岐阜大学 工学部 機械工学科 永井 学志 様材料力学、設計のための封筒裏の計算 ― back-of-the-envelope calculation ― として(その2)

目次

はじめに

前回は、線材のパスタを接着剤で組み立てることで規定内のブリッジを作り、大局をとらえて1本のはりとみなす材料力学の視点から話をしました。今回は、板材の発泡スチロールを熱線カッターで切り出すことで規定内のブリッジを作り、材料力学の視点だけでなくCAEの視点にも重点を置いた話をしようと思います。前回を「離散的」な構造物とすれば、今回は「連続的」な構造物ということになります。

この発泡スチロールブリッジの題材は、サイバネット「CAEユニバーシティ」での“FEM実験室 ― 静解析編―”やパスタブリッジ講義などの経験を本務にフィードバックしたものであり、今春からの機械工学科3年生向けの専門選択科目「有限要素法」内にて、その導入として講義4回分で試行錯誤したものです。具体的には、設計のための道具としての材料力学とCAE(特にFEM)の関係を図1により示して、CADソフトウェアのCAE機能を初体験してもらった後に、すぐさま発泡スチロールブリッジの形状設計・製作・実験を班活動で行ってもらいました。実はこの時点では、学生ならではの問題 ― 学生は材料力学を一通り学んではいるものの、それを設計へ活かすという視点までは持っていない ― を、私は認識していませんでした。したがって、ブリッジの形状設計・製作・実験はドタバタで始まってしまい、若干強引にはり公式の設計への活かし方などを伝えつつ、何とか収拾させたような次第です。そうはいいつつも、これらの道具の使い方だけでなく、3つの値 ― 実験値・材料力学による概算値・FEMによる計算値 ― を相互に比較することで、モデル化における仮定や境界条件の大切さについても、しっかりと学んでもらえるように気を付けたつもりです。


図1 CAE(FEM)には、材料力学の知識があると好都合なことが多い

本稿の構成は次の通りです。まず第2節にて発泡スチロールブリッジを材料力学・CAEの教材に選んだ経緯を、続く第3節にてFEM解析の結果を評価しようとすると避けて通りづらい応力テンソルというものを、最後の第4節にて本講義の顛末を話します。なお、付録は理解しづらいであろうテンソルを、少しでも身近なものと感じていただくための雑談です。

材料力学・CAE教材としての発泡スチロールブリッジ

パスタブリッジと異なり、材料力学・CAE教材としての発泡スチロールブリッジはあまり見掛けませんので、まずはこれを題材とするに至った経緯から話させてください。昨秋に色々な工作道具を準備して、パスタブリッジ講義を実施したまでは良いのですが、講義終了後の床に散乱したパスタ端材や、あっちこっちにこびり付いた接着剤の掃除が大変でした。また、パスタ同士の接着は熱可塑性樹脂のホットボンドが主であり、しかも点接合であったため、剛性と強度があまり期待できず、この接合部が変形と破壊の主要因となっていました。したがって、パスタブリッジを材料力学はまだしもCAEの教材にしようとすると、接合部のモデル化とその定量化に苦しむことになります。

そこで、もし組み立てるのでなくカットできる素材があれば、接合部のモデル化に悩む必要はなくなります。加えて、容易にカットできて、かつ切りくずがでないものであれば、掃除の手間も省けます。すなわち、オフィスやPC室でCADやCAEソフトを操作しながら設計・製作・実験のプロセスが可能です。そういうことを考えていると、建築学科にて模型を作っている際に、スタイロフォームや発泡スチロールを熱線カッターで切り刻んで遊んだことを、ふと思い出しました。そこですぐさま、スタイロフォームと発泡スチロールに熱線カッターを買い求め、両者それぞれを棒状に切り出して、両手に持って曲げ折ってみました。その結果、スタイロフォームは折りづらく材料非線形性が強そうでしたが、発泡スチロールはポキッと折れて脆性的でした。相前後して、インターネットで検索して力学応答を確認したところ、ある程度までは線形性がありました1)

後日、発泡スチロール棒(密度:約10kg/m3、断面:一辺30mm正方形、評点間距離:700mm)を荷造りテープとフックで壁にぶら下げ、簡易的な直接引張実験をしました。図2に、その応力−ひずみ関係への換算結果を示します。破断に至るまで弱い非線形性を描くのみで、その引張強度は0.1MPa強でした。ついでに、破断した試験片と、それと同一形状の処女材について、一端を手にもって曲げ振動の第1 次固有周期を探ってみました。その結果、前者は後者に比べて固有周期 が2、3割ほど低下していました。このことから、発泡スチール棒は損傷により剛性が低下したこともうかがえます。


発泡スチロール棒( 断面:一辺30mmの正方形、評点間距離:700mm)の簡易的な直接引張試験により得られた応力−ひずみ関係

以上を踏まえつつ、発泡スチロールブリッジ設計の目標と規定を決めました。設計目標は、一定の曲げ強度を確保したうえでブリッジ中央の鉛直たわみを最小化 ― 鉛直剛性の最大化 ― としました。また、設計規定は、材料力学で概算 ― 封筒の裏計算 ― が何とかできて、CAE活用が有用となるような設計可能領域と、荷重・変位の境界条件としました。実際には、予想される最終形状が先にあり、そこに長スパン化や切欠き部の残留などのミスリードを誘発し易くすることを考えました。なお、機械工学科の学生に対して、工作機械による金属加工でなく、熱線カッターによる発泡スチロール工作をさせることが気に掛かりましたが、発泡スチロールは鋳物の原型用途や梱包用途にも使われていますし、何よりも力学原理は同じだからと割り切りました。

図3に、決めた設計可能領域と荷重・変位の境界条件を示します。まず設計可能領域について、密度約10kg/m3、外形297 × 70 × 30mmの発泡スチロール板の中央下部200mm区間を、あらかじめ小屋型に切欠いています。許容体積は、この設計可能領域の1/3以下 ― 質量換算で約1.56g以下 ― とします。なお、上面中央80mm区間の切断は一切不可としますが、底面の切断はその一部を残せば可 ― 載荷面高さは必ず70mmを保つ ― とします。また、設計と切断加工の容易化のため、3 次元的加工や孔開けは不可とします。つぎに荷重・変位の境界条件について、底面の一方を滑りやすくするために事務用品のクリアファイルを敷いたうえで、上面中央80mm区間に木造住宅用の角座金(40 × 40 × 4.5mm、50 ± 0.5g)を10個(0.5kg)あるいは20個(1.0kg)まで載荷します。これらの境界条件は、理想化モデルでなく現実を優先とします。変位の計測は、透明アクリル製の方眼定規をブリッジ直前に配置することで、目測にて行います。


発泡スチロールブリッジの形状設計のための設計領域と、現実を優先とする荷重・変位の境界条件:設計領域の2/3をカットしても、所定の強度を保ちつつ、できるだけたわまない形状を決定せよ。

CAE結果の解釈に必要な応力テンソル

日常の設計業務おいて、変位だけでなく機械強度も評価対象とすることが多いかと思います。加えて、現在ではCADソフトウェアにCAE解析の機能が統合化され、CAEまでシームレスに実施できる方向にあります。このような現状においては、色々な評価指標の元となる…

CONTACT US

ご購入・レンタル価格のお見積り、業務委託についてはこちら。

お問い合わせ

ページトップへ