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ブラザー工業株式会社

IJデバイス統括部 小島正友 様
製造企画部 滝藤浩治 様

力学の基礎知識から実践まで一貫した教育で設計者のCAE活用を推進

ブラザー工業様ではかつて、複雑な解析なら専任者へ依頼することもありましたが、設計者が自ら解析を実施することは多くはありませんでした。しかし、主力製品であるプリンターや複合機に使用する樹脂部品の信頼性向上にフォーカスされるほど、解析が必要な部品点数は多くなってきました。そこで、設計段階で設計者がCAEを用いて解析できるように、2011年からCAEユニバーシティを利用した社内教育に力を入れています。

開催の目的

・設計者の解析スキル向上
・製品(部品)の信頼性向上
・解析専任者の負荷軽減

自社の課題

・設計者に対するCAEを用いた構造解析の教育ができていなかった
・設計段階で構造解析を実施しないことによる、設計の手戻りがあった

期待した効果

・CAEを正しく使える設計者を増やす
・設計フローのなかにCAE解析による評価を取り入れる

全社CAE推進部門:CAEを正しく使える設計者を増やすことが目的

Q 御社の事業概要と企業理念を教えてください。

ブラザー工業株式会社は、1908年にミシンの修理業として創業し、“At your side.”の精神を大切に成長してきました。この精神は、お客様に寄り添い、迅速に価値を提供することを意味します。弊社はプリンター・複合機、工作機械、ガーメントプリンター、産業用ミシンなど、多岐にわたる製品を提供し、それぞれの分野で顧客のニーズに応えています。また、40以上の国と地域に拠点を持ち、地域に根ざした事業活動を展開しています。創業以来、事業を通して社会に貢献することを目指しています。

本社近くのブラザーミュージアムに見る貴重な製品史

ブラザーグループビジョン「At your side 2030」

Q 所属部署の役割を教えてください。

私(小島)が所属するIJデバイス統括部は全社においてCAE教育の企画やサポートをしています。一方、滝藤が所属する製造企画部は、CAEに限らず技術系の公開研修として若手向けの教育をサポートしています。CAEユニバーシティにおいては二つの部署が連携・協力して運営しています。

導入背景:製品の信頼性向上

Q 導入の背景を教えてください。

当社のプリンター・複合機事業では樹脂部品を多く使用しており、樹脂を活用して耐久性と経済性のバランスがよい製品を設計・開発してきました。CAEそのものは30年ほど前から使用していましたが、当時は解析専任者が受託解析を行うケースが多い状況でした。

しかし、解析の需要が増加して解析専任者だけでは対応しきれなくなってきました。そこで、「CAEを扱える設計者を育成する」という方針に舵を切ったのが14年ほど前です。設計者にCAEを広めたいという背景があり、そこでCAEユニバーシティの導入を検討することになりました。

Q 導入前の課題を教えてください。

主な課題として、樹脂部品の耐久性に問題が起こり、設計変更が必要になることが頻繁にありました。

設計者のCAE習熟レベルについても課題がありました。大学でCAEの経験がある者はスムーズに扱えましたが未経験者にとってはハードルが高く、なかなかCAEの解析理論の理解が進まない状況でした。当社でも操作手順の講習は実施していましたが、基礎理論の理解が不十分なまま間違った使い方をしている設計者も散見されました。また、「実験と解析の結果が合わない」「解析の精度に疑問がある」「背景の理論を理解したい」など、構造解析を使い始めると直面する疑問に答えることができない状況でした。

Q その課題が、事業にどのような影響を与えていましたか?

耐久性の問題で不具合が見つかり手戻りが発生すると、金型修正などの費用が増大して開発コストが膨らんでいました。また、解析専任者の業務が圧迫され、開発力の低下にもつながっていました。これらの課題により、QCD(品質・コスト・納期)の目標達成が困難になっていました。

受講状況:過去14年間で累計300名近くが受講

Q どのような内容のCAEユニバーシティを実施されていますか?

年間を通じて8回程度の講座を実施しています。基礎である材料力学から始まり、構造解析や振動工学系の講座、そして最後に3日間のワークショップを行う一連の教育プログラムです。おおむね9月頃からスタートして年内に完了するスケジュールで、月に2回(2講座)程度のペースで進めています。

特に評判が良いのは材料力学の講座で、発泡スチロールで橋を作って材料力学を体験するような実験的な内容です。一方、構造、振動講座を経て最後のワークショップでは、それまでの講義を総括する形で課題が出され、3人程度のグループでCAEを使いながら最適な形状を求める実践的な内容になっています。

