

公益財団法人 計算科学振興財団
シニアコーディネータ
高原 浩志様
広く産業界にスパコンの有用性を周知したい
その入口として座学・実験講座を実施
スパコン(スーパーコンピュータ)の産業利用を促進する公益財団法人 計算科学振興財団(FOCUS)では、スパコン利用者の裾野を広げて産業界に貢献するために、CAEの普及・教育を行っています。2022年からサイバネットシステム株式会社(以下、サイバネット)のCAEユニバーシティを導入し、利用企業から高い満足度を得ています。
開催の目的
・スパコン活用による産業界の競争力向上
・スパコン利用の入口としてのCAE基礎教育
自社の課題
・企業によってスパコン活用への理解度が異なる
・地元企業へのシミュレーションに触れる機会の提供
・CAEの基礎知識の提供
期待した効果
・CAEへの理解の深化
・スパコンの有用性への理解促進
・スパコン利用へとつなげるコネクションの形成
背景:スパコン利用につながる人材育成が目的
Q まず貴財団のミッションや事業内容について教えて下さい。
計算科学振興財団は神戸市にある公益財団法人で、略称はFOCUS(Foundation for Computational Science)です。2008年に兵庫県、神戸市、神戸商工会議所の支援のもと、主にスパコンの産業利用を促進する団体として設立されました。スーパーコンピュータ「富岳」が設置されている理化学研究所 計算科学研究センターに隣接しています。「富岳」は2021年に正式運用が開始され、当時世界最高速の性能を持ち、現在もスパコン性能ランキングの上位を維持しています。
私たちが産業利用向けに運用するFOCUSスパコンは、年間200以上の法人、年間300件程度のプロジェクトで利用されており、サービス開始以来増加傾向にあります。過去十年あまりの累計では400以上の法人、700件以上のプロジェクトにのぼります。
2012年以降に開催している講習会や研修は年間あたり約150回で、累計受講者数は年間約2500名になります。実習室も設置されており、スパコンに接続あるいはパソコンで学習や研修ができるようになっています。このような施設をきちんと用意しているところはなかなかないと思います。
Q スパコンの利用事例にはどういったものがあるのでしょうか。
自動車の設計、例えばエンジン効率の解析や走行特性に関する空気力学的シミュレーションなど、他にも製造機械や航空機、製薬をはじめとする大企業を中心に活用されています。実際にこれらの取り組みにより経営効率の向上、コストダウン、新製品開発など、具体的に企業に貢献する事例も増えてきています。
Q CAEの人材育成に力を入れている理由について教えて下さい。
私たちのミッションはスパコンの利用促進ですが、企業の方にとってはCADやCAEの活用が先にあり、そこから発展して高速計算機も活用しながらより迅速にものづくりをしたいという流れになると思います。そういう意味でベースにあるのはCAEであり、CAEを活用できる人材をきちんと育成していくことも私たちのミッションとなります。その一環として、サイバネットにも開催していただいた「神戸シミュレーションステップアップセミナー」をはじめ、さまざまなセミナーを企画しています。
神戸シミュレーションステップアップセミナーの実施事業者は公募で決めており、毎年3、4社程度を採用しています。条件として重視しているのは、シミュレーションあるいはCAEを産業界に広めるような内容であることと、それに関して実績があること、またアプリケーションソフトウェアを自社開発あるいは提供でき、それに関する知識を普及できることが挙げられます。また、特に神戸市あるいは兵庫県を中心とした地域に対する活動実績も重視しています。
選定の理由:広く浸透しているソフトウェアのサポート実績が豊富

