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コラム

光学技術が支える医療・ヘルスケア機器開発 ~イメージングからウェアラブルまで~

HEALTHCARE OPTICS SOLUTION

医療・ヘルスケア分野で期待が高まっている光学技術と、その開発現場が直面する課題を整理し、Ansysの光学シミュレーションツールを活用した解決アプローチとその事例についてご紹介します。

INDEX

  • 医療・ヘルスケアへの高まる関心と光学技術の役割
  • 医療・ヘルスケア光学機器に特有の懸念点・課題
  • 医療・ヘルスケア分野へのCAE活用
  • 医療・ヘルスケア光学機器のシミュレーション事例
  • 今後の展望 ― 次世代材料・デバイスとの融合

TOPIC 1医療・ヘルスケアへの高まる関心と光学技術の役割

近年、少子高齢化の進行、生活習慣病患者の増加、そしてパンデミックをきっかけとした健康意識の高まりを背景に、医療・ヘルスケア分野への関心は社会全体で急速に高まっています。医療現場では高度で専門的な医療技術が求められ続けている一方で、日常生活の中で誰もが手軽に健康を管理できる仕組みやサービスへの需要も増加しています。 
こうした環境の変化を受け、医療・ヘルスケア分野では新たな製品やサービスの開発が加速しており、近年では医療機器メーカーに加え、家電メーカーやIT企業など異業種からの参入も活発化しています。 
その背景にあるのが、次の3つのニーズの高まりです。 

  • 早期発見:病気を早期に発見する検査・診断技術の重要性が増していること 
  • 非侵襲:身体への負担を最小限に抑えた、体を傷つけない治療やモニタリングが求められていること
  • 予防ヘルスケア:自宅での健康管理やウェアラブルデバイスによる日常的なヘルスケアが広く普及してきたこと 

そして、これらのニーズを支える基盤技術のひとつが光学技術です。 
光学技術は、“見る”、 “測る”、 “治す”という医療・ヘルスケアの根幹を支える機能に深く関わっています。

「見る」の分野での貢献

内視鏡カメラや手術用顕微鏡など、医療の現場では高精細な画像を得ることが不可欠です。特に内視鏡は体内に挿入する必要があるため、小型化と高画質化を同時に実現する技術が求められます。光学技術が発展することで、より高い解像度で患部を確認でき、医師の手術の正確性向上と患者の負担軽減につながっています。

「測る」を可能にする光の力

光を用いたセンシング技術は、体を傷つけることなく生体情報を取得できるため、非侵襲な検査・モニタリングを実現します。たとえば、心拍や血中酸素濃度を測定するパルスオキシメーター、皮膚の下の血流を測る近赤外線センサーなど、光は人体の状態を安全かつ短時間で知る手段として広く利用されています。これらは日々の健康チェックから、病院での高度な診断まで幅広く活用されています。

「治す」にも光学技術が活躍

光は、医療分野において治療手段として幅広く活用されています。特にレーザー治療は、特定の組織に対して精密な照射が可能であり、皮膚科・眼科・外科など多様な領域で、身体への負担を抑えた治療を実現しています。
また、光は病気の予防や衛生管理の分野でも重要な役割を担っています。紫外線が微生物のDNAを強く吸収する特性を利用し、ウイルスなどの微生物を不活化するための殺菌手段として紫外線照射が広く用いられています。

このように、光学技術は医療機器の性能向上にとどまらず、生活者が日常的に健康を管理するためにも欠かせない技術となっています。光学技術の進化は、「医療現場の高度化」と「生活の中へのヘルスケアの浸透」の両立を支える基盤であり、今後もその価値はさらに高まっていくと考えられます。

TOPIC 2医療・ヘルスケア光学機器に特有の懸念点・課題

光学技術は、先端的な医療・ヘルスケア分野の実現に大きく寄与する一方で、一般的な産業機器とは異なる特有の課題や留意点が存在します。
医療・ヘルスケア向け光学機器の開発では、「高性能化」だけを追求しても十分ではありません。生体とのインタラクション、安全性、小型化、コスト、さらに開発期間など、複数の要件を同時に満たすことが求められます。
代表的な懸念点・課題としては、以下のような点が挙げられます。

