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レンズ設計の職人技を「民主化」、CAE活用で不可能を可能にした実践事例

協和光学工業株式会社 様

半導体製造装置向け特注光学レンズを手がける協和光学工業株式会社。高度な職人技と豊富な経験を強みとしています。 一方で、設計ノウハウの属人化や部門間の手戻り、開発コストの見積もり困難といった課題が、ビジネスの拡大を阻む壁になっていました。そこで光学設計シミュレーションソフトウェア「Ansys Zemax OpticStudio」を本格導入。未経験から独学で習得したエンジニアが中心となって活用を推進し、試行錯誤をバーチャル空間で完結させることで、高度な技術を「民主化」し、部門をまたいだ設計調整を劇的に効率化しました。さらには、見積もり精度の向上により営業提案力も強化され、これまで「実現不可能」と判断せざるを得なかった案件にも対応できるようになったといいます。 CAEツールの活用が職人技の世界にもたらした「共通言語」とその効果について、同社の代表取締役社長 石井則行様と技術部 光学設計部門 澤田真様から詳しくうかがいました。

(左から)澤田様、石井様

今回お話をお伺いした方

協和光学工業株式会社
代表取締役社長 石井 則行 様
技術部 光学設計 澤田 真 様

1.背景と課題

光学レンズ一筋80年。半導体製造を陰で支える職人企業

協和光学工業株式会社は1940年の創業以来、光学レンズの設計・製造を担ってきました。顕微鏡事業で培った技術を基盤にした光学設計を強みとし、現在は半導体製造装置向けの特注光学レンズを主力事業としています。
日本の半導体事業の成長にあわせて技術力をさらに高め、事業を拡大。製品としては、半導体チップの製造工程が正確に行われているかを光学的に判断する「目」となる「マシンビジョン」を設計・製造しています。

「半導体製造装置用の特注レンズは要求事項も付加価値も高く、当社の強みが活きる事業です」と、代表取締役社長の石井則行様は強調します。
「レンズ設計は、お客さまが何をどのように見たいかという要望と、環境的な制約をすり合わせながら実現可能な技術を探っていく『バランスの職人芸』です。決められた距離にあるものを、決められた倍率で、決められた解像度で見える状態を、決められたコストの中で実現する必要があります。
しかし、ご相談いただく段階では、お客さまの要望が明確ではないことも少なくありません。状況をうかがいながら、装置の物理的な限界の中にレンズが収まるか、レンズの枚数や素材をどうするかなどを技術的な仕様として落とし込んでいくコミュニケーションが、私たちの腕の見せどころです。」(石井様)
一方、このようにして作られる特注レンズは完全受注生産品となるため、ノウハウの共有やスキルの継承が難しいという課題がありました。毎案件で設計者の勘と経験、そして現場とのすり合わせが発生し、膨大な開発工数が必要だったといいます。

同社はこれらの課題に対応するため、光学設計シミュレーションソフトウェア「Ansys Zemax OpticStudio」の本格活用を開始。その結果、開発の速度と精度が大きく向上し、提案力の強化とビジネスの拡大を実現しました。

各種検査装置

半導体製造装置

FA機器

医療関係

ライフサイエンス

協和光学工業の特注光学製品は、様々な分野の装置で活躍している

2.導入理由

設計ノウハウを「勘と経験に基づく暗黙知」から「シミュレーターへの蓄積」にシフト

澤田様がまったくの未経験で入社したのは2021年のこと。
この高度なコミュニケーションと職人芸の世界に足を踏み入れ、「先輩の背中から学ぶような新人時代でした」と当時を振り返ります。
「当社の設計のノウハウは、長年にわたって培われてきた先輩方の経験や知見に基づいていました。紙の資料や過去の実績は蓄積されていたものの、詳細な設計思想や検討の経緯の一部は、現場の暗黙知として共有・継承されていた面もありました」(澤田様)
現場での調整で特に重要になるのが、光学設計の次工程でした。理想的なレンズの仕様を現実の形にする「鏡筒設計」や「製造」との連携では、各部門との密なコミュニケーションが欠かせなかったそうです。

「光学設計者が最適だと考えた構成でも、次の部門に渡すと、『このままでは実装できない』『この部分の見直しが必要だ』といった返答が来て、再検討が必要になることがあります。部門間で議論を重ねながら仕様をブラッシュアップしていく非常にタフな工程で、毎週2 ~ 3回の会議を数週間にわたって続けながら、最終的な形を作り上げていきました。全部白紙に戻してのやり直しになることも珍しくありませんでした」(澤田様)

