豪華客船の設計


図1.豪華客船Century

豪華客船による船旅ほど乗客に最高の満足感を与えるビジネスはありません。さながら波間に浮かぶ宮殿を思わせるために豪華客船ではあらゆる努力がなされています。どのような乗客の気紛れな要求も、搭乗員にとってはある意味で絶対的なものであり、徹底したサービスこそが彼らの誇りともなっています。正に贅沢さは高級ホテルに匹敵します。

一方、豪華客船による旅行業は大きなビジネスでもあります。希であるとはいえ、嵐など海上におけるすべての危険から乗客を守るよう船体は厳密に設計されていなければなりません。また、他の投資と同様に船主にとって利益をもたらすものでなければなりません。つまり造船技師は生産性を維持し技術革新を常に採用して船体を建造しなければなりません。


図2.有限要素モデル

ドイツの豪華客船建造業者であるJos.L.MeyerGmbH&Co.は、これら矛盾するすべての要請を満たす努力をしています。同社は一般にMeyer造船として知られている創業202年の造船業者です。多くの難問を解決するために同社は、設計と建造のいずれの段階においても有限要素モデルによる解析を実施しています。

Meyer造船における具体的な成功例として、最新鋭豪華客船の建造があります。建造過程において船主と船旅会社は、エンジンとプロペラによってもたらされる厄介な振動に的を絞りました。これが客船の機械類や甲板に達すると、とても心地よい振動とは言えません。この振動を完全に消去することは不可能でしたが、ほとんど気にならないほどに抑えることにMeyer造船は成功しました。

同社は、振動以外の問題にも解析を適用しています。Meyer造船はハニカム鋼のレーザー溶接による甲板構造の採用など、造船手法の革新にANSYSを用いています。つまり船体を建造するための溶接鋼ブロックにおける溶接ビードの収縮などの問題を検証および最適化するためにANSYSを用いています。

溶接ビードの収縮率は0.1%であり船体をアセンブルする際の誤差合わせにおいて問題となります。解析を監督する船舶設計技師DieterGritl博士の談:「Meyer造船においてはANSYSの最も重要な用途は船体の静的構造解析です。」静的構造解析は、海洋保険業界内のために船舶の格付けを行う団体からの要請によるものです。この団体はあまり知られていない機関ですが、嵐や衝突など海上での災害に対する保証範囲を保険者が記載する際に拠り所とされています。ロンドンにあるロイド船舶登録(Lloyd's Register of Shipping)やニューヨークの米国船級協会(American Bureau of Shipping)などが大きな機関となっています。運行時に船舶が乗客あるいは積み荷を無事に目的地に運べるか否かを確かめるのです。

これら団体による認可がなければ船舶に保険をかけることは実質的に不可能であり、そうであれば今日の混雑した海上においても法 廷においても想像もできないリスクを負うことになります。

船舶に関するビジネスのペースおよび技術革新は、これら団体による控えめな解析を遥かに超えて加速しています。従って、Meyer造船を含む造船業者は建造にあたってより多くの解析を実施しなければならないのです。

DieterGritl博士は「格付け団体は造船業界からの図面に基づき独自のモデルを構築しています。彼らによる最初の解析結果でさえ我々に提示するのに通常3―4ヶ月もかかります。しかも我々にとって問題となるのは、結果は造船業界のCADシステムで読み込み可能な形式のコンピュータファイルとして戻ってくることがないことです。すべて結果は報告書として提示され、これを旧式な方法で検討かつ解釈しなければならないのです。」と述べています。

これは容認できる事態ではありませでした。2,000名の作業員によってMeyer造船は5億米ドルの豪華客船を8ヶ月以内に建造することができます。造船所は3交替制により週に7日間で操業します。乾ドックが量的にどれだけが使用されているかが最も重要なのです。ドックは、長さ1,215フィート(370メートル)、幅333フィート(101メートル)、高さ200フィート(61メートル)という世界最大級です。その内部は、長さ1,175フィート(358メートル)、幅128フィート(39メートル)であり、Meyer造船が建造するほとんどすべての船舶を収納するには十分なものです。

造船技師にとっては、嵐が船体構造に及ぼす最大応力が基本的な関心事です。大波が船底中央を通過する度に、中央断面が持ち上げられ船体は弓状に曲げられ、ホッギングという状態になります(図3)。逆に、二つの大きな波間に船体がある場合、サッギングという状態になります(図4)。Meyer造船は、船体全体に関する3次元有限要素モデルを構築し、ホッギング、サッギングおよびローリングの解析に取り組みました。特製マクロによってCATIAからの3次元CADデータがANSYS入力ファイルへ変換されました。全体モデル(図2)は、節点数19,769、要素数46,676という規模であり、その内訳は26,342シェル要素、20,319ビーム要素、16質量要素というものでした。総自由度数は118,602です。Gritl博士によると、初期有限要素モデルの構築には2ヶ月を要したとのことです。