生体とのインタラクションの不確実性

光学装置の相手は、ガラスや金属ではなく「生体」です。ヒト一人でも時と場合によって常にあらゆる数値は変わり、また個人差も大きく影響します。

  • 組織・血液・眼球などの屈折率・吸収係数・散乱係数は波長によって大きく変化する 
  • 個人差や年齢、病態による変動も大きく、設計段階でのパラメータ設定が難しい 
  • 体内・体表での多重散乱や、血流・呼吸などの動きによる信号変動も無視できない 

この結果、設計者は「カタログスペック通りの性能が実際の生体で発揮できるのか」という不安を常に抱えることになります。 

小型化・高性能・低コストのトレードオフ

光学系には常にトレードオフが存在しますが、医療・ヘルスケア用途ではその要求が特に厳しくなります。 

  • カプセル内視鏡やカテーテル先端、スマートウォッチ内部など、スペースが極めて限られている 
  • それでも診断に必要な解像度・コントラスト・ダイナミックレンジを確保する必要がある
  • 医療機器の品質保証と、コスト・量産性(樹脂レンズ、DOE、メタレンズなど)の両立 が困難

小型化・性能・コストのバランスを取るためには、試作を重ねるだけではなく、設計段階での十分な検討が不可欠です。 

安全規格・法規制への対応

利用用途によっては、体を傷つけることなく検査ができる光ですが、光ならすべて安全とは言えません。光の種類や使い方によっては、光でも体を傷つけることがありますので、光に対しても安全性が厳しく求められます。 

  • レーザーや強光源を用いる場合の眼・皮膚への曝露限度 
  • 可視・赤外光を用いるウェアラブルセンサーでの長時間照射の影響評価
  • 各種安全規格(例:レーザー製品安全、光生物学的安全性など)への準拠

これらに適合させるためには、常に安全であるかの監視と、必要な信号強度を確保しつつ、安全マージンを持った光量設計が求められます。 

開発リードタイムとマルチドメイン設計の複雑さ

医療機器開発では、認証プロセスも含めて開発期間が長期化しがちです。 

  • 光学設計に加えて、熱・構造・電気ソフトウェアとの協調設計が必要 
  • 実機試作・評価に時間とコストがかかり、仕様変更の自由度が徐々に失われていく
  • 高度な光学現象(干渉・分散・波長依存性・偏光など)を直感だけで見通すのは困難

このような背景から、「できるだけ設計の早い段階で性能と問題点を見極めたい」というニーズが高まっています。 

TOPIC 3医療・ヘルスケア分野へのCAE活用

光学CAEツールを用いることで、医療機器に求められる高性能かつ安全という極めて難しい目標を、様々なシチュエーションで検証できます。

Ansys Zemax OpticStudio:イメージング光学・レンズ設計の中核ツール

レンズ・ミラー・プリズムなどを組み合わせたイメージング光学系の設計・解析に特化したツールです。収差・MTF 評価、公差解析、迷光評価など、レンズ設計が必要とする機能を網羅しています。 

【医療・ヘルスケアでできることの例 】

  • 内視鏡・手術用カメラ・眼科機器(OCT、眼底カメラなど)のレンズ設計と最適化 
  • 歪曲や解像度、感度などを考慮した「診断に必要な画質」の評価 
  • 組立誤差を考慮した公差解析による、量産性を見据えた設計検討 
  • 筐体・絞りを含めたモデルでの迷光・ゴースト評価 

