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熱流体解析

はじめてみよう!流体解析(入門編)[Ⅳ]

~流体解析の作業工程~

はじめに

ここまでの連載では 流体解析 を行うにあたって“これだけは知っておくべき”という内容について、特に初歩的な理論に焦点を当てて説明してきました。解析については断片的に触れてきましたが、今回、実際の作業について解説します。
流体解析といっても、形状作成、メッシング、解析条件の定義、計算実行、ポスト処理という一連の作業フローは 構造解析 などと特に変わりませんが、現象の違いを反映して各工程で流体解析独特のポイントがあります。
紙面の都合上概要を述べるに止まりますが、詳細については文末のセミナーへの参加を是非ご検討ください。

形状作成

通常CADで作成する形状は構造物だけです。流体解析を行うには、構造物周囲または構造物によって囲まれた領域を流体領域の形状として作成する必要があります(図1)。
解析対象はもちろん流体領域ということになりますが、構造物については構造物の伝熱を考慮する場合以外は特に必要ありません。したがって、流体領域は構造物形状によってくり抜かれた形状となります。


図1 作成する流体領域

ポイント(1) ~形状修正~

構造物の形状が詳細に作り込まれていると、流体領域の形状も複雑になります。このような場合、メッシュ作成時のエラーやメッシュ品質の低下、モデル規模(節点、要素数)の増大による計算時間の増加などが懸念されます。このような問題を避けるため、形状の修正や簡略化が推奨されます。例えば、流れへの影響が無視できるような微小な突起や段差、隙間などを削除することにより、メッシュが作成し易くなり、またメッシュ品質が向上すると共に、これらのフィーチャーの周囲でメッシュが過度に細かくなってしまうことが回避できます。その結果、計算時間を短縮することができるため、形状修正に時間を要するものの、計算時間、結果処理まで含めた解析作業全体に渡る工数を短縮できる場合が多く、効率的です。

ポイント(2) ~対称モデル~

構造解析では、形状が対称で物性や荷重条件も対称であればモデルの対称化が可能で、モデル規模を大幅に減らすことが可能です。流体解析においてもモデルの対称化について事前に検討することが望ましいですが、形状、物性、境界条件すべてが対称な場合でも対称化できない場合があるので注意が必要です。
図2は円柱周りの流れで、左端面に対して一様な速度の流入条件を与えています。形状、物性も対称であることからモデルを対称化できそうですが、レイノルズ数の値によっては円柱の下流において非対称な流れが発生する場合があります。これは流れの非線形性によるもので、対称モデルにしてしまうと現実とは異なる解析結果になるため、全体モデルで行わなければなりません。


図2 円柱周りの流れ

メッシング

メッシングの場合でも他の解析と同様に、物理量の変化が大きい領域でメッシュを細かくします。どの領域で物理量の変化が大きいのか判断するには流れ現象を十分に知っている必要があり経験に依るのが現状ですが、あらゆる流れで重要な領域があります。それは壁面近傍領域で、流体が流れることにより境界層と呼ばれる物理量の変化が大きい領域が形成されます。
図3は境界層の模式図で、壁面(速度=0)から内部領域に向かって速度、温度が大きく変化します。特に物体の抗力や揚力、熱伝達特性などを評価する場合に、境界層のメッシュサイズが精度を大きく左右します。


図3 境界層

ポイント(1) ~レイヤーメッシュ~

境界層内で精度の良い結果を得るために、通常レイヤーメッシュ(インフレーション;Inflation)を作成します。これは壁面から内部領域に向かって押し出すようにして作成された層状のメッシュ(図4)で、Ansysメッシングツール( Ansys Extended Meshing など)で容易に作成することが可能です。

問題はレイヤーメッシュの厚み方向のサイズで、これは境界層の厚さに依存します。理想的には、境界層内部に10層程度のメッシュを作成することが推奨されますが、5~ 8層でも十分な場合もあります。また、乱流モデルを使用する場合は、乱流モデルごとに適切なレイヤーメッシュの厚さに関する基準が設けられているため、この点についても事前に検討する必要があります。


図4 レイヤーメッシュ

ポイント(2) ~メッシュ品質~

大きく歪んだ形状の要素は精度だけでなく収束性の悪化を招きます。流体解析では他の解析よりもメッシュ品質の影響が出やすいため、メッシュを作成した後に品質のチェックを行うことが推奨されます。品質が悪くなりやすい形状としては、微小面、微小辺、過度に鋭角な面が代表的で、これらのフィーチャーは事前に形状修正を行うか、メッシャー側の形状修正機能( Ansys Extended Meshing ではパッチインディペンデントアルゴリズムや仮想トポロジなど)で対処する必要があります。

