
タイ王国は、日本からの観光客も多く訪れる古代遺跡や仏像、華やかな寺院で知られる東南アジアの国です。ラジャマンガラ工科大学スワンナプーム校は、2005年1月18日に国立大学に改名され、教育省高等教育委員会の監督下にあります。タイ中部地域の重要な科学技術教育センターの1つである大学は3つの県にまたがる4つのキャンパスで構成されています。
ラジャマンガラ工科大学スワンナプーム校では、タイの貴重な文化財である美術作品や繊細な遺跡を正確にキャプチャしてデジタル保存するとともに、文化財そのものを長期に保護する取り組みを進めています。今回はその活動をサポートするため、CYBERNETソリューションの一つであるサイバネットCAEクラウドを導入しました。
プロジェクトの背景や具体的な活用法、今後の展望について、ラジャマンガラ工科大学の助教 Dr.Mongkol Kaewbumrung氏にお話を伺いました。

Asst. Prof.Dr.Mongkol Kaewbumrung, Department of Mechanical Engineering, Faculty of Engineering and Architecture, Rajamangala University of Technology Suvarnabhumi, Phranakhon Si Ayutthaya 13000, Thailand
- 初めてクラウドサービスを利用するユーザでも、サーバ作成・管理がブラウザ上の簡易なGUI操作で容易に行えるため早期導入を実現
- クラウドサーバと利用者の距離が離れていても、高速リモートデスクトップ機能により、画面遷移の遅延が少ない利用環境を用意
本プロジェクトの概要についてお聞かせください。
タイの旧首都プラナコン・シー・アユタヤは、タイの美術と文化の偉大な発展を象徴する場所として、ユネスコの世界遺産に登録されています。この地域に点在する文化財や遺跡の保存には、様々な環境要因による劣化リスクという大きな課題が存在しました。私たちの目標は、これらの貴重な文化遺産を正確にデジタル記録するとともに、長期的な保護を確実に行うためのシステムを開発することです。この取り組みは国連の持続可能な開発目標(SDGs)、特にSDG11(持続可能な都市とコミュニティ)およびSDG13(気候変動に具体的な対策を)に沿ったものです。
本プロジェクトでの課題にはどのようなものがあったのでしょうか。
タイの繊細な遺跡、特に古代の壁画を保存するにあたり、いくつかの重要な課題に直面しました。これらの壁画は、湿度や温度変動、大気汚染などの環境要因による劣化のリスクが高く、従来の保存方法ではこれらの問題に十分に対応できていませんでした。特に、環境変化が長期的に文化財に与える影響を予測し、軽減するための手段が不足していました。また、保存作業が壁画の元の状態を損なわないよう、慎重な配慮も必要でした。これら様々な要因を考慮した劣化予測解析をするためには、モデル化や解析を実現できるソリューションが求められていたのです。
課題の解決はどのようにされたのでしょうか。
これらの課題に対して、サイバネットシステムとサイバネットシステムマレーシアが提供するCYBERNETソリューションの導入が大きな効果を発揮しました。サイバネットが長年販売を続けるAnsysのソリューションから、Ansys Fluent MeshingやMosaicメッシング技術など、高度なデジタルエンジニアリング技術を活用することで、古代壁画に影響を与える環境条件を詳細に3Dモデル化・解析することが可能となりました。
これにより潜在的なリスクを特定し、的確な保存戦略を実施することが可能となり、文化財の劣化率を大幅に減らすことができるようになったのです。しかしながら、詳細なモデル化により解析の規模が大きくなったことで、既存の計算リソースだけでは十分な解析が行えない状況となり、早急なリソースの補充が求められました。
これに対して、サイバネットシステムマレーシアより必要なときに必要なだけ計算リソースが利用できる「サイバネットCAEクラウド」を利用してはどうかと提案を受け、導入に至りました。
サイバネットCAEクラウドの決め手・メリットを教えてください。
サイバネットCAEクラウドを採用する決め手となったのは、早期導入に適した簡易なオペレーションにあります。ベースとなっているAWSのEC2サービス※1を利用した柔軟なスペック選択(CPUコア数やメモリ容量、ストレージ等)ができますが、この操作がブラウザ上でのマウスクリック主体の簡易なGUIで行えるため、初めてクラウドサービスを利用するユーザでも、サーバ作成・管理が容易に行えます。作成されるサーバはあらかじめAnsysがインストールされた状態で起動するため、10分程度でAnsysが利用可能な環境を構築できます。サイバネットCAEクラウドにより、既存のオンプレミスリソースだけでは実現が難しかった大規模な解析もスムーズに行えるようになりました。
サイバネットCAEクラウドはAWS東京リージョンを利用しており、一般的にタイから東京にあるサーバの操作を行う場合は遅延が発生し、画面遷移がカクカクして使い物になりませんが、高速リモートデスクトップ機能により、画面遷移の遅延が少ない利用環境を使用することができました。
まとめと今後の展開についてお聞かせください。
今回、サイバネットCAEクラウドをはじめとするCYBERNETソリューションを導入したことで、文化遺産の劣化の原因となる環境要因の変化をシミュレーションし、長期的なリスクを予測・特定することが可能となり、保存戦略をより的確に実施できるようになりました。その結果、文化財の劣化率を大幅に抑えることができました。
これにより、文化遺産保存の新たなベンチマークを確立し、世界の遺産保存コミュニティにおける我々の信頼性と影響力を高める結果となりました。今後も、サイバネットCAEクラウドを活用し、国際機関や研究機関と協力しながら、文化遺産の保存に向けた取り組みをさらに推進していく予定です。
※1 Amazon EC2サービス
Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、安全でサイズ変更可能なコンピューティング性能をクラウド内で提供するウェブサービスです。ウェブスケールのクラウドコンピューティングを開発者が簡単に利用できるよう設計されています。