Ansys Speos:照明・センサー・人間の見え方まで含めた光環境シミュレーション

3D CAD上で動作する照明・光環境・センサー向けの光学シミュレーションツールです。
LED・光ガイド・ディスプレイ・カメラなどを含むシステム全体をモデル化し、「どのように光が広がり、人間にはどう見えるか」を評価できる点が特長です。またSpeosでは単に光の強さや分布を見るだけでなく、人間の視覚特性を考慮した見え方の評価(Human Vision)も行えるため、「医師や患者からどう見えるか」を設計段階で確認できる点が、医療・ヘルスケア用途で大きなメリットとなります。 

【医療・ヘルスケアでできることの例 】

  • 手術室照明や無影灯、観察灯などの照度分布・眩しさ(グレア)・影の出方の評価
  • 内視鏡・内視鏡用光源、医療機器の表示部・インジケータ類の視認性・読みやすさの検証
  • ウェアラブルデバイスや AR/VR 型手術ナビゲーション用HMDにおけるディスプレイの見え方・視野・輝度・コントラストの評価
  • 医療機器筐体内の光ガイド・ライトパイプ設計(ボタン周りの発光、警告灯の見え方など)

Ansys Lumerical:ナノフォトニクス・次世代光学素子のための電磁界解析

FDTD法などを用いて、ナノメートルスケールの構造における電磁界分布を解析するツール群です。
メタレンズ、回折光学素子(DOE)、オンチップ分光器、フォトニック集積回路などの設計に適しています。 

【医療・ヘルスケアでできることの例 】

  • ウェアラブルや内視鏡向けの超薄型メタレンズの設計・最適化
  • ラマン・IR分光などを小型化するオンチップ分光器・フォトニックセンサーの検討
  • センサー近傍のナノ/マイクロ構造やカラーフィルタの感度・波長選択性の解析

これらのツールを組み合わせることで、医療・ヘルスケア機器の光学設計をミクロからマクロまで一貫してシミュレーションすることが可能になります。 

TOPIC 4医療・ヘルスケア光学機器のシミュレーション事例

前章で挙げたような懸念・課題に対して、近年注目されているのが Ansysの光学シミュレーションツールを用いたバーチャルプロトタイピングです。 ここでは、 “見る”、 “測る”、 “治す” の3つの観点からその活用イメージをご紹介します。

「見る」 ~体内を視覚的に確認

人体モデルを用いたX線撮影のシミュレーション:画像再現と線量評価

Ansys Zemax OpticStudio を用いた事例として、人体を詳細にモデリングし、胸部 X 線撮影をシミュレーションした事例です。骨格、皮膚、臓器、血液など、人体を構成する各組織を精密にモデル化し、それぞれの組織に応じた光の吸収特性を設定することで、X線がどのように透過するかを高い精度で再現しています。 

放射線を扱う医療機器は、安全性や再現性に対して特に慎重な検証が求められますが、光学CAE ツールを活用することで、実験に依存しない正確なシミュレーションが可能になります。これにより、X線装置の設計最適化、照射条件の検討、安全性評価など、開発プロセス全体の高度化に貢献します。 

メタレンズ

メタレンズは、現在研究開発が進められている新しい撮像技術で、極めて薄く小型な平面型レンズとして注目されています。実用化が進めば、従来の内視鏡カメラなど医療用途のデバイスに応用することで、さらなる小型化や高性能化が期待できます。 以下のコラムページでは、メタレンズの仕組みや特徴に加え、当社が提供している関連ソリューションや活用事例についてもご紹介しています。

「測る」 ~健康状態を光で手軽に測定

人間の皮膚および光学心拍センサーのモデリング

Ansys Zemax OpticStudioで、スマートウォッチに搭載されている心拍センサーをモデリングした事例です。非侵襲で手軽に健康状態をチェックするツールとして、既に多くの方々に利用されています。この技術は、光を腕に照射して血管内で散乱した光を受光することで血液量を測っています。人体のモデリングと心拍を模したデータ取得で、医療・ヘルスケアに対する光学シミュレーションの再現度をご確認いただける内容となっています。 

