EVバッテリーとは?(種類・容量・交換・開発課題・解析) 
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EVバッテリーとは?

電動化による自動車の構造変化

(内燃)エンジン車と電気自動車(EV)とで大きく異なるのは、車輪を駆動するための動力源と動力の伝え方(駆動するための手段)です。

(内燃)エンジン車の駆動系(パワートレイン)は、エンジンとトランスミッション、クラッチ、シャフトといった装置で構成されています。(内燃)エンジン車はガソリンや軽油を燃料として、燃料を燃焼させた際のガスの爆発力を回転に変えて車輪を動かします。

一方、EVの駆動系は、バッテリー、モーター、インバーター、制御装置などの装置で構成されています。バッテリーから供給される電気でモーターを駆動し、車輪に直接、またはギヤを介して動力を伝えます。エンジン車と比較すると構成がシンプルになるため部品点数は減少し、組み立て工程も簡略化できる可能性があります。

部品点数が減少するからといって、車両が軽くなるわけではありません。EVのバッテリーは、最小単位の「セル」、セルの集合である「モジュール」、モジュールの集合である「パック」といった階層構造になっています。EVのバッテリーパックは車体底面の大半を覆うほどの大きさがあり、車両の全重量に対してかなりの比率を占めることになります。

バッテリーの種類

EVの車載用バッテリーとしては、繰り返し充電が可能な二次電池を用います。その種類には、「リチウムイオン電池」「鉛蓄電池」「ニッケル水素電池」「ニッケルカドミウム電池」「全固体電池」などがあります。

リチウムイオン電池(リチウムイオン二次電池)は、「LiB」とも言います。電解液は主に、リチウム塩と有機溶媒で構成されています。電池の正極(+、アノード)と負極(-、カソード)の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行います。リチウムイオン電池は大容量かつ長寿命の二次電池で、EVの他、ノートパソコンや携帯電話、デジタルカメラなど、幅広く使われていることから、日常生活で最も身近な電池の一種でもあります。リチウムイオン電池は劣化するとガスが発生してバッテリー内部が膨張する場合があります。劣化した電池が破損した際には、発熱や爆発などの危険があります。

鉛蓄電池は、電極に鉛、電解液には希硫酸を用いた電池です。二酸化鉛による正極、鉛の負極を備えます。地球上に豊富に存在する鉛を使用することから低コストであり、大電流を扱うことができ、かつ安定した放電が可能です。鉛蓄電池は放電時に硫酸が消費され、両極で硫酸鉛を生成します。そのため、破損して電解液が漏れた場合には危険であり、かつ環境負荷が高い存在です。また、鉛を多く使用するため重量も重くなります。

ニッケル水素電池は、正極にオキシ水酸化ニッケルなどのニッケル酸化化合物、負極に水素を含んだ水素吸蔵合金または水素化合物を用いる電池です。電解液には濃水酸化カリウム水溶液などのアルカリ溶液を用いています。比較的安価に製造でき、かつ大容量であることが特徴です。過充電や過放電にも強く、比較的安全性が高いこと、比較的環境負荷が低いことも利点です。一方、自然放電しやすく、二次電池の中では寿命が短くなります。

ニッケルカドミウム電池は、正極はオキシ水酸化ニッケル、負極はカドミウムを用いて、水酸化カリウム水溶液を電解液とするアルカリ蓄電池です。「ニッカド(ニカド)電池」とも呼ばれます。軽量かつ耐久性に優れた電池である一方、過放電に弱くて熱暴走が起こりやすく、有害で環境負荷が高いカドミウムを含んでいることが欠点です。

全固体電池は、固体の電解質を用いた電池のことです。液体の電解質を用いた二次電池と比較すると、発火や爆発のリスクが低いため安全性が高く、エネルギー密度が高くて非常に大容量であり、急速充電が可能、高温下でも利用ができるなど多くの利点があります。しかしながら、現時点(執筆日時点)も研究段階から脱していない状況であり、実用化や量産化に課題を抱えています。

バッテリーの容量

エンジン車における燃料の容量が「L(リットル)」もしくは「ガロン」で表されるのに対し、EVにおけるバッテリー電力量は「kWh(キロワットアワー)」で表されます。kWhは、1時間当たりに取り出せる電力量のことを示します。kWhの数値が大きいほどバッテリーとしての性能が高くなります。すなわち長時間走れる、あるいは加速性能が高められるということになります。なお現在のEVのバッテリー容量は、一般乗用車で35~80kWh程度、小型車で10kWh前後です。

バッテリー容量は大きくなるほど、バッテリーの重量も重くなるため、その分、電費(内燃エンジン車でいうところの燃費)は悪化します。そのため、バッテリー容量をとにかく大きくすればよいということでもなく、車両自身の電費や用途とのバランスを取ることも重要になります。さらに、大容量バッテリーは発熱量も多くなるため、安全性の担保が必要になります。

バッテリーを大容量化していくためには、軽量化や熱対策などが求められます。しかし現在普及している二次電池方式は原理的には成熟しているといえるため、新材料の発見や、新方式の開発が求められており、世界の研究機関やメーカーによる研究が続けられています。

