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分野別の課題

ペロブスカイト太陽電池の劣化と特性評価

こんな方におすすめ

概要

本記事では、Supertandemプロジェクトの一環として、FLUXiM AGとEmpaが共同で実施したペロブスカイト太陽電池(CsFaPbI₃、バンドギャップ1.57 eV)の劣化の温度依存性に関する研究を紹介します。
本研究では、FLUXiM AGのLitosとPaiosを活用し、ペロブスカイト太陽電池の劣化メカニズムを解析しました。Litosによる最大電力点(MPP)のリアルタイム追跡を通じて、劣化の進行をモニタリングし、材料特性評価(XRD、SEM)と組み合わせることで、温度変化によるペロブスカイト層の形態変化を明らかにしました。さらに、Paiosを用いた電気特性評価(インピーダンス分光(IS)、開回路電圧減衰(OCVD)、過渡光電流(TPC)により、デバイスの移動イオン密度の変化を定量的に解析しました。その結果、高温環境下ではペロブスカイト層の構造変化が主な劣化要因であり、単に劣化速度が加速するわけではないことが判明しました。また、室温での劣化では、移動イオン密度が増加し、デバイスの性能低下と強い相関があることが示されました。本研究は、ペロブスカイト太陽電池の長寿命化に向けた信頼性試験において、LitosとPaiosがいかに強力な解析ツールであるかを示しています。ペロブスカイト太陽電池の商業化・実用化に向けた研究や製品開発において、LitosとPaiosの組み合わせは、安定性試験とデバイス解析を効率化し、より正確で再現性の高い評価を実現する最適なソリューションを提供します。

使用ソフトウェア・測定器

Litos

Litosは有機EL・太陽電池デバイスの素子寿命を自動で測定できる測定器です。詳しくはこちらをご覧ください。

Paios

Paiosは有機EL・太陽電池デバイスの電気・光学特性を自動で測定できる測定器です。詳しくはこちらをご覧ください。

解析目的および解析手法

背景と目的

ペロブスカイト太陽電池の産業化には長寿命化が不可欠です。商業用シリコン太陽電池は年間0.5%~0.8%の劣化率を示し、約25年間の寿命が保証されていますが、その間太陽電池としての性能は低下し続けます[1]。ペロブスカイト太陽電池は、シリコン太陽電池と比較して寿命が短いとされており、長寿命化が課題となっています。近年では、図1に示すように、ペロブスカイト太陽電池の劣化メカニズムの解明や安定性向上技術に関する研究が活発に行われています[2]。特に、温度はペロブスカイト太陽電池の劣化に大きく影響を与える要因の一つです。高温環境では、ペロブスカイト層の結晶構造や電荷輸送層との界面状態が変化し、デバイスの性能低下を引き起こすことが知られています。しかし、温度による劣化の進行が単なる加速的な劣化なのか、新たな劣化メカニズムを引き起こしているのかは未解明の部分が多いのが現状です。
本研究の目的は、ペロブスカイト太陽電池の温度依存性劣化を評価し、温度が劣化メカニズムにどのような影響を及ぼすかを明らかにすることです。特に、デバイス性能の低下が単に温度による加速的な劣化なのか、それとも別のメカニズムが関与しているのかを詳細に解析しました。

図1 有機/ハイブリッド材料ベースの太陽電池の安定性研究を含む研究の割合

解析対象

本研究では、バンドギャップ1.57 eVのペロブスカイト半導体(CsFaPbI₃)を用いたp-i-n型ペロブスカイト太陽電池を解析対象としました。1.57 eVというバンドギャップは、透明電極に挟まれたタンデムデバイスにおけるペロブスカイトのトップセルとしての使用に最適です。このタンデムデバイスでは、背面からの照射でボトムセルの電流が増加します。バンドギャップの狭いペロブスカイトはより大きな電流が発生するため、ボトムセルのより大きな電流と適切にマッチします。
図2にデバイス構造を示します。電子輸送層はC60とSnO2、正孔輸送層はMeO-2PACz、コンタクト層はITOです。

