[プレス工業株式会社]金型設計におけるCAEの活用
集合写真の左から
額賀様、山下様、奈須様、森越様
本インタビューでは、プレス工業株式会社様にご協力いただきました。プレス工業株式会社様は1925年の創業以来80年以上に渡って自動車部品を生産されています。トラックのフレームおよびアクスルケース、サスペンション建設機械用キャビンをコア商品とし、その高度な品質は国内外のメーカーから厚い信頼を得ています。
今回は工機部型設計グループにおいて、成形シミュレーション業務に板解析ソフトウェアeta/DYNAFORMを使われている皆様を訪問し、近年金型設計業務で課題となっているスプリングバッグの事例を交えて、シミュレーションの活用状況や導入効果についてお伺いしました。
今回お話いただいた方々
プレス工業株式会社 工機部型設計グループ
主査 額賀 隆 様、主任 森越 正幸 様、山下 洋平 様、奈須 竜平 様
（以下、お客様の名前の敬称は省略させていただきます。）
厳しさを増す「短納期、ローコスト、高品質」への要求。
特に近年ではハイテン材の利用が増え、金型の高品質化が重要課題に
皆様の部署のお仕事の内容についてお聞かせ下さい。
| 額賀 | ： | 工機部型設計グループでは当社のコア商品であるトラックフレームやアクスルケース部品等の金型を設計しています。また、自動車メーカーから受注した自動車ボディパネルの金型なども設計しています。メンバーは22名です。管理・専門職3名、工程設定・金型設計者が14名、解析担当者が5名です。解析担当者は金型の製品形状面、ダイフェース面のCAD形状作成から成形シミュレーションによる成形性評価までを担当しています。 |
お客様の業界では今、何が課題になっているのでしょうか。
| 森越 | ： | 今も昔も短納期、ローコスト、高品質が変わらない目標です。 昨今自動車業界では製品開発期間が益々短くなってきており、金型の製作期間短縮が要求されています。また中国等の海外金型メーカーの台頭によりコストダウン要求が非常に厳しくなっています。さらに近年自動車ボディパネルは軽量化や衝突安全性向上のためにハイテン材や超ハイテン材の使用が多くなってきており、そのような製品の金型では割れ、しわ、スプリングバック等の成形不具合が発生しやすく、それらを防止する高品質な金型設計が要求されています。 以上の観点から3次元ＣＡＤによるソリッド設計の活用による短納期、ローコストな金型設計、成形シミュレーションの活用による成形性不具合の予測および初期製作金型へ対策を折込んだ高品質な金型設計などが課題です。 |
近年注目されている材料モデルを搭載した、「eta/DYNAFORM」によるスプリングバック解析の精度向上への取組み
eta/DYNAFORMの導入経緯についてお聞かせ下さい。
| 額賀 | ： |
 額賀 隆 様
※「吉田−上森モデル」とは
板材成形におけるドロー成形時、板がダイコーナーに沿って引き込まれ、引張り曲げ・曲げ戻しによる応力（ひずみ）反転を受けます。この際に塑性変形抵抗が大きく低下する現象はバウシンガー効果と呼ばれています。吉田−上森モデルは、この材料挙動を精度良く表現できる弾塑性材料モデルであり、eta/DYNAFORMでも標準サポートされているモデルです。なおswiftモデルは、バウシンガー効果を考慮しない弾塑性材料モデルです。 |
eta/DYNAFORMの利用状況についてお聞かせ下さい。
| 山下 | ： | 弊社が参加しているプライベートな研究会での発表があったので、私が最初に「吉田−上森モデル」を使用して乗用車のセンターピラーレインフォースパネルのスプリングバック解析を実施しました。解析実行にあたっては当初、色々なエラーメッセージが出て苦労しましたがサポートもあり何とか解析を完了することが出来ました。 |
| 森越 | ： |
 森越 正幸 様 |
| 額賀 | ： | 「吉田−上森モデル」の材料パラメータについて当初は社内で引張圧縮試験を実施して取得したいと考えていましたがこの方法でのパラメータ入手はかなり難しそうなので代表的パラメータ情報を用いて種々の製品の解析を行ないスプリングバック解析精度向上の検証を進めているところです。 |
何か解析事例をご紹介いただけないでしょうか。
| 山下 | ： |
