分野別の課題
光導波路の解析(モード解析・伝搬解析)
解析分野:フォトニクス解析 業界:光通信
こんな方におすすめ
- 光集積回路の開発者の方
- 光ファイバの開発者の方
- 光集積回路や光ファイバを内蔵した光トランシーバの開発者の方
概要
本記事では、フォトニクス解析ソフトウェアAnsys Lumericalを活用して光導波路の基本的な解析であるモード解析、伝搬解析を行う方法の紹介と、各種ソルバーの使い分けについて説明します。本記事は、これまで波動光学や電磁場光学を未使用であった幾何光学解析設計者やフォトニクスデバイス解析の初心者の方向けの説明となります。

図1:光導波路のモードや種類
使用ソフトウェア・測定器
Ansys Lumerical(FDTD(FDTDソルバー),MODE(FDE/EME/varFDTDソルバー))
Ansys Lumeircalはフォトニクスデバイスやシステムの解析を行えるフォトニクス解析ツールです。数多くのソルバーを備えており、用途に応じて最適なソルバーを選択できます。本事例ではLumerical FDTDのFDTDソルバー、およびLumerical MODEのFDEソルバー、EMEソルバー、varFDTDソルバーを利用します。
光導波路解析の基本
背景/課題
光通信技術やフォトニクス集積回路(PIC)、量子コンピューティングの分野では、様々なナノスケールのデバイスと光制御が求められます。中でも、光を導く/分ける/つなぐ配線となる「光導波路」は、最も基本的なデバイスです。光導波路は近年活発化するフォトニクスデバイス開発に不可欠な要素であり、構造設計や性能改善、小型化、性能評価の重要性が高まっています。これらの設計解析に対し、従来の幾何光学ではミクロな光の挙動や複雑な構造に起因する波動特性を正確に捉えることが難しく、より高精度な波動光学的解析が必要とされています。
Ansys Lumericalは、上記にニーズに応える最先端のフォトニクス解析に対応するCAEツールです。本資料では、Lumericalを活用して光導波路をどのように解析するかを解説します。最も基本的な解析であるモード解析と、デバイス特性を可視化する伝搬解析シミュレーションについて、複数の事例を通して具体的な解析アプローチ例を提示します。これにより、Lumericalが光導波路の設計・評価を定量的かつ視覚的に行えることを示します。
光導波路とモード解析
光導波路は、波長スケールの寸法で設計され、光を特定の経路に沿って伝搬させるための微小な光の通り道と言えます。細かな光の配線を張り巡らせることができ、それにより微小な領域に複雑な光集積回路を構築できます。導波路内を伝わる光の伝搬の原理として、定性的には高屈折率領域(コア)内を全反射しながら伝搬するように説明されますが、このような構造の内部を伝搬する光は、光を線として扱う幾何光学では解析が困難です。これは理論的には構造の寸法や材料によって、Maxwell方程式に従いつつ導波路内で伝搬できる光の形(モード)が一つに限定されたり、離散的に複数存在したりするためです。光導波路を伝搬するモードの特性を明らかにしなければ、適切な設計や損失低減は行えません。従ってこのような解析に波動光学、電磁場解析ツールが必要となります。
光導波路の最も基本的な解析はこのモードの解析です。モードには分布だけでなくそれぞれ実効屈折率や損失などの伝搬特性と紐づいた評価量があり、これらを知ることで導波路の設計上の判断材料が明確になります。
Lumerical MODEソルバーの一つであるFDE(Finite Difference Eigenmode)ソルバーを使って、光導波路内の導波モードを詳細に解析することができます。解析の手順はシンプルで、まず導波路構造を定義し、材料と寸法を設定します。次に解析条件として断面を解析領域に設定し、領域のMeshサイズや境界条件などを設定します。設定が完了したらソルバーを実行して解析波長に対するモードを計算します。ModeListに解析結果一覧が表示され、実効屈折率(effective index)、損失(Loss)、群屈折率(group index)、TE偏光度(TE polarization fraction)、実効エリア径(effective area)といった各種モード特性を得ることができます。

図2:MODE FDEソルバーによるモード解析例
導波路幅や高さ、波長、周辺クラッドの材質を変えることでモードの伝搬特性がどのように変化するかを視覚的に確認できます。またFDEソルバーには、波長の変化に対する各種モード特性の変化、波長分散特性を解析するFrequency Sweep機能や、異なるモード間の結合効率を評価するOverlap解析機能、曲げ時のモード解析機能やマルチフィジクス連携機能も備えています。これらの機能を使えば、単にモードを表示するだけでなく、様々な条件下での光導波路内の挙動を詳細に予測・評価できます。
光導波路の伝搬解析
光導波路の性能を向上するため、または製造性等の考慮によって構造やモデルが複雑になると、モード解析のみでは設計が難しくなります。複雑な光導波路の内部をどのように伝搬するかを知るには、伝搬解析が必要です。伝搬解析は様々な解析アルゴリズムがありますが、LumericalではFDTD/varFDTD/EMEソルバーを活用して伝搬解析が行えます。ソルバーはそれぞれ特徴があり、
- EME(Eigen Mode Expansion)ソルバーは特に長手方向に形状が変化するデバイスに対し有効です。
- varFDTDソルバーはSiフォトニクスのような矩形デバイスの伝搬を効率的に解析できます。
- FDTDソルバーは3次元的に複雑な形状や、界面を含む解析など、幅広い用途に対応できます。
伝搬解析では任意の構造の伝搬現象を可視化できるため、より直感的で現実に即した解析が可能です。形状と分布の様子を視覚的に得る事ができ、また複数のモードや損失をまとめて解析できるため、場合によってはモード解析よりも効率的に解析できます。
導波路の伝搬解析には専用の光源、専用のモニターを使用します。モード解析結果を基にして励振するモードを指定するモード光源や、出射位置での伝搬分布が指定のモードに対する結合効率を算出するモード拡張モニター、各ポートのSパラメータ解析に使用できるPortモニターは、Lumericalの各ソルバーに用意されています。

