はんだの信頼性評価 〜クリープ解析編〜

はじめに

最近の電子機器は、性能向上と共に小型化が進んでいます。これに伴う高密度化は高発熱の原因になり、電子機器の寿命に大きな影響を及ぼしています。また、はんだの鉛フリー化などで新材料が増えたことから、疲労寿命などの信頼性評価に過去のデータを利用することは難しく、都度試験を行なって評価をしているケースが多いようです。

疲労寿命の試験法としては熱負荷(熱衝撃試験、熱サイクル試験など)による強度信頼性評価試験があります。また実機でも、使用環境における疲労寿命の予測が行なわれています。
こうした試験の一部をシミュレーションで代用できれば、時間とコストを大幅に削減できます。しかし、今までの解析事例は電子機器全体の温度を一様にし、高温側と低温側に振りながら実施したものばかりでした。

そこで当社は、電子機器全体に発生している伝熱状態を電子機器専用熱流体解析ツールANSYS Icepakで解析し、そこで求められた温度分布をANSYSの構造解析ツールに温度サイクル荷重として載荷し、クリープ解析まで行なう方法を考案しました。
以下、この解析手法によるクリープ解析の手順をご紹介します。

連成解析のフローチャート

この解析事例では、ANSYS DesignModelerANSYS IcepakANSYS Workbench Mechanical(以降AWMと称します)およびANSYS Mechanical APDL(以降MAPDLと称します)を利用しました。図1にこれらを利用した解析フローを示します。


図1 Icepak-Mechanical連成解析のフローチャート

今回対象になっているBGAの詳細モデルはANSYS Design Modelerや3D CADなどで作成し、ANSYS Icepakに取り込みました。また、BGA以外のモデルについてはANSYS Icepakにあらかじめ収録されているオブジェクトを利用して、簡単にモデルを作成しています。

解析モデル作成後はANSYS Icepakにてメッシングを行い、熱流体解析を行います。クリープ解析も同様に、形状はANSYS DesignModelerや3D CADなどで作成しました。
作成した形状をAWMに取り込んでメッシングを行なった後、ANSYS Icepakによる解析で求めた温度分布をインポートします。その後MAPDLへ転送し、温度サイクル荷重やクリープ解析用の材料特性を設定してからクリープ解析を実施します。

前述のフローチャートをWorkbenchのプロジェクト概念図で表すと以下のようになります。


図2 Workbenchのプロジェクト概念図

ANSYS Icepakによる定常熱流体解析

次に、ANSYS Icepakにおける定常熱流体解析について説明します。解析モデルおよび境界条件を図3に示します。


図3 熱流体解析モデルおよび境界条件

メッシングはANSYS Icepakの不連続メッシュおよびマルチレベルメッシュ機能を用いて行います。以下に解析メッシュを示します。


図4 解析メッシュ

メッシュ数は 節点数:560,382 セル数: 544,435です。図5、図6および図7に解析結果を示します。はんだ部分の温度が90℃以上になっていることがわかります。このようにして熱流体解析結果で得られた温度分布をAWMでインポートします。


図5 流線


図6 ANSYS Icepakで求めた基板とICの温度分布


図7 BGAはんだの温度分布

ANSYS DesignModelerによる形状モデル作成

ANSYS Icepakで使用したモデルをそのままAWMへ転送し、解析することも可能ですが、モデルの一部を切り出して解析することも可能です。今回はBGAの一部をクリープ解析の対象とするため、あえてANSYS DesignModelerで作成し直しています。その際の注意点は以下2点です。

  1. ANSYS Icepakで解析した形状モデルの位置にモデルを作成する。
  2. クリープ解析で使用するメッシュ形状はANSYS Icepakで使用したメッシュ形状に合わせる必要はない。

1は荷重転送時、モデル位置が合わないと荷重が転送できないためです。また、2は、AWMには荷重を補間する機能があり、あえてメッシュを揃える必要がないためです。以上を踏まえ、クリープ解析で使用する形状モデルを図8に示します。