 山下 洋平 様 近年、超ハイテン材が使用されることが多くなりスプリングバックの大きい難成形部品です。 図2に解析に用いた材料物性、図3に最適解析条件について図4に解析結果を示します。 材料モデルに吉田−上森モデルを使用すると従来モデルより実測値に近いスプリングバック量が算出できることが検証できました。より精度の高い材料物性値の取得が重要であると感じました。 |
図1 スプリングバック解析対象製品
図2 材料物性
図3 最適解析条件の検討
図4 成形シミュレーション結果
製品の開発要望や弊社サポートに関するご要望があればお聞かせ下さい。
| 山下 | ： | eta/DYNAFORMプリプロセッサーで計算用データを作成してLS-DYNAで計算を実行すると、エラーとなる場合があります。eta/DYNAFORMプリプロセッサーに事前のエラーチェック機能があれば非常に助かります。LS-DYNAのエラーメッセージも意味がよく分らない場合があるので、サポートサイト（FAQ）にエラーメッセージの説明があると助かります。 |
| 奈須 | ： |
 奈須 竜平 様 サポートについては問い合わせの回答が早くて助かっています。良くある質問に対してはFAQを充実して頂き、わざわざ問合せしなくて済むようにして頂ければさらに良いと思います。 |
| 森越 | ： |
材料データベースに各種材料について吉田-上森モデルの材料パラメータを提供していただけるとありがたいですね。 eta/DYNAFORMではマススケーリングをタイムステップで指定するのではなくメッシュサイズでも指定できると使い勝手がよくなります。吉田−上森モデルであるMAT125には材料の異方性が入れられませんが、スプリングバックのさらなる精度向上には必要ではないでしょうか。 |
エラーメッセージの件は開発元に改善要求を出し、弊社FAQもさらに充実させます。自動メッシュ機能では必ずしもユーザー様の意図したようなメッシュが切れないことがありますが、ご質問のメッシュ生成はマニュアル操作で可能ですのでご利用下さい。吉田−上森モデルの材料パラメータは、当社で販売している材料パラメータ同定ツール「MatPara」を用いて作成できます。タイムステップに関しては、ブランクメッシュサイズに合わせてマススケーリング設定を自動算出する機能が追加されています。
サイバネットシステムに対する要望をお聞かせ下さい。
| 額賀 | ： |
弊社では特別にCAE教育に時間を取るのが難しいのが現状です。担当者はeta/DYNAFORM導入時にサイバネット様で実施していただいたオペレーション教育には参加しましたが、解析条件の決定などについては私がOJTで指導しています。 サイバネット様のCAEユニバーシティなどで成形シミュレーションにおける各種の解析条件と解析精度に関する基礎講座があるとありがたいですね。またeta/DYNAFORMの高度な使い方を教える中級レベルの教育コースもあるといいですね。さらにバージョンアップセミナーだけでなく、ユーザー会も実施していただきたいです。 |
今後も、できる限りユーザー様のご期待に応えられるようなセミナーやユーザー会などを開催できるように検討していきたいと思います。
成型シミュレーション、トライ品の3次元測定、モーフィングCADの活用により、金型コスト削減を追求
最後に、御社の今後の取り組みや展望についてお聞かせ下さい。
| 額賀 | ： |
自動車ボディパネルの材質がハイテンや超ハイテンになると、スプリングバックが大きくなるために金型改修の回数が増えて金型製造コストが増加します。そこで、成形シミュレーションを活用してスプリングバックをあらかじめ見込んだ金型にして改修回数が増えないようにする必要があります。 そのためには成形シミュレーションの精度が重要になります。 また、成形シミュレーション結果を活用して如何にスムーズな見込み形状を迅速に作成するかも重要なポイントとなります。 そこで成形シミュレーション結果を使って金型形状をモーフィングできるCADの導入を検討しています。また、このようなCADは金型製作後のトライ品形状の測定結果からの金型改修にも有効なので、成形シミュレーション、トライ品の3次元測定、モーフィングCADを活用して金型製造コストの削減を目指して行きたいと考えています。 |
プレス工業株式会社 額賀様、森越様、山下様、奈須様には、お忙しいところインタビューにご協力いただきまして、誠にありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます。
【メカニカルCEA事業部 マーケティング室】
「CAEのあるものづくり Vol.12 2010」に掲載
