分野別の課題
光学・熱・電気連成シミュレーションによるシリコン太陽電池の解析
解析概要
本解析では、フォトニクス解析ソフトウェアAnsys Lumerical(以下Lumerical)を用いて、シリコン太陽電池における光学・熱・電気・過渡現象を統合的に評価しました。
まずLumerical FDTDにより光吸収を解析して光生成率・熱生成率を算出し、Lumerical HEATで温度分布を導出、さらにLumerical CHARGEで発熱や再結合を考慮したJ–V特性を取得しました。
最後に過渡解析により、パルス光照射時のフォトカレント応答を解析しました。これにより、光吸収・発熱・再結合・応答特性を一貫して評価できるワークフローを構築しています。
図1. 解析の概要
背景/課題
シリコン太陽電池の高効率化に向けた設計開発では、光吸収、発熱、キャリアの再結合など複数の物理現象が複雑に影響し合い、性能に直結します。しかし従来の個別解析ではこれらの相互作用を十分に再現できず、実際の動作特性を正確に予測することが困難です。特に温度上昇によるキャリア移動度の低下やバルク・表面での再結合損失は効率劣化要因であり、従来手法ではこうした影響を十分に考慮できないことが設計指針を導くうえで大きな制約となっています。
解析対象
平面シリコン太陽電池
解析手法
- 光学シミュレーション(FDTD)
太陽光の吸収を解析し、光生成率・熱生成率を算出します。 - 熱シミュレーション(HEAT)
光学シミュレーションで得た熱生成率をインポートし、光吸収によるデバイス内部の発熱(温度分布)をシミュレーションします。 - 電気シミュレーション(CHARGE)
光学シミュレーションで得た光生成率と熱シミュレーションで得た温度分布を使用し、J-V、P-V曲線などを計算します。 - 過渡シミュレーション(CHARGE)
パルス光を与えて電流の時間応答を解析します。フォトカレントの立ち上がり・立ち下がりや応答速度を評価します。
解析モデル・条件及び結果
(1) 光学シミュレーション(FDTD)
光学シミュレーションでは、シリコン太陽電池に入射する太陽光の吸収による光子生成と熱生成を計算します。
本解析では、300~1100 nmの波長範囲で平面波 (solarコマンドを使用し、AM1.5に正規化) を照射し、シリコン層による光吸収をシミュレーションします。
その結果から吸収された一つの光子から一つの電子・正孔対が生成されると仮定し、光生成率と熱生成率を計算します。

図2:光学シミュレーション
(2) 熱シミュレーション(HEAT)
熱シミュレーションでは、光学解析で得られた熱生成率を入力として、シリコン太陽電池内部の温度分布を計算します。光吸収によって発生する局所的な発熱が、デバイス全体の温度上昇や分布にどのように影響するかを再現できます。得られた温度マップは、CHARGEソルバーにインポートされ、キャリア移動度や再結合率に対する温度効果を考慮した電気特性解析に活用されます。これにより、光吸収と熱の連成による現実的な性能評価が可能となります。

図3:熱シミュレーション
(3) 電気シミュレーション(CHARGE)
電気シミュレーションでは、光学シミュレーションの光生成率と熱シミュレーションの温度分布を取り込み、電流電圧特性を解析します。CHARGEソルバーを用いることで、短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(FF)、変換効率といった太陽電池の基本特性を算出可能です。さらに、Si材料におけるバルク再結合(SRH、オージェ、放射再結合)や電極界面での表面再結合を考慮でき、理想的な構造から現実的な損失を伴う構造まで評価が可能です。

図4:電気シミュレーション
(4) 過渡シミュレーション(CHARGE)
過渡シミュレーションでは、一定電圧下でパルス光を照射し、それに対する電流の時間応答を解析します。光ON時のキャリア生成と蓄積、光OFF後のキャリア放出や再結合の挙動を捉えることで、デバイスの応答速度やダイナミクスを評価できます。本解析では、短絡状態において100~200 nsのパルス光を印加し、フォトカレントの立ち上がり・立ち下がりを観測しました。これにより、キャリア輸送の速度や再結合過程を時間領域で解析でき、太陽電池の高速応答性などを確認可能です。

図5:過渡シミュレーション
まとめ
本事例では、Lumericalを用いてシリコン太陽電池の性能を統合的に評価するワークフローを紹介しました。光学シミュレーションにより光吸収とキャリア生成を算出し、熱シミュレーションで発熱と温度分布を再現、さらに電気シミュレーションで再結合損失を考慮したJ–V特性や変換効率を導出できます。加えて過渡解析によりパルス光応答を評価することで、キャリア輸送や応答速度も把握可能です。本ワークフローにより、光吸収・発熱・再結合・応答特性を一貫して解析でき、設計検討や性能評価に活用いただけます。
本解析の効果
・光学・熱・電気・過渡を連成させた包括的な性能評価
・損失要因の可視化
・応答特性の理解
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