図8 クリープ解析用ソリッドモデル

ANSYS Workbench Mechanicalによる荷重転送

ここではANSYS Icepakで得られた温度分布をAWMへ転送する方法を説明します。
Workbenchのプロジェクト概念図を図9に示します。プロジェクト概念図上のセルをドラッグ&ドロップすることで、荷重を転送したり、形状モデルを共有させることができます。
この事例では、3つのシステムで荷重転送を行ないました。まず、システムBの【Solution】セルがANSYS Icepakで得られた温度分布です。この温度分布とシステムDの【セットアップ】セルをリンクさせ、荷重を転送します。
次に、システムCの【ジオメトリ】セルとシステムDの【ジオメトリ】セルをリンクさせ、形状モデルを共有します。以上の方法でシステムDで温度分布をクリープ解析用に作成したモデルへ補間しました。


図9 プロジェクト概念図

システムDの【セットアップ】セルをクリックしてAWMで起動すると、【インポートされた荷重(Solution1)】が自動的に作成されています(図10上側)。この中でANSYS Icepakで得られた温度分布をジオメトリ単位で関連付けを行いますが、クリープ解析用に複数ボディを作成しているため、ボディ毎に関連付けを行っています。図10は32個のボディに関連づけした様子を示しています。


図10 ANSYS Icepakで得られた温度分布の転送

クリープ解析を効率良く実行するため、今回はヘキサメッシュを作成しました。図11に今回のメッシュ形状を示します。ANSYS Workbenchはスウィープメッシュ用の設定を行なうだけで、このようなメッシュを作成可能です。


図11 クリープ解析用のメッシュ形状

クリープ解析用の拘束条件を図12に示します。


図12 拘束条件

ANSYS Mechanical APDLによるクリープ解析

AWMには温度分布を繰り返し載荷する機能が搭載されていないため、マクロで対応できるようにMAPDLを使用します。そこで図9に示すとおり、システムD(AWM)の【セットアップ】セルとシステムE(MAPDL)の【解析】セルをリンクさせました。

以下に本解析で使用する弾塑性材料モデルおよびクリープ材料モデルを示します。本解析では2次クリープモデルであるノートン則を採用しているため1次クリープは考慮していませんが、代わりに塑性モデルでその挙動を表現しています。

塑性モデル 多直線近似等方硬化則
温度水準−55℃〜 125℃(10〜20℃刻み)
クリープモデル ノートン則(2次クリープ)
温度水準−40℃〜 130℃(10℃刻み)

ANSYS Icepakで得られた温度分布をサイクル荷重として載荷するため、ANSYSのマクロ処理言語であるAPDL(ANSYS Parametric Design Language)を使ってマクロを作成しました。
図13 に1サイクル分の温度荷重を示します。


図13 温度荷重

本解析は13サイクルの温度荷重を載荷し、解析を実行しました。
以下にその結果の一部を示します。
図14は相当クリープ歪みのコンターであり、BGAに接合しているFR-4とベースボード周辺に大きな歪みが発生している様子が分かります。また、本解析はベースボード内で発熱していることからBGA上部の方が高温になっています。このような温度状態と材料毎の線膨張係数の違いから、BGA下部よりも相当クリープ歪みが大きく発生しています。


図14 相当クリープ歪み

これは累積相当クリープ歪みの時間変化 図15 を見れば顕著であり、ベースボード側のはんだの方が5倍以上速く、相当クリープ歪みが累積している様子が分かります。また、グラフの傾向として、温度が上昇する時と下降する時に、相当クリープ歪みが発生していることも分かります。


図15 累積相当クリープ歪み

まとめ

以上、電子部品内の温度分布を温度サイクル荷重として用い、クリープ解析を行なうことにより、使用環境に近いシミュレーションを実施する方法を紹介しました。
ANSYS Workbench環境では、ANSYS Icepakと、操作性に優れたAWMをシームレスに連携させることができます。また、温度分布を持ったサイクル荷重をMAPDLへ組み込むことで、クリープ解析も可能です。
また、発生したクリープ歪みがサイクル毎に累積されていく様子を評価することで、歪みの進展状況まで把握できると考えられます。今後はこのクリープ解析の結果を踏まえ、亀裂進展まで発展させる予定です。

(CAEのあるものづくり2010年13号掲載)

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