図2 バンドギャップ1.57eVのCsFaPbI3ペロブスカイト太陽電池の構造

解析手法

安定性評価実験には、Litosを使用し、1SUN相当の白色LEDを照射しました。この時、25℃、45℃、65℃、85℃で連続的なMPPトラッキングを実施しました。電気特性評価実験では、JV特性評価を1時間ごとに行い、ペロブスカイト太陽電池のパラメータ変化のモニタリングを実施しました。さらに、インピーダンス分光及び過渡光電流、開放電圧減衰の測定を劣化後デバイスと劣化前デバイスに対して実施しました。これらの電気光学特性評価の実験はPaiosを用いて行われました。

解析結果

安定性評価実験

温度による性能低下の初期評価として、異なる温度条件におけるペロブスカイト太陽電池のMPPでの出力を比較した結果を図3に示します。各温度における劣化プロファイルは類似した傾向を示しており、初期のプラトー(安定期間)の後、急激な性能低下が発生し、デバイスがピーク性能の80%に達する時点であるT80に到達します。このプラトーの持続時間は低温ほど長く、高温ほど短くなります。図4では、T80の寿命と温度の関係を示しています。温度が上昇するにつれてT80の寿命が短くなる傾向が見られます。統計的有意性のため同一の基板上で同じ温度条件下で劣化させ、同一条件では同様のT80が得られました。また、本研究ではLitosを用いましたが、Litos Liteを使用することで、最大56台のデバイスを同時に同じストレス条件で試験することができ、より統計的な検証を実施することが可能です。

図3 Litosによるペロブスカイト太陽電池のMPPでの出力時間変化 黒の×はLT80を示す。

図4 T80の寿命と温度の関係

電気的特性評価

劣化による電荷抽出効率や再結合速度の変化を確認するため、劣化前および劣化後のペロブスカイトデバイスに対し、インピーダンス分光(IS)及び過渡光電流(TPC)の解析をPaiosを用いて行いましたが、これらの測定では電荷抽出の障壁やトラップ密度の増加は確認されませんでした。
インピーダンス分光法による測定結果を図5に示します。100Hz以下の周波数において、劣化後デバイスのキャパシタンスが増加していることがわかりました。これは、劣化後デバイスが異なる可動イオン特性を示していることを意味します。

図5 劣化後(赤線)と劣化前(青線)の暗所でのインピーダンス分光測定の結果

劣化によるイオン密度の増加は、電流の損失やフィルファクターの低下を説明する要因となり得ます。このイオン密度の変化を定量化するため、開回路電圧減衰(OCVD)測定を実施しました。この測定では、デバイスを開回路電圧条件下に保持し、一定の照射光の下で定常状態に到達するまで光を照射し続けます。その後、光を遮断し、電圧の減衰を記録します。
図6に、ペロブスカイト太陽電池のOCVD応答を示します。このプロファイルには、2つの主要な電圧低下が見られます。最初の低下(約15µs)は、過剰な自由電荷キャリアの再結合によるものです。その後、10³µs〜10⁴µsの範囲で緩やかな減衰が見られます。これは、イオンの応答に関連しています。より長い時間での急激な電圧低下は、シャント抵抗や測定系の寄生効果によるものと考えられます。イオン密度はFischerらによって開発された分析法を使用し、OCVDとJVカーブから決定しました[3]。

図6 OCVD測定によるペロブスカイト太陽電池の応答

まとめ

本記事では、ペロブスカイト太陽電池の劣化の温度依存性に関する研究を紹介しました。LitosによるMPPトラッキングとPaiosによる電気特性評価を組み合わせることで、ペロブスカイト太陽電池の劣化メカニズムをより深く理解できます。ペロブスカイト太陽電池の長寿命化を目指す研究者にとって、LitosとPaiosは信頼性の高い安定性試験と詳細な電気的特性評価を実現する最適なツールとなります。
本記事の研究は、SupertandemのプロジェクトにてFLUXiM AGとEmpaの共同で行われました。
下記ボタンよりダウンロード可能な資料では、本記事の内容に加えて詳細な安定性評価実験・電気特性評価の結果やXRD・SEMを使用した材料特性評価の結果、それら結果を踏まえての考察が記載されております。

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