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アディアバティックカプラ(Adiabatic coupler)の設計
系統的な設計手法によりカプラの短尺化、低損失化の両立が可能
解析概要
本事例では、アディアバティックカプラ(Adiabatic Coupler)の系統的な設計手法について、Ansys Lumerical MODE を用いた事例を基にご紹介します。
アディアバティックカプラは、導波路幅などの構造パラメータを伝搬方向に対して緩やかに変化させることで、不要な放射モードや高次モードへの変換を抑えつつ、基本モードのまま光を一方の導波路から他方の導波路へ結合させる手法です。
反面、単純に形状を緩やかにするだけではカプラ長が長くなりやすく、設計の自由度や実装性に制約が生じます。本事例では、導波路幅変化に対するモードの感度に基づき、必要な部分だけを重点的に緩やかにする設計アプローチを採用しています。
背景/課題
シリコンフォトニクスや光インターコネクトの分野では、シリコン系導波路とポリマー系導波路など、異なる材料系の導波路間で低損失に光を結合する技術が重要になります。
アディアバティックカプラは有力な解決策の一つですが、以下のような課題があります。
- 放射モードや不要モードへの結合を抑えるため、テーパ長が長くなりがち
- 線形テーパなど単純形状では、導波路幅変化に対して敏感な領域で損失が発生
- ブラックボックス的な数値最適化に頼ると、設計意図や再利用性が不明確
本事例では、固有モード解析に基づき、モード変化の「起こりやすさ」を定量化して設計に反映する手法を用います。
なお、本事例は下記リンクの論文の内容を参考にしています。
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/2515-7647/ad7cae
解析対象
SiN 導波路とポリマー導波路間の結合を担うアディアバティックカプラ
解析手法
以下のステップで解析を実行します。
- 固有モード解析及びモード変化量の計算
- 導波路形状の計算とモデルへの反映
- 伝搬解析
解析モデル・条件及び結果
(1)固有モード解析及びモード変化量の計算(Lumerical MODE FDEソルバ)
MODEのFDEソルバにより、テーパ始点から終点までの各導波路幅 W における基本モードを算出します。さらに、導波路幅を微小量変化させた場合のモード分布との重なり積分を評価し、モード変化の度合いを定量化します。
この重なり積分を用いて、導波路幅変化に対する感度 C(W) を算出します。
今回、想定する構造は図1の通りです。シリコン系導波路の上にポリマー系導波路が積層されており、SiNで形成されたコア形状をテーパ状に変化させていきます。始点における導波路幅は710nm、終点におけるコア幅は130nmとなります。

図1 アディアバティックカプラの構造
まずは、MODEのFDEソルバを用いて、SiN導波路の導波路幅Wを130nmから710nmまで20nmステップで変えて、固有モード解析を行います。解析波長は1.55μmとしました。
図2に、FDEソルバにおけるモデルを示します。

図2 FDEソルバにおけるモデル
続いて、各導波路幅Wに対して、微小量ΔWだけ変化させて固有モードを計算します。ΔWは-4nmから+4nmまで、1nmステップで変化させます。ΔW=0における基本モードの分布と、各ΔWにおける基本モードの分布の重なり積分(Mode overlap)を取ることで結合効率(≒モードの一致度)μを算出し、導波路幅の変化に対する基本モードの変化量を定量化します。Mode overlap解析機能はFDEソルバに内蔵されていて、対象とする二つのモードを選択するだけで簡単に実行可能です。
一例として、W=400nmのときの、結合効率μのΔW依存性を図3に示します。

図3 W=400nmにおける結合効率μのΔW依存性
これを、以下の式(1)でガウスフィッティングします。

上式におけるCはガウス関数の形状を決める係数で、Cの値が大きいときは形状が緩やか(μのΔW依存性が小さい)、Cの値が小さいときは形状が急峻(μのΔW依存性が大きい)となります。
Cの導波路幅W依存性を図4に示します。

図4 Cの導波路幅W依存性
一連の解析には多くの工程が必要になりますが、Ansys Lumericalの専用スクリプトを用いることで、自動化が可能となります。
(2)導波路形状の計算とモデルへの反映(Lumericalスクリプト)
(1)で算出した C(W) の逆数である Adiabaticity α(W) を用いて、導波路幅変化に対する伝搬方向の配分を決定します。
- α が大きい領域:モードが変化しやすいため、導波路幅をゆっくり変化
- α が小さい領域:モードが安定しているため、導波路幅を急峻に変化
- これを式に表したものが式(2)となります。

ここで、xは伝搬方向の座標、εはテーパの全長を調整するための係数となります。
この式に基づきテーパ形状を生成し、モデルへ反映します。
図5が、テーパ形状となります。横軸が伝搬方向の座標、縦軸が導波路幅となります。線形に変化するのではなく、場所に応じて導波路幅が急峻に変化する区間とゆっくりと変化する区間があることが分かります。

図5 テーパ形状
(3)伝搬解析(Lumerical MODE EMEソルバ)
(2)で作成したモデルに対して、MODEのEMEソルバを用いて伝搬特性を評価します。比較のため、導波路幅が710nmから130nmまで線形に変化するテーパ形状(リニアテーパ)における電場分布を(a)に、今回設計したテーパ形状における電場分布を(b)に示します。(a)の場合はポリマー導波路外へ放射する成分が多くみられるのに対して、(b)では不要な放射が抑えられていることが分かります。SiN導波路からポリマー導波路への結合効率S21は(a)が-1.32dB(73.8%)であるのに対して、(b)は-0.06dB(98.6%)と、格段に良い結果が得られました。

図6 電場分布(a)リニアテーパ (b)今回設計したテーパ
最後に、テーパ長のスイープ解析結果を図7に示します。今回のテーパでは、単純なリニアテーパに比べてはるか短い距離で高い結合効率S21が得られていることが分かります。

図7 テーパ長のスイープ解析結果
本解析の効果
- アディアバティックカプラの設計根拠を物理的に明確化
- 単純なリニアテーパと比較して低損失・短尺化を実現
- 異種導波路間結合の設計指針として再利用性の高い設計フローを構築
まとめ
本事例では、Lumerical MODE を用いた固有モード解析と重なり積分の評価に基づき、アディアバティックカプラを系統的に設計する手法を示しました。
導波路幅変化に対するモードの感度を定量化し、それに応じてテーパ形状を最適化することで、不要なモード結合を抑えつつ高効率な光結合が可能となります。
本手法は、シリコンフォトニクスをはじめとする異種材料導波路の結合設計や、最適化アルゴリズムの前段となる設計指針の整理にも有効です。