Q 特にサイバネットのこれがよいという点を教えて下さい。
アプリケーションソフトウェアに関して幅広いサポート体制を持っていることです。特に流体、構造を含めて世界的に有名なAnsysのソフトウェアを、セミナー開催を含めてサポートされているという点は重要です。Ansys製品を使われる企業は非常に増えており、スパコンで根付いているソフトも多いです。そういった意味で、サイバネットは産業界、そしてHPCI(High Performance Computing Infrastructure=国内の大学や研究機関の計算機システムやストレージを高速ネットワークで結んだ共用計算環境基盤)のエコシステムにおいても大変貢献されていると思います。
またスパコンは、それを運用できるようなソフトウェアがなければ使えません。サイバネットはそういう点で非常に有用なソフトウェアの開発や整備、HPCI向けの各種サポートをされており、そういった活動もコミュニティ拡大に貢献されていると思います。
Q CAEユニバーシティがユニークな点は何ですか。
やはり実験装置がかなり本格的で、実験と計算を効果的かつ融合的に実施できたのは非常によいと思います。他の講座でも実験装置など物理的手段を使っているものはありますが、より有機的に結びついていたという点でユニークだと思います。
Q 選定から実施までにあたっての準備などは大変でしたか。
ステップアップセミナーに関しては、基本的に事業者の方に計画から準備までお願いしています。使用するPCなどの環境や設備などについてはサポートさせていただいていますが、基本的にサイバネットが企画し、内容については相談しながら進めました。広報もお願いしましたが、今回は10名の定員がすぐ満席になりました。
効果:コミュニケーションを促進し理解度の高いセミナーを実施
Q 改めて今回のセミナーについて教えて下さい。
今回は神戸ステップアップセミナーとして実施したもので、サイバネットの回は現地開催で3日間続けて実施しました。1日目は座学中心の「CAE入門講座」、2日目は座学と実験の「CAE実験室-振動工学編」、3日目は座学とCAE演習を行う「CAE実験室-振動工学実践編」です。今回は振動工学の分野を中心としていくつかのトピックスを取り上げました。CAEユニバーシティのオーダーメイド研修としてご提供いただいています。3日間のうちでトピックスをどう振り分けるか、3日間連続で実施したほうがよいのかなどを事前に相談させていただきました。
Q セミナー参加者の感想はいかがでしたか。
3日間満席で欠席もなく、非常に満足度が高かったです。参加者は製造業の設計者や解析専任者、また振動に関わっている人が多かったです。テーマを絞っていることもあり、内容が想定と違ったということもなかったようですね。セミナー室でグループとして活動するため、受講者同士や講師とのコミュニケーションが活発になり理解度や満足度の向上に非常に効果的でした。実験は10名が3グループに分かれて行いました。実験をしている様子を見ても、会話しながら取り組んでいるため理解が深まっているという印象を受けました。

今後の展望:よりスパコン向けセミナーを充実させ地域に貢献したい
Q 貴財団にとっての開催の効果を教えて下さい。
私たちは産業利用のエコシステムを拡大するという大きなミッションを前提に活動しており、そういう意味で単発の講習会だけでなく、その後のフォローやそこで得た御縁を活用することで、利用者にとってもメリットのある活動に繋げられるという点は非常に大きいです。
また神戸という場所で開催することで、地元の雇用創造や事業発展につなげることも視野に入れています。今回のセミナーは神戸市や兵庫県から支援を受けて開催しており、無料のため受講しやすいのが特徴です。人材育成に予算をかけられないという企業にも是非活用していただければと思います。
Q 今後の展望を教えて下さい。
神戸ステップアップセミナーは約10年続けている事業でもあり、細かい部分は多少変わるかもしれませんが毎年実施したいと考えています。一方でCAEユニバーシティは人材育成が特に前面に出てくる非常にユニークな取り組みだと思っています。今回はCAEの基礎やパソコン上での計算などでしたが、スパコン上で動作するアプリケーションソフトウェアを活用した企画のご提案も期待しています。
ご利用いただいた企業様
法人名:公益財団法人 計算科学振興財団
設立趣旨:スーパーコンピュータ「京」や「富岳」をはじめ、高性能計算に関する研究開発や、産業利用の推進ならびに広く普及啓発を行うことにより、計算科学分野の振興と産業経済の発展に寄与すること。
