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日立Astemo大手4社が融合して生まれた日本のメガサプライヤー、
クラウドによるシナジーで世界に勝つ


日立Astemo株式会社 パワートレイン&セーフティシステム事業部の有本志峰様に、CAEクラウドサービスを設計開発の現場で利用・展開するに当たって、どのような点に着目し、直面した課題をどのように解決したか、導入によってどのような変化があったかなど、お話しいただきました。

国内部品メーカー大手4社が集結して生まれ変わった日立Astemo

サイバネットシステム(以下サイバネット):はじめに御社についてご紹介ください。

有本様:日立Astemoは、2021年1月に日立オートモティブシステムズとケーヒン、ショーワ、日信工業という4つの大手自動車部品メーカーが経営統合し誕生した新会社です。日立Astemoという社名には、「先進的かつ持続可能な社会に貢献する技術を通じて安全・快適で持続可能なモビリティライフを提供する(Advanced Sustainable Technologies for Mobility)」という志が込められています。

日立Astemoは、拡充した企業規模と統合した4社の技術力によって、成長事業分野であるCASE(Connected、Autonomous、Shared& Services、Electric)領域における技術革新をけん引していこうと取り組んでいます。また、2030年までに生産ラインのカーボンニュートラル化と、先端技術を通じたCO2排出量削減を掲げています。

サイバネット:有本様はケーヒンに在籍されていましたが、統合によって業務に変化がありましたか。

有本様:業務内容は更に拡がりました。CAEに関わるメンバーも増え、さらにお互いに情報、技術共有を行い、補完しあっています。 私自身の業務自体は変わらずインバータユニットの設計開発に携わっており、設計改革を継続して推進しています。4社が統合したことにより、各社の得意とするところ、苦手とするところをお互いに補完し合い、上手くシナジー効果が出ているように感じています。他社だったらできない協力関係もいろいろなところで生まれました。

社会や組織の変化の中で柔軟かつスピーディーな開発を

サイバネット:旧4社は仕事のやり方やシステムが異なるので、自ずと設計システムもそれぞれに違うものが使われていると思いますが、統合にあたって問題となっていないのでしょうか。

有本様:おっしゃる通り、各社にはそれぞれCAE/CAD等を管理されている方がおり、やり方も異なっていましたが、大枠の課題は似たところがありました。例えば解析PCが足りておらず、解析したいときに使えない、解析規模に対してPCのスペックが間に合っていない等が挙げられます。 旧ケーヒン時代から我々は設計システムとしてのCAE端末はオンプレミスで増設していますが、サーバールームの容量にも限界があります。また、大規模な計算処理に合わせてハイスペックなマシンのみを採用していると、大規模ではない解析ではオーバースペックになってしまいます。そういった課題背景があったため、サイバネットCAEクラウドを導入していました。

加えて日立Astemoが誕生した2021年は、コロナ禍であったとともに、ウクライナ危機へ突入した年でもあります。半導体等の電子部品の逼迫により、ハイパフォーマンスコンピューター(HPC)の納期も半年はかかる、といった時期もありました。不確実性の高い状況下で柔軟に無駄なく解析体制をとれるという点もCAEクラウドには助けられました。

サイバネット:有本様はケーヒン時代、CAEを活用した設計業務改革を進めていらっしゃったそうですね

有本様:世界の自動車業界で自動運転システムや電動車への取り組みが加速し、設計がどんどん複雑化してきていた2010年代中~後期にかけ、エレメカ協調設計体制構築、マルチドメイン解析やModel Based Design(MBD)/Model Based Systems Engineering(MBSE)の導入の検討、クラウドシステム導入といった設計改革に取り組んできました。
会社統合後はお互いの会社の壁が無くなり、ふたを開けると、同様に設計業務改革に取り組んでいる方がおり、驚きと共にこれも時代のトレンドなのかと納得した面もありました。今も新しく仲間となった人たちと協力して、設計業務改革を推進しております。

世界で戦うためのクラウド

サイバネット:その当時、どういった課題があったのか教えて頂けますか?

有本様:2018年ごろ旧ケーヒンでは、マルチドメイン解析の実施で計算が大規模化してきたことへの対応としてHPCを導入していました。しかし大規模な解析ばかりではなく小規模な解析も多くあり、そうした場合はHPCではオーバースペックになってしまいます。しかし解析規模それぞれに全てのハードウェアを用意するのは、置き場所やコストなどの面で現実的ではありません。

また、設計者が解析を行いたいときに解析を行えるようにしていくという必要もありましたが、HPC環境に加えて1人1台のワークステーションを用意するのも様々な面から難しい状況でした。

しかし設計者が使いたいときにすぐに使える環境があるということは、設計プロセスの改革で重要なポイントでした。サイバネットCAEクラウドを活用することで、この問題を解決できるのではと考えていました。

サイバネット:それらの課題解決のために当社にお声がけいただいたのですね。

有本様:はい。この状況を何とかしようと、私どもが目を付けたのが、HPC環境やプリポスト環境がクラウド上にあり、必要な時に必要なだけ利用ができる「サイバネットCAEクラウド」でした。