図3.波頭が客船中央に位置する際のホッギング 図4.船体が二つの波の間に位置する際のサッギング

1995年にANSYSを導入するまで、Meyer造船は有限要素モデルの作成を外部のコンサルティング会社へ依頼していました。CAD図面と必要な情報をコンサルティング会社へ送っても、コンサルティング会社から有益な回答を得るまでに少なくとも3週間を要しました。「通常、ソリューションは何回も繰り返さざるを得ず、それぞれにかなりの額の請求書が伴うのです。」とGritl博士は述べています。ANSYSを用いれば、これらのモデルを社内で必要な際に数時間で処理することが可能で、しかも繰り返してもほとんど経費がかからないのです。

「エンジニアリング依存のどのようなビジネスでもそうであるように計算速度は重要です。豪華客船は8ヶ月程度で建造されるのに、時として船主や設計者は毎日のように修正を要求します。」とGritl博士は指摘します。豪華客船において、Meyer造船は設計者の広い範囲に関する要求を受け入れねばなりません。余分な窓、扉およびバルコニーに伴い、優美な船体は楽しそうであり開放感に満ちたものになるのです。

しかしながら、この開放感は造船技術者にとって頭痛の種なのです。隔壁は、船体の構造的整合性が保証されるように、切り込まれ、再配置され、場所によっては除去されました。さらに、船上インテリアにおける昨今の趣味は追加の開口部を補う際に厄介なものとなります。コーミングやガセットにより隔壁を補強するような急場しのぎの方法は体裁が悪いと判断されました。

Gritl博士の談:「船体鋼構造の極端な変更は新たな多量の計算を必要とします。通常、これらの計算は、設計室での鋼構造の設計業務はほぼ完成しつつあると同時に実行されねばなりません。当然のことながら、ドックでの製造が既に開始された後のことですが。」このように、Meyer造船は巨大モデルを何度も繰り返して解析しなければならないのです。

Gritl博士の談:「我々は我々自身で必要な計算のすべてを実施できるようになっています。ANSYSによる自立によって、鋼構造の 設計業務の過程でさらに迅速に反応することができます。これは、我々の設計業務の効率を高める一方、時間と経費の節約をもたらしました。」Meyer造船では、社内での解析業務なしに、鋼構造設計の変更に対応していくことはほとんど不可能となっています。

「これらの解析目的は、異なる荷重条件のもとで船体内のハルガーダに発生する曲げ応力やせん断応力の分布を決定することです。」と造船技師は語ります。Meyer造船は、甲板によって覆われている、縦および横方向のフレームを持つガーダ(けた橋)システムなどの部分構造に静的構造解析を適用しています。これによって、局所的応力集中を減らすために、扉や窓などの適正配置を決定することができるのです。

造船技師は部分構造を最適化し、ガーダシステムにおける共振を避けるためにモーダル解析を行うことができます。Gritl博士は「一般に、船体の船尾部分における最高レベルの振動はプロペラによる加振に依るものです。通常、ガーダシステムの固有振動数が、プロペラの羽根がもたらす加振の周期に近いから生ずるのです。よって、高い振動レベルでの共振という危険をガーダシステムは持っており、非常に厄介な問題となる。」と述べています。よって、共振を避けるために、ガーダシステムの剛性を高めることで固有振動数が高められました。

「共振を抑えることはANSYSによるモーダル解析の結果に従うことで成功しました。この改善は、試航海での振動測定と共に船主に実証されました。」この客船(図1)は71,000総トン数のCenturyです。全長817フィート(249メートル)、幅106フィート(32.3メートル)、客室数889であり2,119名の乗客を収容できます。姉妹船であるGalaxyとMercuryはさらに全長が36フィート(11メートル)も長く、客室は56室も多く、73,000総トン数であり、さらに125名多くの乗客すなわち2,244名の乗客を収容できます。これら3隻は21.5ノットの速度で航行します。

ANSYSとCATIAは、さらに大きな2隻の客船であるSuperstarLeoとSuperstarVirgoの設計にも用いられました。これらは75,000総トン数であり1,000名の乗客により24ノットで航行します。

Meyer造船の設計部門は以下のことに注意を払っています。

  • 格付け団体のルールの準拠を検証するために、甲板および隔壁における応力分布を詳細に明らかにする。
  • 柱およびガーダにおける荷重分布の決定。
  • 扉、窓およびバルコニーなどの開口部分のための外部側構造における集中応力の決定。

これは、ANSYSにおけるサブモデリング機能による局所モデルを用いて果たされました。「Meyer造船では、ANSYSからの最大の恩恵は、使い易さ、ロバストなプリ/ポストプロセッシング、オンラインヘルプおよびサブモデリング機能に由来します。」とGritl博士は述べています。同社の造船技師は、複雑なモデルを普遍的な方法で取り扱うことを容易にするANSYSパラメトリック言語(APDL)も好んで用いています。造船所では、ANSYSにおける構造解析機能のすべて、すなわち、静的、過渡、動的、モーダル、座屈、接触、大変形及び大ひずみ等の機能が一般に用いられており、さらにサブストラクチャや最適化機能も用いられています。

Meyer造船所の経験は、乗客を満足させ航海に優れた客船の製造に設計最適化および検証が貢献することを表わしています。今も設計変更は迅速に適応されつつも造船所の経費は抑えられています。

図5.隔壁の構造解析 図6.甲板モデルにおける応力分布

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