EVインバーターとは?(役割・構造・開発課題・解析) 
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EVインバーターとは?(役割・構造・開発課題・解析)

電動化による自動車の構造変化

(内燃)エンジン車と電気自動車(EV)とで大きく異なるのは、車輪を駆動させるための動力源と動力の伝え方(車輪駆動させるための手段)です。

エンジン駆動の自動車は、エンジンとトランスミッション、シャシー、サスペンション、ブレーキ、ステアリングといった機構で構成されています。エンジン車はガソリンや軽油を燃料として、燃料を燃焼させた際のガスの爆発力を回転に変えて車輪を動かします。

一方、EVは、バッテリー、モーター、インバーター、制御装置、ブレーキなどの機構で構成されています。バッテリーから供給される電気を使ってモーターを駆動し、車輪に直接、またはギヤを介して動力を伝えます。エンジン車と比較すると機構の構造がシンプルになるため部品点数は減少し、組み立て工程も簡略化できる可能性があります。また、大容量のバッテリーパックを搭載するため車両重量が重くなる傾向があります。

EVは電気制御メインで比較的シンプルな構造であるため、エンジン車と比べて自動車業界以外の企業の参入障壁が低いとされ、自動車業界における産業構造も大きく変わっていく可能性があります。

EVにおけるインバーターの役割

インバーターはEVだけでなく家電など電気制御のあらゆる製品に実装されています。インバーターとは、直流(DC)の電流を交流(AC)に変換する回路や装置のことを指します。インバーターはDCからACに変換するための電子回路のことを示す場合と、ACからDCに変換するコンバーター回路とコンデンサーが合わさった仕組みを指す場合があります。

EVにおけるインバーターは、車輪を駆動させるためのトラクションモーターに電気を供給し制御するために欠かせません。トラクションモーターを駆動するために用いることから、「トラクションインバーター」とも呼ばれます。EVの場合は、バッテリーから供給されるDCの電流をACモーターが使用できるAC電流に変換する役割を担う装置を指します。EVでよく用いられる三相ACモーターを動かすには、三相インバーターを利用します。

インバーターは電流の変換だけではなく、ACの周波数も制御し、モーターの回転数やトルクを調整することが可能です。そうすることで、乗り心地や車速を細かく制御できることと併せ、効率の良い駆動を実現させることによる省エネも実現できます。

またEVでは、DCの電圧変換(変圧)を目的とするDC/DCコンバーターを実装しています。リチウムイオンバッテリーの高い電圧を下げ、インバーターなど車内の機器に供給することを目的としています。またDC/ACコンバーターは、モーターの運動エネルギーから変換した電気をバッテリーに蓄える際の変換に使われます。なお、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド(PHEV)車においてもインバーターの役割は同様です。

なおエンジン車にもインバーターは実装されており、車内のDC12Vバッテリーの電気を、車載アクセサリーで利用できるようAC100Vなどに変換するために実装されています。

インバーターの構造・構成

インバーターは、マイコン(マイクロコントローラー)とキャパシター(またはコンデンサー)、パワー半導体の一種であるスイッチング素子(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)で構成されるスイッチング基板などで構成されています。またスイッチングデバイスは大きな発熱があるのでヒートシンクやウォータージャケットなどで構成する冷却機構を配置します。インバーターの冷却機構には水冷式の採用が目立ちます。

インバーターとギヤ(変速機)、モーターを1つのユニットに一体化したシステムも見られます。一体化することで質量を低減し、エネルギー効率を向上させるといったメリットがあります。

EVインバーター開発における課題

EVのインバーター装置は、スイッチング周波数が数kHzから数十kHzと高いため、高温になりやすい他、電磁ノイズや振動、騒音といった現象も発生しやすくなります。また、こうした複数の現象は密接にかかわりあっています。こうした現象が複雑に絡み合い、インバーターの性能や効率を損なう、あるいは故障の原因となり得ます。こうした現象による問題を解決することで、インバーターの高効率化/高出力化の他、小型軽量化、耐久性アップなどを図ります。

カーボンニュートラル実現のプレッシャーが強い自動車業界では、製品の速やかな市場投入が課題になっていることから、製品開発はできる限り効率よく、速やかに進めなければなりません。また、車両故障は人命を奪うことにもなりかねないため、品質や性能を損なうことがあってはなりません。

EVインバーター解析による開発課題の解消

そこで、さまざまかつ複雑に絡み合う現象を考慮した計算ができるマルチフィジックス解析ソフトウェアを用いて、配線パターンの設計をする設計初期の段階から解析を行い、実物ができる前に、熱や電磁ノイズが絡み合う問題をできるだけ洗い出して解決することが有効です。また基板設計CADの3Dモデルをインポートできるソフトウェアであれば、そのデータを基にして熱や曲げ、振動などを解析して寿命予測を行うことが可能です。

解析ツールの紹介

Model Reduction inside Ansys
Model Reduction inside Ansysでは、Ansys Twin BuilderやMATLAB/Simulinkに取り込める構造/伝熱のROM(Reduced Order Model)モデルの作成が行えます。「クリロフ部分空間法」という汎用性の高い手法を利用したROMモデルを作成します。Ansys Mechanicalで求められるあらゆる線形の構造解析および伝熱解析に対応しており、Ansys Twin Builder、MATLAB/Simulinkなどのシステムシミュレーションで活用できます。インバーター装置のシミュレーションでは、IGBT基板の詳細モデルをROMモデル化することで、計算時間を10分の1程度に短縮するといったことが可能です。

Ansys Sherlock
Ansys Sherlockは、エレクトロニクス設計向け信頼性分析ソフトウェアです。 プリント基板やアセンブリを正確にモデル化して設計プロセスの早い段階で製品の故障を予測できるようにすることで、エレクトロニクス設計において高速かつ容易な信頼性評価が行えます。インバーター装置では、基板上のチップ配置の仕方や基板の補強の仕方による故障率の違いを評価することができます。

Ansys Mechanical
Ansys Mechanicalは、構造、熱、音響、非定常、非線形といった幅広い機能を備えた有限要素法ソルバーです。このツールでは、複雑な配線パターンを考慮した上で、熱応力による基板の反り解析が行えます。

まとめ

EVにおけるインバーターは、バッテリーからモーターに電気を供給するために必須です。DCであるリチウムイオンバッテリーから、ACで動くモーターに電力を供給するために電流をDCからACに変換します。またその回路には、パワー半導体(スイッチング素子)が活用されています。インバーターの性能は、EVの性能そのものを大きく左右します。

インバーターからは高熱の他、振動や電磁ノイズが発生するため、設計時での対策が必要です。これらの現象は複雑に絡み合うため、マルチフィジックス解析ソフトウェアの活用が有効です。また、設計初期からのシミュレーション適用により、手戻りを抑制し、開発期間を短縮することで、高品質で性能が良いEVをタイムリーに市場投入することが可能になります。