめ
- 有機太陽電池の研究者・開発者
- タンデム太陽電池の研究者・開発者
- 有機太陽電池のEQE評価に興味のある方
概要
本解析では、FLUXiM AGの有機EL・太陽電池シミュレータSetfosを用いて、有機タンデム太陽電池における外部量子効率(EQE)を高精度に再現・解析する手法を紹介しています。光学シミュレーションと電気シミュレーションを連成することで、サブセルごとの電流制限の影響、バイアス照明と内部電圧の関係、EQEと吸収率の比較について解析しています。
使用ソフトウェア・測定器
Setfos(Absorptionモジュール、Drift-diffusionモジュール)
有機EL・太陽電池シミュレータSetfosは、多層構造による光学的および電気的な影響を包括的にシミュレーションできるソフトウェアであり、有機EL・有機太陽電池・ペロブスカイト太陽電池などの研究開発を支援します。
解析目的および解析手法
背景と目的
太陽光発電の技術を選定するとき、効率と耐久性の両方が重要なポイントとなります。特に、設置費用が総コストの大部分を占めるような場合では、これらの要素はより重要になります。単接合太陽電池は広く使用されていますが、太陽光を電力へと変換できる効率には物理的な限界があり、大きな性能向上は見込みにくくなっています。そこで近年、注目を集めているのがタンデム太陽電池です。タンデム太陽電池はトップセルとボトムセルで異なるバンドギャップを持つ光吸収材料を使用することで、単接合太陽電池よりも広範囲の太陽光スペクトルを吸収し、電力へと変換することが可能です。しかし、タンデム構造は複雑であるため、4端子設計における製造コストの増加や、2端子構成での電流マッチングと長期的な安定性などに課題があります。
解析対象
図1に本解析で用いる有機タンデム太陽電池の構造を示します。上部セルにDR3TSBDT:PC71BMを吸収層として使用し、下部セルにDPPEZnP-TBO:PC61BMを吸収層として使用しています[1]。2つのサブセルは、ZnOとPEDOT:PSSで構成された再結合層で接続されています。CuSCNとPFNは、それぞれアノード側とカソード側の薄い電子およびホールブロッキング層として使用されています。ITOとAlが電極を形成しています。

図1:光学/電気シミュレーションの設定
解析手法
Setfosを使用した、光電連成シミュレーションは光学シミュレーションと電気シミュレーションの部分に分けることができます。光学シミュレーションは、太陽電池の吸収率と外部量子効率(EQE)の最大値を見積もるために必要です。Setfosの光学シミュレーションでは、コヒーレント/インコヒーレント光の両方の伝搬を扱うために、伝送行列法とNet radiation法に基づいた1次元モデルを使用します。一方で、光電連成シミュレーションでは、スタック内の各層における様々な損失の影響を評価できます。光電連成シミュレーションにおける電気シミュレーションでは、1次元の連続の式とドリフト・拡散モデルに基づく電流密度式を、静電ポテンシャルを記述するポアソン方程式と組み合わせて数値的に解きます。2つのサブセル間の界面における電荷輸送を記述するために、Miller-Abrahams(MA)理論に基づくホッピングモデルを使用しています。このモデルはSetfosにも実装されており、無秩序な材料中での熱活性化ホッピング輸送を表現します。光電シミュレーションを開始するには、光学および電気シミュレーションの両方に対する入力パラメータが必要です。光学シミュレーションでは、各材料の複素屈折率の実部と虚部(n、k)が材料パラメータとして必要です。これらのデータは、エリプソメトリー測定などによって取得するか、あるいは本事例のように文献から引用することも可能です[2, 3]。電気シミュレーションには、スタック内のすべての材料におけるHOMOおよびLUMO準位のデータが必要です。これらのエネルギー準位は、一般的にサイクリックボルタンメトリーによる酸化電位の測定や、光学バンドギャップの評価、あるいはTDDFT(時間依存密度汎関数理論)などの量子化学計算から得ることができます。図1には、DR3TSBDT:PC71BMおよびDPPEZnP-TBO:PC61BMの波長依存のn, kの値と、それぞれの材料のエネルギー準位を含むレイヤースタックが示されています[1, 2, 3]。
電気シミュレーションにおける追加のパラメータとして、電界依存の電荷キャリアの移動度と再結合速度が挙げられます。これらのパラメータは、参考文献[1]にて報告されている単接合とタンデム太陽電池のデバイス特性と一致するように、複数パラメータの大域的最適化を用いて抽出しました。本事例では、図2に示すように、単接合セルおよびタンデムセルのシミュレーション結果の両方を比較することで、すべてのパラメータの精度を検証しました。

図2:左は単接合サブセルとタンデムセルの実験とシミュレーションによるJV曲線
右はSetfosでシミュレーションした単接合セルの層構造
解析結果
上記の実験とシミュレーションの比較により、モデルの妥当性が確認されました。そこでタンデム型有機太陽電池における電気的損失を分析し、外部量子効率(EQE)と吸収率の比較を行います。タンデム型有機太陽電池のEQEを決定することは困難です。なぜなら、特定のサブセルを選択的に測定するには、そのサブセルが全波長領域にわたって電流を律速している状態を作る必要があるためです。この条件を実現するには、適切な照射条件が必要です。有機太陽電池のさらなる課題は、電荷の取り出し効率が内部電場に強く依存することです。さらに内部電場は、照射条件に依存します。この問題を解決するために、AM1.5G照射下でデバイスが短絡状態で動作するのと同等の条件を、シミュレーションでは追加のバイアス電圧を用いて再現します。この設定により、太陽電池全体の電流特性をシミュレーションでき、実験条件を高い精度で再現することが可能になります。つまり、AM1.5G照射に近い条件を再現するために、強度を調整した単色のバイアス光を用いることができます。図3はトップセルとボトムセルの消衰係数を示しています。この結果から、上下のサブセルに対して最適な単色光(トップセル:470 nm、ボトムセル:700 nm)を特定できます。言い換えれば、トップセルのEQEを測定する際にはボトムセルに700 nmの光を照射してバイアスをかけ、ボトムセルのEQEを測定する際には470 nmでトップセルをバイアスします。そして、弱い単色プローブ光を照射したときに生じる電流の変化量から、EQEを算出します。

図3:トップセルとボトムセルの消衰係数と単色バイアス光の波長位置
シミュレーションにより得られた各サブセルとタンデム型有機太陽電池のEQEを図4に示します。破線はバイアス光のみを照射した場合の、実線はバイアス電圧を加えた場合のEQEを表しています。これらの計算結果は、参考文献[1]で報告されている太陽電池の実験データと比較可能であり、シミュレーションと実験で得られたEQEの傾向はよく一致していることが確認できました。

図4:左は光電連成シミュレーションにより得られたEQE(破線はバイアス光のみ、実線はバイアス電圧を印加)、参考文献[1]で報告されているEQEの実測値
まとめ
本解析から得られた重要なポイントは以下のとおりです:
- Setfosによる光電連成シミュレーションにより、有機タンデム太陽電池のEQE特性を実験と同様の条件下で高精度に再現可能である。
下記ボタンよりダウンロード可能な資料では、Setfosによるタンデム型有機太陽電池の内部電場がキャリアの取り出し効率に及ぼす影響を解析した結果が記載されています。ご興味がございましたら資料ダウンロードをお願いいたします。
サイバネットでは、ソフトウェア・測定器の取り扱い以外にも本事例のような解析に関するお悩みを解決できる委託サービスを幅広く提供しております。詳細はこちらをご覧ください。
※内容の詳細は、下記ボタンより資料ダウンロード頂けます。