「治す」 ~光で病気の予防

紫外線殺菌システムの航空機・列車客室内向けシミュレーション事例

Ansys Speos を用いた事例として、航空機および列車の客室内における紫外線殺菌照明システムのシミュレーションがあります。客室内の 3D 空間を精密に再現し、固定式 UV 照明システムと自律走行型ロボットによる照明システムの2種類を対象に、紫外線殺菌の効率を比較評価しています。航空機の客室内には、曲面形状のシート、アームレスト、トレイテーブルなど複雑な形状が多数存在し、紫外線が均一に届かない箇所が発生します。
こうした影の領域も含めてシミュレーション上で可視化することで、 

  • 最適な照射方式の検討
  • 使用する紫外線の種類や配置の選定
  • 殺菌効率向上に向けたシステム設計 

といった改善を行うことが可能になります。 
Ansys Speos は紫外線の反射・吸収・遮蔽を現実に近い形で再現できるため、実機テストに先立って照射性能を高い精度で評価し、殺菌システムの最適化に貢献します。 

UV-LEDによる流水殺菌のシミュレーション事例

近年、LED 技術の進歩に伴い、紫外線照射による殺菌システムは従来の蛍光灯方式から UV-LED 方式へと置き換わりつつあります。本事例では、Ansys Speos を用いて、浄水場に設置される大規模な流水式殺菌装置を再現しています。このシステムは塩素などの薬剤を使用せず、紫外線照射のみで殺菌を行う環境負荷の少ない技術です。大量の水を扱う浄水装置では、流体(流水)と光学(UV-LED照射)という異なる物理分野を組み合わせて評価する必要があります。Ansysの各種ツールを活用することで、こうした複雑なマルチフィジックス解析が可能になります。具体的には、UV-LEDの照射特性をAnsys Speosで解析し、さらに流体解析ツールであるAnsys Fluent を用いて、照射範囲内で大量の水がどのように流れるかをシミュレーションしています。これにより、殺菌効率の最適化や装置設計の高度化に貢献します。 

TOPIC 5今後の展望 ― 次世代材料・デバイスとの融合

医療・ヘルスケア分野の光学機器では、近年、革新的な材料・デバイス技術の研究開発が加速しています。
代表的なテーマとして、以下の取り組みが挙げられます。 


ペロブスカイト太陽電池を利用した小型電源・センサー (関連コラムはこちら)
軽量かつフレキシブルな特性を持つペロブスカイト太陽電池は、ウェアラブル機器向けの新たな電源やセンサーへの応用が期待されています。 

メタレンズによる超薄型イメージング光学系 (関連コラムはこちら)
メタレンズ技術により、光学系のさらなる薄型化・軽量化が可能となり、ウェアラブルデバイスや内視鏡などでの実装が進むと見込まれています。 

オンチップ分光・フォトニック集積回路 (関連コラムはこちら)
ラマン分光や赤外分光を半導体チップ上で実現する技術が進展しており、臨床現場で迅速に検査を行うPOCT(Point of Care Testing)機器への搭載が期待されています。 

これらの最先端デバイスを評価・設計するには、電磁界解析、光学設計、熱解析、構造解析などを組み合わせたマルチフィジックスアプローチが不可欠です。 
シミュレーションを活用することで、試作回数を削減しつつ、アイデア段階の早期から性能評価や実現性の検討が可能になります。 

ヘルスケア機器の光学設計にお困りの方は、ぜひサイバネットにご相談ください

ここまで見てきたように、ヘルスケア機器の設計・製造には多くの課題が伴います。
だからこそ、シミュレーションを設計の中核に据えた開発手法へ転換することが、開発スピードと性能保証を同時に引き上げる近道になります。

「ヘルスケア機器の分野に取り組みたいが、設計・実装の難易度が高い」
「自社にノウハウがないので、まずは実現可能性を模索したい」

そんな企業様は、ぜひ弊社のシミュレーション支援をご活用ください。光学設計から性能解析、実装条件の最適化、導入・運用立ち上げまでを一気通貫でサポートいたします。

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