体験して学ぶ材料力学

実践的なワークショップ

その他にもe-ラーニングや、「EDURUNS」での動画による講座も組み合わせながら、幅広い設計者の解析スキルアップを狙っています。

Q 利用人数と利用実績を教えてください。

毎年約20名が受講しており、比較的多いのは入社3〜4年目の社員です。部署異動や担当業務が変更になるタイミングで受講する人が多いですが、役職定年直前に学び直しを希望して受講された方もいます。

CAEユニバーシティは2011年から継続しており、累計で約300名近くが受講しています。受講者の知識レベルは様々で、既に構造解析を業務で使っている機械系の出身者もいれば、化学系や物理系出身で基礎レベルの教育が必要な方まで幅広くいます。

Q 御社のなかでCAEユニバーシティがどのような位置づけか教えてください。

まずCAEは当社の製品開発に必要不可欠なツールです。CAEユニバーシティはCAEを正しく使える設計者を増やしているという点で、当社の競争力向上に役立っています。

新人研修ではAnsysの操作講習を実施していますが、実務でCAEを使うまでにブランクが生じて知識が定着しにくい課題がありました。CAEユニバーシティは、基礎から応用への橋渡しとして、実践力を高める重要な役割を担っています。

設計で使用しているCAEには、構造解析のほかに熱流体解析、機構解析、1DCAE、最適化などがあります。最も広く使われている構造解析の学習を通じて、V&V(Verification & Validation)の考え方を習得すれば、他の解析手法にも応用できると考えています。

受講者は上司の推薦で選ばれており、構造解析を使いそうな部署に対して受講者選定の依頼をし、上司が推薦するという形になっています。

Q 継続的にCAEユニバーシティを利用している理由を教えてください。

受講者の満足度が非常に高いことが大きな理由です。個別の講座後よりも、すべての講座が終わった後の方が満足度が高くなるという結果が出ており、一連の講座後、各分野の知識がつながり理解が深まることがわかります。

例えば、動的解析の受講直後には「自分はあまり動的解析を使わないから役に立たなかった」という感想をもっていた受講者がいました。しかし、最後のワークショップを経験すると「動的解析ってこうやって使えば業務に役立つ」と理解が深まり、高い満足度になっています。

また、受講者の上司がCAEの必要性を感じ、何日もの受講に理解を示してくれている点も、大きな助けになっています。

導入効果:設計へのCAE導入と競争力向上

Q CAEユニバーシティによって、業務がどのように変わりましたか。

解析専任者だけでなく、設計者自身がCAEを活用できる人材育成に注力することで、構造解析の利用者層が着実に増えています。現在では、特定の部品の設計段階において「構造解析結果を付けて上司に説明する」というルールが設けられており、設計者の業務フローの中にCAEが完全に組み込まれています。

Q CAEユニバーシティは、受講者からどのように評価されていますか?

受講者アンケートの満足度は2017年から2024年にかけて年々向上しています。参加者の多くは講座内容を高く評価し、具体的な応用法を学ぶことで、業務に直結する知識を得ることができたとコメントしています。

CAE活用の裾野が確実に広がっているという意味で、CAEユニバーシティは大きく貢献しています。

CAEの活用によって試作回数・台数の削減や、小型・高耐久製品のリリースなど、具体的な成果にも結びついています。

[2024年度講座アンケート集計報告]

*年間教育後に事務局で全体振り返りを行い、改善点があれば翌年の講座に反映すべくCAEユニバーシティ事務局と連携

[受講者から声]

今後の展望:設計者を育成しつつ管理者のレベル向上も

Q 同様の課題を抱えたお客様にメッセージはありますか?

材料力学の基礎から実験・解析まで一貫して学ぶことで理解が飛躍的に深まります。当社の場合は、単発の講座よりも、一連の教育プログラムとして実施する効果を実感しました。

最後のワークショップでは、すべての講座の要素を使って最適設計を行い、結果を発表するまでを体験できます。受講者が自分で考えて取り組むことで、理論と実践が腹落ちする仕組みになっています。

Q 今後、御社のなかでCAEユニバーシティをどのように展開していきたいですか?

昨年度は管理者向けの講座も企画しました。設計者や部下からCAE結果の報告を受けた管理者から「解析の妥当性を判断するのが難しい」という声が上がっていたためです。「とても参考になった」という声や「期待していた内容とは違った」という声など、受講者(管理者)からの評価は様々でしたが管理者向けの教育も重要だと考えています。

本社前にて
ご利用いただいた企業様

社名:ブラザー工業株式会社
事業内容:プリンティング・アンド・ソリューションズ事業、インダストリアル・プリンティング事業、マシナリー事業、ニッセイ事業、パーソナル・アンド・ホーム事業、ネットワーク・アンド・コンテンツ事業
従業員数:連結 42,801人/単独 3,903人 (2025年3月31日現在