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全固体電池開発・製造支援のためのシミュレーション事例~充填・圧粉プロセスの影響を考慮した性能予測~

全固体電池開発・製造支援のためのシミュレーション事例~充填・圧粉プロセスの影響を考慮した性能予測~の概要

1 はじめに

過去に例のない製品の開発には、多様な製造プロセスを可視化できるCAEシミュレーションを

 現在、自動車やスマートフォン、家電製品に広く使われているリチウムイオン電池では、正極と負極の間にある電解質に液体性の電解液が用いられていますが、この電解液は発火・爆発の危険性があるため、二重三重の安全対策をして使用されています。それに対し、全固体電池は、電解質が固体に置換されたもので、電解液がなく正極と負極の間に電解質セパレーター層のみがある構造になっています。構造や形状の自由度が高く、大容量化も可能、熱に強く、安全性が高い等のメリットがあります。そのようなメリットの多い全固体電池の実用化が期待されますが、以下のような課題があります。
  • 高出力を実現するには、「未知の材料」や「これまでにない組合せ」の検討が必要
  • 製造プロセスが複雑であり、現象の測定や観察が難しい
  • 最先端の技術であり、過去の勘や経験がほとんど使えない
  • 従来の電池の製造プロセスや生産設備を適用できない
 こうした課題を解決するための、有効な手段の1つがCAEを用いたシミュレーションです。シミュレーションを活用することで、まだ存在しない材料の性能や、多種多様な製造プロセスの机上検証、実験では把握が困難な製造プロセスの可視化が可能になります。本稿では、全固体電池の製造プロセスに対して、そうしたシミュレーション技術を活用した事例をご紹介します。

2 DEM-FEM連携による充填・圧粉プロセス解析事例の紹介

 乾式プロセスで製造される全固体電池は、金型に原料である活物質や固体電解質を充填して製造されますが、そのときの各材料の混合状態や分散状態が、製品の性能に大きな影響を与えます。
 そこで本事例では、まずは離散要素法(DEM)を用いた粉体挙動解析ソフトウェアAnsys® RockyTMを使って、活物質や固体電解質などの粒子を金型に充填させるプロセスをシミュレーションし、混合状態や分散状態を可視化します。その結果を元に、有限要素法(FEM)を用いた落下・衝突解析ソフトウェアAnsys® LS-DYNA®を使って、弾塑性構造解析を行い、圧粉後の粒子の形状・ひずみ・接触状態やパーコレーションパスを可視化します。

2.1 充填プロセスのシミュレーション

 金型へ原料である活物質や固体電解質を充填した際の、各材料の混合状態や分散状態は製品の性能に大きな影響を与えます。そこでDEMによる充填プロセスの解析を実施して、充填後の各粒子配置を予測します。
 この解析を行うためには、以下に示す情報が必要になります。
  • 粒子あるいは粒子間の相互作用に関係する物性
     - 粒子の弾性率・回転抵抗・反発係数
     - 粒子間の摩擦係数・吸着特性 etc.
  • 物性以外の条件
     - 金型形状
     - 粉の投入条件
     - 粒径分布 etc.
 粒子の物性値取得は、微小圧縮試験や一面せん断試験、安息角測定試験で取得が可能ですが、硫化物系の場合は非暴露環境で実施する必要があります。正確な物性値を入力することで、より実際のプロセスに近いシミュレーションを行うことが可能です。

図1 Ansys® Rocky(TM)での粒子充填シミュレーションの様子

図2 充填後の粒子配置(Multiscale.Sim®のRocky連携インターフェースを用いてRockyでの粒子の配置情報をAnsys® SpaceClaim®で扱える形式のCADデータに変換)

 図1はAnsys® RockyTMを用いて、金型に粒子を充填するシミュレーションの様子です。粒径分布に従った粒子が金型に投入され、金型内に充填されていく様子を可視化することができます。 図2はマルチスケール解析ツールMultiscale.Sim®のRocky連携インターフェースを用い、Rockyでの粒子の配置情報を3次元ダイレクトモデラーAnsys® SpaceClaim®で扱える形式のCADデータに変換した時の、充填後の粒子配置を表しています。物性値・粒径が異なる2種類の粒子がどのような配置になるか可視化でき、この結果から粒子の充填率や、混合・偏析の状態を評価することができます。
 DEMによる解析はGPUによって計算されますが、粒子数や粒径に計算コストが支配されるため、計算に求める工期などと照らし合わせて、解析領域を適切に限定する必要が出てくることも少なくありません。解析領域を決定する際には、計算コストの領域サイズ依存性を評価する解析を行って、最小限の計算コストで高精度な粒子配置を予測できる解析領域を設定します。このようにして計算コストと精度を両立させることにより、その後のプロセス最適化やパラメータスタディを効率よく行うことができます。

