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非六角格子グレーティングを用いた射出瞳拡張光学系
解析概要
AR/VR製品の設計において、アイボックスの拡大を実現することは製品のユーザビリティに関わる非常に重要なポイントです。アイボックスは、光線が導波路内を伝搬する際にアウトカプラーを通過することで拡張されます。このアウトカプラーは回折格子でできており、微細な回折構造の周期的な配列は光線の伝搬方向を決める要素のひとつとなっています。
本事例ではこの回折構造の配列に注目して、一般的な六角格子のグレーティングと、非六角格子のグレーティングではどれだけアイボックスの拡張が異なるかを比較し、効率的なアイボックス拡大に最適な格子を最適化から求めます。
背景/課題
アイボックス
アイボックスとは、AR/VR映像を見ることができる範囲のことです。アイボックスの範囲内であれば、人間の頭、つまり目の位置がどこにあっても、AR/VR映像を視認できるようになります。つまりアイボックスが大きいほど製品としてはユーザビリティが高いと言えます。したがってAR/VR製品の設計において、「大きなアイボックス」を実現することは非常に重要な要素と言えます。AR/VR製品では、表示ディスプレイからの映像光が導波路を伝搬して人間の眼に届きます。光が導波路を伝搬する際、アウトカプラーという回折格子を通過することで導波路内の広い範囲に伝搬方向を拡大され、結果的にアイボックスが拡大されます。これはつまり、光学系の射出瞳を多数複製していることになります。アイボックス内に射出瞳が多数あるので、アイボックス内のどこに眼をおいても映像が見られるという仕組みです。
アイボックスを拡大するアウトカプラーの構造
アイボックスを拡大するために、導波路内を伝搬する光の方向を拡大する役割を担っているのがアウトカプラーです。アウトカプラーは回折光学素子で、入射した光の伝搬方向は回折の効果で変更されます。アウトカプラー内にはこの回折構造が複数並んでいるので、光は伝搬のたびに回折を繰り返し、全体として導波路内に広く行き渡ります。下の図1がそのイメージです。赤色の枠で囲んだ部分がアウトカプラーで、光線が折れ曲がっている部分に回折構造が配置されています。

図1 : アウトカプラーで光線の伝搬方向が拡大される様子
この回折構造は、一般的には六角格子状に並んでいます。六角格子は、下の図2に示すように、隣接する2つの回折構造間の角度が60°になるように並んでいます。この並びは図3のように直交格子としても周期的な構造として捉えることができ、回折構造のシミュレーションがしやすい並びです。

図2 : 回折構造の配列(六角格子状)

図3 : 回折構造の配列(直交格子状)
図2の六角格子の角度は60°ですが、この角度では光線の通り方が対称性を持っています。例えば図4のように、この角度を50°に変更してみます。そうすると、対称性は崩れますが光線がさらに広がって伝搬することが見て取れます。したがって、非六角格子を採用することで、アイボックスの拡大と均一な広がりを実現できることがわかります。

図4 : 格子角の違いによる導波路内の光線の広がりの違い
設計の仕様
導波路全体
光源から入射した光線がインカプラーで回折して導波路へ入射します。さらに、導波路内のアウトカプラーで回折を繰り返すことで導波路内に広く行き渡ります。
アウトカプラーの回折構造
本事例で取り上げるアウトカプラーの回折構造は、円柱状のピラーを複数並べたものとします。このピラーの並びが六角格子状と非六角格子状でどのように光線伝搬の違いを生み出すかを確認します。ピラーの設計は図5のように、ピラーを中心に置いて格子状の周期を設定します。今回はこの周期の格子角を変更していきます。広く、均一に光を取り出せる格子角を求めるために最適化を実行します。

図5 : 回折格子の設計周期のイメージ
図6はLumericalで設計する回折構造のモデル図です。オレンジ色のひし形の枠が周期格子で、長さ𝑋,𝑌と格子角𝜃で定義します。ここで、斜辺を𝑋′としておきます。

図6 : 回折構造のピラー
今回のモデルでは、𝑌の長さを固定して、𝑋=𝑋′を維持しながら𝜃を変化させていきます。ここで、𝑌と𝜃を用いて𝑋を算出する計算式を下記のように導出しておきます。

ここで、𝑋=𝑋′より

という式で𝑋を表現できます。
解析結果
解析結果
図7は今回検証するモデルの全体図です。インカプラー下方に配置された光源から光線が入射し、インカプラーで回折して導波路内を伝搬します。アウトカプラーで導波路全体に光線が広がり、ディテクタへ到達します。ディテクタはAR/VR製品において人間の眼に該当します。ここで、アウトカプラーを6つのゾーンに分けることで、異なる回折構造を持たせ、アイボックスの均一性を狙っています。

図7 : 導波路モデル全体図
アウトカプラーはLumericalで設計した回折構造を動的連携でOpticStudioに渡します。動的連携を利用することで、OpticStudio上で回折構造パラメータ値を変更し、バックグラウンドでLumericalが設計し直すので、2つのツール間でのデータのやりとりが容易になります。下の図8が実際にOpticStudioで回折構造のパラメータを操作するためのウィンドウです。𝑌には固定値を与え、それと𝜃から𝑋の値を求めています。ピラーの高さはゾーンによって最適な高さを求められるよう今回のモデルでは変数としています。各ゾーンで異なるピラーを設定することで、均一性を実現します。

図8 : OpticStudio上に表示されるピラーの形状パラメータ
ここで、格子角が50°、60°、70°にして光線追跡をした結果を下の図9で確認してみます。この状態では、ピラーの高さは各ゾーンで同じにしています。この結果から、格子角を変更することのみで複数の光線出射点(円形照度)が得られることがわかります。ここでピラーの高さも各ゾーンで変化させると均一性の違いも得られます。

図9 : 格子角による光線の通り方の違い
このモデルに対してoptiSLangで最適化を実行します。六角格子でピラーの高さを変数とした場合と、格子角とピラーの高さの両方を変数にした場合で比較してみます。
結果の評価
下の図10が最適化の結果です。黒色のプロット点が六角格子のままピラーの高さを変数にしたもので、赤色のプロット点は格子角とピラーの高さを変数にしたものです。結果として、どちらの場合であっても総出力パワーとアイボックス全体における均一性とのバランスを考慮した解の集合が得られることがわかります。
ここで、格子角を最適化の変数とした赤色のプロットに注目してみます。単純な六角格子の設計空間と比較して、同等の総出力パワーを維持しながら、より高い均一性を実現する解が得られることが見て取れます。この結果は、格子角を最適化の変数として導入することで最適化の探索空間が拡張されたために、光の取り出し分布をより柔軟に制御できるようになり、アイボックス内の照度均一性の改善に有効であることを示しています。

図10 : 最適化の結果
まとめ
本事例では、AR/VR製品の中に組み込まれているアウトカプラーの回折構造について、一般的な六角格子状と非六角格子状での光線の広がり方、つまりアイボックスの拡大効率の違いをご紹介しました。非六角格子を採用することで、六角格子以上に広範囲のアイボックスを形成できます。
回折格子のようなミクロスケールと、導波路のようなマクロスケールでは設計方法が大きく異なりますが、Ansysの光学製品であるLumericalとZemax OpticStudioを連携させることで、ミクロとマクロ両面について操作ツールの違いで時間を要することなく、シームレスに解析することができます。