これらの状況からどう経験を積んでいくかで悩んだ末、澤田様は、これまで補助的に使っていたAnsys ZemaxOpticStudioの本格活用に乗り出します。操作マニュアルを読み、初心者向けの光学の本で知識を補いながら、目の前の案件に挑戦していきました。

「とりあえずレンズ1枚から検討を始め、増やしたり、減らしたりしながら、手探りで設計に慣れていきました。うまくいかなくなったら参考書籍を読んだり、ネットで調べたりしました。頭に知識を叩き込み、手を動かしてシミュレーションを繰り返すうちに、光学に関する体系的な知識が追いついてきました」(澤田様)
Ansys Zemax OpticStudioを使った実務そのものが教師でもあり、教科書でもあったといいます。

Ansys Zemax OpticStudioでレンズの組み合わせを試行錯誤する

3.効果

CAEで試行錯誤の速度が上がり、開発の精度が向上

「従来のレンズ設計は、手書き図面と現物、そして勘やニュアンスで進めるものでした。営業と設計者がお客さまのもとに出向いて、『こういうものを、こんなふうに見たい』と口頭でうかがい、制約条件を確認しながら設計と試作を繰り返します。完成した製品をお客さまの現場に持っていって、その場で最終調整をすることもありました」(石井様)

手探りや現物合わせの作業の中で蓄積した経験と勘が強みになる一方で、案件ごとの完全オーダーメイドになるためコストの見通しやノウハウの再現が困難でした。その「職人芸」プロセスを、Ansys Zemax OpticStudioによるCAEが変革したといいます。

実際に試作や実験をする前に、仮想空間上にレンズを配置し、オペランド(各種条件)の変更によって性能や機能がどのように変わるかなどをシミュレートできます。
特注レンズのような汎用化しない製品でCAEを導入したことで、協和光学工業は開発工数の劇的な削減を実現しました。

これまで十数回にわたって繰り返されていた打ち合わせが、Ansys Zemax OpticStudioのCAEによって「1 ~ 2往復」(澤田様)まで減少。精度の高い状態からの試作や製造が可能になったそうです。
その秘訣は、Ansys Zemax OpticStudioを使った事前のデータ共有にありました。

「データで進捗が渡せるようになったことで、全体的な工程管理がしやすくなりましたね。これまでは、図面が完成するまでレンズの情報を次工程に渡せていませんでした。しかし現在は、設計段階から『こんな構成、このくらいの枚数、このくらいのサイズ感』というデータを渡しておけます。それによって、機構設計や製造部門からの指摘で光学設計を見直すことがほとんどなくなり、協力会社とのスケジュール調整も見通しを立てやすくなりました」(澤田様)

見積もり精度と営業力が向上、これまで「不可能」だった案件も対応可能に

次工程を巻き込む試行錯誤の大部分をCAEで実施できるようになった結果、試作や評価の回数は減少し、設計の精度も向上。開発工数が削減されたことで、企業全体の事業展開にも変化が起き始めました。

「設計や試作にかかる工数の見積もりが立てやすくなり、原価計算の精度が向上したことで、営業力が大きく強化されました」(石井様)

試行錯誤の多かった頃は「開発にどの程度のコストがかかるのか」を見通せず、適切な費用の算出が難しかったといいます。

「お客さまは『同じ性能が出るならシンプルで低コストな構成を採用したい』と考えるため、高度な製品ほど設計面での相談が長期化しがちになります。一方、私たちにとっては、設計の検討にかかる時間もコストです。付加価値の高い製品ほど設計コストが上がり、その見通しが非常に困難でした」(石井様)

原価を超過しないように余裕をもった金額を提示した結果、競合他社や他の手段を検討されて、ビジネスの機会を失うこともあったそうです。

カスタマイズ光学系ユニットで時代のニーズに応える

「せっかく当社のレンズを検討してくださっているのに『そんなに費用がかかるなら、他の方法を検討しよう』と考えさせてしまうこともありました。日本の半導体業界にとって損失です。それが悔しかった。Ansys Zemax OpticStudioによって、技術的な相談に対する返答のスピードも営業の見積もりの正確性も向上し、これまで獲得できていなかった案件へのリーチが可能になりました。国内産業を支える力を手に入れたと考えています」(石井様)

