極めて短い時間スケールの流体解析が可能にする、超高精度の産業用スプレーノズル開発
粒子生成と強い乱流が絡み合い、噴射された液体が一瞬で微細な粒子へと分裂するスプレーノズルの解析は、実験だけでは検証に限界があります。
Ansys FluentのCFD解析を活用し、目に見えない液体の挙動を可視化することで、試作削減と提案力強化を実現した取り組みをダイジェストでご紹介します。

(左から)丸山様、濱浦様、柏様
今回お話をお伺いした方
スプレーイングシステムスジャパン合同会社
八日市場工場 技術部
マネージャー 丸山 剛史 様
リーダー 濱浦 俊一 様
柏 智大 様
企画課 海外業務グループ
マネージャー 荒木 稔 様
背景と課題「極めて短い時間スケールで生じる現象」の正確な把握
スプレーイングシステムスジャパン合同会社様は、世界的なスプレーノズルメーカーであるSpraying Systems Co.の日本法人です。標準品だけで10万点を超えるラインナップを持ち、自社製品開発と受託解析サービス「SARS」を担う技術部のCFD解析チームが、この取り組みを支えてきました。
スプレーノズルの解析には特有の難しさがあります。噴射された液体は極めて短い時間スケールで微細な粒子へと分裂していくため、非常に細かな時間解像度での計算が必要です。さらに、ノズル内部では意図的に乱流を発生させてスプレーパターンを制御しており、流れの挙動は複雑で予測が困難でした。
同社は世界各地の拠点にテスト設備を持ち、実験結果とCFD解析結果を照らし合わせることで解析モデルの精度を高めてきましたが、特殊な液体や高温環境などは実験による検証自体に限界がありました。
選定理由20年以上使い続ける「代替できない」信頼性
同社がAnsys Fluentを導入したのは2006年。米国本社が2002年に先行導入しており、日本法人もグローバル企業として同じ技術基盤を採用する形で導入が決まりました。Ansys FluentはSARS(Spray Analysis and Research Services)の一環として位置づけられ、スプレーの粒子径・速度・衝撃力・パターンなどを計測・分析するサービスに、より高度で付加価値の高い解析を提供するツールとして活用されています。
実験で扱えるのは基本的に水のみですが、実際の現場では水以外の特殊な液体や、人が立ち入れないような高温環境での使用も想定されます。シミュレーションであれば、こうした条件下でも解析が可能になる点が大きな価値だといいます。
工夫や効果新製品開発でCFD解析をフル活用、予想外の発見も
加湿用ノズル「ミストツイスターC」の開発では、ファンからの気流やノズル内の流れ、スプレーパターンなど多くの解析をかけて最適化を行いました。実環境でのテストは湿度や人の動きに左右され再現性に欠けますが、CFD解析であれば環境条件を一定に保ちながら検証できる点が有用だったといいます。
解析の過程では、当初の「直進タイプ」でミストが天井付近の気流に引き寄せられ、意図せず天井を濡らしてしまう現象(コアンダ効果)が判明。これは設計者も予想していなかった発見で、天井を濡らさない「下広がりタイプ」の先端パーツ開発につながりました。試作とCFD解析を繰り返すことで、モデルの信頼性を高めていったといいます。
今後の展望解析の新領域へ、AIも視野に知見を積み重ねる
現在は、ノズルから出た液体が分裂していく過程そのものを直接計算する取り組みを進めています。Ansys Fluentのメッシュアダプション機能を活用し、液膜表面を細かくメッシュ化することで分裂の様子をシミュレーションできるようになってきました。将来的には、この解析結果を蓄積し、設計データ・CFD解析結果・実験データを組み合わせたサロゲートモデルの構築も視野に入れています。
あわせて、粘性の高い液体や非ニュートン流体などを扱う混相流液膜モデルの活用も進めています。マヨネーズや蜂蜜のような動きが遅く途切れない液体を扱うノズルへの適用も検討しているといいます。
なぜミストが「天井を濡らす」のか? その原因究明の全貌とは
新製品「ミストツイスターC」の開発で判明したコアンダ効果の発見の経緯、31通りのスプレーパターンを実現する先端パーツの工夫、そしてAI活用を見据えた今後の解析構想について、フルインタビューで詳しくご覧いただけます。
2025年取材
※記載の会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。
※自治体・企業・人物名は、取材制作時点のものです。