解析条件の定義

流体領域メッシュに対して各種の解析設定を行います。
主に行う設定は以下のようになります。

  • 定常/非定常
  • 物性
  • 浮力
  • 伝熱
  • 乱流
その他にも、移動境界や混相流の設定なども解析内容に応じて設定します。それぞれで複数の物理モデルが用意されており、その中からこれから行う解析の条件及び必要とする精度に適したモデルの選択・設定を行う必要があります。例えば前回取り上げた熱流体解析においては強制対流と自然対流で浮力の有無が異なります。更に自然対流の場合、密度の温度依存性を考慮する方法(物性モデル)も複数存在し、ユーザーはその中から自分の解析に適したものを選択しなければなりません。

ポイント ~物理モデルの選択の重要性~

流れ現象はその非線形性のために非常に多様で複雑な様相を見せます。 第2回 の乱流モデルの回でも述べたように、CFDツールに組み込まれている各物理モデルは適用範囲が限られており、あらゆる場合に適用できるモデルは皆無といっても過言ではありません。当然、行いたい解析に適切な物理モデルを選択しなければ誤差が大きく、実現象と異なる結果になってしまいます。したがって、ツールを使う前に物理モデルについて正しく理解しておくことが求められます。

境界条件

流体解析の境界条件は大まかに、流入条件、流出条件、開放条件、壁条件、対称境界条件に分類されます。また、必要に応じて運動量ソース(流体抵抗等運動方程式の生成項)や発熱(エネルギー方程式の生成項)を設定します。

ポイント(1) ~すべての外表面に定義する~

構造解析の場合はすべての面に対して荷重や拘束を設定する必要はありませんが、流体領域ではすべての外表面に対して何らかの境界条件を定義する必要があります。

ポイント(2) ~逆流~

形状と境界条件の組み合わせによっては、流入面や流出面において逆流が発生することがあります。このような場合、計算が不安定になるとともに、本来の現象と異なる結果になる可能性が高いです。逆流を回避するためには、逆流を許可する境界条件に変更する(例:流出条件⇒開放条件)、流路を延長して逆流領域が流入面や流出面を横切らないようにする、といった対処法があります。

計算実行

Ansys CFDツールでは反復法ソルバーにより計算が行われます。計算を実行すると各方程式の残差がグラフで出力されます(図5)。グラフの横軸は反復数、縦軸は残差です。すべての方程式の残差が右肩下がりで減少するのが好ましく、収束性が良い状態です。反復計算は別途設定する収束基準値以下に下がるまで、または最大反復数に達するまで行われます。


図5 残差グラフ(Ansys CFXの場合)

ポイント ~収束しない!~

図5のようにすんなりと収束すれば問題はありませんが、図6のように残差が下がらない場合がよくあります。このような場合の対処法としては、設定値の入力ミスの確認といった基本的なものから、より適した物理モデルや境界条件への変更、より緩い条件から段階的に計算を行う、などケースに応じてさまざまです。


図6 収束しない場合の残差グラフ

図6(a)の場合は残差が横ばいになっていますが、定常解析の場合、残差グラフとは別に計算実行中に結果値をモニターし、一定値に漸近している傾向が見られるようであれば収束と見なせる場合もあります。また横ばいになった後、残差が周期的に振動する様子が見られる場合は非定常性が出ている可能性があります。例えば図2の例の場合、カルマン渦と呼ばれる周期的な渦列が発生する現象に対して定常解析を行いますと、残差の周期的な振動が見られます。こういった場合は、定常解析から非定常解析に切り替えることで収束させることが可能です。

おわりに

流れ現象は乱流を初めとしていまだ解明されていない現象が多く存在します。自然、CFDツールも発展途上の状態にありますが、CFDツールで何ができて、限界はどこにあるのかを理解し、ツールを正しく使うことで有益な情報を得ることが可能です。

本連載では、4回に渡って熱流体解析の必要性や概要、作業時の注意点などについて説明させて頂きましたが、お分かりのように熱流体解析には、線形構造解析などよりも多くの事柄に配慮する必要があります。そのため「熱流体解析は敷居が高い」と言われことが多いのですが、本連載の内容をユーザー皆様のお役に立てて頂けましたら幸甚です。

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