交換時期やリサイクルの課題

バッテリーの原材料として使用される希少金属(レアメタル)であるコバルトやリチウム、ニッケルは、近い未来に枯渇するといわれており、現在すでに需要に対して不足している状況です。そういう観点では、鉛のように豊富に取れる原材料の二次電池もあるのですが、この場合は環境負荷の高さが問題になります。

劣化したバッテリーをどのように廃棄するかも、現在、重要な課題になっています。将来、EVの廃車が増えてくる時期までに、何とか解決しておかなければなりません。またバッテリー生産においても多くのCO2が発生することになるため、CO2削減やカーボンニュートラルを推進するためのEVであることを考えれば、バッテリーも生産を抑える方がよいのです。

そこで、有効だと考えられるのがリサイクルですが、セルレベルでの分解や分離、材料再生の工数などを考えると、現状の技術力ではコストや手間がかかりすぎ、安全性や品質の担保も難しいことから、現実的ではないとされています。

そのため、リサイクルではなく、ひとまずはリユースの取り組みが少しずつ進んでいます。EVのバッテリーは複数のバッテリーモジュールの詰め合わせであり、バッテリーが故障した際に、問題の起きていないモジュールがあります。そのため、破損したモジュールだけを交換して利用しようということです。

EVバッテリー開発における課題

バッテリーの性能は、車両性能の評価に大きく響く存在です。消費者の多くが航続距離を気にするため、基本的になるべく大容量であることがよしとされます。しかしながら、容量が大きくなれば重量が重くなり、かつ発熱もしやすくなるので、その結果としてかえって電費が落ちてしまう、あるいは発火事故などのリスクが高まるといった問題も起こり得ます。

また、EVのバッテリーはセルが高密度に詰められた状態であるため、1つのセルが高温になれば、その熱が隣接するセルに伝播し、やがてパック全体が高温になり、熱暴走が発生する恐れがあります。電極の材料選定の仕方や、セル内の微細構造の在り方などが、バッテリーパック全体の性能に大きく響くこともあります。

さらに、バッテリーの充放電や温度を監視・管理するためのバッテリーマネジメントシステム(BMS)の実装が不可欠です。

EVのバッテリー開発では、さまざまかつトレードオフの関係となる現象や条件を考慮する必要があることと併せ、電気や機械、熱、化学、ソフトウェアといった多岐にわたる分野の横連携での設計開発が不可欠です。

解析によるEVバッテリー開発課題の解消

EVのバッテリー開発には解析が有効ですが、複数分野で連成解析できるマルチフィジックスであることと併せ、セル内部の現象を見る材料単位のミクロスケールから、モジュールやパックなど機構単位のマクロスケールの間を行き来できるマルチスケールなソフトウェアの活用が有効です。

まず電極構造からモデル化して材料を設定しておき、電気と化学反応をシミュレーションすることで、バッテリー全体の性能向上をするためには、実際にどの部分の影響が大きいか、またどこがトラブルにつながっていくかを詳細に把握できるようになります。詳細にモデルを表現するほど計算負荷は高まってしまいますが、縮退化(ROM:Reduced Order Model)モデルを使用すれば、1次元的に抽象度を高めて、解くべき問題と3次元的に詳細に解くべき問題とを分けられるため、効率よくスピーディーに計算を行うことが可能になります。

解析ツールの紹介

・Ansys CFD

熱流体ソフトウェアのAnsys CFDは、乱流、熱伝導、反応、燃焼、空力音響、回転機械、混相流といった多種多様な物理現象をモデル化することが可能です。スケーラビリティに優れた並列計算機能や、移動変形メッシュをはじめとした高度なメッシュ機能を利用することで、より実現象に近い、複雑で大規模な解析も実施可能です。

・Ansys Twin Builder

MBD(Model-based design:モデルベース開発)ツールであるAnsys Twin Builderは、一般的なマルチドメインシミュレーション環境に加え、Ansys Twin BuilderはHigh-Fidelity(高忠実度)モデルとして、Ansysの3D・Multi-Physicsシミュレーションのモデル低次元化(ROM)、SPICEやVHDL-AMSで記述された詳細な電子・電気回路モデルと併せ、他のMBDツールであるSCADEや Simulinkの詳細な制御モデルと連携が可能です。

・Multiscale.Sim

Multiscale.Simは、従来の材料実験の代わりに、解析による仮想的な材料実験(数値材料試験)が行えるツールです。その結果からマクロ構造解析による巨視的な挙動予測を可能にすると共に、ミクロ構造解析に戻って微視的な挙動予測をすると言ったことが可能です。

まとめ

EVの性能、特に航行距離を増やすために重要なのが二次電池の技術です。一方、二次電池の技術は長年の研究や実用で成熟してきた分野でもあり、新規技術によるブレークスルーは容易ではありません。その上、ますますプレッシャーが高まる環境問題へも対応しなければなりません。

また微細なセルが集合しパックとして成り立つバッテリーは、微細構造がバッテリー全体の性能やトラブルに大きく影響し、なおかつ電気や機械、熱、化学、ソフトウェアといった多岐にわたる分野の現象が複雑に絡み合っています。

人に思考の限界に挑む、あるいは開発を早く・効率的に行うには、複数分野で連成できるマルチフィジックスであることと併せ、セル内部の現象を見る材料単位のミクロスケールから、モジュールやパックなど機構単位のマクロスケールの間を行き来できるマルチスケールなソフトウェアの活用が有効です。