「近年の画像診断装置より発生する膨大な撮像データを有効利用する試みとして、当院では脳神経外科症例においてCTやMRIのボリュームデータを作成し、必要時にすぐに利用できる状況にしておき、術前シミュレーションにも役立てている。このような画像データの利用法はさらなる発展が期待される。」
医療法人真仁会北日本脳神経外科病院放射線科 石田
剛氏、
新潟大学脳研究所脳神経外科学教室 大石 誠氏
使用製品 Real INTAGE
医療法人真仁会北日本脳神経外科病院では、シミュレーション用3D画像作成にReal INTAGEを活用しています。石田様、大石様にお話をお伺いしました。
近年の画像診断装置の進歩は目覚ましく、それに伴って1回の画像検査で発生するデータ量も膨大になって来ている。一方でこれらのデータを処理するコンピュータのスペック自体もここ数年で加速度的に進歩しており、特殊なワークステーションを使用しなくても様々な画像解析が自由に行える環境になってきた。
このような状況において我々の施設では、日常診療で得た画像データを可能な限り有効利用するために、新潟大学脳神経外科学教室とともに様々な脳神経外科手術の術前検査としてのシミュレーション用3D画像の作成に取り組んでいる。ここでは我々が行っている検査内容や、画像処理方法を紹介する。
著者自身が診療放射線技師となりほぼ10年が経過したが、この間に一般病院にも螺旋(ヘリカル)CT装置や高磁場MR装置が導入されるようになり、現在までに広く普及した。画像処理法として、かつての主流であった表面画像(SSD:shaded surface display)や最大値投影法(MIP:maximumintensity projection)、多断面再構築画像(MPR:multiplanner reconstruction)などの解析法は、通常検査装置そのものに付属されていたソフトウェアにより行われていたため、装置自体の処理能力に左右され、実際の処理画像も現在の画像とは比べようのないような程度のものであった。
現在では、コンピュータの処理能力の向上や画像解析ソフトウェアの進化と改善により、個人のPC上でも十分に画像処理が可能な状況になっている。画像処理方法としても、ボリュームレンダリング(VR:volumerendering)や仮想内視鏡(VE:virtual endoscopy)などの立体情報の作成から、異なるモダリティでのデータの合成(fusion technique)などにおいて向上している。
特に脳神経外科領域においては、従来のMIP法により3D-TOF画像を処理したMRA画像を用いた診断では重なって分かりにくかった血管の走行も、VR法で処理した画像であらゆる角度から自由に眺めることで、立体情報の把握が可能となる場合が増えてきている(図1)。
CT装置はシーメンス社製SOMATOMEmotion Duo、MR装置はシーメンス社製1.5T MAGNETOM Symphony を使用しており、どちらの装置も02年に当院に導入された。3D画像解析ソフトウェアはReal INTAGEを使用している。
対象としている疾患と手術は、破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血に対する脳動脈瘤クリッピング術、三叉神経痛や片側顔面痙攣といった神経血管圧迫症候群に対する微小血管減圧術、脳腫瘍や頭蓋底部腫瘍性病変の摘出術などである。
検査方法と撮像条件は以下の通りである。
CTA | CT 3DBone | MRA (通常用) |
MRA (微小血管 減圧術用) |
MRCISS (constructive interference in steady state) |
|
---|---|---|---|---|---|
管電圧 | 130 kV | 130 kV | |||
管電流 | 88 mA | 38 mA | |||
Scan Time | 25.56 s | 49.56 s | 8‥43 | 9 ‥ 22 | 7 ‥ 12 |
Rotate Time | 0.8 s | 0.8 s | |||
Slice /feed | 1.25/2 mm | 1.25/2 mm | |||
Length | 60 mm | 120 mm | |||
TR | 35 ms | 35 ms | 5.95 ms | ||
TE | 7 ms | 7.15 ms | 2.55 ms | ||
FOV | 160×160 mm | 180×180 mm | 162×180 mm | ||
Matrix | 224×320 | 256×256 | 288×320 | ||
Slice Thickness | 0.9 mm | 0.9 mm | 0.6 mm | ||
Slice per Slab | 30×4 mm | 44× 3 mm | 80 mm | ||
Flip Angle | 20° | 20° | 60° | ||
MTC+、Band width | 100 Hz/px | 130 Hz/px | 130 Hz/px |
MR-CISSに関しては、本来ならば512matrix を使用すべきであるが、Signal-tonoiseRatio(S/N比)が低く、VE画像にてノイズが多くみられた経験があり、320matrix に設定している(補間で640 matrixにしている)。
一方で、この条件では顔面神経と聴神経の分離が難しい場合もあり、CISSの撮像条件は今現在も検討中である。
画像処理方法に関しては、使用する3DWork Station によってインターフェイスが異なるため、我々が使用するReal INTAGEに特化した部分は省略し、対象疾患ごとに我々が行っている処理方法の要点について説明する。
術前シミュレーション用画像は、最終的に手術を行う脳神経外科医自身に自由に操作・観察を行ってもらえるように作成している。作成者が先入観を持って見た目にきれいな画像を作成することは、実際の術者にとって大事な情報を欠落させている可能性もあるため、画像作成時にはできるだけ手を加えないよう客観性を持たせるようにしている。
従来の一般的な画像解析方法で作成した画像は、フィルムかカラープリントしたものを指示医に提供するのみであった。著者個人としては、指示医がもう少し自由に使用することで、さらに有効となる画像利用法がないか思案していた。
INTAGEシリーズでは、解析ソフトReal INTAGE で作成したデータのレビューソフトとして、INTAGEVolume Player を無償で提供している。したがって作成したボリュームデータはそのまま、指示医に提供することが可能となった。
現在提供されているバージョン5は完成度が高く、初期のものから比べると表示法や操作面での問題点も改善され、日常診療において使用しやすいものとなっている。作成した3Dデータは、術前に執刀医自身が実際の術 野を模して観察することにおいて最も威力を発揮し、以前のように放射線技師が見やすい角度だけでデータを作るのではなく、得られたデータを最大限利用する方法として適した方法であると思われる。
実際、この方法を取り入れてから、新潟大学からの3次元画像解析を含めた検査依頼は著しく増加しており、当院で行ってきた術前シミュレーション法の要望の高さが実感された
冒頭に述べた通り、画像診断装置や3DWork Station の性能向上は今後も続くと思われる。今現在の性能でも隅々まで把握するには煩雑で使いこなせていない印象はあるものの、今後も画像データは診療放射線技師が中心となって処理をしていくはずであり、必要最低限のデータからできるだけ多くの情報を臨床の現場にフィードバックできるよう、知識や技術を習得し画像処理を行っていく必要がある。
また、術前シミュレーションに取り組んできた経験からいえば、このような特殊な処理をする場合、術者がどのようなことを望んでいるかが実際には分からないことが多く、検査指示医とのお互いのコミュニケーションをより一層深めて情報交換していくことが、画像のさらなる有効利用につながっていくと考えている。
お忙しい中、インタビューにご協力いただきまして、誠にありがとうございました。