装置組込用小型顕微鏡

同軸マクロズームレンズの例

お客さまの要望「価格と性能のバランス」に寄り添う技術提案

また、これまで獲得できていなかった案件に加え、新たな領域への挑戦も可能になりました。とくに付加価値の高い、特別な仕様の製品への対応に手応えを感じているといいます。
「あるとき、高い精度を求めるお客さまから特殊な仕様の相談をいただきました。当初の想定では20枚を超えるレンズ構成が必要で、予算を大きく超えてしまっていました。しかしながら、設計段階での性能の妥協はできません。ひとまずはそのまま進めることになりましたが、やはりお客さまの調達過程で予算超過が問題になり、他部門からは値下げのご要求が来ました。そこでお客さまがどこまで許容できるかを相談しながら仕様を少し変えたパターンを複数シミュレートし、それぞれの性能とコストの差異を提示させ
ていただきました。その選択肢の中からニーズに合うものを選んでいただき、最終的にお客様が納得する形での受注ができました」(澤田様)

「勘と経験に基づく設計には、『未知の要望への対応が難しい』という課題もありました。従来は、お客さまの要望に対して、これまでの経験から『そのようなレンズは作れない』と断ることもあったのです。技術者としては誠実な対応ですが、それで獲得できない案件もありました。しかしAnsys Zemax OpticStudioであれば『とりあえずシミュレートしてみる』が可能になります」(石井様)

「『ご要望をそのまま実現すると9万円かかります、でも、視界周辺の見え方を少し妥協すれば4万円で済みます』といった提案は喜んでいただけます。また、これまで受けたことのないようなご相談に対しても、技術的に実現可能な方法を検討できるようになってきました。ツールが手に馴染んだことから、最近は『脳内Zemax』が動くようになっていて、ある程度の検証と提案はその場でできます(笑)」(澤田様)

「澤田さんがお客さまの要望に合わせ、その場で複数パターンの提示をすることで、お客さまは予算と品質のバランスを自分で選択できます。価格と仕様のバランスを明確にしたうえでの交渉と、イニシアチブを掴んだ商談ができるようになりました。迅速に目処がつくことで、従来は諦めていた仕事が取れています。昔はお客さまから『100φのレンズが欲しい』と依頼され、経験を頼りに『とても無理です』と判断し、お断りすることもありました。でも現在は、少なくとも設計までは十分可能になりました。組み立てや加工など、製品としての制約から実現が難しいことはありますが、基本設計の面で『できない』ことは、ほぼなくなったと思います」(石井様)

未知の要望でもまずシミュレートすることができます、と話す澤田様

4.今後の展望

CAEが長期的な信頼関係の構築と、新たな領域への挑戦を支える

協和光学工業の製品が組み込まれる装置はライフサイクルが長く、一度納入されれば、15年ほどは現場で稼働します。
そのため、設計段階の判断が長期にわたって最終製品の精度に影響し、お客さまとの長期的な信頼関係構築に関係します。即答で精度の高い提案ができる営業力は、お客さまの装置開発スケジュールを支える信頼基盤にもなります。

設計データはサーバーに蓄積され、工場や技術部の全員がアクセスできる状態になっているとのこと。現在は、澤田様が習得してきた知識が、組織の資産として積み上がっている最中です。

「現場に私がいなくても、そこにいる人が自分で検索してまずやってみる、という展開も、これからは可能になると思っています」(澤田様)

データに基づくコミュニケーションが可能になったことで、遠隔地でのトラブル対応も迅速化。海外にある同社の工場で発生した不具合の原因をAnsys Zemax OpticStudioでシミュレーションして特定し、解決できたこともあったといいます。

「海外工場の担当者が、根拠ある指示のもとで作業できるようになりました。とても心強いはずです」(石井様)

澤田様は今後、結像系のシーケンシャルモードに加え、照明系を対象とした「ノンシーケンシャルモード」の習得を進めています。光の検査から光の照射・制御まで、扱える設計の幅を広げることで、より多様なお客さまニーズへの対応を目指します。

石井様は企業代表として、「これまでの信頼関係をもとに、事業を拡大させていきたい」と語ります。

「まず、当社の製品を適切な価格でご提供することで、日本の半導体製造装置の業界を盛り上げるお手伝いができると考えています。そのうえで、お客さまと同じデータを見ながら、短納期で高度な設計を実現するパートナーとしての信頼を積み上げてきました。今後はその信頼を土台に、現在は担当していない半導体製造装置の他の部分や、半導体以外の領域にも事業を展開していきたいですね」(石井様)

光学設計と機構設計、設計と製造、自社とお客さま—それぞれの工程での摩擦を、シミュレーションデータに基づく対話によって解消し、スムーズで高精度な半導体製造業を支える。石井様は、「Ansys Zemax OpticStudioが入ったおかげで、共通言語ができたように感じます」と語り、今後の展望に期待を見せました。

データをもとにした設計でさらなる信頼性獲得を目指したい

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