図3:MODE varFDTDによる伝搬解析例
さらに、Lumericalの機能にはSim上で製造公差を考慮した解析を行うためのモンテカルロ解析や、形状最適化(粒子群最適化法)、システム設計で使用するためのSパラメータ解析など、高度な解析にステップアップできる機能が備わっています。最終的にはこれらを活用することで仮想試作による開発の加速、試作数の削減、システム全体の最適化による性能改善と手戻り減少が期待されます。
導波路設計においてLumericalは単なる現象可視化ツールではなく、物理的意味のある定量評価を可能にする設計支援ツールとして活躍します。
解析事例
FDEソルバーによる曲げ導波路の損失解析
FDEソルバーを用いて曲げ導波路部の損失を解析します。曲げ部は一定の曲率を半径Rで指定できるような形状であるとします。このような曲げによる損失は、一般的に
- 直線部と曲げ部の結合損失
- 曲げ部の伝搬損失
に分けて考えることができ、それぞれFDEソルバーで解析できます。
曲げ部の伝搬損失は、モード解析により得られるLossから求める事ができます。これは所定距離を伝搬することによる損失です。境界条件をPML(完全吸収境界)に設定し、十分な計算領域(Span長)を確保することが重要です。これらについては解析時にConvergence Testを実施する事が推奨されます。曲げ部のモード特性はModal AnalysisのBend waveguideにチェックを入れ、曲げ半径を入力してモード解析を実行することで得られます。ModeListで所定のモードのLoss(dB/cm)から損失を確認できます。損失の計算は曲げ部の伝搬長との積を取る事で求めます。

図4:曲げ部の伝送損失解析例
直線部と曲げ部の結合損失は、2つのモードのOverlap解析により求めます。一方のモードはDECKに追加しておき、他方のモードはModeListに表示しておきます。Overlap解析はDECKとModeListにある各モード間の結合を重なり積分により求めます。上記を選択した状態でOverlap analysisにあるcalculate Overlapボタンをクリックすると結果が表示されます。Overlapは純粋な重なり積分による効率を示し、Power Coupleは実効屈折率差による反射損失を考慮した値となります。
下図の例ではサイズの異なる2つの導波路について、曲げ部と直線部の結合効率を求めています。

図5:曲げ部の結合損失解析
EMEソルバーによるスポットサイズコンバータの解析
内部にテーパー導波路を持つスポットサイズコンバータの解析例です。微小なSi導波路からの光をそのままSiOxの導波路に入射するとサイズ差による結合損失が発生するため、SiとSiOx導波路間にスポットサイズコンバータを挿入して適したサイズに変換します。このようなデバイスでは長手方向に緩やかに変化するテーパー形状を設ける事が一般的で、このようなデバイスの解析にはMODE EMEソルバーが適しています。
EMEソルバーは伝搬方向にセルを設定し、各セル断面のモード解析と各セル間のモード間Overlapから伝搬特性を解析します。有限要素ソルバーに代表される一般的な解析条件である計算領域やMeshサイズに加えて、セルの分割数や解析モード数が精度に大きく影響するため、本検討前に精度検証を行う事を推奨します。滑らかに変化する構造ではサブセル設定をCVCSに設定することで、少ない分割数で効率的な解析が行えます。
EMEソルバーは各セルのモードやOverlapのデータを保持したまま伝搬解析や伝搬方向の長さ変化に対する解析を行えます。そのため、テーパー長に対する効率解析などを非常に高速に実行できます。これにより、最適なテーパー長を簡易に算出する事が可能です。

図6:スポットサイズコンバータのテーパー長依存性解析
FDTDソルバーによる導波路端面の解析
導波路端面からAirなどの一様媒質中に放射される場合や、導波路端に集光するビームがどのように導波路に結合するか等、導波路と自由空間を含む伝搬の解析はFDTDソルバーを使用します。
集光分布とモードの重なり積分で結合効率を解析する方法(FDEソルバー)との違いは、端面ARコートや端面ラフネス、端面角の影響や近接する2面間の干渉など、より現実に即したモデリングと解析が行える点です。
サンプル事例では戻り光と放射光の強度や分布のみを解析する事例となっていますが、更に発展した事例として、光学設計ソフトウェアAnsys Zemax OpticStudioと連携しレンズやミラー光学系を介した結合解析やGrating Couplerとの連携解析など、より複雑なシステムやデバイスを用いた解析にも使用できます。

図7:Facet界面での解析(反射/光源/放射分布)
本解析の効果
- 導波路を伝搬するモードの各種特徴量の解析が行えます。
- 導波路を伝搬する光の特性解析(伝搬解析)が行えます。
- 解析対象やモデルに応じて各ソルバーを使い分けることで、目的に応じた効率的な解析が可能です。
- さらに発展的な形として、逆設計(Inverse Design)最適化、マルチフィジクス連携最適化なども可能です(お問い合わせ下さい)。
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