2.2 圧粉プロセスのシミュレーション

 全固体電池では、高密度で緻密な材料組織になっているほど電池性能が高まります。そのため電池の製造プロセスにおいては、粒子を充填させた後に高い圧縮荷重を付加して組織を高密度化させます。シミュレーションにおいては、2.1で得られた充填プロセスの粒子配置をFEモデルに変換して、粒子を圧縮する弾塑性シミュレーションを行います。これにより、実物では観察困難な圧縮時の微細構造内部の材料挙動を観察することができます。

図3 金型に充填された粒子の圧縮シミュレーションの様子(相当応力)

 図3はAnsys® LS-DYNA®を用いて、金型に充填された粒子を圧縮するシミュレーションを行った様子です。圧縮後の導電性粒子の連結状態(パーコレーションパス)や変形、応力分布、充填率を可視化することができます。

 さらに、粒子の圧壊特性も加味することで、粒子の圧壊も考慮した材料挙動も表現することができます。正確な圧壊考慮を行うには、実際に使用する粒子の圧縮試験結果をもとに弾塑性特性を同定することが重要です。 図4は粒子一粒を圧子で押し込む圧縮試験の様子です。この試験で得られる荷重変位曲線と一致するような弾塑性特性を定義することで、実現象に近い圧壊現象が表現できます。

図4 粒子一粒を圧子で押し込む圧縮試験の様子

 また、金型に充填された粒子の圧粉シミュレーションを行うことで粒子の詳細な挙動を可視化できますが、個々の粒子の形状を、実際に近い状態に再現したミクロスケールのモデルでは計算コストが高く、実製品レベルのスケールのモデルに適用するのは困難な場面もあります。そのような場合、 図5のようにミクロスケールモデルから見かけの材料特性を同定して、ミクロスケールモデルを均質なマクロスケールモデルに置き換えることが有効です。このモデル置き換えはMultiscale.Sim®で行うことができます。Multiscale.Sim®は均質化法によるミクロ構造の数値材料試験、マクロ材料物性値の同定、ミクロ構造解析などを実施できるツールで、全固体電池のような複雑な構造を持つ材料の設計効率向上に極めて有効です。前述したDEMの解析結果をFEモデルに変換するためのDEM-FEM連携インターフェースも提供します。

図5 ミクロスケールモデルから均質化モデル(マクロスケールモデル)の材料特性を同定するプロセスのイメージ

 このようにDEMと連携した圧粉シミュレーションや、均質化モデル置き換えが実現すると、全固体電池開発において、従来実験でしか検討できなかった最適なパーコレーションパスを実現する粒度分布や加圧条件の探索を机上で行うことが可能になり、性能向上につながる試行錯誤を効率よく実施することができます。

3 電極内部の応力解析事例の紹介

 全固体電池に限らず、リチウムイオン電池を構成する活物質は充放電過程に伴って体積変化が起こり、それに伴って発生する応力や塑性ひずみによって電極内の導電パスが損傷を受け、電池性能の劣化を引き起こす原因となります。この電極内部に発生する応力も、電極内部の構造をモデル化し、充電による活物質の膨張・収縮を計算することで評価ができます。

 本事例では、汎用構造解析ソフトウェアAnsys® MechanicalTMを用いて、球形の活物質とバインダー樹脂で構成された電極において、充放電時に微細構造内部にどのような変化が起こるか解析しました。

図6 充放電で電極に発生した相当応力(左)および塑性ひずみ(右)

 図6は、球形の活物質とバインダー樹脂で構成された電極に発生した相当応力および塑性ひずみの様子です。運用中の充電によって活物質が膨張し、粒子同士をつなぐバインダーに高い応力が発生していることがわかります。性能劣化の原因となる電極内部の応力や塑性ひずみがわかることで、性能劣化の進展を事前に把握でき、手戻りの対策を考えることが可能になります。

 また前節で紹介した充填・圧粉プロセスといった製造プロセス解析と、本節で紹介した応力解析といった性能評価解析を組み合わせることで、電池の製造と性能の相関を提供できるため、製品設計により多くの情報をフィードバックすることができます。

4 まとめ

 いかがだったでしょうか。サイバネットは、全固体電池製造プロセスにおける混合~充填~圧粉~性能評価~運用の一連のプロセス課題を解決するために、各解析フェーズをシームレスに連携したトータルソリューションを提供しています。全固体電池開発に限らず、近年の機能材料は製造プロセスが複雑であり、現象の測定や観察が難しくなっています。複雑な製造プロセス・現象の可視化や最適化でお困りのことがあれば、ぜひお問い合わせください。

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