今でこそ、導入が加速してきたCAEクラウドサービスではありますが、コロナ以前の自動車業界――特に私ども設計開発の現場では、機密度が極めて高い情報を取り扱うことから、クラウドサーバーよりもオンプレミスサーバーの方が安全だと考える風潮がありました。その現場にいた私自身、導入検討していた時点で、海外と比べて日本の自動車業界のクラウド化が遅れていると感じていたのです。とはいえ自社がグローバルで戦える競争力を備えるためには、クラウド導入の推進は必須だとも考えていました。

2. 導入の決め手は 『使い易さとセキュリティ』

導入検討においてポイントになったのは使い易さとセキュリティの2点です。より多くの設計者にCAEを普及・活用させる環境としてクラウド利用を検討し、他ベンダー製品に比べて使いやすく、誰でも短期間で利用できそうであることが、サイバネットCAEクラウドを選定した理由の一つです。
また、クラウドを利用するに当たって、セキュリティ面の確保は重要な選定ポイントになります。この点において、サイバネットシステムでは多数のセキュリティ製品やソリューションの取り扱い実績もあり、こちらも選定の大きな要因の一つとなりました。
他にも、1人1台のワークステーションを利用した際に必要となるスペースを考慮する必要がないといったメリットも、クラウドを採用した理由となりました。

「使いやすさ」と「セキュリティ」は欠かせない

サイバネット:サイバネットCAEクラウドを選ぶ決め手になったものは何でしょうか。

有本様:サイバネットCAEクラウド選定の決め手は、「使いやすさ」と「セキュリティ」です。多くの設計者にCAEを普及・活用させるためには、GUIの「使いやすさ」は重要です。サイバネットCAEクラウドは直感的で使いやすく、誰でも短期間で利用できそうであると考えました。また、CAEクラウドはAmazon Web Service(AWS)上のGraphics Processing Unit (GPU)付きのインスタンスを使えるので、プリポスト処理も快適に利用できますし、大きな解析を流す際には複数台のインスタンスをCAEクラウドポータルから起動して、クラウドの知識がなくてもすぐに解析が始められる点もポイントでした。

また、クラウドを利用するに当たって、機密データを取り扱っている関係上、セキュリティ面の確保は非常に重要です。この点において、サイバネットCAEクラウドではAWSのアカウントが契約企業ごとに発行され、セキュリティ対策がしっかりとされていることも選定理由として大きかったですね。

クラウド環境の導入効果

サイバネット:サイバネットCAEクラウド導入の効果について教えていただけますか。

有本様:サイバネットCAEクラウドを導入したことにより、高額な設備投資をすることなく、大規模解析が必要な時に必要なだけの計算能力を確保可能になりました。導入した結果として、「Ansys Mechanical」による大規模解析の時間が、従来使用していたオンプレミスマシンとの比較で9分の1にまで短縮できました。

サイバネットCAEクラウドを導入した後、2020年初頭に新型コロナ問題が起こり、我々もテレワーク導入を進めました。これに加えて会社の統合という、組織が非常に大きく変わるイベントもありました。そうした激動の状況に順調に対応できたのは、クラウドの環境を既に導入していたことも大きいと思っています。

サイバネット:現在の社内におけるCAEクラウドサービスの活用状況はいかがでしょうか。

有本様:いま日立Astemoでは、それぞれの組織同士の業務を横通しできる体制の構築に取り組んでいますが、サイバネットCAEクラウドがそれを後押ししてくれて、うまくいっている実感があります。他部署も、旧ケーヒンチームが運用しているCAEクラウドに興味を持ってくれていて、横展開でCAEクラウドの利用ユーザが徐々に増えています。

カーボンニュートラルへの寄与

サイバネット:サイバネットCAEクラウドの利用による省エネ効果が出ているそうですね。

有本様:サイバネットCAEクラウド自体、当社でも取り組むカーボンニュートラルに貢献しています。当社の一部で継続しているテレワークとの相乗効果で、省エネ効果につながっていると思います。

補足:
日立Astemo様では2022年の1年間でサイバネットCAEクラウドを利用することで、全オンプレミスで解析をした場合と比較して67%の温室効果ガス削減効果がありました。またこれによる2022年の年間のCO2排出削減量は0.4Mt-CO2eとなりました。2021年度の日立グループ全体におけるCO2排出量(スコープ1・2)実績の合計が3.41 Mt-CO2eですので、決して少なくはない数値です。

サイバネットCAEクラウドではAWSが提供するCustomer Carbon Footprint Toolを基にお客様のCO2排出削減量の試算レポートを提供しています。

今後の取り組み

サイバネット:他部署への展開も含めた今後の展望についてもお話しいただけますか。

有本様:日立Astemoでは今後、組織間のシームレスな横連携とシナジーをより促進していく方針です。現在、設計開発部隊のサーバーはオンプレとクラウドの併用であるものの、将来的にはさらなるクラウドへのシフトも視野にあります。また日立Astemo内だけではなく、日本の自動車業界全体で、クラウドを利用して企業の垣根を越えて協業していこうと取り組んでいます。そうなることで、日本の自動車業界が世界で勝てる力が培えると思います。

これからも、サイバネット様の技術やコンサルティングの力は必要です。良い提案などあればどんどんいただきたいですし、日本の自動車業界を盛り上げるべく、技術開発現場のクラウド環境を一緒に作り上げていけたらいいのではと考えています。